Interview | NORB8


完全には理解できない、感情によって決まるもの

 CHAOZとの2MC・九九時計の一員として2019年にフル・アルバム『Dusty Effect』を発表しているNORB8(ノーブエイト)が、1stソロ・アルバム『BOTTOM』をリリースした。

 目を引くトピックとしてはBLYYのalledと、C-L-C(我々世代にはCOE-LA-CANTHという名前のほうが耳馴染みがある)のO.D.Sがプロデューサーとして参加しているという点だろう。O.D.SはあのOOGAWAだ。alledはご存知BLYYの屋台骨だが、グループ以外へのトラック提供はというと私にはKILLah BEENの作品くらいしか思い付かない。他にも日本のヒップホップファンにとってはERAとO.Iの名曲「Whistle」(trinitytiny1のトラックだ)でおなじみ、Keith Sweat「Get Up On It (feat. Kut Klose)」使いの曲が入っているのも良いフックになっている。このトラックはBERRYNICEというプロデューサーのもので、キックでボコッと上ネタがヘコむようなサイドチェーンを効かせており、「Whistle」とはまた違った味を出している。渋いトラック群の中に彩りをもたらしていると思う。渋いといえば前述のalledのトラックがとにかく燻し銀のそれで、ひとつはBASIC CHANNELのようだし、さらにもうひとつはまるで90年代の「soup-disk」か「不知火」のようだ。


 では一体どんなラッパーが自らの足でBLYYやC-L-Cのメンバーらからビートを勝ち取り、こういったヒップホップを奏でているのか。少しでも興味を持っていただけたら幸いである。


取材・文 | AIWABEATZ | 2022年9月


――1stソロ・アルバムのリリースおめでとう!このインタビューで初めてタカオくん(NORB8)のことを知る人もいるかもしれないので、まずは簡単な自己紹介をお願いします。

 「ありがとうございます。NORB8です。九九時計という2MCで活動しておりますが、この度はソロでリリースします。出身は新潟市です」

――タカオくんがヒップホップに興味を持ったのはいつ?ラップを始めたきっかけがあったら教えてください。
 「初めてヒップホップと意識して聴いたのは小5か小6でした。ボーイスカウトのひとつ上の先輩がカセット・ウォークマンをキャンプに持ってきていて、当時流行っていた日本語ラップを聴かせてもらったのが始まりです。『8 Mile』(カーティス・ハンソン監督)の公開なんかも同じくらいのタイミングだったので、USのメインストリームも聴き始めました。それから18歳で上京するまでひとりで掘り続けました。友達がいなかったわけではないですが。ラップしたいと思ったのは中学生くらいだった気はしますが、やっている人が周りにいなかったので、実際に始めたのは上京後になりますね」

――『8 Mile』の日本公開は2003年だったみたいだね。その頃のUSのメインストリームっていうとG-UNITとかDIPSET(THE DIPLOMATS)かな。特に好きだったアーティストとか、思い出深い曲はある?
 「Eminemが流行ってましたし、聴きましたね。ただ、G-UNITのほうが好きだった気がします。Lloyd Banks派でしたが、50 Centのパンチも捨て難いです。ベタですが“Wanksta”とか衝撃でした」

――Lloyd Banksは自分も大好きです。去年、今年と続けて出したカムバック作めちゃめちゃ渋かったね!さて、上京してやりたいと思っていたラップを実際に始めたわけだけど、何かきっかけとかあったの?
 「スケボーを通じて趣味の合う友達ができ始めたんですが、その中でフリースタイルしていて、ノリでMCバトルに出たのが人前で初めてラップしたタイミングです。18歳ですかね。その後2、3年やりましたが、ラップ自体があまり自分に合っていない気がしてやめました。でもクラブは好きだったのでけっこう行ってました」

――おお、一旦やめてるんだね。また始めることになった経緯と、あとスケボーと言えば九九時計の相方のCHAOZくんだよね。CHAOZくんとの出会いも聞かせて欲しいな。
 「CHAOZとはスケボーで知り合いました。たぶん19歳でした。彼はレゲエをやってましたね。自分は23歳のときに過労の反動で半年くらい社会から距離を取って、スケボーしかしていなかった時期がありました。そんなタイミングで久々に遊んだCHAOZから、お前のフリースタイルはやばいから次のライヴで1曲やろうよ、と誘ってもらいました。暇だったんで、すぐにリリックを書いてライヴしたんですが、驚くほど無難に終わりました。それに味をしめて、ふたりで一気に3曲くらい作ってライヴするようになり、気づけば九九時計を結成する流れとなっていました。ライヴするようになって家から出る理由ができたんで、そのタイミングで社会復帰できました。たぶんライヴに誘ってもらえてなかったら死んでます」

――じゃあCHAOZくんは命の恩人だね。ラップを再開したきっかけがCHAOZくんであり、そのまま九九時計の結成に繋がっていったわけだ。スケボーもふたりにとってとても大きなもののようだね。さてふたりは、九九時計の1stアルバム『Dusty Effect』を2019年にリリースしています。これはどうやって作ったの?あと“九九時計”ってグループ名とタカオくんのMC名“NORB8”の由来も教えてください。
 「5曲くらい作った時点でEPを出そうかと話してたんですが、作りかけの曲も仕上げればもう少しまとまった形式で出せそうだねっていう話になり、アルバムに近い曲数を目指して作りました。一緒に動いていたMADARAHと作った曲が多かったんで、まとまりは出しやすかった気がします。“九九時計”は完全に雰囲気で決めました。漢字がいいと言ったのはCHAOZで、僕は時計ってみんな信じていて神みたいな存在だと昔から思ってたんで、“時計”を入れたいと言いました。“福時計”とかいろいろ案は出ましたが、最終的に“九九時計”で落ち着きました。“NORB8”については、とある先輩が僕へ発した悪口が一時期僕のあだ名になっていました。それをWillowが急に英語風の発音で発してきて、スペルも勝手に決めてきました。悪口が元でしたが、なんかおもしろくて、そのままラップするときも使ってます」

――九九時計とMADARAHくんと言えばこのMVも印象的だよね。LafLifeやBazbeeStoop、人化イルミネーションにLSBOYZのメンバーたちでマイクリレーしていて。それからグループ名の由来の話で言うと“時計”“時間”の捉えかたもおもしろい。今回のソロ・アルバム収録曲に「Time Machine」という曲もあるし。さて、『Dusty Effect』をリリースしてみてどうでした?自分たちの達成感や周りからの反応とか。リリースの2019年から3年経って気付いたこととかある?
 「2019年12月にリリースして、少ししてからコロナ蔓延でライヴが全部飛んだんで、リリースしたって感じられたのは一瞬でした。最近ライヴを再開して、アルバム聴いてます! と声かけてもらったときに、そう言えばアルバム出したんだったな、と思い出しましたね。アルバム出したらもっと満足するものだと思ってましたが、そんなこともなかったです。なんか生活全般に足りない感じがあって。だからまた作ったんだと思います。もう、きりがないですね」

――たしかに2019年末から2020年始めにコロナが話題になり始めて、4月には緊急事態宣言が出されたもんね。ひとつの作品を出したら、また次を作りたくなって。その繰り返しだよね。今回は九九時計の2ndアルバムではなく、NORB8の1stソロ・アルバムになりました。これもコロナが影響していたりするのかな?
 「九九時計でアルバムを出した直後くらいの段階で、すでにソロを作ろうとは思ってました。ただ、九九時計の2ndより今作が先になったのは、コロナの影響があると思いますね。人と会う頻度が少ないと、いろいろなことを自分の中で消化しちゃうことが多くなるんで、自然とひとりで完結しちゃいますね」

――なるほど、ソロ作の構想はもともとあったんだね。九九時計としてのグループでの作品と、ソロ作では何か違った?それと、九九時計のバックDJで制作にも関わっている潤くん(Junya Morimachi)についても聞かせてください。潤くんは第3のメンバーとも言えるよね。1stアルバムの制作にも潤くんは関わっていたんだよね?
 「ソロ作では、よりアルバム全体の幅を意識しました。ひとりだと、やっぱ単調になりやすいので、リリックやビート選びは考えないとですね。ただ、自分がいけると思ったらいけるので、直感的にいろいろなことに挑戦できる気はします。潤くんは九九時計で出したときもレックとミキシングしてもらいました。なんならその前からレックしにお邪魔してますね。音楽をやる前からスケボーしたりで遊んでいて、その感覚のまま今一緒に動けているので、本当ありがたいです」

――潤くんもスケボー繋がりなんだ!そう考えるとタカオくんや九九時計にとってスケボーって本当に大きなものだね。今ちょうど『All the Streets Are Silent: ニューヨーク (1987-1997) ヒップホップとスケートボードの融合』(ジェレミー・エルキン監督)っていう、ヒップホップとスケートボートというNYにおける2つのストリート・カルチャーを追ったドキュメンタリー映画が上映されるところだけど、タカオくんにとってスケボーって端的に言うとどんなものだろう。ヒップホップとの共通点は?
 「僕の中では、スケボーってなんですか?って感じです。永遠に。全然うまくならなかったんで、深く知れた感じはしなかったです。そういう意味ではヒップホップも全く同じです。良し悪しが感情によって決まるものなので、どちらも完全には理解できないっていうのは共通点として言える気がします」

――「良し悪しが感情によって決まるものなので、どちらも完全には理解できない」っていうのはおもしろいね。スキルの高さがかっこよさに必ずしも繋がらないというか。競技じゃないからね。「良し悪しが感情によって決まる」というところ、もう少し詳しく聞かせてくれる?
 「オリンピックの100m走で、走りかたがイケてるから優勝、ってならないじゃないですか。早い記録を出した人が良しとされます。でもスケート・ビデオとか音楽ってイケてたらそれでいいで、良しとされるじゃないですか。うまく言えないですけど、感情によって決まるっていうのはそういう感じです」

――スキルの他にも、例えばスタイルだとかオリジナリティだとかリアリティ、いくつもの評価軸があるっていうことだよね。さて、話をまたアルバムに戻しましょう。参加プロデューサーの話を聞かせてください。まず驚いたのが大阪C-L-CのO.D.Sさんが参加していることと、あまり外部のラッパーにトラック提供しているイメージのないBLYYのalledさんが参加していることですね。
 「おふたりとも交流はあったんですが、本当ダメ元でお願いしてみました。いろいろ考えましたが、頼まないと後悔するかなと思って。alledさんからご提供いただけることになったときは、Dzluさんからも“外部には提供しないと思ってた”と驚かれました。O.D.Sさんはビートがやばいっていうのは大前提にありますが、僕は高校生の頃からC-L-Cのファンなんですよ。感慨深いです」

――O.D.Sさん、alledさん、共に2曲ずつプロデュースしていますね。alledさんとの曲「Back To Night」はBASIC CHANNEL / RHYTHM & SOUNDをヒップホップ解釈したような素晴らしい、正にalledなトラックだった!BERRYNICEさんとsarutobiiiさんについても聞かせてください。
 「BERRYNICEくんは福井なんですけど、初めて会ったのは静岡・浜松のoverdubです。たまたま遊びに行ったイベントで紹介されて、そこから仲良くしてもらってます。7月には福井にもライヴで呼んでもらって、めちゃくちゃうまい蕎麦屋に連れて行ってもらいました。sarutobiiiくんと会ったのは潜伏期間をお呼びしたイベントでした。Jambo Lacquerさんのライヴがやばくて気持ち良くなってたら隣にもぶち上がってる人がいたんで、気持ちいいっすねーって話しかけた人がsarutobiiiくんです。遊んでいてすごく良いヴァイブスをもらえるので、また一緒に曲を作れたら嬉しいです」

――おふたりとの出会いも印象的だね。さて、アルバム全体の印象として、音圧 / 音量を控えめにしている(無理矢理上げていない)なというのと、ヴォーカルのミキシング具合もそこまで前に出していないなというのが個人的にありました。サブスク全盛の時代においてストリーミングでちょこちょこつまみ食いのように聴かれることを前提とすると、音圧やヴォーカルのミキシング具合においてどうしても派手で目立つ方向に行きがちだけど、意外とクラブ・プレイにはトゥーマッチなところもあって。潰れるほど音圧を上げてもクラブで大音量で鳴らしたときに気持ち良く聴こえないことって多々あったりします。その辺は意識したりしたのかな?
 「ヴォーカルなんですが、単純に声が低いので、前に出しすぎると環境によってはぼそぼそして聴こえづらいんですよ。とは言えリリックは聴いてもらいたいと思って調整してもらった結果、これがベストということになりました。最近の流れとは違うのかもしれないですが、1枚全体のバランスは意識しました。ミキシングで全曲同じ味付けにする必要はないですが、流れを遮らない程度に統一感は欲しいかなと思って。曲調も派手なものが少ないので、出音も上げすぎず、イヤフォンからクラブまで大丈夫っていうバランスで仕上げてもらいました」

――最近の流れも徐々にこうなってきてるんじゃないかな。今後もっとこうなると思う。その辺はマスタリングエンジニアを担当してくれたSHOTOくんの判断、力も今回は大きいよね。マスターを先にいただいていたので、自分がプロデュースした曲はクラブでの出音バッチリなの確認済みです。特に「Find The Air」はインスト・トラックの時点で自分もすごく気に入っていて、BUSHMINDさんにも反応していただいたりしていたので、かっこよく仕上げてもらって嬉しいです。さて、リリックのほうにも触れていきたいんですが、曲毎に自分で気に入っているラインがあったら教えてください。
 「“ガラパゴスのタコスに夢中の5時 目指すのは俺なりに普通の誇示”(02. Canal)、“無いもん無くて有るもんは有るから 足りすぎてんだはなから俺には”(03. All Day)、“脳内直結で無限のスケール”(05. Time Machine feat.YAHIKO)、“蒸気を吸った娼婦が睨んでる 明後日の方向にある新世界”(07. Bottom)、“溶けた氷と時計の針を 回しに回しこれで何周目”(09. Endroll)。曲毎に気に入ってるラインは確実にありますが、あえて言うならこんなところです」

――そうそう、“ガラパゴスのタコス”って気になってた!これなに(笑)?行きつけの飲食店の名前か何かかな。
 「ガラパゴスはガラパゴス諸島をそのままイメージしてます。ガラパゴス諸島のタコスなんて聞いたことないので、そういったチグハグな物事をあらわしています。CHAOZにも同じことを聞かれて、ぎりぎりアウトな思考してると言われました……(笑)。わかりづらくてすみません!」

――そういうことか(笑)!今アルバムの中の気に入ってるラインを挙げてもらいましたが、ソロで曲を作るときと九九時計のときと、リリックの書きかたとかビートの選びかたで違いってある?
 「ソロだとビート選びは気楽に直感的にやれて、リリックはよりシビアな感じがしました」

――なるほど。今回のアルバムはタカオくんが“今”を肯定するようなリリック、曲が多くてグッときました。
 「ありがとうございます。最近ようやく自分の過去を俯瞰的に見られるようになってきた気がして、今は比較的いい感じです。そんな“今”を一旦セーブしとこうかな、と思ってリリックにしました」

――どういう人に聴いてもらいたいですか?作りながら具体的に想定していた人とかいます?
 「身近な友達には聴いてもらいたいです。あとは、100人聴いて1人でも気に入ってくれる人がいたなら嬉しいです。長く聴いてもらえたり、記憶に残るようなものになったら、それが最高ですね」

――そうなったら本当に最高だよね。最後にライヴ情報を教えてください。それとライヴのブッキングをしたい場合の連絡先も。
 「10月21日(金)に東京・恵比寿 BATICAにて九九時計の主催イベント“SLUG SLEEP”がありまして、そこでリリース・ライヴをしますので、来ていただけると嬉しいです。ブッキングはInstagramにDMいただければと思います」

――ありがとうございました!「SLUG SLEEP」には自分も出演するので楽しみにしてます。

NORB8 'BOTTOM'■ 2022年10月12日(水)発売
NORB8
『BOTTOM』

CD KKD-100 2,000円 + 税
https://ultravybe.lnk.to/bottom

[収録曲]
01. Intro prod. BERRYNICE
02. Canal prod. O.D.S
03. All Day prod. BERRYNICE
04. Back To Night prod. alled
05. Time Machine feat. YAHIKO prod. AIWABEATZ
06. Gong prod. O.D.S
07. Bottom prod. alled
08. Find The Air prod. AIWABEATZ
09. Endroll prod. sarutobiii

CD取扱店
affect by PARX. (福井・下馬) / BUSHBASH (東京・小岩) / CANOLA (長野・松本) / ディスクユニオン / Fedup (大阪・南堀江) / GOOD NEAR RECORDS (茨城・つくば) / JET SET 京都店 (京都・三条) / 九州珠-KUSUDAMA- (東京・高田馬場) / LOOPTOWN (茨城・常総) / overdub (静岡・浜松) / SEASON.FYG (新潟・魚沼) / しながわ商店 (新潟・東万代町) / タラウマラ (大阪・淡路) / タワーレコード (オンライン | 新潟店 | 渋谷店 | 新宿店) / WENOD

SLUG SLEEP Vol.6SLUG SLEEP Vol.6
http://www.batica.jp/schedule/slug-sleep-vol-6/

2022年10月21日(金)
東京 恵比寿 BATICA
開場 / 開演 23:00

当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)

Guest Live
BLYY / 誤 from BACKROOM / Low Class Session (KROUD & SH BEATS) / O.D.S from C-L-C, BACKROOM

Release Live
NORB8 from 九九時計 feat. CHAOZ, YAHIKO

Live
Jem Squall / POD & HENAN

Beat Live
BERRYNICE / sarutobiii

DJ
AIWABEATZ / ASTR / BAMBOO / DJ BLZRD / DAILY / haraken / MIYA / NATO / STN