文・写真 | sunny sappa
こんにちは。2025年は「毎月ちゃんと書く!」が目標だったのに、早くも2月で挫折……(泣)。また1ヶ月ぶりの寄稿ですみませんー。
さて、3月は「アカデミー賞」もあったりで、今まさに観たい作品が目白押しであります(全く追いついていないが……)。題材を選ぶのにも迷うなぁ。もちろんわれらがショーン・ベイカーの『ANORA アノーラ』についてみんなで語りたい!っていう気持ちもあるけれど、それこそ素晴らしいテキストがネットに山ほどあると思いますのでね、ここはやはり私は別ベクトルでいきましょう。
というわけで、今月はちょっと厳しい作品をピックアップしております。厳しいとは、“しんどい”という意味ですね。ベルギーの映画です。あらすじざっくり↓
7歳のノラが小学校に入学した。しかし人見知りしがちで、友だちがひとりもいないノラには校内に居場所がない。やがてノラは同じクラスのふたりの女の子と仲良しになるが、3つ年上の兄アベルがイジメられている現場を目の当たりにし、ショックを受けてしまう。優しい兄が大好きなノラは助けたいと願うが、なぜかアベルは「誰にも言うな」 「そばに来るな」と命じてくる。その後もイジメは繰り返され、一方的にやられっぱなしのアベルの気持ちが理解できないノラは、やり場のない寂しさと苦しみを募らせていく。そして唯一の理解者だった担任の先生が学校を去り、友だちにのけ者にされて再びひとりぼっちになったノラは、ある日、校庭で衝撃的な光景を目撃するのだった……。
――オフィシャル・サイトより
小学校の休み時間の校庭……みなさま思い浮かべてください。俯瞰で見ると長閑な風景でしょうが、クローズアップすることでまた別の側面が見えてくるのです。この映画は学校という小さく狭い(と思われがちな)世界での“恐怖”を描いた作品。ある意味スリラーです。背丈に合わせた低位置に定め、 一部始終7歳の主人公・ノラに密着するカメラ。彼女の目線で学校という世界を徹底して描く事で、我々観客が追体験するような仕組みになっています。音楽はほぼなし。脚色を削ぎ落としたドキュメンタリー・タッチは、同じくベルギーのダルデンヌ兄弟の作風にも共通する部分も感じますが、一部のかたがたが例えられていた通り、これはたしかに、ホロコーストを体験させられる映画『サウルの息子』(2015, ネメシュ・ラースロー監督)の学校 / 子供ヴァージョンとも言えましょう。72分と短い時間ながら、とにかく強烈な映画体験……!鋭い視点に言葉を失ってしまいました。
まず、私はまんまと小学校に入学して間もない頃がフラッシュバックしてしまいましたね。仲良くしていた友達から突然仲間外れにされた体験……たしかにあったな。あのときのすごく傷付いた気持ちと久しぶりに対峙させられてしまった。思い返せば、あの頃からグループから外れないように、無視されないように、ひとりぼっちにならないようにすることは学校生活における重要事項のひとつになった気がするもんな。みんな、仲間外れやいじめのターゲットになるのは恐怖なのです。とりわけ学校という社会では。
ノラは小学校に上がって、最初はひとりぼっちで泣いてばかりいたけれど、苦手なことやできないことをがんばって克服したり、友達もできたりして、だんだんと自信をつけていきます。いやはや子供の環境への適応能力や成長の著しいこと……!このように学校で様々な経験をする中で、自分が“人からどう思われているか”も初めて意識するようになり、そこに合わせて行動をしたり意識したりするようになっていきます。
作中では学校での出来事しか語られませんが、これは、ノラが学校生活に溶け込んでいこうとすることで、それまでの家庭ではなく学校での人間関係に比重が置かれていくようになる、というか、そのうち学校が世界の全てになってしまう様がリアルに象徴されている描写だと思います。それによって、お父さんやお兄さんの位置付けというのもだんだんと変化していくんですね。最初は頼れて安心できる一番の存在だったけれど、自分が疎外される(= 恐怖)要素になり得るなら、疎ましいものに変わってしまうわけです。
ノラは自分が仲間外れにされてしまい、絶望を味わうことになるのですが、それはまさにこの世の終わりみたいな感じなんですよ。そりゃそうだ。だって彼女にとってはもう学校が世界の全てになっちゃってるんだから。不思議だけど、自分も当時はそうだったはずなのに大人になると忘れちゃうのか、もうすでに経験している長い人生の尺で考えちゃうからなのか?子供の対人関係のあれこれって、小さな出来事と軽く捉えてしまいがちかもしれない。もちろん解決しようと努力もするけれど、その方法がお門違いで事を悪化させたり、大人は大人で精一杯だったりもするし……。
うちの子供はもう大きくなってしまったけれど、当時ちゃんと向き合えていたのかな?私や夫が思っているより、彼女は彼女できっとすごく大変なことも多かったのでは?と今更ながら思う(うちの子も幼少期はノラみたいにけっこうポツンとしていたり、プールが大の苦手だったり……)。まあ、それでも自分の力で乗り越えて今があるのだから、なかなか頼もしくもあるんだけれど。ノラにしても、経験から学んで考えて、あがきながらも行動した、その結果が未来の自分を作っていくと思うと希望が見えるラストになっているんじゃないかな?
小学校とは、私たちが一番最初に触れる社会。ここでの経験や学び、またトラウマなどが、その後の自分に繋がっており、人格形成にも影響します。つまりこの映画は我々大人の多くが通ってきたであろう小学校での通過儀礼的なものを再び体感させながら、人が社会と繋がっていくということの本質を容赦なく突きつけます。そこには重要性も危うさも、絶望も希望もある。観客はそれに改めて向き合って自分の存在、在りかたや物事への判断基準、子供への接しかたなどについて見つめ直す機会を与えられるのです。また、小学生に限らず永きに亘って世界的な社会問題であるいじめの描写を含むことで、その根源や連鎖の仕組みも示唆しており、それに対してはノラの行動を通して何が大切なのかも考えさせられました。
正直、あらすじを読んだだけでもキツいと思いますが、観るともっとキツいです。なんて言うと誰も観ないですかね?! いやいや、大丈夫。ちゃんと救いはありますから。そして学びも。個人的には断然おすすめしたい、すごい1本です!
■ 2025年3月7日(金)公開
『Playground / 校庭』
東京・新宿シネマカリテ, シネスイッチ銀座ほか全国公開
https://playground-movie.com/
[監督・脚本]
ローラ・ワンデル
[製作]
ステファン・ロエスト
[撮影]
ステファン・ロエスト
[編集]
ニコラ・ランプ
[音楽]
トーマス・グリム=ランズバーグ
[出演]
マヤ・ヴァンデルベック / ギュンター・デュレ / カリム・ルクルー / ローラ・ファーリンデン / サイモン・カウドリー
配給: アルバトロス・フィルム
2021年|72分|G|ベルギー|原題: Un monde (英題: Playground)
©2021 Dragons Films/ Lunanime

東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。