文・写真 | sunny sappa
こんにちは。しばらく間が空いてしまい、久しぶりの寄稿になります。今回はアカデミー作品賞関連を!と意気込んでいたけど、ちょっと時間が経ってしまってすみません。
さて、これまでもちょこちょこ触れているけれど、「アカデミー賞®」(作品賞になってくるとなおさら)って、その年の社会情勢を映す鏡のようなものだから、大きなテーマがあったり、社会的な示唆に富んだものが多いですよね。一方で、そんな時勢だからこそ、対極にある個人的なストーリーを持った温かみのある作品も何かしらノミネートされるのもおなじみの風潮(なんとなく最近、受賞はしない可能性が高い気がするが……)。『アメリカン・フィクション』(コード・ジェファーソン監督)もある意味そうだけど風刺が強目の作品だし、『マエストロ: その音楽と愛と』(ブラッドリー・クーパー監督)は伝記ものの枠だとして、今回は『パスト ライブス / 再会』(セリーヌ・ソン監督)、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(アレクサンダー・ペイン監督)がそれにあたる感じではないでしょうか?私はなんとなくこっちに惹かれることも多いですね。
楽しみにしていた『ホールドオーバーズ~』はまだですが、『パスト ライブス / 再会』が今月公開されていたので観に行ってきました!あらすじざっくり↓
ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。
ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。
12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、
オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。
そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。
ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。
24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とは――。
――オフィシャル・サイトより
アジア系女性の初監督作品というだけで興味はあったけれど、話題になっていたNetflixのドラマ『First Love 初恋』とかにもハマれなかった私は初恋に良い思い出なんてないからね、このストーリーには全く共感できないかも……という懸念も抱きながら、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下へGO~!
とりわけ個性を押し出すタイプというより、一見シンプルな語り口。抑制された表現は良い意味でも悪い意味でも地味目な作品です。でもね、ラストからの余韻がすごく良い!観終わってからがこの映画のすごいところだったんだって、つくづく思いながら今これを書いているのですが、なぜか思い返すと涙が出ちゃう。その理由って一体なんなんだろう?
結論から言ってしまうけれど、自分にとっては特に恋愛の映画では全くなかったです。もちろん表面的には初恋を軸になぞられているけど、時間と人生について、また、無数にあるであろう“選ばなかった道”にまつわる話なんだな。
そんな運命の岐路としてノラとヘソンの関係性を12年というタームで区切って見せているので、ふと12年前の私、24年前の私も甦ってしまった。環境も考えかたも変わった、得たものや精神的な成熟もあるけれど、決して取り戻せない失ってしまったものもたくさんあって、切ないような、懐かしいような、でも愛おしい、そんな複雑な思いが込み上げてきたのです。
あの時あーしてたら、こーしてたら、と思うことは誰にでもあるでしょう。しかし、時間は戻らない。そんな時の積み重ねでみんな今を生きている。だから、実際に“選ばなかった道”なんて存在しないのですよね。
そういう意味でも36歳現在の主人公・ノラの選択、というか、そもそも彼女には迷いがないんだけれど、溢れ出てしまう感情の機微はあって、それがとてもリアルに表現されていました。
韓国語の“인연 イニョン”という言葉も作品を象徴する言葉として引用されます。一言で訳すなら“縁”。ニュアンスとしては今の人生(現世)、あるいはその前の人生(前世)、そしてこれからの人生(来世)において、自分の人生に関わってくる人々に感謝し、つながっているという感覚を持つこと
(パンフレットより抜粋)。輪廻転生的な概念なのかな?ちなみにタイトルの“past lives”というのも前世という意味なんですね。これはまた、現在 / 過去 / 未来に置き換えても考えることができます。この3つの時間軸がふと交差するかのような瞬間のなんとも形容しがたいエモーションを捉えながら、実際の人生とは過去→現在→未来と進んでいく(そうとしか進まない)ものなんだな……とも改めて実感させられました。
この物語はセリーヌ・ソン監督の実体験が下敷きになっているそうです。本当に感じたことをありのままに捉えているからこそ、伝わるものが大きいのかも知れません。そんな初期衝動の要素もありながら、30代の監督による初作品とは思えないほど達観した視点と徹底したロジックを以って撮っており、既存のラブストーリーとは一風を成す新しい物語に昇華されています。
そして、ニューヨークの街の風景、GRIZZLY BEARのメンバーによる心地よい音楽も本作の大きな魅力になっています!
■ 2024年4月5日(金)公開
『パスト ライブス / 再会』
https://happinet-phantom.com/pastlives/
[監督・脚本]
セリーヌ・ソン
[出演]
グレタ・リー / ユ・テオ / ジョン・マガロ
[製作総指揮]
マイキー・リー / セリーヌ・ソン
[製作]
ダビド・イノホサ / クリスティーン・ヴェイコン / パメラ・コフラー
[音楽]
クリストファー・ベア / ダニエル・ロッセン
[撮影]
シャビアー・カークナー
[編集]
エリック・メッサーシュミット
[美術]
グレイス・ユン
[衣装]
カティナ・ダナバシス
提供: ハピネットファントム・スタジオ / KDDI
配給: ハピネットファントム・スタジオ
2023年 | アメリカ・韓国合作 | 106分 | G | 原題: Past Lives
©Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。