Review | she luv it『she luv it』 | Pop Smoke『Meet The Woo 2』


文・撮影 | 西川 聡

| she luv it『she luv it』
Vinyl Edition | Bedouin Records, 2020

 東心斎橋という、大阪の繁華街ミナミでも最も猥雑な地域にある「atmosphäre」というバーに集まる匿名性高きメンバーで構成された、“Final Noise Beatdown Attack”ことshe luv itの結成10年を越えて発表された初フル・アルバムのアナログ化。

 FLUX(b, vo)は以前からorhythmoとしてソロで活動しており、ノイズとハードコア・パンクの親和性を常に提示しながら音楽活動を続けてきた。その中でatmosphäreに集まる連中との出会いがあり、ビートダウンというひとつのキーワードを基に各メンバーの嗜好を凝縮し、レイヤーになった音がshe luv itのベースになっている。各メンバーの活動は多岐に渡り、ここで書き連ねるのは不可能な程である。しかし、ここが他のハードコア・バンドとの決定的な違いであり、このバンドの音像を放射状にする訳だが、決して極彩色にはならない要因でもある。表層的にノイズやテクノ、ヒップホップ、アンビエント等を取り入れて消化不良を起こすバンドは多いが、彼らは違う。マナーを知っているが故の足し引きがあるのだ。現在ノイズとメタル、ノイズとハードコアを接近させるバンドは吐いて捨てるほど存在するが、FLUXの出すノイズは、多種多様なノイズにあっても、やはり彼の育った大阪にかつて存在したライブハウスGuildや、もちろん現在も大阪の極北であるBearsで聴くことができるノイズであり、一朝一夕で精製されるものでない。それがこのバンドを紐解いてゆくヒントであり、根底に存在する漆黒の雑音であると私は思っている。

she luv it

 その一方でUGKというテキサスのラップ・デュオ(片割れであるPimp Cは2007年に逝去)による最後のオリジナル・アルバムに収録された曲名から採られたバンド名の通り、CD盤のイントロはその曲のチョップド & スクリュードが収められており、S&Cとビートダウンの親和性というよりは、雑多な嗜好性が見事に結晶化した音像を、ある種穏やかと言える流れで進めてゆく。

Yori アートワークを担当したTakashi Makabeの表現もまた素晴らしく、これに関しては各々で感じて欲しいので多くは語らないが、とにかく謎に包まれたマテリアルとなっているので、ストリーミングだけで聴くには体験として勿体ないと感じるのが正直なところだ。

 そして、極め付けが本作のサウンドプロダクションである。メンバーもあるギタリストのYoriが一貫してレコーディングからマスタリングまで担当し、圧倒的な個性をまとめた他に類を見ない録音に仕上がっている。今回のアナログ化にあたり、新たにマスタリングされた音源は、より強調された特定の周波数によって、強烈な光と闇を同時に放つ立体的かつモノクロームな音像が鼓膜に突き刺さる仕上がりとなった。

 当人達が意識しているかは聞き及んでいないが、今日におけるハードコア・パンクの進化を後押しする、決して懐古に陥る事なく先達への敬伲の念と破壊に満ちた音楽的折衷が、ここには存在する。

 最後に、この作品が2010年代の最後の年に発表されたハードコア・パンク・バンドの作品である事を強調しておきたい。

 今回のアナログ盤リリースにあたり、メンバー各自の出自であるバンドが残した音源や、ソロで活動するメンバーの作品をミックスした『she luv it Essential Mix』がBedouin RecordsのSoundCloudで公開された。トラックリストを見てもらえば一目瞭然のバックグラウンドを1時間に亘って堪能できる。

| Pop Smoke『Meet The Woo 2』
Republic Records, 2020

Pop Smoke 'Meet The Woo 2' ブルックリン・ドリル、昨今のラップ界において避けては通れぬ道。2010年代の初
頭、シカゴから派生したドリルはロンドンへ飛び、再びUSに帰ってきた。

 Pop Smokeは19年リリースの『Welcome To The Party』およびNicki MinajとSkeptaが参加した同楽曲のリミックスで瞬く間に名声を得た。彼がジャマイカとパナマのハーフであることからも感じられるように、初めて聴いたときは真剣にUKのラッパーだと勘違いした。しかし、これが2020年のNYのラップの主流になりつつあるのだ。

 すでにメジャーとのディールを手にしていた彼は新作への着手も早かった。808Melo、Cashmoney APや、WondagurlといったUK、US、カナダなどのプロデューサー、Quavo、Fivio ForeignやLil Tjay、A Boogie wit da Hoodieを客演に迎え、グライムやダブステップのリスナーにも訴求する異様な音楽性が、新たなミレニアムの象徴として鳴り響く。

| 追記:
 この記事を書いた数日後の2月19日、Pop SmokeことBashar Barakah Jacksonは、滞在先のLAで何者かの強盗に遭い銃撃を受けて死亡した。20歳であった。ご冥福をお祈りいたします。

西川 聡 Sou Nishikawa
https://soundcloud.com/dagd_rom

西川 聡Dagdrøm
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