文・写真 | sunny sappa
こんにちは。今月はデンマークでつくられた『FLEE』という作品のお話です。この映画はたくさんの人に観てほしいから、こちらのレヴューでも取り上げなくては!と張り切っていたところ、あれやこれやで公開から1ヶ月以上経ってしまいました……。その間各メディアでも存分に紹介され済みではありますが、少しでも拡散できたらと思うので書きますね。この記事がアップされる頃にも劇場で観られると良いのですが。上映館が少ないんですよ~。私は東京・新宿バルト9で朝一鑑賞しました(もうこの回しかなかったの泣)。
さて、“free”はご存知の通り“自由”のことですが、この映画のタイトル“flee”は危険や災害から“逃げる”という意味だそうです。あらすじざっくり↓
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、
幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、
残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。
だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。
あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
――オフィシャル・サイトより
この映画はドキュメンタリーであり、アニメーションでもある作品です。監督はドキュメンタリー作家で、アニメーションに縁のある人ではありません。高校時代からの友人アミン(仮名)の出自が気になり、彼についてのドキュメンタリーを撮ろうと考えたとき、政治的な理由で身元がわかると危険があると知ったためにアニメを使って匿名化しています。
『FLEE』は1980年代のアフガニスタンに始まります。a-haの「Take on Me」(1984)をウォークマン®で聴いている7、8歳の子供時代。アフガニスタンって当時こんなに自由な国だったんだなー、なんて驚きつつ、あれ?自分とほぼ同世代じゃない?! 私もよく覚えてます。年上の従姉妹がファンで、部屋にポスター貼ってたな。ってことでこれ、決して自分にとって遠い国の昔の話ではないんですね。あの時代、同じ空の下で過ごしていたと思うと不思議と親しみを感じるものです。だからこそ、壮絶なアミンの体験からは行き場のない怒りや悲しみも沸いてきましたし、難民として生きることがいかに人としての尊厳を奪われるものなのかも改めて考えさせられました。
しかし、それ以上にこの映画の素晴らしい部分は家族や友人、恋人などアミンを取り巻く人たちとのエピソードにあるのではないかと思います。先程のa-haの話も然りですが、彼が難民であるとか同性愛者であるというバックグラウンドに関係なく若者の成長ストーリーとして感情移入ができ、辛さだけがクローズアップされることなくポジティヴな面も丁寧に描かれています。どんな状況でも人間同士の関わりや相手を思いやり理解しようとする気持ちは大きな救いになるというのもよくわかりました。そしてなにより親友であるラスムセン監督がこの映画を作る上でアミンが自分の過去とトラウマに向き合い、気持ちに折り合いをつけながら解放されていくきっかけを作ったこと自体が本当に感動的ですよね。
同じくドキュメンタリーをアニメにした作品では、イスラエルの監督アリ・フォルマンによる『戦場でワルツを』(2008)があります(音楽はMax Richter)。監督自身の実体験であるレバノンの戦争を扱っていて、友人が毎晩見るという悪夢や、従軍中の抜け落ちた記憶の謎を巡って当時の関係者にインタビューを続けていきます。全編に漂う重々しい雰囲気や、多少の歴史的知識が必要とされる部分があるので、決して観やすい作品ではないかもしれませんが、様々な面でアニメとドキュメンタリーの可能性を拡げた作品として画期的だったのは間違いないと思います。この映画のストーリー / テーマとアニメーションの採用はかなり意図的で、腑に落ちるものがありましたね。戦争の愚かさ、無意識に同調圧力に流されること、傍観者でいることの罪の重さを突きつけてくる恐ろしい内容となっています。気になったかたはこちらもぜひ!
今、うちの娘の通う中学校では、社会情勢から逃れたアフガニスタンの子供たちを数名受け入れていて、先日の運動会にも元気に参加していました。「日本に来られて嬉しい」と言っていたそうです。とはいえ、生まれ育った国に居られないって、いったいどんな気持ちなんだろう……。21世紀だっていうのに戦争が起こっている。宗教や政治によって自由を奪われる人がいる。人種やジェンダーに対する差別がある。日本の難民受け入れ認定率は1%未満。『FLEE』はそんな実情を少しでも変えていくきっかけになるといいな。
■ 2022年6月10日(金)公開
『FLEE フリー』
東京・新宿バルト9, グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
https://transformer.co.jp/m/flee/
[監督]
ヨナス・ポヘール・ラスムセン
[脚本]
ヨナス・ポヘール・ラスムセン / アミン・ナワビ
[アニメーション監督]
ケネス・ラデケア
[製作]
モニカ・ヘルストローム / シャルロット・ドゥ・ラ・グルネリ / シーネ・ビュレ・ソーレンセン
[製作総指揮]
リズ・アーメッド / ニコライ・コスター=ワルドー / ダニー・ガバイ / ナタリー・ファーリー / ジャナット・ガルギ / ヘイリー・パパス / トマス・ガメルトフト
アートディレクター: ジェス・ニコルズ
編集: ヤヌス・ビレスコフ・ヤンセン
音楽: ウノ・ヘルマーソン
配給・宣伝: トランスフォーマー
日本語字幕: 松浦美奈
後援: デンマーク大使館 / 特定非営利活動法人 国連UNHCR協会
2021年 | デンマーク, スウェーデン, ノルウェー, フランス合作 | シネスコ | カラー | 89分 | 5.1ch | 原題: Flugt | 英題: FLEE
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。