Review | クリスティーナ・リンドストロム + クリスティアン・ペトリ『世界で一番美しい少年』


文・撮影 | SAI

 みなさま、お元気でしょうか。いつの間にか桜も散って、初夏の陽気の日もあれば、寒い日もありますね。さて、今回は映画『世界で一番美しい少年』について。

 アリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』に儀式で断崖から飛び降りる老人役で出演していて印象的だった俳優ビョルン・アンドレセンについての映画で、かつスウェーデン映画ということで下高井戸シネマまで観に行きました。

Photo ©SAI

 “世界一美しい少年”と呼ばれた俳優、ビョルン・アンドルセンのドキュメンタリー。彼の少年期や、その頃に出演した作品がどう人々に影響を与えたのかをメインに描いている作品かと思っていたのですが、それよりも年齢を重ねた彼が、自身の人生に向き合う要素のほうが強かったです。ドキュメンタリーを通じてアンドルセンが遠ざけていた過去を紐解いてゆくのですが、彼はこの撮影がなかったら、その過去に蓋をしていたかもしれないと感じました。5年に亘って撮影したそうですが、信頼関係がなければ撮れないような切り込みかたでした。

 今年、グレタ・トゥーンベリを追った同じくスウェーデンのドキュメンタリー映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』(ネイサン・グロスマン監督)も観ましたが、カメラマンや撮影隊の存在を感じさせない距離での撮りかたは目を見張るものがありました。日常やプライベートなシーンを撮られるのを想像すると、私だったら絶対意識してしまうと思うし、その表情が映像に出てしまうと思うのですが、両作ともカメラマンがいないかのように自然な被写体を捉えていて、とても良かったです。

 アンドルセンの黒のロングコートやサングラス、タイトめのTシャツの着こなしなど、音楽家っぽいファッションだと思って観ていたのですが(ギターや機材の置かれた部屋が映るるシーンもあった)、ミュージシャンとしても活動している模様。ノイズとかやっていそうなファッションだったのですが、キャリアとしては音楽の先生をやっていたそうです。

 Annna von Hausswolf、Filip Leymanが手がける劇中の音楽も素晴らしかったです。

Photo ©SAI

 4月からはスウェーデンの画家ヒルマ・アフ・クリントについてのドキュメンタリー『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』(ハリナ・ディルシュカ監督)という映画や、『ハッチング -孵化-』(ハンナ・ベルイホルム監督)というフィンランド映画が公開されています。

 静岡の「サールナートホール」という映画館の公式Twitterで『ハッチング -孵化-』について知ったのですが、この映画館のツイートおもしろいんですよね。今度行ってみたいなあ。

■ 2021年12月17日(金)公開
『世界で一番美しい少年』
東京・ヒューマントラストシネマ渋谷, 新宿シネマカリテほか全国順次公開
https://gaga.ne.jp/most-beautiful-boy/

[出演]
ビョルン・アンドレセン / 池田理代子 / 酒井政利

監督 | クリスティーナ・リンドストロム / クリスティアン・ペトリ
製作 | スティーナ・ガルデル
撮影 | エリック・バルステン
編集 | ハンナ・レヨンクビスト / ディノ・ヨンサーテル
音楽 | アナ・フォン・ハウスウルフ / フィリップ・ライマン

原題 | Varldens vackraste pojke
配給 | ギャガ
2021年製作 | 98分 | G | スウェーデン
©Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

SAI
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SAI現在東京を拠点に活動するヴォーカリスト / リリシスト / ライター。

2015年にバンドMs.Machineを東京にて結成。近年では坂本龍一 / 後藤正文主催イベント「D2021」に出演。また、アメリカのメディア・コレクティヴ「8ball」やシンガポール拠点のCNA制作番組「Deciphering Japan」が日本の女性にフォーカスした回に出演するなど、ワールドワイドに活動している。2020年末にUMMMI.監督のMV『Girls don’t cry, too』、2021年には待望の1stアルバム『Ms.Machine』を発表し、「FUJI ROCK FESTIVAL ’21」“ROOKIE-A GO-GO”に選出される。

ソロでの音楽活動は2019年夏にスタート。『音楽と人』誌への掲載や、InterFMのラジオ番組「sensor」への出演など、大きな話題となっている。2021年はシングル『記憶喪失』『Sonatine』や、ex-TAWINGSのヴォーカリスト・KANAEとの楽曲『Myway Highway』をリリース。9月には、野中モモ、奥浜レイラとの“私たちのシスターフッドミュージック”についての鼎談記事が『Numéro TOKYO』に掲載された。

また、音楽活動以外にライター/インタビュアーとしての側面も持つ。ウェブマガジン「AVE | CORNER PRINTING」では音楽や映画などについての記事を連載しており、これまでにICEAGE、野中モモ、Elle Teresa、そしてSAIが特に関心を寄せるスウェーデンの男女平等社会について友人のVeraとNellaにインタビューした記事もある。