Interview | 小日向由衣


いつか消えてしまうと思うから、消えてほしくない、終わってほしくない

 2021年の2ndフル・アルバム『世界が泣いてる』以降、2作同時リリースとなった『シャケのベイビーはいくら』『ペッコリーナ』(2022)や、今年7月7日の七夕に実施されたイベント「短冊CDの日」に合わせてリリースされた『天の川ぶち壊す』をはじめとするシングルの発表を続けてきた小日向由衣が、真骨頂と言うべきアルバム・フォーマットでは約2年ぶりの新作『恋愛ハラスメント』を9月にリリース。今年7月に逝去した故・PANTA(頭脳警察)から譲り受けた楽曲のカヴァーもボーナス・トラックとして収められた同作は、コロナ禍の暗澹たるムードや抑圧された情動が反映された前作から一転、“恋愛”をテーマにした陽性のポップ・ソング集となっています。その変化の背景にある真意や、根源的なモチベーションなどについて、ご本人にたっぷりと語っていただきました。

 なお小日向は、『恋愛ハラスメント』リリース記念ライヴ「組織で恋愛ハラスメント」を11月23日(木・祝)に東京 南青山 月見ル君想フにて開催。全編バンド編成でのパフォーマンスが予定されています。


取材 | 南波一海 | 2023年9月

文・撮影 | 久保田千史

――『恋愛ハラスメント』、素晴らしかったです。小日向さんにありがちなのが、作品の発売日を設定してから制作を間に合わせるのに必死で、こういうインタビューなどの宣伝活動は後手に回ってしまうことで。
 「本当にそうなんです。特に今回はもう何もできてない。ノー・プロブレム」

――ノー・プラン。
 「それです!本当はある程度できてから発売日を決めればいいんですよね。でも、先に発売日を決めないと作れないんですよ!追い込んでいかないと永遠に完成しないというのはこの2年で学びました。余裕を持ってやろうとしたら、できなかった(笑)」

――前作から2年間空いたのはそういう背景もある。
 「だからやると決めて、ギリギリのギリでできました。年間計画を立ててみては、というアドヴァイスをもらうこともあるんですよ。このあたりでワンマンをやって、ゆ~シティー蒲田のイベントはここで、って先に決めてから動いていった方がいいと言われるんですけどね」

――それがなかなか難しいと。ただ、こうしてアルバムがちゃんとできたのはさすがだなと思います。小日向さんはアルバム1枚を通して語る、いわゆるアルバム・アーティストだと思っていて。
 「ははは。アルバムにはすごくこだわりがあって、『世界が泣いてる』(2021)も『明日咲く』(2020)もそうなんですけど、題名にふさわしい曲たちじゃないとイヤなんですよ。アルバムのタイトルにふさわしくない曲を入れたくない。だから今回の『恋愛ハラスメント』には“シャケのベイビーはいくら”が入ってないんですよ。あの曲はちょっと人気があって、平澤さん(平澤直孝 | なりすレコード)にも“入れないの?”って言われたんですけど、アルバムのコンセプトと違うからっていうことで外してます。あの曲にふさわしいアルバムがきっとあるはずなので、とっておこうと思ってます。今回はジャケットの写真も『恋愛ハラスメント』っぽくがんばってますよね。ない色気を出そうしてる(笑)」

――今に至るまで、シングルを少しずつ出してきたじゃないですか。いつ頃から『恋愛ハラスメント』のことを考えていたのでしょうか?
 「『世界が泣いてる』を出した直後に、反動でめちゃめちゃキラキラした恋愛ソングを作ってみたいと思ったんです。暗いのはいくところまでいったから、次はもっとポップなものにしたくて。気が早いから、これから『世界が泣いてる』を売っていかなきゃいけないという段階のときにトーク・イベントでその話をして、物販でオタクに“次は恋愛のアルバムを作りたいんだけど、どんな恋愛してるの?”って聞いたり、会う人に“最近どんな恋をしてますか?”ってリサーチするのに夢中になっちゃってました。でも、みんなすごくイヤな顔するんですよ。“いやいやいや……”みたいな。やっぱり普段は推し推されの関係なので、そこまで私生活の話を聞いたりしないので。一応“実は奥さんとうまくいってないんですよ”っていう人もいれば、彼女いたんだ、みたいなオタクがいたりしたんですけど、“自分の好きな歌手に対してこういう話はしたくない”という人もいて」

――小日向さんが好きで観に来てるわけですもんね。
 「“リアルの生活を忘れるために来てるのに、なんでそんなことを聞かれないといけないんだ”みたいな人もいて、そのときに“これ恋愛ハラスメントじゃん”と思って、題名が決まりました(笑)。“お菓子な家”を作っているときはもう『恋愛ハラスメント』を意識してました」

――明るい方向に向かったというのはすごくわかります。コロナ禍に真摯に向き合った結果、表現が内省的な方向に向かっていって、そういうものができたからこそ次がアッパーになっていく、みたいな傾向はとても2023年的だと思っていて。
 「私、世の中の代表的な人みたい(笑)。人は生きてるとこうなりますっていう、いい例ですよね」

――社会の雰囲気を敏感に感じ取っているのだな、と思います。ただそれでも、小日向さんが恋愛をテーマに選んだというのが意外ではあって。
 「ふふ。大変でした。『恋愛ハラスメント』なんていうタイトルのアルバムを出したいと思ったばかりにすごく時間がかかって、苦戦して。本当には誕生日の7月27日に発売の予定で動いてたんですよ。去年は、出すのは来年の誕生日でいいか、それに合わせて作っていけば余裕余裕って思っていたら、全然進まなくて。それで今年の7月27日の発売日を1ヶ月遅らせてもらったんです。そうしたら生誕ライブとカブって、制作脳と生誕の準備をする脳が全くシンクロしなくて、どっちもできないという状況に陥ってしまって」

――マルチタスクが発生したときにどちらも止まるという。
 「そうなんです!集中できなくて、どっちも中途半端になってしまう。それが自分の自信を喪失させて、消えたくなっちゃったんですよ。迷惑かけるしクズ過ぎる……っていう気持ちになってしまったので、もう一度延期させてくださいと平澤さんにお願いしたんです。そこから生誕のみに集中したら、ポンポンポンといろいろ進み出しました。ギリギリまで大変だったんですけど、あと2週間というところまで追い詰められたときにバババッと作れました」

――シングルで出した曲以外はすごく短期間にできたんですね。
 「これをこういうふうにしたいと試行錯誤していたので、厳密に言うとずっと長いこと考えてたんですよ」

――以前からアイディアのかけらみたいなものはあった。
 「そうです。例えば“サカナになる”はこういう曲調にしたいというのがあって、それを業者②(アレンジャー)とも意思疎通ができているけど、どのメロディがいいか決めかねていて。そういうのをギリギリで決断していった感じです」

――2人で作っていくときはどんなやりとりがあるのでしょうか?
 「まず業者に持っていく前にこうしたいというイメージがあるので、今回のアルバムはこっち系でいきます、みたいなサンプルを聴いてもらうんですよ。メロディと歌詞は、私はいつもほぼ同時なんですけど、歌詞の方が少しだけ早くて、思ったことを言葉にするときにメロディになる感覚です。それを組み立てるときに、どの言葉を選ぶかで曲が変わっていくんです」

小日向由衣 | Photo ©久保田千史

――メロディがあって、それに言葉を合わせるのではなく、その逆でもない。少しずつ言葉とメロディが決まっていって、その都度、分岐が発生していくんですね。
 「そうです。メロディが決まっていると歌詞の自由度が減るので」

――言葉数の制限はかかりますよね。
 「でも、1番ができたらそこでメロディが決まるから、2番を作る時に結局、文字数の制限がかかるんですけどね(笑)。私は即興で歌います、みたいなタイプではなくて、1曲につき30個くらいボイスメモに録音するんです。これでいいのかな、もうちょっとできるんじゃないのかな、ってずっと考えちゃう体質なので、外出先でもメモって、それを聴きながら、どうしようと悩んだりします」

――そうやって膨大に枝分かれしたものの中から正解を探していくと。
 「生きづらさをテーマにした感じの曲、いわゆる電車に乗れない系の曲だったらやりやすいんですけど、恋愛を題材にしたものになると、テンプレの言葉を選んじゃったんじゃないかとかが気になるんですよ。恋愛の曲って溢れてるから」

――ああ、たしかにそうですね。
 「これはテンプレでつまらないんじゃないかって思うけど、テンプレじゃない新しい言葉なんてそうそうないじゃないですか。街に溢れてる言葉なのかどうなのかを突き詰めすぎるとわからなくなっちゃうんです」

――テンプレになるだけの理由があったりもするじゃないですか。シンプルでイメージが湧きやすく、語感や響きがよかったりするからよく使われる言葉もあると思うんです。それを避けすぎると、歌詞がただ弱くなってしまう可能性もあるわけで。
 「そうですよね。“大好き”とか“会いたい”はアリだけど、“会いたくて 震える”はダメじゃないですか。そこのチョイスの仕方はずっと考えてました」

――各曲の話を考えるとき、誰かを主人公に想定したりしますか?
 「いや、結局は全部私なんですよね。この場合、私はどうするかという。毎日じゃがいもしか食べられない世界線にいたらどうするか、みたいなことを考えて作っていったんです」

小日向由衣 | Photo ©久保田千史

――自分が主人公の恋愛のシチュエーションを12パターンも書いたんですね。
 「そこまで恋愛について考えたら、そもそも人に愛し愛されるってなんなんだろう、ってなって悲しくなってきちゃって。私は愛をわかっているのかと。愛したいという気持ちはあるけど、難しいんですよ。当然愛されるのも難しいですし、もう、考えれば考えるほど消えてしまいたくなりました(笑)。ポップで明るい音楽にしたかったので、それはメロディラインに反映されているんじゃないかな、と思います。これがまた、明るい曲を作ろうと思えば思うほど落ち込むんですよね」

――アルバムを聴いてすごく開けている印象を受けたんですけど、制作の裏側はそんなことになっていた。
 「根が暗いんでねぇ。作りながら“クソが!”って思ってました(笑)。自分で明るい気持ちに持っていこうとすごくがんばっちゃって、辛かったです」

――結果的には前作越えの仕上がりだと思っています。小日向さんと業者さんのタッグの練度も確実に上がってますよね。
 「嬉しいです。業者が私のことをわかってくれて、私の好きな音とかパターンを把握してくれているんですね。前作あたりからだと思うんですけど、どんどんやりやすくなってます。そうじゃないんだよ、っていうことが減ったので、今回はボツがないんです。かといって私の想像内のものだけじゃなくて、ここで変化球を欲しがるとかもわかってくれていて。これまで以上に一緒に作っているというのは感じますね」

――引き出しも増えてアウトプットも洗練されてきたからこそ、伝わりやすくなっていることもあると思っています。歌詞は恋愛がテーマで、曲調は明るいポップなものではあるけれど、小日向さんの言いたいことはおそらくひとつだけで、それは「もしも魔法が使えたら」の“この曲をあたなに届けたい”ということだと思うんです。本当に聴いてもらいたいのだけど、小日向さん自身、まだ届くべきところまでは届いていないということもわかっている。だから魔法を使いたいとすら思っているということじゃないですか。
 「そう!本当にそうなんです!そういう気持ちしかないです。トークイベントの“お悩み鑑定団”でも“もしも魔法が使えたら”の話をしたんですけど、yumenouragawaさんと、お互いに魔法をテーマにした曲を作ろうということになって。私はものを作る時に、自分とは関係ないものを観たりしないとリセットできないので、映画を観に行ったんですね。でも頭の中では魔法のことを作ろうというのがあったから、色々考えながら予告編を観ていて。予告って、短い時間に場面がどんどん変わっていくからいつも泣いちゃうんですけど(笑)、そうやって感情が動かされたと同時に、私はもっとたくさんの人がいるところに行きたいなってふと思ったんです。映画を観終わった後に、なんで漠然とそう思ったのかを突き詰めていったら、それは曲をたくさんの人に聴いてもらいたいということなんだな、って気付いて。それから作った曲なんですよね。ただ、魔法って、叶えるために自分の大切なものを差し出さないといけないと思っていて」

――人魚姫が脚を得る代わりに声を失うみたいな。
 「そうそう。それで、自分の家族とか、いつも来てくれる大事なオタクとかを引き換えに、たくさんの人に認知してもらうことを選ぶかと考えたときに、それはできないと思ったんです。いっぱいの人に聴いてもらいたいけど、ただ数を増やせばいいということではなくて、同じような気持ちだったり、同じ寂しさを持っている人がちょっとでも元気になれるようにしたいというのがあるんですよね。だから、私の曲を聴いて集まって元気になってくれた人たち……その前からもともと元気かもしれないですけど(笑)、その人たちがいないと意味がないと思っているんです」

――本当にそうですよね。演者側が「もっとファンを増やしたいです」と言ったときに、「おれは前からファンなのにこっちを向いて言ってないんだな」と捉える人もいたりするじゃないですか。そんなことはなくて、ずっと大切なんですよね。
 「私のやりたい音楽に賛同できなくなったらいいんですよ。そこはキッパリしていて。私は人の好みに合わせて擦り寄ることができないから。なんか違うな、と思うのは自由で、それは仕方がない。今、目の前にいる人は、少なくとも私の音楽を良いと思って来てくれているので、そこを無視するのは私のやりたいことではないんです。ただ有名になりたいわけではないので。わかりますか?」

――わかります。自分の表現したいものが広く聴かれたいというだけですよね。
 「“名前は知ってたけど、曲を初めて聴いたら良かったのでアルバム買います”っていう人が今もけっこういるんですよ。たしかに私も顔を見たことがあるのに、聴いたことなかったんだって。でもチェキ撮るのは初めてじゃないよね、みたいな(笑)。褒めてくれたし、ありがとうって思うんだけど、まだそういう感じだったんだってショックを受けることもあるんです。でも、こっちが勝手に聴いてもらえていると思い込んでたんだなって思うんですよ。知らない界隈でフライヤーを配ったときに“名前は知ってるよ”って言われることも増えたんですけど、そのわりに聴かれていないのがもどかしい。そもそも、広く聴かれたいという気持ちをなくしたら終わりだと思うんですよ。それが絵だろうが音楽だろうが、作ったものをたくさんの人に触れてもらいたいというのは誰にでもあるだろうから」

――小日向さんは自分で運営しているから、CDのオーダー数を見たりすればどのくらい届いているかというのが如実にわかりますしね。
 「そうんなんですよ……。本当に!」

――ファンタジーだけではないからこそ切実に響くものは確実にあると思います。PANTAさんの書かれた「虹のほほえみ」がボーナス・トラックとして収録されているのもそうですし。
 「『世界が泣いてる』のときにPANTAさんからコメントをいただいて。そこからイメージした曲を2マン・ライヴ(2022年11月開催の「小日向由衣with組織 『世界が泣いてる SPECIAL GUEST:PANTA(頭脳警察)』」)のときにプレゼントしてくれたんです。そこで“これは小日向にあげるから好きにしていいよ”と言ってくれたので、“次のアルバムのボーナス・トラックにしたいです”と伝えました。その後、アルバムに向けて動いていく中で、マネージャーさんとやりとりをしていて、“本人も喜んでましたよ”と聞いたりしていたんですけど、7月7日にPANTAさんが亡くなられたと聞きました。それからマネージャーさんと相談して、“予定通り進めてください。そのほうが喜ぶと思います”ということになったんです。完成したものを聴いてもらえなくなっちゃったんですけどね。でも、なんというか、逆に難しくなってしまいました。本来であればポップとかに“PANTAさんにプレゼントしてもらった曲です”って大々的に書いたりしたいと思うんですけど、そんなことしていいのかなって思っちゃったりして」

――極端な言い方をすると、故人を利用しているんじゃないかと。
 「その通りです。葛藤しちゃいますね。あっけらかんと宣伝してもいいんじゃないかと思ったりもしたし、でもやっぱり利用するのはイヤだなというのがあるから。すごく優しくしてくれて、闘病中も2マンのことを気にかけてくれていたと聞いていたし、ライヴを観に行ったらMCで“小日向っていうシンガー・ソングライターがいて、いい曲歌うんだよ”って言ってくれたりもしたんですね。こんな末端の、無名の私を気にかけてくれた(笑)。『世界が泣いてる』がそんなに売れてなくて広まっていかないんですって悩みを話をしたときも、“いい音楽をやっていると思うなら、そのまま続けていけばいいんだよ。結果なんてその先にあるから考えたってしょうがないよ。やりたいことをやるしかないでしょ”って明るく教えてくれたりもしました。すごく尊敬しています。亡くなりましたと聞いたときは、ごく最近お世話にならせていただいたくらいなのにめっちゃショックだったんです。でも、私程度の人がこんなショックを受けていいのかという気持ちにもなりました」

――関わる期間の長短は関係ないと思いますよ。ブックレットに“This song is dedicated to PANTA”とあるように、結果的には捧げるかたちになったけれど、それが恋愛をテーマにしたポップなアルバムに入っているというのも最高じゃないですか。
 「ふふふ」

――ちょっとSNSを調べれば2人の繋がりもわかるわけで、利用しているなんて思わないですよ。さっき言ったように、恋愛のテーマの裏には音楽が届いてほしいという強い思いがあるわけで、そこに「虹のほほえみ」があるのも素敵じゃないですか。
 「……(目に涙を浮かべながら)そう言ってもらえてよかった。気持ちの持っていきようがなかったので。このアルバム制作中に愛犬のクッキーが亡くなったのもあって、本当にやばかったんです」

――ああ、アルバムのこの明るさはある種のセルフ・セラピーという一面もあるのかもしれないですね……って僕が語ってばかりですが。
 「でも、完全にそうだと思います。スコーンと明るくはなくて、歌詞にどことなく暗さが出ちゃってるのもそうだし。『世界が泣いてる』を作った後、ただ直感で次は前を向く歌を作りたいと思ったんですよね。それが今になって意味があるものになっているというか」

――創作にはそういう瞬間を引き寄せることがあって、受け手としても驚くことがあります。
 「飼っている犬はみんな同じくらいの年齢なので、順番に見送ってきてるんですよね。だいたい面倒を見ながら心の準備をしているので、満足して送ってきたんですけど、クッキーは前日まで普通にお散歩して、お昼に同じ部屋で寝てたりして。それで気付いたら“あれ?”っていう状態だったので、受け入れられなくて。間違って踏んだとか人間の薬を飲んじゃったとか、何かの事故なんじゃないかと思うくらいだったんです。歳だったし、急な気温差で亡くなったりすることもあると聞いて、自分を無理矢理納得させたんですけど、あまりに突然だったので、ちゃんと落ち込めていなかったんですよね。でも、ある日のライヴ中に歌いながらめっちゃ泣いたことがあって。そのときに“実は犬が死んで”なんて説明はしなかったですけど、そのタイミングでやっと受け入れられたんですよ」

――歌っている最中に理解できた。
 「ライヴじゃないと本当の感情がわからないこともあるので、改めて私にとって大事な場所だと思いました」

小日向由衣 | Photo ©久保田千史
協力 | Cherry (東京・蒲田)

――音楽をやっているときが一番自分が出るんですね。
 「なんなんでしょうね。だから辞められないです。急に泣き出したから、みんなからしたら謎だったと思うけど(笑)。しかも、その泣いちゃった曲が、(涙を流し)“もしも魔性が使えたら”だったんですよね……ああ、またすぐ泣いちゃう。でも、今回のアルバムは本当に大変だったな。愛なんていうのは不確かなもの。今思っていても永遠に続かねえだろクソが!」

――どうしました。
 「そのときは“いつか消えてしまうくせに!”みたいな気持ちになってました、ということです(笑)。逆に“天の川ぶち壊す”は、織姫と彦星が神様の怒りに触れて会えないっていう話があるじゃないですか。“はぁ?会いたいんだから会わせろよ!”って曲だったりします。コンセプト・フェチみたいなところはあるんですよね」

――今回も例によってそれぞれの曲の話をほとんどできていませんが、少しだけ。「電話」はオチが強烈で。
 「“おかけになった電話番号は現在使われておりません”の人に向かって一方的に電話で話してただけ(笑)。聴いた人に“こわっ!”ってなってほしくて。捉えかたとしては、元カレに電話しているとかでもいいんですけど、私のイメージでは、かけている相手は女友達なんですよ。こんな感じだから縁を切られちゃったんだという歌詞です」

――ちょっとしたホラーですよね。小説のような意欲作だと感じました。アルバム全体としては、短い瞬間を切り取った話が多いのかなと。
 「きっと、いいときが終わってほしくないんですよね。愛について考えたときに、いつか消えてしまうと思うから、消えてほしくない、終わってほしくない、だからずっと8月30日でいてほしい、みたいな。抜け出せないとか繰り返すみたいな描写をするのはそういうことなんだと思います」

――ヘヴィだった前作からどうなるのかなと思いましたが、こういうかたちで軽やかに越えていったのがとてもよかったです。
 「嬉しいです。越えるというのはあまり意識してなくて、アルバムというかたちで出すのだから、『世界が泣いてる』とは違うものを作るということだけ意識してやったらこうなりました。私はこういう人間が生きていたということをこの世にできるだけ残したいので、次のまた違うものを作りたいと思ってます。あとは売るだけ(笑)。やっぱりパッケージで物として残ると感動も満足感も強いし、自信があるから売れても売れなくても作ってよかったなと思うんですけどね」

小日向由衣 Official Site | https://kohinatayui.info/

小日向由衣 '恋愛ハラスメント'■ 2023年9月27日(水)発売
小日向由衣
『恋愛ハラスメント』

なりすレコード | こっこっこレコード
CD KOKKO-004 2,728円 + 税

[収録曲]
01. お菓子な家
02. 花火
03. サイダー
04. ハリボテの恋
05. 天の川ぶち壊す
06. ブラックコーヒー
07. サカナになる
08. 恋の呪文
09. 電話
10. 8月30日の私
11. もしも魔法が使えたら
12. アイスを捧げて♡
13. 虹のほほえみ

小日向由衣 組織 祝3rdアルバム発売記念「組織で恋愛ハラスメント」小日向由衣 組織
祝3rdアルバム発売記念
組織で恋愛ハラスメント

2023年11月23日(木・祝)
東京 南青山 月見ル君想フ

開場 11:00 / 開演 11:30 (終演 15:00予定)
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込)