Column | Screen Surfing April 2021『オアシス: スーパーソニック』


By Half Mile Beach Club

Introduction

文 | Mafuyu (Guitar)

 毎月1本の映画をテーマ作品としてチョイスし、その映画に因んだ音楽プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピなど、HMBCメンバーによるレコメンド・テキストと一緒に掲載する“Screen Surfing”。第10回目の今回は『オアシス: スーパーソニック(oasis: supersonic)』をテーマに、映画の紹介、作品をイメージしたメンバー選曲の楽曲プレイリスト、特製シネマカクテルのレシピをお送りします。

 『オアシス: スーパーソニック』は、英国を代表とするロックジャイアント、OASISの結成から全世界を魅了するまでのおよそ5年間の活動に迫るドキュメンタリー作品。イングランドの北西部マンチェスターに生まれ育ったOASISの中心人物、Noel Gallagher、Liam Gallagherの兄弟ふたりにスポットを当てながら、結成当時の貴重な映像や家族、スタッフの証言を織り交ぜつつ、20世紀最後のロックンロール・スターの実像に迫る本作は、リアルタイムにOASISを聴いていたファンならもちろんのこと、後追い世代にもOASISの比類なき魅力が突き刺さるであろう内容になっています。叩き上げの成り上がりとして、スターダムに唾を吐きながら世界中を席巻したオアシスの魅力、その深みにハマるには十分すぎる作品です。作品をイメージしたオリジナル・カクテルと、HMBCオリジナル・プレイリストと共にぜひお楽しみください。

今月の作品『オアシス: スーパーソニック』

文 | Shin (DJ)

 カインとアベル。旧約聖書の中でアダムとイブの息子である2人の兄弟。カインは神に認めて貰うためにアベルを殺す。そしてその神に嘘もつく。旧約聖書において人間最初の殺人という罪を背負い、そして最初に嘘をついた原因は”兄弟喧嘩”だった……。

 こんな書き出しだと、今月紹介する映画は聖書を題材にした崇高な映画だと思われた方いると思います。ごめんなさい、全然違います。今月は初めてドキュメンタリー映画を紹介します。90年代、イギリスから誕生した僕らが大好きなバンド、OASISのドキュメンタリー『オアシス: スーパーソニック』です!

 OASISとはイギリス・マンチェスター出身の兄弟、ギターでソングライティング担当のNoelと、ヴォーカルとアティテュード担当のLiamが中心となり、THE BEATLESの再来とまで言われたバンド。彼らは1994年にデビューし、2009年に解散。現在はそれぞれソロとして活動している。このドキュメンタリーはデビューしてから2年後、伝説ともなるネブワースでの2日間で25万人を集めたライヴまでをGallagher兄弟が回想する内容となっている。

 いやー、非常に不思議なドキュメンタリー映画ですね。OASISのメンバーは2021年現在、全員ご存命です。こういったミュージシャン伝記モノって大抵は誰かが死んでいたり、あるいはめちゃくちゃビッグでキャリアが長いミュージシャン(THE BEATLESやBob Dylan)だったりしますが、OASISに至ってはたった20年前。しかも全員ご存命。さらに不思議なのは、バンド自体は2009年まで活動していたので、普通のドキュメンタリーならバンドの解散までを描きそうなところです。しかし同作ではネブワースを目がけて、下降線なのか、上昇線なのかわからないムードで進んでいきます。

 そもそもこの映画から漂うムードは不穏過ぎる……。ところどころでOASISのアッパー・チューンが流れて元気なムードはあるんですが、要所要所で終わりが見えているが故の、死をも予見できる編集とナレーションが入ります。実際のOASISを知らない人がこの映画を観たら「NoelかLiam、どっちか死んじゃうのかな」と思っても不思議ではないと思います。それほどまでに映画全体から漂う雰囲気がダークな印象。それはもちろん、我々観客が解散という現状を知っている前提で観ているからということを抜きにしても、この兄弟の歪な関係性がそうさせているのが窺えます。カリスマ性充分で危ういデビリッシュな雰囲気を持つ弟Liam。対して現実主義でロマンチストな兄Noel。ヴォーカリストとして、ソングライターとして、神から与えられたとしか思えない才能を持ち合わせたふたりの兄弟の確執はまるで旧約聖書のカインとアベルに擬えることもできます。

 この映画の終盤、ノエルのナレーションはこう語ります。

「デジタル以前で、タレント発掘番組より以前の時代。物事の意味が深かった。ネブワースはインターネット誕生前、最後の素晴らしい集まりだった。今、ああいうのがないのは偶然じゃない。今この時代ではもう起こり得ない」

 このドキュメンタリーの核心をついたような言葉です。デジタル誕生以前は、伝説や語り継がれる物語というのは時間が経ってこそのものです。選択され、加工されて、継承されるもの。2000年に入ってインターネットの普及、2010年代に入ってからはSNSの普及により、世の中には物語があふれ返り、あらゆる情報の波が押し寄せた。それらは選択されることも加工されることもなく、そのままの形でネットに残る。そんな時代が来る前の最後の世代であるOASIS。それは彼らが“伝説”足り得る物語を歩んだ、最後の世代であるということ。

 だからこの映画はまるで聖書のように抽象化されています。90年代のブリットポップ・ブームに触れることもBLURとの対決には触れられず、あくまでも、Gallagher兄弟の確執を中心とした“兄弟”の物語を紡ぎ直し、OASISというバンドを伝説の領域に引き上げる役割を担っています。

 OASISと同じくイギリス出身の俳優、ユアン・マクレガーは本作を鑑賞後、こんなツイートをしました。

「この上なく幸せで、この上なく悲しい。死ぬほど最高の作品だ。あの日々に戻りたい……」

 たしかに、映画『トレインスポッティング』で主演を務め、OASISと同様にブリットポップを牽引した人物にとって、当時を思い起こさせるほど最高のムードを纏った映画なのだろう。

 この映画で気付かされるのは、OASISの何が好きかというと、やっぱりGallagher兄弟なんだな、ということ。Liamはマンチェスターでの不良少年気質が全然抜けないままロック・スターになってしまった男を体現しているし、対してNoelは根っからの兄貴気質に加え、やはりワーキングクラス出身というか……。結局ストイックに音楽に向き合っていて、ロマンチスト故に発言ひとつひとつが核心を突いてるんですよね。そんなふたりの皮肉のきいた、ブリティッシュたっぷりな物言いを聞いているだけでニヤニヤがたまらない本作、おすすめです!

Cinema Cocktail

文 | Ryo (Bartender)
写真 | Reina Watanabe (Photographer)

オアシス: スーパーソニック oasis: supersonicScreen Surfing April 2021『オアシス: スーパーソニック』 | Photo ©Reina Watanabe[材料]
ロンドン・ドライ・ジン 30ml / スロー・ジン 15ml / アンゴスチュラ・ビターズ 1dash / ソーダ 適量 / トニック・ウォーター 適量 / ライム 1/8cat

[手順]
01. タンブラーに氷を詰める
02. シェイカーにドライ・ジン、スロー・ジンを注ぐ
03. シェイカーに氷を詰める
04. 氷の上からアンゴスチュラ・ビターズをふりかけシェイクする
05. 先ほどの氷を詰めたタンブラーにシェイクしたものを注ぐ
06. ソーダとトニック・ウォーターを半々で注ぐ
07. ライムを搾って軽くステアする

  「Supersonic」は、OASISのデビュー・アルバム『Definitely Maybe』に収録されている1stシングル。『Definitely Maybe』は、デビュー・アルバムでありながら英国のチャートで1位を記録。現在までにイギリスで210万枚、全世界で1000万枚以上を売り上げる大ヒット作となっています。映像作品『オアシス: スーパーソニック』では、ギャラガー兄弟へのインタビューのほか、バンド・メンバーや関係者の証言、名曲の数々をとらえた貴重なライヴ映像などを収めたファン必見の内容です。

 “Supersonic”とは、ドラッグでぶっ飛んだ気分(超音速)から。カクテルでのソニックとはソーダとトニック1:1で割る手法です。スロージン(蒸留酒にスモモを漬け込んだリキュール)とロンドン・ドライ・ジン使用したキレのある一杯です。そのままグラスに注いで作るのではなく事前にドライ・ジンとスロー・ジン、アンゴスチュラ・ビターズをシェイクすることで全体の一体感が増します。曲中の歌詞では「I’m feeling supersonic. Give me gin and tonic」とありますが今宵はこちらをお試しください。

Playlist for the Movie

文 | Yama (Vocal)

 この映画はOASISファンのみならず、ロック・バンドというフォーマットに関心のある人なら誰でも刺さるものがあるんじゃないでしょうか。いわゆる“ロック・スター”的な意味でのダイナミズムだけでなく、ロック・バンドという共同体のロマンとマジック、そして表裏一体で付き纏う不安定さや危うさみたいものがギュッと詰まった2時間。映画終盤、このバンドの起こしたミラクルが文字通り可視化されるネブワースでの25万人ライヴ、Noelはこのライヴを振り返り、こう語っています。

「ネブワースはインターネット誕生前、最後の素晴らしい集まりだった(中略)今この時代ではもう起こり得ない、だから心配すべきだ。20年後の音楽はどうなる?」

 確かにインターネット普及以降、SNS、YouTube、サブスクリプション、音楽を巡る環境は変わり、ロック・バンドのポジションも90年代とは異なり、海外フェスのヘッドライナーを見渡してもヒップホップやR & Bシンガーが多くなりました(それが悪いことではないけれど)現在はコロナもあるのでロック・バンドに夢を見るのはなかなか難しい時代です。

 ただね、俺は信じてるわけですよ、音楽は更新され続け、いつの時代も素晴らしいバンドは生まれるし、いつの世もバンド・マジックが生み出す名曲があるはずだと。なので今回のプレイリストは偉大なロック・バンドOASISが影響を与えた“OASIS以降の音楽”がテーマ。OASISからの影響を公言するバンドや、影響を感じさせる曲、そしてNoel、Liamの現在の音楽をまとめました。

 ちなみにHalf Mile Beach ClubもOASISの影響をバッチリ受けていて、1stアルバムのラスト曲「in the Windy City」の冒頭は「Champagne Supernova」のオマージュだったり。せっかくの機会なんでぜひこちらも聴き比べてみてください(笑)。

Post Script

 今回は『オアシス: スーパーソニック』をご紹介しました。本作の劇中、1stアルバムのリリースから間もない頃にNoelが「俺が書いた意味不明の歌詞をオーディエンスみんなが歌っていたんだ」と語っていますが、OASISの楽曲には言葉の意味は置いておいて、何だか口ずさみたく、媚びた人懐っこさとは違う、心身に直に訴えかけるような何かがあるように感じます。

 イングランドから遠く離れたここ日本でも、インターネット以前にもかかわらず本国と同じスピードで人気が爆発したのは、そうした楽曲由来の現象だったのではないかと思います(一方で、洋楽愛好者が一定数以上いて、マス向けに最新の情報を積極的にキャッチアップして共有するメディアが存在していたという当時の本邦の盛り上がりにも少し羨ましさを覚えます)。本作を観ると、意味不明の言葉が乗ったメロディには、NoelとLiamそれぞれが人生の中で叩き上げてきたソウルと哀愁が重なり合っているのだなぁと気づかされます。劇中のちょっとした弾き語りですら「なんていいメロディなの……」と膝から崩れ落ちそうになるのは、Noelの才能はもちろんのこと、兄弟の愛憎入り混じる感情があってこその魅力があるんだなと感じました。彼らの顛末を知る我々には、当時の彼らの言葉ひとつひとつに刹那的な感慨を覚えてしまいますが、それらの言葉に添えらえる楽曲がそれぞれあまりにも素晴らしく、その魅力に永劫すら感じ、何度も目頭が熱くなります。

 それにしても、7人しかいないグラスゴーのクラブでOASISのライヴを目撃し、その場で契約を申し込んだAlan McGeeの感度と強運たるや。時代の仕業としか言いようがない美し過ぎるエピソードです。それではまた来月お会いしましょう。

Half Mile Beach Club ハーフ・マイル・ビーチ・クラブ
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2013年結成。神奈川・逗子を拠点に活動する音楽プロジェクト。拠点の逗子にて、映画上映とライヴからなるイベント「Half Mile Beach Club」を主催。主催メンバーはバンド形態での音楽活動をはじめ、DJ、写真、オリジナル・カクテルの作成など多岐に渡り活動中。主催イベントにはこれまで、DYGL、iri、jan and naomi、maco marets、marter、Maika Loubté、Yogee New Waves、けものなど様々なアーティストが出演。またバンドとしては2018年に1st EP『Hasta La Vista』、2019年に1stアルバム『Be Built, Then Lost』をリリース。2020年10月に目下最新シングル『Surf Away』をリリース。