絶望の中でも、ちょっとした日常の一瞬のきらめきを大事に
取材・文・写真 | SAI (Ms.Machine) | 2022年12月
――自己紹介をお願いします。
「yukinoise。26歳、ライターです。ライターって名乗っていいのか……」
――名乗っていいと思います!
「キャリア的には、ライターを始めてちょうど3年目になったのかな。3年目にしては執筆ペースはそんなにで。どこかに属しているわけでもないので、フリー・ライターとしていろんなメディアさんにお世話になってるけど、気付いたら音楽ライターになっていたという感じです」
――コロナの頃からですか?
「2019年の秋くらいに、yukinoiseとしての文章が初めてメディアに載った」
――意外!もうちょっと昔からやってると思ってた。
「音楽のことを書こうっていうのは、2019年にたまたまnoteに書いたロシア / ウクライナ周りのことを紹介する記事を読んでくれたAVYSSの佐久間(信行)さんから、うちでちょっと書きませんかって言われて、その記事を載せてもらったのがきっかけ。その後、オランダのフェスに行くことがあって。日本からは行く人がけっこう少ないフェスで、レポとかの情報がなかったから体験記を書こうと思って、佐久間さんに連絡して“オランダのフェスがおもしろかったので、記事書いていいですか”って聞いて、載せてもらった。あと、“このパーティに行ったので、ちょっと書いていいですか?”とか、“インタビューしてみたい人がいるんですけど”みたいな感じで、これは自分で伝えたらおもしろいんじゃないかな、発信したらおもしろいんじゃないかな、っていうのを話しているうちに、気付いたら“これ書いてみませんか”っていう依頼もいただくようになって。そこから、ライターになっていったのかな」
――そういう経緯だったんだね。
「そう。もともと音楽ライターを目指していたわけじゃなくて。周りだと、下の世代を含めて“ライターになりたい”っていう人はけっこういるけど、ライターになりたいとは人生で一度も思ったことがなくて。ただ、文章を書くこと、何かを発信することは、すごく好きだった。好きなことが多いわりにできることが少ないんだけど、文章はたまたま書けた。音楽好きだけど音楽できないし、漫画とか読むけど漫画描くか?って言われたら描かないし。唯一できたのが喋ること、文章を書くこと。子供の頃から、小学校の作文で表彰されたり、中学生の頃は、学生のスピーチ・コンテストに出ることになったり。唯一、文章を書くことだけは、自分が人並みよりちょっとできることだったから……。たまたまそれが人の目に留まったのかな」
――なかなかできないことだと思いますよ。
「かなあ~」
――自分だと、自分のできることって気付きにくいだけで。すごいことだと思います。
「ありがたい(笑)。でも、昔から文字には触れてたからできたことなのかな、とは思う。いろんなことに子供の頃から触れていたはずだけど、なんにせよいろんなことが下手くそで。生きるのもけっこう下手くそだし。でも文章を読むのは好きだったし、得意だった。子供の頃はめちゃくちゃ記憶力が良かったり、ちょっとした言葉に感銘を受けやすかったり。そこから考える癖がもともとついてたのかな。自分の中で自分がずっと喋ってる感じ。考えたことが言葉になって、頭の中で何か喋っていてまとまらなくて。頭の中で言葉が行き交ってるから、表しやすい。自分が何か感情とか思いを表すんだったら、言葉が最初になるから、それで言葉にすることが得意になったのかもしれないな、っていうことに大人になってから気付いたのかも」
――影響を受けた人や、アーティストはいますか?
「漫画家だけど、岡崎京子はずっと好き。漫画と、書籍もほぼ全部持っていて。論考みたいなのも持ってるんだけど、考えかたがちょっと近いのと、人間のしょうもない会話とかからちょっとしたドラマを描くのが上手いし、いろんな音楽の話も漫画の中にちょいちょい小ネタで挟まってて。そういうところは、自分の人との会話とか、生きている感じとかで“ちょっと、っぽいな~”って思うことがある。自分の書いていることだと、周りのコミュニティだったり、人となりみたいなインタビューが多いから、岡崎京子の作品とか考えかたからは、すごく影響を受けてるかもしれない」
――破滅的だからなあ。
「うん。キラキラした中で、ちょっと絶望みたいなのを感じつつも、今あることを楽しんでる。でも、みんなどこかうっすら絶望してる。現代のみんなもちょっと、それっぽいことしてるよね、みたいな。あの時代において、消費に対するアンチテーゼを出せたのはすごいと思うし、私たちの生きている時代なんて、もっと消費に対して、いろいろ思うことがあるはずだから。逆に、キラキラした中での絶望よりは、絶望の中のきらめきみたいなのを、私は大事にしてるかもしれない。逆境にいる人とか話がおもしろいし。自分もやっぱり、逆境にいたことはあるから。そういう、絶望した中でも、ちょっとした日常の一瞬のきらめきを大事にして生きてる。だから、書いているようなことは逆かもしれないけど、日常ベースがやっぱり大きいかな。社会と自分がリンクしているところが文章っていうのもあるし」
――影響を受けすぎたから、今は離れているけど、岡崎京子作品、私も大好きです。
「何が一番好き?」
――ありすぎるけど……『pink』とか好きでしたね。
「ワニ飼いたいとは思う?」
――ふふ(笑)。
「遺伝子改良された手乗りサイズの小さなワニとかを飼って、甲羅を歯ブラシで磨きたい」
――ありっちゃありかも。
「ムカつく奴がいたら、食べさせる(笑)」
――岡崎京子の展示があったときに、『戦場のガールズ・ライフ』っていう大きい本を買ったの覚えてる。
「私も持ってる!」
――あれ大好きで。
「そう。たぶん、私たちが生きてる今も、戦場みたいな。“平坦な戦場”ってね」
――“平坦な戦場”ってめっちゃわかるなって。
「あれは、たしかウィリアム・ギブスンの詩から引用された言葉で。大きな戦争が起きてるわけじゃないけど、毎日が戦い。身体のことも、健康面でも戦いではあると思う。毎日、気圧との戦いなところもあるし、社会でどう生きていこう……というか、どう生き延びようかな、っていう時点で、“平坦な戦場”で生き延びていくっていう一節はやっぱり、そこが競争社会だし。自分は、戦いの場に放り出されてる」
――うん。
「争いたくないけど、戦わなくてはいけないときは、けっこうあるかなって」
――おっ、津田ちゃんっぽくなってきたね。
「ははは(笑)。そうかな。“ペンは剣よりも強し”っていう言葉があって、自分が社会で戦うための武器は言葉なのかな、って思うからライターをやれてる。争うために文章を書いているわけじゃないけど、生き延びる手段として、言葉がある」
――ちなみに何部だったんですか?
「部活?」
――そうそう。
「えへへ(笑)。高校は帰宅部だったけど、中学の頃は私立の中高一貫で、高等部の先輩に混ざって演劇をやってた」
――演劇!意外。そうなんだ~。
「そう、あまり表に出るのは得意じゃなかったけど。演劇やってる人って、変だけどおもしろい人が多いから、そういう部分で入ったかな。だけど、何か表現することに興味あるっていうよりは、脚本を読んだり、漫才のビデオとかを観たり、そういうのを勉強するほうが好きだった。劇伴で使う音楽とかで、いろんな音楽があることとか、音楽の使いかたを知ったし。ちょうど演劇部の備品のサウンドトラックとかの中に、人間椅子があって。そこから人間椅子を聴き始めて、筋肉少女帯とか聴いて、ナゴムギャル的なのになりかけて(笑)。大槻ケンヂの本読んだり。所謂サブカル街道みたいなのを突き進むきっかけになったのが、演劇部」
――高校生のときは?
「高校は、別の高校に行って。そこは演劇部がなかったから演劇はやらなかったけど、他の学校の子とかと遊ぶようになって、たまたまファッション系のほうに興味を持って。原宿とかに溜まってる時期があった。今もうないけど、渋谷のTRUMP ROOM(2019年休業)っていうところでファッション界隈の子たちがでイベントをやってたから、デイのイベントとかでクラブに行くようになって、DJの存在を知ったり、ダンス・ミュージックに触れるようになっていって。電子音楽とかをがっつり聴くようになったかな」
――めっちゃ東京の高校生っていう感じだよね。
「東京が狭いぶん、その中でもファッション系の界隈って、もっと地域性があって狭いから。歳上の人とか、もっといろんなおもしろいことを知ってる人に出会う機会が増えて。そこでいろんな影響は受けつつも、自分で掘っていったのとか、好きになっていったのは、そういう煌びやかなところではないような感じだったかな。根がサブカルオタク気質なのは変わってない、みたいな」
――小学生の頃の部活は?
「小学生のときは部活やってなくて。なんか……学級崩壊していて。地元はすごく治安悪いらしくて。小学校5、6年の頃はろくに授業を受けた日がなかった。私が反抗してたとかじゃなくて、クラスのいじめっこが先生をいじめて、先生が来なくなっちゃって。それで勝手にパソコン室に入ったり。わりと自由にのびのびとみんなが学校生活をしているときに、ヴィジュアル系にハマったのかな。当時の夕方にやってるアニメの主題歌がヴィジュアル系とかで興味を持って、どんな人がやってるのか見てみたら、超カッコいい、お化粧したお兄さんたちのめっちゃ謎世界観。バンドごと遊園地とかテーマパークみたいな感じで。うるさい、激しい、速い、カッコいい、みたいな。子供ってそういう刺激に弱いから、めちゃくちゃハマっちゃって。ちょっとしたアニメのキャラクターが現実にいる……じゃないけど、2.5次元的な感じで。おお~っ!てなって。激しくてうるさい音楽性が好きなルーツはそこにあるし、ゴスとか、そういう世界観を知ったのもそのへん」
――なるほど。最近yukinoiseちゃんが、Twitterでそういうことを書いたりしてたのを見て、V系ハマってた時期あったんだ!みたいな。
「ルーツはヴィジュアル系!」
――そうなんだ~。意外。
「中学のときも、部活に行きつつヴィジュアル系のイベントにも行ったり。門限がある中でライヴに行ったりして」
――おお~、門限があるおうちだったんだね。
「門限あった。破ったら怒られてた(笑)」
――ルーツが見えてきておもしろい~!
「電子音楽にハマったのも、所謂Warp系みたいなエレクトロニカとかも好きだったんだけど、その中でも(Chris)Clarkっていう暗めのエレクトロニカを作る人だったり。あと速くて激しいのが好きだから、ネットレーベルとか漁ってて、すぐブレイクコアにたどり着いて。はええ~うるせ~~みたいな。電子音楽的なハードコアのルーツができたのも高校生くらい」
――早熟ですね~。
「早熟なのかなあ」
――うん、そう思う~。
「大学受験をきっかけに原宿とかクラブとかには行かなくなったけど、やっぱり何か日常に刺激が欲しくて、その頃そういう音楽が好きだった先輩から、神保町にあったジャニス(2018年閉店)に連れていってもらって、レンタルしてリッピングして聴くのを何度も繰り返して、そこで電子音楽とか、コンピの存在を知った。どこのレーベルがキュレーションしたとか、どこのブランドがやってるとか。いろんなディグりかたを知ったりしたかなあ」
――良い意味のオタク気質というか、ディグり気質がライターのお仕事に繋がってますよね。
「たしかに、無駄じゃなかったんだな!って思うことは、書いていたり、考えていたり、パーティに行ったりすると、あのときディグってたのは無駄じゃなかったって思ったりする。そういう音楽が好きな子はどうしても周りに少なかったし、特に歳が近い子は、そのとき出会えなかったから。今は好きな音楽が近くて、流れている音楽を聴いて、あれカッコいい、これカッコいいっていう話ができるのはけっこう幸せだと思う。昔の孤独な自分を抱きしめてやりたい」
――その気持ちわかります……。yukinoiseちゃんの意外な一面を知ることができました。
「意外かなあ?」
――そういう面あるんだな、みたいなところがけっこうあったな。AVYSSってアンダーグラウンドの中でもイケイケのメディアだから、なんだか親近感わきました。
「AVYSS以外もそうだけど、何かを作ってる人は、何かを突き詰めるオタク気質があると思うから。いくら見た目とか遊びかたが愉快でも、もくもくと裏ではオタクやってる人が多いと思う。あまり話さないけど、アニメとかもすごく観てたし」
――おお~、そうなんだ!
「自分がどう見えてるかあまりわからなくて。自分はけっこうオタク寄りで、こういうラベリングは失礼だからしたくないけど、陰キャの中では陽キャに見えて、陽キャの中では陰キャに見えるタイプみたいなところにいるし、音楽もいろんなジャンルが好きだけど、バンドの界隈、ダンス・ミュージックの界隈、どこの界隈かって言われたら、どこの界隈にもいない、でもどっちも好き、みたいな感じで。好きなものにいろんなルーツはあるけど、これが好きで、ここに属してます、みたいなのはないかな」
――そこがいいなあと思う。
「ルーツは辿ってるけど、流動的かもしれない。グラデーション的な感じかな」
――手がけた記事の中で一番思い出深いものは?
「それこそライターを始めるきっかけにもなった、オランダのThunderdomeっていうガバのフェスに行った記事かな。記事を書くつもりで行ったわけじゃなかったから、ヨーロッパのフリマで買ったジャンクのフィルムカメラで、踊りながら適当に撮った写真がめちゃくちゃ良かったり。日本ではあまり馴染みのない、それこそ日本語の記事がない音楽だし、どうやってあの楽しさを伝えようかな、みたいな部分で一番思い出深い。自分の代表的な記事っていったら、その記事を挙げるかなって思うくらい。実際、ちょうどその時期くらいから、ポスト・レイヴカルチャー……所謂レイヴの新しい波みたいなのが、日本でもちょっとずつ生まれてきたから、その時代の中で日本人がああいうところに行って、ああいう音楽について書いている、みたいなところで、ちょっとした歴史ではないけど、アーカイヴとして残すことができてよかったと思う。あれをきっかけに私の記事を読んでくれた人が多いみたいだし」
――うんうん。
「ひとつひとつの記事に思い入れがあって。もちろんお仕事でいただく内容もあるけど、自分が書いている内容は、自分が実際に耳にして良かったもの、見て良かったもの、考えたものがベースにあるから、ひとつひとつ真剣に取り組んでる。選り好みしているわけではないけど、自分の領域はきちんと示したいと思ってるから。ディスクレヴューとかも流行りでふわっとしたものっていうより、自分の世代間でどうウケてるのか、こういうカルチャーがどういう感じで受け入れられているか、とか。雑誌で〇〇年特集とかあるみたいに、何年か経ったら思い出に変わるのかな、っていうところはあると思う」
――そうだね、アーカイヴを残す作業でもあるのかもしれない。ライターの大変なところを教えてください。
「フリーだからっていうのもあるけど、いろんな人と関わるし、いろんな話を聞くけど、やるのはひとりだし、すごく孤独なところかな。特に編集部に属していたわけでもないし、ライターはご縁でなれたものだから、周りに感謝はしてるし、周りの力なしではできないって思う。でも自分の言葉、考えで、正解がないから、そこはすごく孤独。身ひとつで動けて、身ひとつで仕事できるのは、いいところだけど。誰にも相談できないし、己との戦い。あと知識はいくらあっても無駄じゃないから、いつだって勉強しなきゃいけない。やっぱり、何か知識があったほうが、考える幅が広がるから。そういう面で言うと、やっぱり常に学んでないといけないな、と思う。でもそれは“学ばなきゃ!”じゃなくて“学びたい”。“何でこれをおもしろいって思ったんだろう”とか、“これに付随することって何かな”って能動的に考えてるんだったら、大変だけど、苦行ではないかもしれない。あとは、言葉って、誰でも書けるわけじゃん。みんな普段から喋ったり、SNSに投稿したり、言葉を使っているわけだから。みんなが身近に使えてる言葉っていう手段でお金をもらったり、何かを表現するわけだから、普段の言葉と、人に伝える言葉を、使いわけるっていうか……あるべきかたちにするのが大変。でも、醍醐味でもあると思う」
――言葉を本当に大事にしてるんだね。
「言葉は、ずっと好きかも。ふとした会話の五・七・五みたいなタイミングとか。冬に鍋食べるじゃん。鍋って、調理器具の名前じゃん。調理器具の名前が食品の名前になってるのヤバってなって、勝手におもしろがれる」
――それはたしかに!言われなかったら気づかなかった!
「他にあるかな?って考えたときに、なかなか思いつかない』
――フライパン、とかないもんね。
「おやき!あれ、焼いてるだけが食品として完成してるわけじゃん」
――なるへそ。
「みたいな感じで、自分は言葉にそういうところで惹かれる。そういうの、日常の小さなきらめきの瞬間だよね。言葉が、自分と社会と関わる手段だから、おもしろがれてるのかな」
――ライターのやりがいはどんなところ?
「音楽ライターに関していうと、ずっと音楽が好きだったし、身の周りでも音楽をやってる人に恵まれてるから、自分が何かサポートしたいと思ったときに、ライヴに行ったり、音源を買ってお金を落とす以外に、自分がライターとして、インタビューだったり、記事を書いたりして、その音楽を伝えるサポートができるっていう部分は、やりがいかもしれない。良い音楽を生んでくれて、自分がいいなって思って、それを伝えて、伝えたのをきっかけに人が新しく“いいな”って思って、さらに聴いて、実際にライヴとかに足を運んでくれるようになって、その収益で新しい曲が作られる。その循環の輪に、自分が少しでも関われているのは嬉しいかも」
――めちゃくちゃ関わってるよ!
「良い曲を作ってもらわないとできないから、やっぱりサポートはしていきたいと思うし。格差とかは感じたことがないけど、土俵が違ってもギブとテイクができるようになったのは嬉しいかも。ずっとテイクするだけだったから、自分から何か働きかけることができるのは、けっこうやりがいのひとつかも。書いて、読んでくれている人には、何かを伝えるっていう提供もできているわけだから。それが嬉しい」
――それはやりがいだね。
「いろんな人のサポートができてるのは嬉しい。あとは、文学少女っていうわけじゃなくて、一番好きだったのは雑誌だけど、昔から文字が好きだから。音楽も好きだったけど、孤独だったから。そういう部分で、自分の救いにもなってるな、みたいな。自分の好きなことで誰かをサポートしているっていうことは、わりと昔の自分が救われている部分があるのかも。がんばって生きてきてよかったな、って思える」
――その気持ち分かります。
「好きなものをずっと追いかけてきてよかった」