自分たちがいる時間 / 場所は、あたりまえには存在しない
取材・文 | COTTON DOPE (WDsounds) | 2020年6月
――お2人が知り合ったきっかけをお聞かせください。
S 「2ndアルバム『光と闇』リリース後に今度は自分でビートを作ろうと思い、MPCをゲットしてビートを作ってたんだけど、鳴り音が自分の求めている質感と違ったんですよね。それで10代の頃にビートメイクしていたAKAIの『REMIX 16』ってサンプラーを探し出して制作している過程で、たまたまYouTubeで符和君の存在を知ったんですよ。楽曲をいろいろチェックしていたらAKAIの『S20』ってサンプラーを使ってるシーンが映っていて、それが自分が求めている質感にすごく近いし、なによりこの時代にS20を使ってビートメイクしてる人がいる事実にちょっとびっくりしたんですよ。それで、たまたまプライベートで松江に行く用事があった際に、符和君のレコードショップ“OTO RECORDS”(現 √9)へ直接訪ねたのがきっかけですかね」
――SOLDIERくんとの初対面、印象をお聞かせ下さい。
F 「僕が38歳まで経営していたOTO RECORDSには県外から音源を持って遊びに来られるアーティストの方が多くいました。SOLDIERくんとも音源を交換して、話した記憶があります。今思い返すとたしかに機材のことにすごく興味を持っているアーティストだなって印象はありましたね。ただ、やはり信頼関係が築けていったのは実際にSOLDIERくんがパーティに声をかけてくれて、千葉の街で再会してから。一気に関係性が深くなっていきました」
――パーティでの再会から意気投合して、『輪廻転生』を作ることになったんですか?
S 「その前にとりあえず2人で1曲作ってみようって話になったんですよ。いろいろお互いのバックボーンから今に至る話、音楽感などをやりとりした後にビートが届いて。聴いた瞬間に今までの自分にはないテイストと斬新さがあったんですよ。だから符和君とセッションを積み重ねてかたちにしたら、すごく新しいし、自分自身の未知の領域を開拓できるなって確信したんです」
F 「はじめて2人で制作した“再構築”って楽曲です。SOLDIER君のアルバムを聴いた中で、彼の違ったアプローチを引き出すには、やはりビートだと思ったんですよね。だから、彼の作風とは全く異なるサウンドをあえて提案しました。僕にとっても完成した楽曲は新しかったですね。柔軟にお互いの感性を受け入れられたことによって信頼関係が生まれて、2人にとって今回残る1枚へと進んでいった感じです」
――お二方は千葉、松江を拠点に活動していますが、それぞれの街に対する印象を教えてください。自分はLIVE SALOON WANNABE’S(千葉)でお2人にお会いしてますよね。
S 「千葉は様々なカルチャーの先駆者がジャンルを問わずたくさんいるところが魅力ですね。若い頃はほぼ東京で遊んでいたんですが、ある程度年齢を重ねてから千葉に戻ってWANNABE’Sでライヴハウスの運営に携わるようになって、ヒップホップやレゲエだけではなく、パンク、サイコビリー、ハードコア界隈の人たちと繋がって、広く様々なカルチャーの内面を諸先輩方に教えてもらいました」
F 「松江は風情豊かな街並で、全国的には観光地というイメージですが、僕が高校生くらいの頃にはすでに少なからずストリート・カルチャーはあって、DJもハウス、レゲエ、ヒップホップを中心に、当時からアンテナ高い先輩が様々なジャンルの音楽を発信していました。その原点を引き継ぎながら街も進化して、若いアーティストもそれぞれマイペースに音楽を楽しんでいる印象です」
――アーティストとしてのそれぞれのイメージはどうですか?お2人ともベースを大切にしながら、新たな挑戦をしていると自分は感じてます。
S 「そうですね。自分を知っている人の多くはダンスホール・レゲエ・シーンで活動しているって認識の人が多いんじゃないかなーって思いますが、それ以前の少年時代は秋葉原でスケートしたり、錦糸町のNUDEや六本木のGEOID、COREなんかでラップしていました。自分のベースとなるスタイルはこの少年時代にある程度コンプリートされていたんですが、まだ若くて、知識も経験も足りなかったんで、興味を持った世界にどんどん進んでいった結果、今の音楽のスタンスとスタイルに至りました。追求すると核心部まで行きたくなっちゃう性格なんで、これからも活動を続ける限り進化してゆくと思います」
F 「現状発信しているすべてが今の僕ですが、やはり10年前の音源と今の音源では音楽のイメージも変化していると思います。ただ、共演するアーティストや、音質、アートワーク等のハードルは年々高くなっているので、やはり挑戦なしには音楽と向き合えないのは事実です。創っている楽しさは勿論あるんですけど、届けるまで、届けた後まで考えていくようになりました」
――今回の作品の制作はどのように進んでいったんでしょうか?
S 「じゃあ作ろうってなって、根を詰めて作ったかって言うとそうじゃなくて、お互いの活動や千葉、島根という距離もあるし。時間は気にせず1曲1曲丹念に作っていった感じですかね。3年の制作期間を経て、やっとかたちになって世に送り出すタイミングが来たって感じです」
F 「たしかにそうですね。関東に行ったときには必ず会っていたんだけど、お互いの活動に影響がない制作スタンスが結果的に良かったです。今年に入ってからはミキシングやアートワーク、アウトプットに対してのお互いの意思確認など、一気に連絡回数が増えていきました」
――今作を聞いて世代が近いのもあって、90年代が新たな形になっていると感じました。そういうプロダクションは意識してますか?
S 「勿論意識しました。自分が符和君のビートに惹かれるのも、やはり90年代のテイストや名残りを感じるからだと思います。自分自身も、最近また90年代のレコードを掘ったり、当時観ていたスケート・ビデオを観たりしています。だけど今は令和じゃないですか。だから、ただのリヴァイヴァルってかたちじゃなくて、斬新な現代のテイストとミックスするイメージで制作しました」
F 「本当にその通りだと思います。結局は初期衝動という魂がいくつになっても心の核にあって、そのときに目で見た景色を音楽のどこかで表現しているのは間違いないです。無意識に生み出されるプロダクションなので、ある意味そこがポッと出とは違う。いつも音源をご購入いただいているかたは、その部分を理解してくださっている気がします」
――歌詞やビートはどういう時に生み出されてますか?
S 「ビートを聴きながら、そのとき頭の中にあるトピックやワード、自身の感情などをクロスオーヴァーさせながら言葉として綴っていく感じです。普段から書き溜めたり、いつでも書けるってタイプでは全くありません。危機感を感じるとき、自問自答して追い詰められたときなどに必死の心で書きます。なので、一度書きだすと集中して、だいたい3、4時間くらいで書き上げる感じです」
F 「DJで、レコードショップも運営しているので、毎日音楽を聴いています。その日常の中で、ふとピックしたい音源に出会い、そのときの自分の感情などが重なる瞬間があって。そこから制作していく感じです。制作していくと音楽と自分の感情が徐々にシンクロして、イメージがどんどん湧いてきます。なにかを失ったり、悲しい出来事があったときは、特にビート制作に向っていく傾向があります」
――今回の作品『輪廻転生』に込めた思いをお聞かせ下さい。
S 「自分の言葉や伝えたいメッセージは、娯楽が盛んで、みんなが豊かで幸せな時代や世の中だったら必要ないって思ってるんですよ。混迷を極める今、この時代の転換期だからこそ、自分自身と本気で向き合って、芸術的側面から真に歌いたいことを抽象的なアプローチで詰め込んだ感じですね。アートワークを担当してくれたROB the Hunchback氏のアートと、符和君の繊細で斬新なサウンド、そこに畳み掛けて訴える自分の言葉と、間違いないフィーチャリング・アーティスト、リミキサーの世界観をトータルで観たり聴いたりしてもらって、1人でも多くの人に音楽とアートの深い世界に浸って何か感じとってもらえれば幸いです」
F 「まずはSOLDIERというアーティストに出会えたこと、この作品を残せたことに感謝したいです。“輪廻転生”というテーマについて、SOLDIERくんに何回も電話して考えを聞いたんです。まずは彼の意思を受け取りたいなって。アカペラが全部揃って、完成に向けて1年くらいの作業の中で、僕自身は“輪廻転生”の答へと向かっていった感じです。彼が選んでくれたビートがまた、刺があるドープなものばかりで。フレッシュなものもあるんだけど、7年前くらいに制作した初期のビートまであって。その初期のビートを、出会いの曲じゃないですけど、再構築したり、生ベース入れたり、サンプリングし直したり、日々詰めていきました。だから作業中、ふと今よりもっと視野が狭かったり、エゴイスティックだった頃を思い出したりなんかして……(笑)。一度考えをフラットにしてみたり、17歳のときにDJを始めた初期衝動や、ショップを松江にオープンした25歳のハングリーな自分を今一度思い返したり。今より物事に対して良い意味で荒いというか、飢えているというか。そんな感覚を思い出しながら、アーティストとしてのスイッチが入っていった部分はあります。生き残っている現状には勿論感謝なんですけど、僕自身まずこの『輪廻転生』リリースをきっかけに、まずは僕が削ぎ落としていった大切なものをこれから探しに行きたいと決意しています」
――ゲストで呼んでいるアーティストについてもお聞かせ下さい。地域や世代は違えど、同士というようなイメージを感じました。
S 「ゲスト・アーティストに関しては、符和君と何度も何度も電話で話して決めていきました。あと自分が符和君から貰ったビートを聴いたときに直感的にハマりそうな人に声を掛けさせていただきました。それがE.G.G. MAN、FORTUNE Dでした。2人とも世代は違いますが、尊敬しているし、スキルやプロップスは間違いないんで、完成をイメージして制作もスムーズに進みました。40君、GUTTER君たちに関しては符和君からの提案で、最初はイメージが湧きませんでしたが、彼らの活動拠点(北九州の小倉)と千葉は工業地帯に隣接する街だったり、色合いに共通点があるんで、彼らのラップもすんなり耳に入ってきて、電話で話したり、やりとりしながら制作して、符和君のビートともバッチリはまって納得のいく楽曲が完成しました」
F 「ラッパー、DJ、デザイナー、エンジニアなど、みんな共演したいアーティストにオファーしているので、進行状況がとにかく楽しみで仕方がなかったです。様々な地域や年齢層のアーティストの表現を感じながらビートを再構築していく過程もとにかく刺激的でした。40 & GUTTERとは去年に開催された松江のパーティでリンクしました。2人の先輩にあたるDJ MAKINOさんとは以前から交流を深めていて、40 & GUTTERの存在も知っていました。僕はライヴで見た彼らの眼光に惹かれました。音源で聴く感覚とはまた別格のヴァイブスを肌で感じました。実際にオファーしたのはそこから数ヶ月経ってからのことですが、確実に良いものが産み出せると思っていました。SOLDIERくんとは良き関係が築けていると思います。やはり何回も実際に会っているというのがデカいです。毎年更新されていく年月の中、僕ら2人の音楽に見出す情熱に一切の曇りがないことをお互いがゆっくり認識していったことが『輪廻転生』で感じてもらえると思います。作品を残すっていうのは表現であり、自分自身が残していく証でもあるので、ひとつ終わればまたひとつ始まっていくように、この先の未来も僕らにとって刺激的であり、サヴァイヴの中で再び出会う愛や知恵に感謝して、前に進んでいきたいと思います」
S 「まさにその通りだと思います。これからお互いが進む道はそれぞれ違うと思いますが、またいつか符和君とは作品を一緒に作りたいです。その時は間違いなく今よりお互いが進化してると思うし、今回の作品とは違った色が出せると思います。そのときを楽しみに自分自身をより高め、我が道を進んで行きたいと思ってます」
――輪廻転生というテーマですが、お互い人間になる前はどういう存在だったと思いますか?また、どういう存在だったらいいと思いますか?
S 「難しい質問ですね(笑)。自分的には人間になる前は“水”ですかね。水は全ての大地や生命の源なんで。でも水だけじゃなにも生まれなくて、やはりそこに“光”が必要だと思うんですけど、その光は太陽であったり、エネルギーを放出してるじゃないですか。だから、今回の作品も水であり、光になる存在だったらいいかなーと思ってます。これは先人から受け継いだ魂でもあり、また後世に繋いでいければとの想いを音楽で形成したかたちであり、“循環”です」
F 「はっきりはわからないんですけど、猫だったんじゃないかって思うことはあります。なにかに没頭している男の人の側にいた三毛猫です。僕が猫だったときは毎日をのんびり暮らしていて、ただその飼い主の没頭する姿をいつも見ていて、人間になれたら僕も何かに没頭したいって考えていたんじゃないかって思います」
――人生において今自分たちがいる場所 / 時間っていうのはどのような場所 / 時間だと思いますか?
S 「かけがえのないものだと思ってます。今迄いろいろな場所や人、音楽やアート、カルチャーと出会い、今の自分がいます。その全てに感謝して、これから先も進んでいければと思ってます」
F 「年齢を重ねていって強く思うんですけど、きっと今自分たちがいる時間 / 場所ってあたりまえには存在しないと思うんです。すなわち自らが時間をかけて前に進まなければたどり着けない、聖地のような場所であると思います」
――アルバムにはインストゥルメンタルのトラックも入ってますし、ヒップホップだけではない音楽性を感じます。リミックスや全てを含めて、この作品は成り立っていると思います。この作品が完成したと思った瞬間を教えてください。
F 「今回、インストが収録されることでそれぞれの楽曲がより際立ったし、リスナーに向けてSOLDIERくんの音楽性やメッセージをより受け止めてもらえると思っています。またフィーチャー陣とリミックス・ヴァージョンも作品の抑揚になっているので、末永くみんなに愛されるレコードであってほしいです。個人的には、カヴァー・アートが届いたときに完成が見えました。完成したと思った瞬間は今はとっておいて、新型コロナウイルスの心配のない状況になって、またライヴ活動が再開され、SOLDIERくんは勿論、共演したアーティストのみんなと“再会”できる日、その日を完成した瞬間と言わせて下さい!」
――今後の2人の活動などについて聞かせて下さい。
S 「自分の3枚目のアルバムを年内にリリースする予定です。もう完成に近い所まで来てるんで、楽しみにしていてもらえると光栄です。よろしくお願いします」
F 「変わらないことは松江からの発信。ウイルスによる社会情勢でDJツアーについて今は答えることができないんだけど、できればまた全国各地でプレイしたいです。昨年の終わりに『湖ノ響』というベスト・ミックスをリリースして、ちょうどまた0からと考えていた時期での今回でもあるので。0から1へというか、42歳になったこれからも、さらに新しいチャレンジをしていく覚悟です。16年間ストリートショップを維持できている意味、それは松江という街が出した答えになるんですよ。だからこそ僕は、信頼して手を取り合ったアーティストや、サポートしてくれる仲間、僕の作品を選んでくれるお客様に対してチャレンジしていく責任もあるので。評価される立場ではあるけど、発信していく松江ストリートのプライドに一切の妥協はないので。生涯をかけて今後も活動していきます」
F + S 「ありがとうございました。リリースされた『輪廻転生』ですがインスト、リミックス含め合計8曲収録された12″レコードです。ぜひ全国各地の皆様の元へ届くことを心より願います。参加アーティストとのインタビューもまた別のウェブ・コンテンツで新たに発信していく予定です。そちらもぜひチェックしていただけたらと思います」
SOLDIER | MAD FISHER RECORDINGS Official Site | http://raggamuffinsoldier.com/
■ 2020年6月10日(水)発売
SOLDIER & 符和
『輪廻転生』
初回生産限定 12″Vinyl R9EP007 2,200円 + 税
[Side A]
01. 輪廻転生
02. 再会 feat. E.G.G. MAN
03. 再会 feat. E.G.G. MAN (INGENIOUS DJ MAKINO REMIX, Cuts by DJ OhMyGod)
04. 天ノ啓示
[Side B]
01. 地下からの反逆 feat. FORTUNE D a.k.a NINJADOOPA
02. Seven Words feat. 40 & GUTTER
03. Here today, gone tomorrow feat. Yoshiaki Nagami
04. 再会 (Instrumental) -R.I.P. Kouichi Sugahara-
[販売店]
√9 / Banguard / CRIB RECORDS / DARAHA BEATS / disk union / BIG BOY TOYZ / 広島 reguLAte / HMV record shop / JET SET RECORD / MAD FISHER RECORDINGS / MUSIC LOVE 楽天 / 波の上 MUSIC & BARBER / SDR / SOULPOT RECORDS / SoundChannel MusicStore / TOWER RECORDS / toosmellrecords / TRASMUNDO / TROOP RECORDS / WENOD RECORDS / WDsounds