Column「線と面で考える」


文・写真 | NEEDLEWORK EVERYDAY‌

 社会生活、パートナーシップ、出産、育児、納税などなど、生活、生きることすべてをDIYでまかなえないかな、ということを折に触れて考えます。

 子どもの頃から、盆、暮れ、正月、冠婚葬祭など季節の行事のたびに親戚でよく集まっていましたが、その中で勤め人は保育士で地方公務員の母ひとりのみ。ほかの大人はみんなひとり親方でした。祖父は、当時のハローページには「造園業」と載っていましたがなにをやっているのかわからず、叔父は内装業、叔母は主婦でしたがいわゆるマルチのような化粧品販売をしていて、祖母の妹は占い師としてだいぶ稼いでいました。

 今考えると、母だけが異質でした。母になぜ保育士になったのかと聞くと、「わたしは馬鹿だから、資格を取って卒業と同時にきちんと就職しないとやっていけないと思ったからだよ」と自嘲的に笑っていました。その堅実な考えかたはわたしの弟が引き継いだようです。

L → R: NEEDLEWORK EVERYDAYをスタートしたての頃の刺繍。 | タフティングを始めた頃。狭い部屋で。 | 一緒にダンス。

 父は42歳でカスタム・バイク・ショップを始めました。オートバイ・レーサーが夢でしたが、自分の父親に反対されたことをずっと根に持っている様子でした。工業高校を卒業後、自動車整備工として個人店で10年間働き、オーナーに見込まれているのを感じながらも、仕事方針への不満を理由に辞職、工場勤務などのアルバイト生活へ。その当時、両親2人と子ども2人を養わねばならない焦燥感と、今思えば、自分よりも妻のほうが収入が高かったことへの劣等感もあったんじゃないかと推測。だいぶ荒れた家庭だったのを覚えています。慣れないアルバイト先で、フォークリフトで運んでいた木製パレットをひっくり返し、あたり一面ジュースまみれにした上、怪我して帰ってきた記憶も。その後、父は彼の両親に借金をして、田舎の畑の一角に店となるプレハブ小屋を建てました。祖母は「2000万円くらいかかった」と言うけれど、あんなプレハブ小屋にそんなにかかったとは到底信じられず、いつもの話を盛る悪い癖だと思いました。その名は「T's racing」。Tは、“ともみ”(わたしの名前)、Sは、“しげひさ”(弟の名前)から取っています。

 そんな父親から「ともみは会社勤めは無理だよ」とよく言われていました。呪いのようなその言葉に引っ張られたのか、本当にそういう気質だったのかわかりませんが、今ではあんなに嫌だった父親をなぞるような人生を送っています。そっくりです。

Photo ©NEEDLEWORK EVERYDAY‌
「Botany」のフラッグを作らせてもらったのが嬉しかった。

 前置きが長くなりました。服飾系の専門学校を卒業してから縫製工場に勤めるなど、もともとミシンは好きでした。なぜ好きなのか答えるのは難しいけれど、手仕事や日々の中で必要な作業を効率化するために開発されたマシーンであり、ファッションが好きだったわたしにとっては、わたしの欲しいもの、やりたいことを実現化してくれるものであるからだと思います。縫製工場で働いたあと、様々なバイトを経由して、2016年からCORNER PRINTINGで働いていました。およそ7年間お世話になった会社で、たくさんのことを知りました。チェーンステッチ刺繍ができて、机の下にハンドルが付いていて、それを右手で操縦しながら刺繍をしていく、ハンドルミシンというものを知ったのもCORNER PRINTINGがきっかけでした。初めて見たとき、すごく興奮したのを覚えています。やってみたい!と思いました。すぐに少し触らせてもらいましたが、まったくコツが掴めなくて長い戦いになるのを感じました(すでにその時点で魅了されていたのだと思います)。ネットで中古を探して、オークションで運良くミシン屋さんが出品しているのを発見し、購入したのが今使用しているCornelyのハンドルミシンです。

 その後、米ロサンゼルス「Lot, Stock and Barrel」のオンライン販売で手に入れたフェルトパッチの、チェーンステッチの目の綺麗さにドキドキしたり、彼らがCoachellaで刺繍している様子や、海外のハンドルミシン・ユーザーが屋外で刺繍しているのをネットで見たりして、いいなー真似したいなーという思いで始めたのがNEEDLEWORK EVERYDAYでした。

L → R: 「Lot, Stock and Barrel」の刺繍パッチ。 | 大きなラグの制作は楽しい。 | 出店の様子。

 ラグタフティングに関しては、Instagramのストーリーズに流れてきた海外の映像を見て、これ欲しい!と思ったのが最初です。原理はミシンと一緒ですよね。布に押しつけてトリガーを引くと勝手に走っていってくれます。それをコントロールして思ったデザインを再現していきます。刺繍もタフティングも、塗り絵に近い感覚が好きです。そこにあるイラストやデザインを、線と面で解体して、線から描いたらうまくいくのか、面から塗ったほうがキレイにできるのか、順序を考えながら作業をし、作業をしている際にはただの線と面でしかないものが最終的には実体を持つところが魅力です。そしてタフティングガンもハンドミシンというくらいなのでやっぱりミシンなんですね。

 NEEDLEWORK EVERYDAYを経済活動の中心に据えて1年が経ちました。刺繍やラグを通していろいろなかたとお会いでき、全く知らない世界を垣間見たり、国や年齢関係なくお話できたりするところが本当に楽しくエキサイティングです。そしておもしろがっていただけるとうれしいなぁと思いつつ、細くても長く続けていこうと決心しました。みなさまほんとうにいつもありがとうございます。

NEEDLEWORK EVERYDAY × CORNER BOOKS Presents
Christmas Market

2024年12月21日(土)-22日(日)
埼玉 戸田公園 CORNER BOOKS

〒335-0023 埼玉県戸田市本町4-7-10 2F
12:00-20:00

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ヴィンテージのハンドルミシンを用いたチェーンステッチ刺繍やハンドタフティングによるラグ制作を行っています。刺繍は古着などへ、ラグは大小問わず制作します。イベントやPOP-UPにハンドルミシンを持ち込んで、その場で刺繍オーダーもお受けします。