Review | 少し悪いことをして手に入れる優越感、16時のモーニング | 東京・田無「フジカフェ」

文・写真 | 相谷レイナ

　わざと違う路線の駅で降りて、田無駅まで40分ほど歩いてみた。

　わたしは昔から歩くのが好きだ。地元が心臓破りの坂多発地域である上に、最近まで自転車に乗れなかった（厳密には小学生まで乗り回していたが、坂が多すぎていつしか乗らなくなった。15年ほど自転車に乗っていなかった。言うなれば自転車のペーパードライバー）。故に、どこでも歩いて行ってしまう。徒歩1時間までなら余裕で歩ける。耐性がついてしまっている。

　26年間関西で生まれ育ったわたしにとっては聞き馴染みのない、いわゆる“ようわからん駅”にもたいがい立派な商店街がある。それが東京。たくさんの人が密集して住んでることを実感する。わたしの地元の駅にも商店街があるが、常に半分くらいのお店はシャッターが降りている。コロナウイルスと共に暮らさないといけなくなった今、あの商店街はどうなっているんだろう。ふと思い出しては物寂しい気持ちになる。「ずっと関西で暮らしてきた相谷さんにとって”田無駅”がどう映るか是非知りたいです。西東京のディープでサグい街、よければ見てみてください！」この連載を担当してくれている方が教えてくれた街“田無”。そこにある「フジカフェ」。東京都民にとってはディープだという“田無駅”。まだ駅には着いていないが、今のところわたしの地元の3倍は栄えている。カオマンガイ専門店とかあるし、羨ましい。

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　と、ここまで書いていたのは25分前。田無駅付近に到着。めちゃくちゃ奈良に似ている。東京にもこんなところがあるんだ……。本当に一周まわってサグいじゃないですか。ポカリスエットのラベルよりも明らかに鮮やかな青色のナイロン・パーカー（おそらく学校指定）を着た中学生たちがわんさかわんさか。横断歩道が緑色に変わるのを待ちぼうけしている。どこを見渡しても青鮮やかパーカー。なんだか不思議な気持ちになる。あとは、東京で初めてビニール・シートを見た。

　そんな取り留めのないことを考えていると、目的地の「フジカフェ」に到着。ロゴがめちゃくちゃ好みでいろんな角度から写真を撮った。

　時刻は16時になろうとしている。広い店内には約半数ほどのお客様がいて、新聞を読んだり、スマホを見つめたり、小声でお友達と談笑したり。各々に素敵な時間を過ごしていらっしゃる。まるでここにいる人たちにだけ1日30時間与えられているかのようなゆったりとした時間が店内に流れる。眺めているだけでなんだかほっこりとした気持ちになるわたし。この感覚を味わうために喫茶店を訪れていると言っても過言ではない。大好きな風景と、時間。

　メニューを覗くと「モーニングセット ¥680 終日OK」という文字が。さらには「セットドリンク おかわり自由」との記載も。太っ腹すぎる……思わず声に出してしまいそうになった。迷わずにモーニングセットを注文。16時に食べるモーニング。少し悪いことをして手に入れる優越感みたいだ。小学生の頃、寝たふりをしながら、父に禁止されていたコント番組を消音でこっそり視聴していた青い日々を思い出した。

　モーニングはトーストと焼きサンドの2種類あり、その中のチキンカレー焼きサンドを頼んだ。チキンカレー以外にも、ハムチーズエッグ / ツナ / ポテトが選択できる。サイドメニューもサラダかスープかを選べるうえに、セットドリンクはミルク（冷・温） / コーヒー（冷・温） / 紅茶（冷・温）から選べて、大切なことなので2回伝えますが、どれもおかわり自由。メニューの1文字1文字を目に入れる度、心の中で全力の「惚れてまうやろー！」を出した。

　懐かしい気持ちになる甘口のチキンカレー、さっくさくのパン。こんなに焼きサンドって美味しかったっけ、と最近冷蔵庫でキンキンに冷やした菓子パンを食べるのにハマってしまっていたわたしは、なんだかすごく感動した。ホットサンドメーカーを買おうか一瞬悩んでしまうくらいに。焼きサンドにきれいな焼き色がついていたので、萌え断（最近フルーツサンドを食べる人が増えているが、その萌えてしまうほどの断面美を写真に残すのが流行っている）を記念に残しておいた。チキンカレーのすぐ隣に名脇役みたいな面をしたチーズがはさまっていて、めちゃくちゃ美味しかった。

　家での作業が残っていたので30分で帰路に着く予定が、時計を見ると17時をまわっていた。私には24時間しか与えられていないのに、うっかりしてしまった。でも、それほどに居心地が良くて、いつまでも続く緊急事態宣言やなかなかいい曲が産み出せないもどかしさ、会いたい人に会えない寂しさ、日々の鬱々とした気持ちがリセットされた。今の自分にとってすごく大切な時間を過ごせた。今まではよう知らんかったけど、田無という街に出会えてよかった。

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　と、今月の文章を締め括ろうとしたところ、Uber Eatsの箱を背負った自転車に乗るお兄さんが隣を通り過ぎた。わたしの実家はまだUber Eatsが頼めないことを思い出した。田無の街はめちゃくちゃ奈良に似ている、だなんて思い上がってごめんなさい。勝手に好きになって一気に突き放されたみたいな気分だ。頭の中で流れる替え歌。「近そうでまだ遠い田無。恋しくて憎らしい東京」。どろん。

〒188-0011 東京都西東京市田無町4-4-15

月-金 8:00-19:30
土日祝 8:00-19:30
無休

※ 営業時間は変更となる場合があります。