Review | Ana Roxanne『~​~​~』


文・撮影 | 久保田千史

 Instagramの“Explore”で見つけて、なんとなく気になってフォローしていた人が、Matthewdavidさん主宰の(宇波 拓さんやSeihoさん、Bun aka Fumitake Tamuraさんの作品でもおなじみの)「Leaving Records」からアルバムを発表するというので、なんとなく気になって買ってみた。世の見識あるライターさんや評論家の方々はたぶん、なんとなくでは音楽等の芸術に接していらっしゃらないでしょうから、底が割れ割れ感満点ですが、ずっとそうしてきたから、もう治しようがないのです。しかも何が気になってフォローしたんだか、全く記憶にない。自分の行動パターンから推測するに、佇まいが気になったからだとは思うけれど……。

 Leavingは昨年いきなりBAUHAUSの未発表音源入りEPをリリースしてきてびっくりさせられたけど、本作も素晴らしい!Matthewdavidさすがだぜ!とは言え、Leavingからデビュー!という感じでもなくて、3月にAna Roxanneさん自ら数10本限定でセルフ・リリースしたカセットテープ作品のヴァイナル・リイシュー。Leavingからは先にカセットテープ・エディションも発売されているので、2度目のリイシューということになるのかな。リイシューにあたって、Peanut Butter Wolfさんが2017年から稼働させているLAの「Stones Throw Studios」にてMatthewdavidが直々にリマスタリングしています。

 LAを拠点に活動する東南アジア系のAna Roxanneさんは、聖歌隊に所属してジャズやクラシックに触れ、お母さんが集めていた90sディーヴァのコレクション(インスタにはよくMariah CareyやWhoopi Goldbergが出てくる)を聴きまくり、ヒンドゥスターニー音楽のスピリチュアルな側面に興味を持って学んだりしていたそうなんだけれど(オフィシャルのプロフィールより)、かのLaurie Andersonさんや、近年ではHolly Herndonさんの出身校として知られるオークランド・ミルズ大学の卒業生でもあるんだよね。だからかどうかはわからないけれど、『~​~​~』はトラディショナルな普遍性をエクスペリメンタルにリビルドした感じのニューエイジィなアンビエント作品。でも、インターネット的な80〜90sリサイクルとか、WRWTFWWのリイシュー物、Light In The Atticの『Kankyō Ongaku』に象徴されるVISIBLE CLOAKS的なニューエイジ / アンビエントとはちょっと違う。イージーに感触で比較すれば初期Grouperが一番近い、ロウでパーソナルなやつ。MJ GuiderさんとかKara-Lis Coverdaleさん、近年の嶺川貴子さんも近いかな。ヴォイス使いはJulianna Barwickさんと比較されているみたいで、よくわかるけれど、もっとネクストドアな感じが良い。

 写真で見る限り、少ない安価な機材で制作しているみたいで、予期しなかったであろうノイズや生々しい(近所で録ったっぽい感じの)フィールド・レコーディング、わりとベーシックなエフェクトで作られる空間が魅力的。でも専門的な音楽の素養は随所でめちゃくちゃ発揮されていて、何処とも知れぬ異国感と相まってJóhann Jóhannssonさんの『メッセージ』OSTがベッドルームで作られたような趣きもあったり。インターセックスのアイデンティティを前提に制作しているという点では当然、Terre Thaemlitzさんのアンビエント作品に通じる面もある。ダイレクトにはわからないけれど、YouTubeやSoundCloudで公開されているSmokey Robinson(THE MIRACLES)のカヴァーで聴けるようにR&Bっていうかリズム&ブルーズ、ひいては60〜70sポップスのイメージもたぶんあって、そこがまた独特のムードを作り出しているように思います。Susanna & THE MAGICAL ORCHESTRAが好きな人も気に入るかも知れないし、Julia Holterさんとツアーしているのも納得。フィーチャリング・シンガーとして参加しているHarriet Brownさんの楽曲「When You Call My Name」(アルバム『Mall of Fortune』収録 | 2019, Innovative Leisure)では、ディーヴァ然としたR&B歌唱も聴けるよ。

 インスタではBjörkの「Big Time Sensuality」ヘアに挑戦しちゃったりするお茶目なRoxanneさん、次の作品すごく楽しみ。“Explore”のアルゴリズム、ありがとう!こういうとき、言語的相対仮説(『メッセージ』的に言えばサピア=ウォーフ)について考えてしまうよ。ハイパーテキスト以降の思考やべー(笑)。