Review | 北海道・ニセコ「甘露水」


文・撮影 | あだち麗三郎

 今回ご紹介する水場は、北海道北海道虻田郡ニセコ町にある「甘露水」。昭和天皇がここで水を飲んで、「甘露である」と言ったから甘露水と呼ばれているそうだ。

 ここの水の大きな特徴は、その名の通り水の味が極度に“甘い”ということだ(甘い水といえば、山梨県大月市の笹一酒造内にある湧水や、神奈川県秦野市にある護摩屋敷の水などもあからさまに甘みを感じることができるので試してみてほしい。東京からも近いし)。甘露水は、ぼくが今まで飲んだ中で一番甘い。甘いといっても、糖分が入っているわけではない。ただの水だ。なのになぜ甘い、というのが甘い水を飲むたびに不思議に思う感覚だ。

「甘露水」 | Photo ©あだち麗三郎

 糖分が入っていないのに、甘いものはほかにもいろいろある。「スウィングの脇が甘い!」とコンビニに置いてあるゴルフ雑誌の特集記事があるように、意識が行き届いていなくてぼやけているような状態を「甘いッ!」と言ったり、あるいは、電車のホームでずっと抱き合っていたり、国道沿いの深夜のファミレスで喧嘩をしていたり、恋愛で周りが見えず意識が全体にいかずにぼやけている状態を「甘~い恋」と言ったりする。恥ずかしながら自分にもそんな“甘酸っぱい”経験があるのだが、なぜあんなにひとつの意識だけに支配されて、ほかのことを気にならなくなってしまうのだろうかと不思議に思う。脳内麻薬がドバッと出てるんでしょうね。

 “甘い”の共通点としてあるのが、“ぼやける”感覚なのかもしれない。たしかに、「スウィートなソウル・ミュージック」と呼ばれる音楽のMVはだいたい光にもやがかかったようになっているし、独特な色使いをしている。それらの映像を観ると、歌い手の体臭の感じまでふわーっと香ってきて、「ああ、スウィートだな」と感じるのだ。「甘い歌声」というのもあって、これもハッキリと歌うわけではなく、ささやくように、ずっと小さな濁音が鳴っているような、唇が開く「ポン」という音まで聴こえてきそうな、ヴィブラートがかかっていて、捉えきれないような、決してはっきりとしていない音だったりする。

 話は変わるが、昔、1週間糖分をほぼ断つというのをやってみたことがある。米もパンも食べないし、野菜と肉だけ食べた。1週間経ってみて、さて解禁しよう、とライヴハウスで頼んだ普通の瓶ビールが甘くて口内がベタベタになった思い出がある。その時に気づいたのが、世の中は本当に甘い物にあふれていて、ビールももちろん、一般的に「昔ながらでヘルシー」と言われているお惣菜にも砂糖がすごく入っている。イメージに騙されないように気をつけていたいものだ。

 甘露水の話に戻ろう。「ニセコ町の甘露水がなぜ甘い」かは、やっぱりわからないけれど、そういった“甘み”を想起させるようなぼやける感覚が沸き起こるということなのだろう。でもやっぱり不思議だ。ただの水なのに。

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
Official Site | Instagram | Twitter

あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。