Report | 小日向由衣


小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」

文 | 古川尚之 | 2023年11月
撮影 | れじぇらー (Fancam)

 勤労感謝の日にあたる2023年11月23日(木・祝)に青山月見ル君想フで開催された「組織で恋愛ハラスメント」は、9月にリリースされたアルバム『恋愛ハラスメント』の全曲を組織(小日向由衣のリーダー・バンド)で演奏するワンマン・ライヴ。確かな演奏力のあるメンバーとは5年目になる。アルバム制作には足掛け2年を要したが、このライヴが小日向による『恋愛ハラスメント』の集大成であるという宣言の下、ライヴは開幕した。

 本編は事前に明かされていた通り、『恋愛ハラスメント』同様の曲順で組まれたセットリストで、アルバムの世界観を表現するものになった。「楽しい1日にしようね」との短いMCから始まった1曲目「お菓子な家」は、バンド・アレンジの完成度が高く、まさに冒頭に相応しい曲。ファンの協力のもとでステージに溢れた赤やピンクの風船を掻き分けて前方に出ると、ここまで付き合ってくれた観客に感謝を述べた。 2曲目「花火」はアルバム中で最もポップな曲。疾走するドラムに、ギター、キーボード、ベースがそれぞれの個性を出しながら爽やかに絡み、ライヴハウスが一気に夏に戻ったようだった。

小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」

 続く「サイダー」では、独特のメロディを静かながらも情熱的に歌い上げるヴォーカルと、煌びやかな鍵盤のアドリブをじっくり聴かせた。「ハリボテの恋」ではスリリングなギターをバックに、歌詞にも登場するテディベアを抱きしめながら「私の孤独に触れていてよ」と力強くも恋する女性の脆い心情を歌い上げた。そして5曲目は、短冊CD(8cm CD)でリリースされた「天の川ぶち壊す!」。キャッチーなディスコ・サウンドと小日向の「月見ル君思フをぶち壊す!」の掛け声に観客のボルテージが一気に上がった。小日向はこの曲の演奏中、後に使う予定の小道具でもある電話を壊してしまうというハプニングに見舞われた。それほどの盛り上がりぶりだった。MCの時間を使って修理を試み、この間ファンには6曲目にあたる「ブラックコーヒー」のコール・アンド・レスポンスの練習をさせるという小日向由衣らしい展開に。会場も和やかモードに変わり、笑い声で溢れた。コール・アンド・レスポンスを続けていくと次第にギターは激しさを増し、演奏が始まると熱の帯びたヴォーカルで客席を沸かせた。

 7曲目「サカナになる」ではがらりと変わり、丁寧な歌い出しから少しずつ楽器が混ざり合っていき、まるで天井の高いライヴハウスが水槽かと錯覚するようなメロウな雰囲気に。そしてこの曲の途中で修理した電話をまた床に落として壊してしまい(実は小日向はライヴ中に音出しをしているPCを机ごと吹っ飛ばしてライヴを終わらせたことがある)、悔しがる一幕も。

小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」

 ここからは怒涛の展開。「恋の呪文」は新しいバンド・アレンジで現代 的な曲調に。バンドでやるのは無理かと思われていた怪曲かつ難曲でもあるファン待望の「電話」では、不穏なギターが鳴り響いた。音源では冷静な狂気を感じさせる曲だが、ライヴならではの抑揚と臨場感があった。続く「8月30日の私」も、リズム隊の完成度が高く、アナログ・シンセとドラムのシャッフル・ビートの掛け合いが素晴らしい。まさに繰り返される8月で揺れているような感覚に陥った。

 「もしも魔法が使えたら」では、この曲をステージ上に大きく輝く月の下で歌うために会場を選んだことを明かした。今目の前にいる人と、これまで知ってくれた人、まだ知らないこれから出会う人に向けて「私は間違いなくあなたのために歌っています」という言葉を添え歌い始めた。ファンと一緒に手を伸ばし、会場の月を掴む姿に涙が溢れた。この曲は吉田 豪とのトーク・イベント「お悩み鑑定団」やインタビューでも明かされているが、ブルーズマンの伝説に出てくるクロスロードに似た逸話と共に生まれた曲でもある。

 そして本編ラスト・ナンバー「アイスを捧げて」は、2023年の夏の思い出を綴った曲。歌詞が覚えられず、客席から歌詞を掲げてもらったことから定番になっていった曲でもある。「私に全てを捧げて」の言葉通り、それぞれが持ち寄った思い出と共に、タイトルにもなっているアイスを捧げた。そして小日向由衣の親友でもあるプラカードを持った“謎の女”に扮したダンサー(眉村ちあき)の乱入でより一層の盛り上がりを見せ、本編を終えた。

小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」

 アンコール1曲目は今夏に旅立ったPANTAの最後の提供曲「虹のほほえみ」。この曲はPANTAが小日向由衣のことを綴った詩(前作アルバムの帯文になった)を基に病床で作り、小日向にプレゼントしたもので、アルバムにはボーナス・トラックとして収録されている。今回この曲をみんなでこの場所で歌うことも、もうひとつのテーマだったという。スクリーンにはPANTAがただ一度だけ歌った際の映像が流れ、会場が一体となり、歌い終わると虹のような笑顔で「ありがとう」と告げた。

 2曲目は4年前に開催された月見ル君思フでのワンマン・ライヴでも歌った曲「水色」。生きることに失望して月に行ったけど、逃げちゃダメだと思って地球に帰って来た、と4年前の思い出を交えつつ、MCでは歌詞のテーマでもある“何かをするのに年齢は関係ない”、“死ぬまで歌い続けたい”という思いを重ね、「PANTAさんは死ぬまでステージに立っていた。私もそんな風になりたい」という力強いメッセージに勇気づけられた。

 続いては最も多幸感溢れる曲 「ネコみたいに」。小日向が「ほっぺにキスしたら?」と観客に笑いかけるように歌うと、ファンも「ぎゅっと抱きしめた」と全力で応え、会場は幸せに包まれた。“楽しいことを諦めない”という約束と共に始まったアンコール最後の曲は、定番のアッパーチューン「パーティーズ」。踊り狂い歌う小日向由衣と組織の演奏。ライヴハウス中を乱れ飛ぶ風船、溢れる笑顔で、ライヴは大団円を迎えた。

 『恋愛ハラスメント』とは、恋愛はよくわからない、と苦しみながら作り上げた小日向由衣と彼女のバンド・組織、そしてファンたちが大量のハートの風船で愛をぶつけ合う、ハートフルなワンマン・ライヴだった。

 また月に還る日まで。

小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」

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小日向由衣 | Photo ©久保田千史

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いつか消えてしまうと思うから、消えてほしくない、終わってほしくない

小日向由衣 組織
祝3rdアルバム発売記念
組織で恋愛ハラスメント

2023年11月23日(木・祝)
東京 南青山 月見ル君想フ

[配信]
https://twitcasting.tv/kohinatayui27/shopcart/275000

[セットリスト]
01. お菓子な家
02. 花火
03. サイダー
04. ハリボテの恋
05. 天の川ぶち壊す!
06. ブラックコーヒー
07. サカナになる
08. 恋の呪文
09. 電話
10. 8月30日の私
11. もしも魔法が使えたら
12. アイスを捧げて
Encore
01. 虹のほほえみ
02. 水色
03. ネコみたいに
04. パーティーズ

小日向由衣 Official Site | https://kohinatayui.info/

小日向由衣 '恋愛ハラスメント'■ 2023年9月27日(水)発売
小日向由衣
『恋愛ハラスメント』

なりすレコード | こっこっこレコード
CD KOKKO-004 2,728円 + 税

[収録曲]
01. お菓子な家
02. 花火
03. サイダー
04. ハリボテの恋
05. 天の川ぶち壊す
06. ブラックコーヒー
07. サカナになる
08. 恋の呪文
09. 電話
10. 8月30日の私
11. もしも魔法が使えたら
12. アイスを捧げて♡
13. 虹のほほえみ