Review | 長野・諏訪「阿弥陀聖水」


文・撮影 | あだち麗三郎

「阿弥陀聖水」 | Photo ©あだち麗三郎

 今回ご紹介するのは、長野県諏訪郡原村、八ヶ岳の山中に湧く「阿弥陀聖水」だ。3月末に訪れたのだが、まだ雪が残っていて、最後の300mくらいで車を降りて徒歩で汲みに行った。“聖水”と名付けられた水はやはり何らかの不思議な力を感じる。今までいくつものペットボトルや湧き水を飲み、甘味、ミネラル感、柔らかさや硬さ、喉越し、体に染みてくる感じなどで“水の味”を評価しているが、この水に関しては理解できなかった。美味しいのか美味しくないのかもわからないけれど、なんだか身体が嬉しい気分になる。これは理解を越えた、とてつもなく美味しい水なのかもしれない、と思い“殿堂入り”の評価を下させていただいた。

 最近数人でお酒を飲んでいて、お酒がほとんど飲めない人が不意に「今の2杯目のウィスキーはなんで飲もうと思ったの?」と質問した。酒好きのNさんは、「美味しいからだよ」と答えたが、ぼくはお腹いっぱいで2杯目のお酒を飲むときは、美味しいからではなく“ムードを加速させたいから”飲むことが多いのに気がついた。美味しいことに違いはないけれど、本当にそれが飲みたくて飲んでいるかと聞かれたら、そうでもないかもしれない。と同時に“本当に飲みたいもの”は何だろう?と考え込んでしまった。

「阿弥陀聖水」 | Photo ©あだち麗三郎

 「好きなお酒は?」と聞かれたら、「ビールとワインと日本酒とウィスキーも好きですよ」と答えるのだが、本当にその味を欲しているかと言われたら、むしろフルーツジュースのほうが好きかもしれない。新鮮な果実の搾りたてのジュース。お金が際限ないとしたら、それらを選ぶ。それが本当の“好き”かもしれない。ただ、質の高くて良いものが手に入らないだけで。

 だから代替品として、仕方なくお酒を飲んでいるのかもしれない。飲んでいるうちに仕方なさに慣れてしまって、お酒の中でも「Far Yeast Brewery」のクラフトビールが良いとか、「新政酒造」の日本酒が良いだとか、「共栄堂」のワインが美味しいだとか、その中のランク付けで満足していることに気が付いた。

 “住む場所”に関しても2年前までは自分もそうだった。大学で上京してから18年間東京で暮らし、最後の数年は東京都狛江市に住んでいた。東京ではこのあたりが落ち着いていて良いな、と思って家を借りていたのだが、“本当に住みたい場所”かどうかというと、そうではなかったことにコロナ渦になってからようやく気が付いた。東京の中では、利便性と家賃と静けさのバランスが良い、というだけで。

 もしかしたら他にもいろいろな“本当に好きなもの”を代替品で済ませてしまっているかもしれない。過度に気にしすぎるとストレスフルで生活できないし、バランスが大事ではあるけれど、慣れすぎてしまって“本当に好きなもの”を忘れてしまうと視野が狭くなり、牢獄暮らしだ。常に「本当に楽しいか?」「本当に好きか?」と自問しておきたい。そうすると今回の阿弥陀水のような理解を越えたものに出会えたりするんじゃないかと思っている。

「阿弥陀聖水」 | Photo ©あだち麗三郎

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
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あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。