何のために誰が作ったんだろう?という音楽を作りたい
『Stealth』発表直後から制作を開始し、制作期間は約7年に及んだという同作では、DJとして活動するeminemsaikoをスーパーヴァイザーに起用。川辺 素(ミツメ)が歌詞を手掛け、藤本敦夫(Colored Music)が歌唱を担当した「Main Theme」や、Cristel Bere、堀池ゆめぁが作詞 / ヴォーカルで参加した楽曲を含む全10曲を収録。細野晴臣、ムーンライダーズなどを手掛ける原口 宏が6曲でエンジニアリングを担当している。
耳馴染みはいいけれど、予想がつかない未知の音楽体験が詰まったこのアルバムは、どのようにして生まれたのか。対面インタビューは今回が初というTakaoに聞いた。
取材 | 南波一海 | 2025年8月
Photo ©Asuka Ito
序文 | 仁田さやか
――『The End of the Brim』が完成しての所感からお聞かせください。
「7年かかったんですけど、1st(『Stealth』)は作っているときからこういう反応があるかなというのが少しは予想できたんですけど、今回のは良いのか悪いのか本当にわからないんですよね」
――2021年に1stアルバムのリメイク『Stealth (Gold Edition)』を出されましたが、それは初作を出して以降に身につけた知識や技術で作り直したかったということなのでしょうか。
「エム・レコードの江村(幸紀)さんからアルバム丸ごとのセルフ・リメイクをやらないかという話がありまして。編曲の実験もできるし、もっとこうしたかったというのを含めてやってみた感じでした」
――そういう流れだったんですね。サウンドやアレンジ的に、あのリメイクあっての新作だとは思っていて。
「そうですね。リメイクを出したときも新作の制作をしていたので、ふたつは近いニュアンスがあるかもしれないです」
――『The End of the Brim』は、抽象的な印象もあったデビュー作と比べて、和音や音色選び、リズム、曲の構成に至るまでのすべてが堂々としているというか。
「たしかに1stはすごく抽象的な感じで、わりとアンビエントっぽい雰囲気を全体的に纏っていたんですけど、もともとはメロディがはっきりしたもの、歌が乗ったものが好きなんです。今回はその方向を求めていった結果ではあります。アンビエントでずっとふわっとしたものはあまり聴かないんですよね。聴いていても飽きてしまうので。ちょうど前作を作った頃にニューエイジのリヴァイヴァルみたいなものがあって。僕、そのときはニューエイジを全然知らなかったんですよ」
――海外でもKankyō Ongakuとして日本のものが積極的に掘り起こされたりしていました。
「そのなかでINOYAMALANDを聴いたんですけど、それこそ堂々とした、はっきりとしたメロディで。静かめな音楽でもこんなにキャッチーなことをやっていいんだって思ったんですよ。それだったらということで、自分は昔からアンビエントっぽいのは作っていたんですけど、そこにメロディを入れたら自分の好きなものが作れるんじゃないか、というのを試したのが前作でした。今回はそこをより突き進めた感じにはなっています」
――乱暴な言いかたになってしまいますが、アンビエントはごまかしが効く部分もあると思うんですよ。持続音やリヴァービーなエフェクトを使って、それらしき雰囲気を作ることができてしまう。だけど、そこからキャッチーなメロディやリズムを立たせる方向に向かうのは、逆にはっきりさせないといけないことが出てくるので、ごまかせなくなってくると思うんです。
「いやぁ、そうなんですよ。具体的になればなるほど自分が裸になるというか(笑)。特にリズムが入ると、より露わになるというか。だから今回、はっきりドラムや歌を入れたりしたことが個人的には挑戦だと思っていて。そこは苦労したところではあります」
――そう思い至ったのは、アンビエントやニューエイジの流れと距離を置きたいというのはあったのでしょうか。
「どうだろう?リヴァイヴァルがすごかったときもニューエイジを作りたいとは思わなかったんですよね。僕は人間味を感じるものが好きで、ニューエイジは不気味というか、人間味を感じないところもあって。それと近いかどうかわからないですけど、ヴェイパーウェイヴもそう思っていて、人間味のなさを怖いと思うことがあるんですよね。人っぽいほうがいいなと思うし、作るならやっぱりポップなものという意識のほうが強いと思います。新作もこういうジャンルのものを作りたいとかはまったくなかったので、それがないぶん、すごく時間がかかってしまいました」
――作品を作る上での指針やよりどころがあると完成に向けて進みやすいですよね。地図とコンパスがないと、なにをもって完成とするかがわからないこともあると思うんです。
「そこが問題です(笑)。コンセプト・アルバムみたいなものにすごく憧れるんですけど、コンセプトを決められないんですよ。だからサグラダ・ファミリアみたいな感じになってしまって。この7年の中で、5、6年目あたりは同じ曲を何回もアレンジしたり。新しい曲に行かずに、ずっと同じ曲を何度も何度も変えたりしていたんです。まさに明確なテーマやコンセプトを置かずにやっていたので、どこをゴールにするのかというのは大変なところでした。どの曲も時間がかかるほどトラック数が膨大になってしまって。これのミキシングはどうすればいいんだというところまで、自分では手に追えないくらい音が重なりすぎたものはエンジニアの原口(宏)さんにかたちにしてもらいました」
――原口さんに依頼したものはトラック数が多い曲ですか?
「はい。どういう方向性に持っていったらわからなくなってしまったものを手助けしていただきました。あとはヴォーカル曲ですね。僕はヴォーカルの入ったもののミキシングが得意ではないので」
――これまでTakaoさんが自分でコントロールしてきた部分を人に委ねるのはいかがでしたか?
「ひとりで解決しようとすると、ありとあらゆるところまで自分の思う感じになるんですけど、人と一緒に作ると、自分にはなかったこういうアプローチもあるよというかたちが見えるんですね。僕は自分の作品は隅々までコントロールしたいと思うほうなんですけど、今回作ってみて、そうじゃなくてもいいなと思えました」
――そうやって誰かと作り上げていくことで、結果的にはTakaoさんの世界が外に開かれたものになったのでは?
「ああ、たしかにそうですね。このアルバムは商店街のスピーカーで流れていたらいいなって思ったりするんです。最初に出したアルバムは、例えばレコードでじっくり聴くみたいなのには向いていると思うんですけど、今回は音楽を集中して聴くぞ、と思わない場面で流れてもいいようなものを目指しました」
――職業作曲家が依頼を受けて作る曲に憧れがあるとおっしゃっていましたね。
「好きですね。“何かに向けた音楽”に対しての憧れがすごくあって。だからこのアルバムは自分が発注者で自分が受注して作ったような面もあるんですけど、本当は誰かから発注してもらいたいんです(笑)。誰かからお願いされた音楽って、リズムや歌を付けやすいと思うんですよ。逆に、コンセプトのないものに対して歌やメロディを付けるってどういうことなのかというのはけっこう考えました。矛盾したあべこべな気持ちというか、これなんなんだろうみたいなことを常に考えながら作っていました」
――では、決して自分の中から自然と出てくるものではない。
「はい。創作に対して自分の気持ちがあるとかですらないんですよ。作るときに、パソコンのディスプレイを縦に2画面置いて、下のほうでDAWの画面を開いていて、上は江ノ島とか街のライヴカメラを流す、というのをよくやっていました。その様子を見ながら作っていると友達に言ったら、ディストピアみたいな作りかたしてるねって言われましたけど(笑)。どこかのコロニーの中にいて地球の風景を見ながら音楽を作る、みたいな」
――おもしろいやりかたですね。その景色に合わせて劇判を作るみたいなことですか?
「でも、じゃあ実際に江ノ島に行ってみて作るかといったら、それは違うんですよね。そこまで入り込みたくはない。ライヴカメラで見るくらいがちょうどいいんです。曲ごとに話せば、こういう感じにしたかったというのはありはするんですけど、全体としてはずっとでっかいハテナが頭にあるなかで作っているんですよね」
――だからこそスーパーバイザーとしてeminemsaikoさんが参加されているのだと思いますが、どんな経緯があったのでしょうか。
「僕はDJのミックスCDが好きでよく聴くんですけど、eminemsaikoさんは『Soft Power』というミックスCDを出していて、それがすごく良かったんです。DJのミックスって、珠玉の曲を集めて流れを作るじゃないですか。こういう感じで作れたらアルバムはすごく良いものができるんじゃないかっていうシンプルな発想でした。それで僕から声をかけたという感じです。進めていくにあたっては、特にリズム面でいろんな曲を教えてもらいました。例えば僕の作った曲に対して、ここはこういうリズムが合うんじゃない?みたいな具体的なアドバイスをもらう感じですね。当初は、もっと抽象的なアドバイスをもらってキャッチボールしていければと思っていたんですけど、最終的にはZoomを立ち上げてDAWの画面を共有するくらいになっていて」
――遠隔でスタジオワークに参加されたんですね。
「部分的にはそういうこともありました。一応、全部の曲を見てもらいつつそういう作業もしていった感じですね。ただ、僕は“この曲っぽい”みたいになるのはしたくなかったので、ふたりともこういう感じになったら完成、というゴールが見えていなかったんですよね。それもあって時間がかかってしまった。その甲斐あってリズム面ではいろいろできて、今回はポリリズムを採り入れたりもしているし、パッと聴いたときにいかにもパソコンで作ったような音楽にしたくなかったので、そこもうまくできたと思っています。個人的には、すごく時間をかけたんだろうなと感じる、面倒な行程をたくさん経たような作品は好きなので、そういうものになってよかったなと思っています」
――曲の構成についてですが、何にも似ていないと言いますか、予想のつかない展開になっているものが非常に多いと感じました。
「急に展開が変わるような曲もあると思うんですけど、ここでこう変えてびっくりさせたい、みたいなことは1mmも思っていなくて。例えば、アルバム最後の“The End of the Brim”は室内楽みたいな雰囲気で始まって、途中から全く別の曲が始まるような感じなんですけど、それはもともと作っていた曲の前半部分をどうしても使いたかったからなんです。その曲の後半は使えなかったので新しく作ったんですけど、それは驚かせたいのではなく、単に一部分を使いたかっただけなんです。意図があるようにも聴こえるかもしれないですけど、全然ない。自分が良いと思ったからそうなっただけなんです」
――1曲目の「Long」から、このタイミングでこんな音が入ってくるんだという驚きの連続で興奮したのですが、Takaoさんからすると、ただ作っていたらこうなったという感じなんですね。
「そうですね。曲の中でどのように展開をつけるか、といったところはeminemsaikoさんと相談しながら進めることも多かったですが、作っていて最初の手がかりを探す段階は即興の要素が強いところがあって、意図とかは考えずにどうやったら自分の好きな感じになるか、というところでこねこねしていく作りかたをしました」
――その意図していないところにTakaoさんの作家性が滲んでいるのかもしれないですね。
「本当ですか?僕は自分の作家性みたいなものがわからなくて、むしろそれがある人は羨ましいと思っているんです。僕の場合、ないのがあるみたいなことですかね(笑)。どういうものを作りたかったのかと聞かれると、難しいなと思うんですけど、僕は児童文学がすごく好きで。このジャケットもそうなんですけど、昔の子供の本みたいな世界観を出したかったというのは根底にあります。コンセプトがないなかで、ではなぜメロディや音色やリズムが自分から出てくるんだろうと考えると、小さい頃の体験とか、生まれ育った環境が影響しているとは思います。例えば“Music Room”は小学校の音楽室をイメージして作りました。歌詞は堀池ゆめぁさんなんですけど、こういう音楽室がすごく好きだったので、そのニュアンスを入れて書いてもらえませんか、という話をしたりしました」
――歌メロも不思議で、耳馴染みはいいけれど聴いたことがないような印象です。
「それはすごく嬉しいです。僕は小さい頃、TSUTAYAに行って、ランクインしているCDの棚に行って片っ端から借りて聴くくらいJ-POPが好きで、歌に関してはその影響をかなり受けていると思います。だからちゃんとAメロ、Bメロみたいなことも考えて、J-POPっぽいものにトライしてはいるんですけど、きっとその形にはなっていないですよね(笑)」

――それが独特のおもしろさを生んでいると思うんです。そもそも歌ものを入れようと思ったのはどうしてでしょうか。
「昔から合唱曲を作りたいという気持ちがあって、やるなら合唱曲とか校歌みたいな歌ものを入れたいと思っていたんですよね。自分の作風的にもそういうものだったら合うかなと。急にラップが入ったり、熱くシャウトしたりしても変じゃないですか。そこは一応、TPOをわきまえたいと思っていました。それでこういう曲を入れたというのはあります。それと今回、4分くらいの曲が多くて、どれもわりと長尺なので、それで10曲インストはちょっとしんどいかなと思ったんです。歌があると通して聴けるだろうというのもあったんですよね」
――堀池ゆめぁさん、Cristel Bereさん、藤本敦夫さんという3人のヴォーカリストはどうやって決めていったのでしょうか。
「身近な人というのもなんですけど、イベントや作品でご一緒したことがあって、一番信頼できる方々にお願いしました。歌いかたも歌詞の内容もわりとみなさんにお任せでした」
――そうなんですね!例えばCristel Bereさんはご自身の作品での歌とは異なるアプローチをされているので、どういうふうにディレクションされたのだろうと思っていたんです。
「歌に関しては僕がディレクションしたらおもしろくなくなると思ったので、曲を聴いてもらって、そのイメージから自由にやっていただきました。歌詞もそうで、曲を聴いて海辺が思い浮かんだとおっしゃっていて、そこから連想させて組み立てていただいたんですけど、それがすごく曲と合っていました。僕はそれこそポップなものをイメージして作ったんですけど、完成を聴くとやっぱり不思議な感じはありましたね。今回やってみて、歌はもっと作ってみたいと思いました」
――どれも、いつの時代の曲なのかわからなくなるような絶妙なヴォーカル曲で。
「今後、AIが発達して……いや、AIは関係なく、若い人の作る音楽はすごくクオリティが高くなっているじゃないですか。感心することもめちゃくちゃ多いんですけど、そういうものと比べると、僕の曲は隙があるというか、変な雑さがあると思っています。すごく力が入っているのに、そこは力入れないんだ、みたいな部分がある。その力加減のおかしさがAIにはできなさそうだなと思うんですよね。自分で聴き返してそう思いました。とはいえ、人間が作っているけど人間が作っていない感じもあると思っていて、それはライヴカメラを見て作ったからなのかな、とか思ったりするんですけど」
――それから、橋本一子さんにピアノを習ったことについても教えていただけますか?
「もともと幼稚園から高校の終わりまでずっとクラシック・ピアノをやっていたんですけど、橋本さんとライヴで共演したときに、もう少しうまくなりたいんです、と相談をしたら、それだったら見るよと言っていただけて。それが2018年のことで、それから1、2ヶ月に1回くらいのペースで教えていただくようになりました」
――長くピアノをやってきた中で、ほかにも学んでみたいことがあったのでしょうか。
「一度橋本さんの前で弾いてみたときに、音がちゃんと出ていないとご指摘いただいて。それで、1音をしっかり出すところから習い始めたんです」
――本当にイチから。
「はい。橋本さんが弾くと音が上にストンと抜けていくんです。同じ楽器なのに全然違うんです。音の出方が違うことに感激したんですよね。プロの人はこんなに違うんだって。僕はただ習っていただけでピアニストではないですし、作曲も当時は独学でやっていただけなので、そういう面でも強化したかったんです。音の響きは自分のやっている音楽にかなり関係するところですし、力の使いかたから学びました。まだまだ全然なんですけどね。今回の制作で生のグランドピアノを録ったりしたわけではないんですけど、例えばハードのシンセを演奏するにしても、そこからかなりの影響は受けていると思います」
――より楽曲然とした今作を作る上で、その学びは大きいものでしたか。
「かなり大きいです。最初のほうに話が出たように、それこそドローンとかアンビエントってわりと作りやすそうなものもある一方で、例えばYoshi Wadaを聴いたりすると、これはずっと聴けておもしろいと思うものもあったりするんですよね。それは響きとか、細かいところに宿るものの違いがあると思っていて」
――そうした音楽を作り続けるとぶち当たる壁みたいなものがあって、そこを乗り越えるのがしっかりした理論や技術だと思うんです。
「まさに僕が壁にぶち当たったんですよね。それもあって、いろんなかたに協力いただいたところがあります。理論がわかっていたら壁を突破できるかどうかはまた別かもしれないですけど、音楽の強度みたいなものが何で成り立っているんだろうというのは興味があるところです」
――橋本一子さんとの繋がりもあり、「Main Theme」では藤本敦夫さんがゲスト・ヴォーカルで参加されています。
「僕は藤本さんってすごくユーモアのあふれるかただと勝手ながら思っています。歌詞は川辺 素さんに制作していただいて、季節の移り変わりが歌詞になったら嬉しいですというお話をしてお願いしました。それがシリアスめというか、少し悲しげでもある歌詞ですごくいいと思ったので、逆に歌は明るさとかユーモアがある感じにしたいと考えたときに、藤本さんはピッタリだと思いまして、お願いさせていただきました」
――見事なハマりぶりですよね。アルバムの流れ的にもハイライトだと思います。
「9曲目にやっとメイン・テーマがくるという。たしかにハイライト的な位置付けですね。これこそすごく不思議な感触の曲だと自分でも思いました」
――今作は音色選びもかなり重要ではないかと思います。例えば、80年代っぽいシンセのサウンドとかってあるじゃないですか。Takaoさんはそういうものを巧妙に避けていて、どこでもないところに行こうとしているように感じました。
「おっしゃる通りで、何々っぽい音というのを避けたかったんです。“こうしたい”はないけど、“こうしたくない”はめちゃくちゃあるんです(笑)。こうしたくない、こうしたくないを続けてきていまの形になったというのは確実にあります。そこはかなり神経質だったかもしれないですね。変な言いかたかもしれないですけど、お墓みたいなものにしたかったんですよ」

――お墓ですか?
「もしくは石碑。お墓とか石碑って、目的は違うかもしれませんがずっとあるものじゃないですか。そういう、人と時間を繋ぐ装置のように時代を超越して存在するものが好きなんですよね。特定の音色を使ってしまうと“何々っぽい”という特徴が強く出て、わかりやすくはなるけれど普遍性が弱まってしまう気がしていました。なので、素材としては石を選んでそれに刻みたいみたいなことですかね……うまく言えているかわからないですが(笑)。もしこのアルバムを100年後に聴く人がいたら、もしかしたら2025年っぽいなというのは出てしまっているかもしれないんですけど、そういうことも超越したいと思って作りました」
――Takaoさんの言うように、未来の人が聴いたら2025年当時っぽいサウンドだなと思うかもしれませんが、少なくとも現時点ではそうは思えないんですよね。かといってレトロなサウンドでは全くないですし。
「嬉しいです。小松左京の『果しなき流れの果に』の始まりって、古墳みたいなところから砂時計が見つかるんですけど、砂が延々と落ち続けているんですよ。これはなんだというところからとんでもないSFになっていくんですけど、そういうものに憧れがあるんですよね。その砂時計じゃないですけど、これは何のために誰が作ったんだろうというものにワクワクするし、自分もそういうものが作りたい。それにはアルバムとしての強さが必要だと思っていて、そこを突き詰めた感覚はあります」
――おもしろいですよね。音楽性という点では明確なビジョンはないけれど、ただ強度のみがあるものというか。
「ああ、まさにそうなんだと思います。『HUNTER×HUNTER』で言うと“物に念が宿っているもの”を作りたいんですよね、きっと」
――これは余談ですが、竹村延和さん主宰のChildiscの作品はお好きだったりしますか?
「ああ、Childiscはすごく好きです。それこそ竹村さんの音楽は表現の原初に触れているようなところがあるじゃないですか。新しいアルバムが出るのも楽しみしているんですけど、あの無垢な雰囲気みたいなものがいいなと思うんです。Childiscという名前も好きで、そのニュアンスもアルバムタイトルに入れたいと当初は思ったりしたんですよね。一緒になっちゃうかなと思ったのでそうはしなかったんですけど、すごく好きですね」
――20年の時を経て、Takaoさんの作品からは音こそ違えどその遺伝子を感じるなと思いましたし、この先もどんなものが聴けるのか楽しみです。
「そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。今回は曲らしいものを作ったので、今は音数がものすごく少ない、曲のフォームを崩したようなものをやってみたいと思っています。温かみのある実験音楽みたいなものをやりたいですね。あとやっぱり歌がおもしろくて、今回の3曲とも気に入っているので、歌だけのアルバムも作ってみたいと思います。両極端なものをやりたいですね」
■ 2025年9月19日(金)発売
Takao
『The End of the Brim』
Vinyl LP EM1220LP 3,500円 + 税
CD EM1220CD 2,700円 + 税
https://emrecords.net/
[収録曲]
01. Long
02. Mar
03. Music Room 作詞・歌唱 堀池ゆめぁ
04. ARP
05. SPE
06. Images
07. Fall 作詞・歌唱 Cristel Bere
08. CF
09. Main Theme 作詞 川辺 素 | 歌唱 藤本敦夫
10. The End of the Brim