Photo ©Adam Peter Johnson
近年は自伝『ボビー・ギレスピー自伝 Tenement Kid』(2021)の刊行やJehnny Bethとの共作アルバム『Utopian Ashes』(2021)などシンガー・Bobby Gillespieによるソロ活動の話題が続いたPRIMAL SCREAMが、『Chaosmosis』(2016)以来約8年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『Come Ahead』をリリース。11月8日より配信およびデジパックCD、ゲイトフォールド・ジャケット仕様ヴァイナル2LPの販売が開始されています。
『More Light』(2013)でもタッグを組んだDavid Holmesを再びプロデューサーに迎えた同作は、かつてなくパーソナルな制作になったという全11曲を収録。『Dirty Hits』(2003)以降のほぼ全作でヴィジュアルを担当しているJim Lambieが手掛けたカヴァー・アートには、昨年逝去したBobby Gillespieの父・Bob Gillespieの写真がフィーチャーされています。収録曲「Ready To Go Home」のMVは、カヴァー・アート同様にLambieがディレクション。リリースに合わせ、Gillespie自身がアルバム完成までの経緯を綴ったテキストも公開されています。
私は再びアルバムを作ることになるとは思っていませんでした。音楽制作は私にとって、あまりにも慣れ親しんだ、予測可能なものになりつつありました。プライマル・スクリームがアルバムをリリースすると、それから1年か2年ツアーで回り、そして再びアンドリュー・イネスとスタジオに戻って新しい曲を書き始め、その過程をまた一から始める、という決まったサイクルになっていたからです。
アルバムのリリース後に、そのプロセスを始めるのが早すぎたと思われることが何度かありました。おそらく少し休みが必要だったのだと思います。私は信念を失い始め、他にもっと違う方法があるはずだと考えていました。
2020年の初め、コロナ禍に突入する直前に、私は自分が本当にやりたいことと、やりたくないことについて考え始めました。私はもうプライマル・スクリームの新しいアルバムを作りたくありませんでした。私たちは自分たちを行き詰まらせ、そこから抜け出す必要がありました。代わりに、私は自分の本『Tenement Kid』を書くことに決めました。一人で何かに取り組みたいという気持ちがあり、挑戦する準備ができていました。
本を書くことで作家としての自信が大いに増し、また、ジェニー・ベスとのデュエットアルバム『Utopian Ashes』での仕事も自信につながりました。このアルバムでは約90%の歌詞を書きました。自宅でアコースティックギターを使ってほとんどの曲を作曲しましたが、これは音楽活動初期の頃以来のことでした。それまで、アンドリューが作り出すエレクトロニックなサウンドスケープに慣れ、それに合わせて曲を作り上げてきたのです。『Utopian Ashes』の宣伝を終える頃には、私はその勢いに乗り本の宣伝活動にも取り組んでいました。
その頃、デヴィッド・ホームズから再び連絡がありました。私たちは2013年のアルバム『More Light』で彼と一緒に仕事をしており、彼は私にもう一度アルバムを作るように何度も頼んできました。私は彼に、プライマル・スクリームが再びアルバムを作るかどうかは分からないし、もし作るにしても、新しい方法で曲を書かなければならないだろう、と伝えました。いずれにせよ、今はそれをやる余裕がないと彼に言いました。少し距離が必要だったのです。
6か月後、デヴィッドから「メールを確認してくれ」というメッセージが届きました。彼が送ってきたのは、リズムトラックでした。私はギターを取り出し、以前に書いていた「Ready To Go Home」というタイトルの歌詞を引っ張り出しました。そのリズムに合わせて曲を歌い直し、彼に送り返しました。彼は「おめでとう。新しいプライマル・スクリームのアルバムがここから始まったね」と返事をくれました。
私は歌詞、コード、メロディが完全に整っているたくさんの曲を書き上げていましたが、デヴィッドがさらにリズムトラックを送ってくれるたびに、そのトラックが私の曲にぴったりと合っているように感じました。それには驚かされました。それぞれの歌詞は、2〜3年の間にいろいろなタイミングで書かれたものですが、インスピレーションが湧くと一気に書き上げてしまいます。アイディアが浮かぶと、自然に湧き出てくるんです。止まらずに続けていくうちに、気づけば一曲できているという感じです。
デヴィッドは新しい方法をもたらしてくれて、私にとってはそれがとても刺激的でした。それはまるで新しい始まりのようで、アルバム制作が本来あるべき形になったように感じました。これまでプライマル・スクリームでは、まず音楽を作り、次にメロディを考え、そしてそのメロディや音楽の雰囲気に合う歌詞を書いていました。今思えば、それは順序が逆だったのかもしれません。最初に歌詞がある方が、物語ができているので、さらに満足感があるプロセスのように感じました。
私はデヴィッドの家に行き、彼のリズムトラックに合わせて自分の歌詞を歌いました。ベース、ドラム、パーカッションはロサンゼルスで録音されており、その後、アンドリューが別の場所でギターやキーボードを加えました。曲が重なり合っていく感覚があり、全てが非常にスピーディにまとまりました。こうして、私たちはアルバムを完成させたのです。
『Come Ahead』にテーマがあるとすれば、それは内的・外的な「葛藤」かもしれません。そして、アルバムには一貫して「思いやり」という要素も流れています。タイトルはグラスゴーの言葉で、誰かが戦いを挑む時に「Come ahead!(かかってこい!)」と言う意味があります。これは「やってやるぜ」という感じの意味で、グラスゴーの不屈の精神を表しています。アルバム自体も同じように攻撃的で自信に満ちた態度を持っています。グラスゴーには「Gallus」という言葉があり、これがこのアティチュードを表しています。『Come Ahead』というタイトルには、ちょっとした生意気さも含まれているのです。
アルバムのカバーは、1960年にダヌーンで撮影された父の写真を使っています。彼は当時、母と付き合っていました。スリーボタンのスーツを着ていて、まるでモッズとテディボーイの半分ずつのようにシャープに決めています。とてもロックンロールで、労働者階級的で、私はその風貌がとても気に入っています。父は社会主義者で非常に左寄りの思想を持っており、生涯を通じて社会正義のために戦いました。おそらく、『Come Ahead』には、彼の信念や私の生い立ちが反映されているテーマが含まれているのかもしれません。
このレコードには階級に関するテーマが流れています。スコットランドは階級によって蝕まれており、その中で私は内部的にも外部的にも奇妙な立場にいると感じています。それは私が葛藤し、考え続けていることです。すべての人が自由でなければ、私たちは自由ではないと言われます。私たちはより良い世界を築かなければなりません。どうすればいいかはわかりませんが、誰もが十分な生活水準を持ち、安全に暮らし、屋根のある家があり、きちんと支払われる仕事を持ち、尊厳を持って生きてほしいと思います。搾取のない世界、それが私の望むことです。
希望を持たなければなりません。希望がなければ、あまりにもシニカルになってしまい、それは誰にとっても、特に自分自身にとって役に立たないことだと思います。だから、このアルバムには希望のメッセージが込められていますが、それは人間の本性にある悪い側面を受け入れることでバランスが取られています。
歌詞の面では、ところどころ重い内容になっていますが、同時に楽しさも感じられます。私たちはこのアルバム制作を心から楽しみながら進めました。そのエネルギーが曲に表れていると思います。ロックンロールは本来、楽しいものであるべきだと常に思っています。私たちの美学の一部には、重いテーマを扱った歌詞と、喜びに満ちた音楽を融合させることが含まれています。それが二重性を生み出し、とても強力な効果をもたらしていると私は思います。
私はいつも音楽から大きなインスピレーションを得てきました。特に、人生で落ち込んでいるときには音楽が私を励まし、前に進む力や勇気を与えてくれました。このアルバムが、他の人たちにとっても同じような役割を果たしてくれることを願っています。
――Bobby Gillespie
■ 2024年11月8日(金)発売
PRIMAL SCREAM
『Come Ahead』
https://primalscream.lnk.to/ComeAheadPR
[収録曲]
01. Ready To Go Home
02. Love Insurrection
03. Heal Yourself
04. Innocent Money
05. Melancholy Man
06. Love Ain't Enough
07. Circus Of Life
08. False Flags
09. Deep Dark Waters
10. The Centre Cannot Hold
11. Settler's Blues
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