小さい頃に色鉛筆で塗り絵をずーっとやってた感覚
自身の記憶の中にある“昭和”を描き、作り続けているというさぶが、その制作過程やできあがった作品の写真を日々更新してきたInstagramを改めて一気に眺めてみての感想は「全部ほしい(断言)」!日々更新されていくInstagramをリアルタイムで眺めてきたこの1年は、レトロでキュートだったりストレンジでファニーだったりする、カラフルでノスタルジックな作品群の数々に、時にため息をつき、時に息が止まりそうになったり、とにかくいちいちガシッと胸を掴まれていました。「これはすごい展示になってしまうのでは……!」という想いがフツフツとして爆発する前に、インタビューをする機会を得られて光栄です。本稿では、展示がスタートする直前に、名前の由来、古いものに惹かれたきっかけ、家庭と制作との両立など、以前から気になっていた制作に関係あることもないことも聞きました。
取材 | ナポリタンみみこ + 仁田さやか | 2019年10月
文 | 仁田さやか
撮影 | 久保田千史
協力 | ROCKET
――いきなり制作とは関係ない質問ですが、さぶさんはなんで痩せてるんですか?
「これはね、悪阻がヤバかった(笑)。1人目のときに悪阻が10ヶ月続いて。最初の4ヶ月は水も飲めないし、ごはんも食べれないのは8ヶ月ぐらい続いて。どうしようもないから入院して、点滴でしのいでた。38キロになって、フラフラで1人でお風呂にも入れない要介護状態に。胃がんなんじゃないかと思ったぐらい。子供は2人産みたかったから、これもう1回経験するなら2人目もさっさと行っちゃおうって思った。2回目の妊娠では同じような悪阻の症状になるとは限らないと思っていたら、2人目はもっとひどかった(笑)」
――え!もっとひどいって……。
「1人目のときよりももっとひどくて、入院期間ももっと長かった。それ以前から痩せてはいたけど、ここまでではなくて。悪阻で食べられない期間が長すぎて、体のリズムが狂ったんだと思う。死ぬかと思った。そしたら死ぬ前に何やりたいかな?って考えるようになって、こんな辛い思いしたんだから、私なんだってできるでしょ、みたいな気持ちが強くなった。悪阻を経験してからけっこう頑張るタイプになった」
――悪阻が10ヶ月っていうのは、初めて聞いたかも。
「吐きながら産んだ。胃と食道がもうズタボロになってて、吐くとお椀一杯分ぐらい血の塊みたいなのが出ていたんだけど、それを吐きながら産んだ。体力も限界だけど、気力が本当にヤバくて。身も心もズタボロになる出産だった。それが本当に辛かったんだよね。そんな出産を2回やりきったんだから、制作だったらなんでもできる気がしてる」
――まさかの、制作の話に繋がった(笑)。
「けっこう根性論強めな女(笑)」
――さぶさんはお子さんも2人いて、日常で自分の制作時間を捻出するのって大変じゃないですか?
「うーん、私作業めちゃ早いからけっこうできる。4時間あれば細かい絵も完成させられるし、大きさにもよるけどラグを作るのもわりと早いと思う。でも、そうは言ってもこの追い込みの2週間ぐらいはほとんど家事してない(笑)。家事一切しないで夕ご飯だけ作るぐらい。夕ご飯だけは作ろうと思って。そうする前に、“私は今日から家事何もしません宣言”しちゃった。今、掃除、洗濯、洗い物とかは全部旦那がやってくれてて。子供たちにも、今日から作品作るからママはあんまりできないからって言うと、わかってくれる。結婚10年ぐらい経ってやっと家族の連携スタイルが整ってきたかも。ありがたい」
――お子さんは何歳?
「小3と小1。オムツとかミルクとかないからけっこう楽になってきた」
――絵を描くときは、手が勝手に動くみたいな感じ?
「そうなった。でも絵を模索してる暗闇期間が長かった。デッサンとか学校でやるようなことはできるんだけど、自分の絵ってどういうものなのかずっとわからなくて。10代の頃は、路頭に迷ってた。ブレブレ。何を描いたらいいかが決まらなくて」
――その時は今のスタイルにはまだたどり着いていない状態?
「そうそう、なんて言ったらいいんだろう。もっと自分を主張したいって気持ちが強くて。今もそれはそうなのかもしれないけど(笑)。グロい感じで描いたりとか、いろいろやってたんだけど……誰かからどう見られるかを意識しすぎて、ブレまくり。2人目を産んでから自宅でイラストやデザインの仕事をしてたときに、本当に自分の描きたい絵ってなんだろうって考えるようになって。もっと絵を描くのって楽しかったはずなのに……って。そんなときに、子どもたちが遊んでいるのを見て、小さい頃に色鉛筆で塗り絵をずーっとやってた感覚を思い出して。あの感じで描きたいんだよなーって。小さいときに好きだったものや記憶を思い出して描いていったら、グッとその感覚に近くなれることに気づいて。それが2016年に国立で展示(「さぶ個展 さぶだらけ」東京・国立 room103で開催)をやる2年ぐらい前。この感覚で絵を続けていったらどういう仕事が来るんだろう?自分のやりたいことだけに集中したらどうなるんだろう?って思って、その時から今のスタイルになっていった。だからそれよりも前に仕事で描いてた絵は今と全然タッチが違う。2014年くらいに、自分の表現したいものをやっとみつけたと思う」
――おばあちゃんちのものって、今でこそ愛おしいけれど、ある程度大人にならないとそう思えない気がするんですが、さぶさんは昔から好きだったんですか?
「いや、おばあちゃんち怖すぎだろ!って思ってた。キラキラの砂壁とか、あとキジの剥製とか、般若とか……。しかもおじいちゃんが自分で彫った般若のお面で。砂糖に蟻がめっちゃいて、気持ち悪いって思ってた。あと2階の暗い部屋にピンクパンサーのでっかいぬいぐるみがぶら下がってたりして。全部怖すぎて小さい頃は泣いてたんだけど、小学校高学年くらいのときに、おばあちゃんの親戚の本家に行って。本家って田舎だとあるよね。大きい家の。その本家には2階に蚕を育てる部屋があって」
――すごい……。
「その周りに、古い平屋のちっちゃい家が並んでて。平屋の中にも入らせてもらったんだけど、そういう家にめっちゃ憧れちゃって。大人になったらこんな家に絶対住みたい!って思った。だからけっこう気づくのは早かったのかも?」
――その小さい古い家はどういうところが良かったんだろう?
「生活がミニマムというか全部コンパクトな造りで、団地とかもずっといいなーって思ってるんだけど、すべて小さくてギュッて詰まってる感じが、めっちゃいいーって思ってる」
――古いものの良さに気づくのが早い!
「お風呂の床に石が埋まってるやつとか、いいなって。でも、やっぱりそんなこと忘れている時期もあった。流行のほうが気になってそっちに気を取られたときもあった。それから中3ぐらいのときに友達に“絶対好きだから”って教えてもらったのが、超昭和レトロな変な店で。うわぁ~!なんだここ!ってなって。そこからはもう、その店に憧れすぎて何度も通って。最終的にはそのお店で働かせてもらえるようになった」
――え、すごい!雑貨屋さん?
「初めて出会ったときは何の店かわからなくて。全体が赤壁で、そこにポールダンスのステージがあって、それでラウンドしたステージの周りに全部電球が付いてるの。ステージには赤いベロアのカーテンが付いていて。昭和レトロポップな雑貨とか古着、アングラっぽい要素のものが置いてあった。隣のでっかい倉庫に家具とかが売っていて。今はその時よりスッキリした感じで家具をメインにしたおもしろい古道具屋さんになってるけど」
――今そのお店は?
「今は移転して別の場所で営業してる」
――原宿のラフォーレに、「ガールズマーマー」っていうお店があったのは知ってる?あと「ポップチューントーキョー」っていうお店もあって(*1)。「スイマー」とはまた違った、60~70年代っぽいレトロなお店で。ああいうお店が流行ったのは90年代後半かな?「Zipper」とかに載っていて。
「その頃はただの小学生だったからわからない……。気になる、メモる。私が中2、中3のときに、スイマーを初めて見た時衝撃だった。今は終わっちゃったけど(*2)、最後の方ってファンシーなイメージが強かったけど、もっとレトロポップだったよね?その時の商品にうわ~ってなって、中学の時の小物は全部スイマーで買ってた」
*1 ガールズマーマーは2008年11月、系列店のポップチューントーキョーは同年9月に閉店
*2 2018年1月末で終了したものの、2020年にブランドが復活予定(!)
――あとは宇宙百貨とか。
「“上海タイムス”っていう店があって……あれは地元の町田だけにあったのかな?(*3)。すごく好きでよく買ってたんだけど、そんな変なものどこで買うの?ってよく友達に言われてた(笑)」
*3 中国・アジア雑貨店「宇宙百貨」を展開していたワンダー貿易は、「上海タイムス」も展開していた
――古いものの収集はいつからはじめたんですか?
「中3のときにレトロポップものにハマってから、さっき話した古道具屋さんで自分の買えるものを集めていって。社会人になってからももちろん買ってるんだけど、リサイクルショップを巡るのが好きでNPO法人のリサイクルショップもよく行く。週2、3回はいろんな店で買い物してた」
――古道具屋さんで働き始めたのは卒業してから?
「専門学校を卒業してからウェブ・デザイナーとして雇ってもらった。その時はあんまり古いものに詳しくなくて、超感覚的に古いもの好きって思ってた。リアルおばあちゃんちのトイレだったり、おばあちゃんちにありそうな花瓶に造花を挿す感じ、とか、レースがめっちゃ付いてるトイレットペーパーのカバーとか。全てのおばあちゃんのお家をピンポンして回りたい。タイル柄のフロアマットの床とかすごく好き。壊された家の隙間からそういう柄がチラついてたりすると、ときめいたり切なくなったりする」
――今は古いものがいいと思っているけど、将来、今売られているものがいいってなることもあるんですかね(笑)?
「多分私は自分の小さいときに見た衝撃があってのだから、そうはならないのかなって思うんだけど、小学校のときのファンシー・グッズは当時は全然興味なかったのに、最近めっちゃかわいいってなってるから、どうなるんだろう(笑)」
――あと、名前の由来がずっと気になってて。
「高校を卒業して専門学校に入る頃は、本名が地味すぎて、絵を描いていても“あ、女の子が絵を描いているんだね、ふんふん”って感じで、全然興味持ってもらえなくて。中身まで興味を持ってもらえないまま終わっちゃう。私、もっと頭おかしいのに、そこまで誰も踏み込んでくれないっていうのがすごい嫌で。最初にインパクトがあって、誰かに“こいつ頭おかしいぞ”って思ってもらえる名前で私は今後生きて行きたい!って思ってて。そのときはちょうどmixiが流行ってる頃で、知り合いがmixi的なSNSを作ったからみんなでやろうってことになって、その時の名前をサブリナにしたの。そしたら“さぶ”って呼ばれるようになったんだけど、それが気に入っちゃって。さぶっておっさんじゃん!って」
――北島……(笑)。
「それで専門学校に入学したときに“さぶです”ってみんなに言って。そのときはさぶって呼んでもらってはいたけど、作家名は本名でやってた。卒業してから作家名を“さぶ”にして活動していった」
――サブリナはどこから?
「『麗しのサブリナ』とかオードリー・ヘプバーンとか関係なく、なんとなくサブリナにしてみた(笑)。おもしろいかなって思って」
――今回の展示『yarn yarn』はずっと制作過程をInstagramで見ていてすごく楽しみにしているんですが、作品作りはもう終わりましたか?
「昨日猫作って終わった」
――1年ぐらい準備に時間をかけてたんですよね?
「2018年の11月ぐらいに1枚ラグ作って。いっぱい絵が合わさったラグを作って。12月に展示の依頼が来て、それからある程度目標決めて作れるだけ作った」
――作品はどのぐらい作ったんですか?すごい数がありそう。
「これから値段を付けるので、まだちゃんと数えてないけど、ラグ20ちょいと、かばん20ちょいくらいかなあ?あと細かいもの。そんなに思ったより作れなかったなあって自分では思ってる」
――原点は絵なんですよね?
「うん、絵。もともと塗り絵がめちゃくちゃ好き」
――今回の作品も塗り絵に通じるものがありますね。
「そう、塗り絵めちゃ好きで、子供の頃、大人になったら永久に塗り絵やろうって思ってた。シルバニアファミリーも。そういうガッツリ自分の世界に入るみたいなのを誰にも邪魔されずにずっとやってたいって思ってた」
――叶ってる!
「そう、叶ってる!でもここにたどり着くまで長かったなあ」
――絵が描ける人って、他の制作物に関しても、なんでも上手にできちゃう気がします。
「絵が描けるのってすごいな、ってラグ作ってから思うようになった。縫い物やる人って下描きというか、下絵みたいなのをちゃんとさせて、色決めてから作るのかなって思ってて。私はかなりフリーハンドで適当に下絵描いて、色決めないでやるから前準備がすごく早い。頭の中でこうしようっていうのはあるけど、それを一度絵に描いて、っていうことはしないからすぐ作業に入れる」
――毛糸を使った作品を作り始めたのは今回の展示に合わせて?
「そうそう。それまで毛糸を使った何かを作ったことはなかった。MA1LLにフッキングのラグの作り方を教えてもらってから自分でアレンジするようになって、パンチニードルに出会って、なんだこりゃ!ってすごくおもしろくて。でも1年前はパンチニードルの材料もあまり売ってなくて自力で揃えたんだけど、今調べるといろいろ出てくるから、この1年ですごい普及した気がする」
――初心者にはフッキングとパンチニードル、どちらがおすすめですか?
「同じぐらいかな。そんなに難しくないし、やってほしい。すごく楽しいし。無心でできるから、冬にいいと思う」
――良さそう!ニッティング・ハイならぬ、フッキング・ハイ、パンチニードル・ハイになれるかも(笑)。
「絵って子供たちがそばにいたりすると集中できないから描けないってなるんだけど、パンチニードルの場合は、ザワザワしてても気にせずできるから子持ちにはめっちゃ良くて」
――集中できるんですね。でも不器用だから、さぶさんの作品を見てから自分でなにか作ると、ガッカリしちゃいそう(笑)。
「私、雑だよマジで。ミシン糸の色滅多に変えないし。雑に作るのでもOKならやりたいなと思って手芸はじめたから。たまにリサイクルショップでおばあちゃんが作ったと思われれる縫い物があって、めちゃくちゃ雑なものを見つけるときがあるんだけど、そういうときキューンってなる」
――腱鞘炎にはなりませんか?
「こないだこれ↓(『IN』)作ったときは手が終わるかと思った(笑)。『ウォーキング・デッド』を観ながらやってたんだけど、ゾンビの世界のこと考えたら、こんな作業は楽すぎるだろう!って(笑)。私はこの世界の人たちみたいにゾンビに殺されないし、できるできる!みたいなことを思いながら作った(笑)」
■ さぶ
solo exhibition 「yarn yarn」
2019年11月8日(金)-13日(水)
東京 表参道 ROCKET
11:00-21:00
※ 11月10日(日)-20:00 | 11月13日(水)-18:00
https://omotesando-rocket.tumblr.com/post/187956989774/nowさぶ-solo-exhibition-yarn-yarn