綺麗事って思われちゃうような言葉でも
取材 | 南波一海 | 2021年7月
文・撮影 | 久保田千史
――去年はコロナ禍で精神的にも落ち込んでしまって、そこから自らを奮い立たせて前作の『明日咲く』を作ったという背景がありました。そこから早1年が経ちましたね。
「早いですよね。この1年は平行線という感じでした。全体的にそうだと思うんですけど、配信ライヴを観てくれる人は減っていて。それは予想してた通り。配信もめちゃめちゃクオリティを考えてやればまた違うんだろうけど、普段の対バン・イベントで、ライヴハウスにお客さんを入れるのと並行してやっちゃうと……」
――その場の映像をただ流しておく、みたいなのはどうしたって現場の魅力には及ばなくて。
「温度差がすごいから、それでも観てくれていた人もいたけど、徐々に減っていっちゃう。それはそうじゃんと思ってやってきたというか、よっぽど組み合わせがいいとか、配信を観ている人にも寄り添えないとダメだよなって思ってます。それに、会場に来る人も減っちゃったなと思っていて。これも私だけじゃないと思うんだけど」
――日常的にライヴに行っていた習慣が一旦止まったことで、変わった人も当然いますよね。
「みんな我に返っちゃったのかな(笑)」
――僕自身がそうなんですけど、配信のアーカイヴを観ればいいやと思ってライヴに行かず、結局はアーカイヴも観ないというパターンもけっこうあると思っていて。
「そうそう。でも、推しは現場まで観に行くけど、ライトに好きな人とかちょっと興味があるくらいの人のライヴは配信で見たいから、配信をやめないでほしいという意見もあって」
――遠方に住んでいて、観たかったものが観られて嬉しいという人もいますよね。とはいえ、この1年で配信は普通になったけれど、全体的に観る人が増えたかというとそうでもないと。
「ですね。感染の状況がよくなるかなと思ったらまたダメというのを繰り返した1年だったから、足踏みの状態が続いていて。外に向かってなにかをするというときに、前までだったらネットだけだと弱いからフライヤー配りをするとか、路上ライヴをするとか、チケットを手売りするとかしていて。ワンマンを決めて、一年計画でそこに向けて違う界隈の対バン・ライヴに出たりとかしてきたんです。けど、中止になっちゃったときにどうやって返金しようとか考えると手売りはできないし、フライヤーを全方面に撒き散らすわけにはいかないし、路上で不特定多数を集めることもできない。手段がないから困ったなぁという感じで過ごしてきました」
――昨年末に渋谷WWWで単独公演を行なったじゃないですか。成功だったと思うし、達成感があったんじゃないでしょうか。
「楽しかった!私は、みんながしんどいだろと思うときこそやらなきゃというタイプで。この1年はSNSとかで自殺しちゃった人のニュースを見たりとか、そこまではいかなくても誹謗中傷でつらい思いをしてるとか、病みツイートをするとか、コロナが長引くことによって、こういうふうに会って話しているときには表面化しないものが出てきたと思っていて。普通に会って、ニコニコしながら別れていったのに、SNS上では“つらい”みたいに書いていて、え、しんどかったんだって思ったり。みんななにかしらの負荷がかかっている。明るく元気に乗り切ろうぜイエーイみたいなのももちろんいいんだけど、持久力がなくなってきて、気合いじゃ無理だよという人も増えてきていて。そうやって無理してる人たちに気づいてあげられるような世界にしたいというのがあって、“世界が泣いてる”というタイトルを決めて、そっちに寄せたものを作りたいなと思ったんです」
――コンセプトを思いついたのはいつ頃なんですか?
「私、『グノーシア』っていうゲームをやってて。それの効果音が、アルバムの1曲目を作るイメージになったミュージックソングになっていて……ミュージックソング?」
――ありふれた単語の組み合わせでよく聞いたことない言葉を生み出せますよね(笑)。「世界が泣いてる」は『グノーシア』のテーマにインスパイアされていると。
「そうそう、歌とかはないやつ。それを聴いて、こういうふわーっという感じの曲を作りたいと思ったときに、“世界が泣いてる”というタイトルにしようと思って。そこが出だしですね。いつだったかな。いつかはわからない」
――昨年末のワンマンのことを聞いたら「世界が泣いてる」の話になったので、年末年始くらいなのかなと。
「そうだ、ワンマンの話だった(笑)。ワンマンのことを考えたらいろいろ思い出して。2020年はコロナでイヤな年だったなと思うよりも、年末にみんなを明るくして、なんだかんで1年楽しかったよねってなってほしいと思ったのがきっかけで、年忘れみたいなコンセプトにしたんです。その感覚を急に思い出して、今回のアルバムのことと脳で繋がってしまった」
――多くの人が抱いている“しんどさ”みたいなものがはっきりと可視化されて、そこに対してより意識的に向き合うようになった結果が昨年末のワンマンであり、今回のアルバムにも繋がることなんですね。
「そうです。何年も前に“キラキラ”という曲を作ったときから、そういうのをめちゃめちゃ考えたり感じたりするタイプで。“キラキラ”を聴いてもそうは聞こえないかもしれないけど、なんで世界はこんなに不平等なんだと思った気持ちをきっかけに作ったりしたんです。私、共感性が高いのか、日々のニュースに対しての一喜一憂がひどくて。虐待のニュースとかを見るとはらわたが煮えくり返るほどムカついたりするんです。調子悪いときはニュースを見ないようにしないといけない日もあったりする。そのアンテナを出すか出さないかみたいなところで生きてるんだけど、今回はそれを出そうと思って作ってみたんです」
――なるほど。前作『明日咲く』あたりから内面をさらけ出すことができるようになってきて。
「めちゃめちゃできるようになりました。前は自分を出したらどう思われるかがこわくてできなくて、ウェーイって言ってるほうが楽だったんですよ。明るく能天気に生きてると思われるのが理想的で、じつはこんなこと考えてたんだと思われたり、それを否定されたりしたら傷ついちゃうから、だったら、あいつバカだなって思われているくらいが楽だし、それで乗り切れたんです。突き詰めて考えないで楽しく過ごせるならそれはそれでいいしと思ってたし」
――だけど、そうはしなかったと。それは内面を見せても受け止めてくれる人が思いのほかいたからですよね。
「そうです。“明日”をいい曲だと言ってくれる人が多かったのがひとつあるのと、前回の南波さんとのインタビューでけっこう重い内容を話したのがすごく反響あったり、(吉田)豪さんとのトーク・イベントでも自分を掘り下げて話すことで、小日向さんががんばって生きることで今日もがんばれたと言ってくれる人もいたから、必ずしも重い感情がマイナスになるだけじゃなくてプラスになる人もいるんだと思えたんです。そういうリハビリ……リハビリ?そういうのを経て、だんだん自分を出せるようになりました」
――以前は、なんだかよくわからないおもしろい人というイメージが先行していたと思うんですけど、作品や文章などで小日向由衣像の認識を少しずつ変えてきたのは本当に素晴らしいことですよね。
「本当?でも、今回はちょっと心配しちゃってて。暗すぎて」
――いや、小日向さんの変化の過程を見てきたからかもしれないけれど、むしろ「掴んだんだな」と感じました。暗いと言いますけど、制作自体はノリに乗っているなと。
「嬉しい。たしかに現場はめちゃめちゃ楽しく、けっこうサクサク進みました。前回はスケジュールがめちゃめちゃキツキツだったから、今回はプランを立ててやろうと思って。業者(小日向のほぼすべての楽曲を手掛けるアレンジャー)も、作業が遅れることもあったけど、『明日咲く』よりも『世界が泣いてる』のほうがいいコンディションで作れたとは言っていて」
――遅れたというのは、アレンジに悩んだりしたから?
「それもあると思うけど、制作中にclubhouseにハマったみたいで(笑)。めっちゃ喋ったりピアノ弾いたりしてました」
――わははは。『世界が泣いてる』の歌詞を読むと、恋愛がベースになっている曲が多いなと感じます。
「なにかにつけ恋愛ソングになっちゃうのが多いですよね。人間って、対じゃない?」
――対ですか。
「つがいみたいな感じがしません?人間って、異性とか同性とか関係なく、この人にはこの人というパートナーが必要な種族だと思っていて。だから、たとえ世界が全部敵にまわっても、つがいと認め合える人がいればハッピーに暮らせるというのが自分のなかにあるから、歌詞が恋愛チックになっていくんだと思うんですよね。私は究極の愛を手に入れたいタイプなので、その感じが出てますよね」
――そして、それがうまくいかないというのも出ていると思います。
「ああ。究極の愛が欲しいがゆえに見つからないんですよ。きっと、めちゃめちゃハードルが高くて。私は、どんな嫌がらせをしても最初に許してほしいと思うんです。それって普通は無理じゃないですか。嫌いになるだけですよね。例えば、私がこの人いいなと思ったとします。そしたらめっちゃ嫌がらせをするんですよ。そんな人は嫌いになるでしょ?だから無理なんですよ。だから諦めてる部分もあるんです」
――嫌がらせをしてしまうというのは?
「試しちゃう。不安すぎて、自分がどこまでやったら嫌われるのか知っておきたくなっちゃうんですよ」
――嫌われる境界線を探りすぎて、結局はその際を越えてしまうと。
「そう。恋愛関係に発展しない。もうずっと前のことですけど、一緒にいて楽しいなって言ってくれる人が現れたとしても、この人は本当に信用できるのか確かめておかないと、背を向けられたときに立ち直れなくなっちゃうかもしれないと思って、どこまでしたら怒るのか試すんです。わからないとこわいので。それが嫌がらせになる。人間関係ができてる人ならまだしも、人間関係ができあがる前だったら単に嫌じゃないですか。ダメだって自分でもわかってるんですよ。でも、どうしたらいいかわからない。それでめちゃくちゃ傷つけたことがあって、傷つけてしまったことに自分も傷ついちゃった。しかも、本当に相手のことが好きなのかと言ったら、わからない(笑)。まだ知りたいという段階だから。なんだったんだろう、なにも残らないじゃんって。自分はなんて恋愛に向かないんだというのはあります。上手に人を好きになれない」
――過剰なまでに人に嫌われたくないというのはどこから来ているんでしょうか。これまでに何度か言及している家庭環境とか?
「自分で“それは家庭環境ですね”みたいに言うのも違うと思うんだけど、一時期、これはダメだと思ってネットで調べたりしてて。幼少期に安心できるような愛されかたができないと、うまく人と関われなくてそういう行動に出てしまう、というのを何個か見つけて。もしかしたらこれなのかなとは思いました」
――納得はいきました?
「うん。ただ、それだけでもないと思うから、私個人の問題でもあるんだけど。幼少期の自分と切り離して、どうにか折り合いをつけないと進めないというのはありますよね。好きな人にこうしてほしいああしてほしいと思ってるかもしれないけど、それはその人に向いてるんじゃなくて、幼少期の私がお父さんやお母さんに向けていることなんだということを自覚して、好きな人にぶつけるのは違うから、気持ちをコントロールしていきましょう、みたいなことが書いてあって。へーと思いながら読んでました。対策すれば人間関係うまくできるのかなと思いながら(笑)」
――ベタですけど、音楽で愛とか元気を与えるって言ったりするじゃないですか。でも、小日向さんの音楽活動は受け取ることでもあるんだなとつくづく感じます。誰しもがそうなのかもしれないけど。
「そうだと思う。私は人と仲よくなるのが苦手で、友達みたいな人間関係をうまく作れないから、孤独なんですよ。こういうことを思ってるとか、仲よくなりたいという気持ちを表せるのが曲を作って歌うことで、そこでしか社会との繋がりを持てないんです。私の曲を聴いてもらえることによって私が生きられるから、どうか私を殺さないでくださいって気持ちです(笑)」
――小日向さんにとって音楽活動はそのくらいエッセンシャルなものでパーソナルなものだから、聴く人に刺さるんだと思うんですよね。
「嬉しい。『世界が泣いてる』は、既存のファンだけじゃない新しい層にも知ってもらいたくて、自信を持って送り出そうと思った1枚になったんですよね。私はけっこう間違いがちなので、間違えない方向に努力して、ちゃんと届けたいんです。『明日咲く』のときは、ファンの人に会えなくなって、音楽をライヴで直接届ける方法がなくなって。私のやっている規模は小さいじゃないですか。ちょっと離れちゃえば私の声なんて聞こえなくなっちゃうから、伝えられなくなっちゃう人が出てきてしまうかもしれない。だから早く伝えたいと思って作ったのが『明日咲く』なんです。あれは身内の人に伝えたくてバーッと出したもので、そこで伝えるということが勉強できた。『明日咲く』は今回の踏み台になったんです」
――言いかたがちょっと気になりますけど(笑)、わかります。
「気持ちの出しかたを掴んだから、もっと遠くまでも見ながら、自分の深い深い部分を出せていけたらなと思ったという……ふぅ、いっぱい喋っちゃった。大変大変」
――もう少しだけ頑張りましょうか。1曲目の「世界が泣いてる」は新境地ですよね。明らかに気合いが入っていて。
「そう!1曲目にすべてを注ぎ込んだと言っても過言ではないくらい(笑)。やり過ぎなくらいやってやろうというくらい思いを込めました。“天使出して!天使が迎えに来て逝っちゃう感じ!まだ天使見えない!”とか業者に言いながら」
――シンセがやたらキラキラしていて神々しいんですよね。
「笑っちゃうくらいやっちゃってますよね」
――意識はしてないと思うんですけど、アンビエントとかニューエイジってここ数年の世界的な潮流のひとつでもあって。なぜかそことシンクロしたのがおもしろいと思いました。
「そうなの!? 今回の原点は『グノーシア』だから」
――ゲーム音楽もアンビエントと親和性が高かったりするので、話を聞いてなるほどなと思ったんです。「世界が泣いてる」は静かな曲ですが、後半で轟音に突入していきます。これはどういうアイデアだったんですか?
「デレレレレって上がっていくところは業者に口で伝えました。最初はデ、デ、デレ、デレレレレ~って仮装大賞みたいになっちゃったんですけど(笑)、ふぁーって天使が迎えに来てパトラッシュが連れてかれる感じにしてもらいました。轟音にするのは、業者はそっち系も好きだから……ガイ……ガイヤ?彩ちゃん(沖縄電子少女彩)がやってるやつ」
――ノイズ。
「ノイズ!ノイズも好きな人だから、その要素も足していって。最終的にミックスを担当した根岸(和貴)さんがより轟音にしてくれました。最後がパツンと切れるのは、こうしたほうがかっこよくない?という話になって」
――劇的な展開は映像が喚起される部分もあって。小日向さんの好きな『エヴァンゲリオン』の影響も多少はあるのかなと思ったりしました。
「それはあるかも。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されたのもあるし、作ってたときは特に『進撃の巨人』に夢中だったのもあって、人間とは、ということを考えさせるテーマに触れていたのもあり、自分が常日頃思ってたこと、この1年の色々とかも混ざり、“世界が泣いてる”ができたという感じです。人間って、めちゃめちゃ残酷じゃないですか。YouTubeで過去の拷問の映像を見てしまったことがあって。いまみたいな娯楽がない時代は、死刑で見せしめにすることを娯楽としていたことがあって」
――古今東西の公開処刑はそういう面もあるんですよね。
「もしかして、憎しみさえ宿れば誰の中にも相手をめちゃくちゃ苦しませて殺すことを楽しいと思う気持ちがあるのかなって。教育でダメと教えられているだけで、本能的には持ってるのかもしれないと考えたりしたら、こわいなって」
――加害性は誰しもが抱えているものですよね。ネットでも、何か問題を起こした誰かのことを関係ない人が必要以上に叩くみたいなことは日々行われているわけで。
「群れで生活したいという人間の習性がそうさせてるのかなと思ったりもする。誰かが“こうだ!”と言ってるから、“そうだ!そうだ!”ってなっているところがあるのかな、とか」
――それがこわいところですよね……アルバムの話から脱線しちゃいました。
「いや、人間ってこわいなというのがあって作ったのがこのアルバムでもあるから。ただ“人間ってこわいな”で終わってもしょうがないから、その感情をどう表現するかですけど」
――結果、ヘヴィな作品になったわけですが、作っているあいだは気持ちが落ちていたからこうなったということでもないんですよね。
「そういう状態では書いてなかったですね。ずーんというのを吐き出すために書くというよりも、ずーんとなるときの気持ちをどうしたら相手に伝わるかなと思って書いたものなので。相変わらず日々の気持ちの波は激しいんですけどね。朝起きて“あー目覚めちまった。消えてー”っていうときもあるし」
――曲のなかでパッと目を引くのがやはり「セフレ」だと思うんです。これにはどんな背景があるのでしょうか。
「これは『クズの本懐』というアニメを観ておもしろいと思ったから、セフレの曲を作りたいなと思って。この曲を作るにあたり、セフレについてめっちゃ調べたんですよ。もし自分だったらどうかなと考えたときに、ぽっかりと空いた孤独というのが答えだった。自分を無価値と思うような思考回路で、ちゃんと恋愛しても相手に迷惑かけるだけだしっていう精神状態で、でも寂しいから気持ちを紛らわせるのかなとか、逆に自分に興味がないほうが楽だったりするのかなとか想像して作りました。あとは、私の口から“セフレ”という言葉が出たらおもしろいだろうなと」
――意外すぎてびっくりしますよ。
「私をアイドルと思ってくれてる人もいると思うんだけど、アイドルが恋愛なんてとか、セフレなんてとか、そういうふうに言われる状況を打破したいという気持ちもあります。それに、興味を持って作りたい思ったことにブレーキかけたくなかったんですよ。聴く人の反応をうかがうみたいなチキンなことはしたくなかったんです。だからタイトルもまんま“セフレ”でいこうと」
――ブレーキをかけないというのは本作全体の魅力でもあると思います。
「大丈夫かなと思う瞬間はあるんですけどね(笑)。でも、シンガー・ソングライターとして表現をする上で、こうあるべきみたいな測りに収まるのは嫌なので」
――これは聞こうか迷ったんですが、「手と手」とか、小日向さんの死生観があらわれている曲もいくつかあって。それは飼っていたワンちゃんが亡くなったことも作品に関係していますか?
「関係してますね。時間に限りがあるってわかってるのに、明日も明後日も生きているような気がしちゃっていて。うちの犬はみんな老犬で、この先何年かで順番は来るんだけど、いなくなっちゃうと、あのときこんなことをしたかったなとか思っちゃうんですよ。人間よりも寿命が短い生き物なので仕方ないことなんですけどね……私、自分がもっと急げば間に合ったんじゃないかと思ったこともあるんです」
――というと?
「車で病院に連れていったんですけど、焦りすぎて通りすぎちゃったんです(笑)」
――おお……。
「Uターンして病院に行ったりしたから、私があのとき道を間違ってなければと思って。病院に着くほんのちょっと前までは呼びかけに反応してたから。診察してもらって“お亡くなりになってます”と言われて、心臓マッサージとかしてもダメだったときに、思わず“ごめんなさいごめんなさい”って泣きながら謝ったんです。でも先生は“犬にとってはこの死にかたは幸せですよ”と言ってくれて……(涙を流す)」
――家族と一緒にいるなかで寿命をまっとうしたわけですもんね。急げばどうなったということでもないと思いますよ。
「うん。その犬を失ってからは、曲を作るときに時間に限りがあるというのは刷り込まれてます。でも、犬が死んで悲しいって歌われても困るじゃないですか(笑)。それはそうだろって思うし。だから直接的に書くことはないですけど」
――この1年のいろいろが作品に詰まってるという話で言うと、小日向さんのリリースをしている「なりすレコード」の平澤直孝さんの体調も影響がありそうですよね。
「平澤さんが現場に来られなくなったのが2回目の緊急事態宣言が出て、また配信ライヴが増えてきたときで、ライヴ中に泣くくらいめっちゃ病みました。“とんだメンヘラだぜ”って言われるくらい(笑)。ちょっとずつ元気になってくれて嬉しい。隣にいるのに言うのも恥ずかしいけど、平澤さんが戻ってこられる場所を用意しておこうと思って作ったところもあります。生きてほしいなって……あー、恥ずかしい!本当にいろいろが詰め込んでありますね」
――悲しくなるようなことも少なくない中で、アルバムは「世界が泣いてる」で始まるんだけど、「それでも世界は美しい」という帰結をするのがすごいなと感じました。小日向さんには世界がそう見えている、もしくはそう見たいと思っているわけで。
「そう見たいという感じですね。人間ってひどいなと感じることもあれば、めっちゃ優しい人もいるじゃないですか。同じ人物でもどっちもあるし。ゆとりのある人が、ゆとりのなくなって追い詰められた人を許せるようになったらいいなと思う。私は闇属性だから闇の部分はめちゃめちゃわかるし、笑顔でみんなハッピーという志向ではないんです。でも、闇属性だからこそ、もがいた先にちょっとでも希望でありたいというのが自分のなかにあるんです。綺麗事って思われちゃうような言葉でも、それでも何もしないよりかいいじゃんって思ったりもするので。それに、なんだかんだ、ご飯がおいしければ幸せって思うし、あんなに悲しくても今日はめっちゃ空青いじゃんって気づいたらいい気持ちになる。まだまだ捨てたもんじゃないなって気持ちになりますよね。そういうことだと思う」
See Also
■ 2021年7月27日(月)発売
小日向由衣
『世界が泣いてる』
なりすレコード | こっこっこレコード
CD NRSD-25100 2,500円 + 税
[収録曲]
01. 世界が泣いてる
02. 無駄遣い
03. 転がる
04. 私は神様
05. モノクローム
06. セフレ
07. 夢見る羊ちゃん
08. SOS
09. 桜ひらひら恋心
10. 手と手
11. あなたとミサキドーナツ
12. それでも世界は美しい
■ 小日向由衣with組織『世界が泣いてる』
SPECIAL GUEST: PANTA(頭脳警察)
-ダメの頂点レジェンドこと小日向由衣と、ロック界本物のレジェンドPANTAによる夢のツーマン対決-
2020年9月20日(月・祝)
東京 渋谷 La.mama
開場 16:30 / 開演 17:00
前売 3,800円 / 当日 4,300円(税込 / 別途ドリンクオーダー)
TIGET | https://tiget.net/events/141088
メール | lamama0123456789@gmail.com
※ 当日の入場順は、手売りチケット(番号順)→ラママ店頭販売(番号順)→TIGET予約(番号順)→メール予約となります
[出演]
小日向由衣with組織組織 / PANTA(頭脳警察)
[配信]
2,000円(税込)
https://twitcasting.tv/c:shibuya_lamama/shopcart/90698
※ お問い合わせ: La.mama 03-3464-0801(15:00-22:00)
https://www.lamama.net/