文・撮影 | 鷹取 愛
阿佐ケ谷駅南口を右手に歩いてすぐ。突如現れる小さな路地裏横丁「いちょう小路」の一角に、黄色いネオンサインの“たこやき”の文字が光っている。イルミネーションライトで覆われたピカピカのドアを開けると、かわいい女の子(たまに男子)がだいたいふたりカウンターに立ち、出迎えてくれる。この店は寺田実優ちゃんが切り盛りするたこやき屋「おたこさん」。“さん”までが店の名前である。“おたこさん”。なんてかわいい名前なんだ。お客さんみんなが(私ももちろん)実優ちゃんを「おたこさん」と呼んでいる。かわいいから声に出したい、最高のあだ名であり、店の名前。
おたこさんは、2年前に北海道からやってきた。北海道で生まれ育ったおたこさんは、札幌・二条市場北の「M’s横丁」で26歳の頃から10年間ひとりでお店を切り盛りしていたかっこいい人。2019年に惜しまれつつも閉店。その後ずっと住んでみたかったという東京に居を構え、お店をやる気持ちもそんなになく、日々たこやきとは遠い世界で暮らしていた。もともとやっていた“OTACO”名義の音楽活動もしながら、「東京っておもしろいな」と様々な街を楽しんでいた。
そうしているうちに、引っ越してきた阿佐ヶ谷を気に入ってこの街でお店をやってみたいと思い、毎日ネットで物件を探しているといちょう小路内の良い物件が出てきて、そこからはトントン拍子に進み、2021年の6月末にプレオープンを果たした。1階はカウンター6席、2階はテーブル席が4つ。コロナ真っ只中だったけれど、おたこさんの噂は瞬く間に広がり、一瞬で超人気店となった。カウンター席がいっぱいの時は、冷蔵庫の上をテーブルにする席(私はこの席が好きです!)を作るものの、外にまでお客さんがあふれることも。
おたこさんは、ふらっと行ったときに入れないと嫌だから、本当は誰にも教えたくないけど、みんなを連れて行きたくなる最高のお店。まず、おたこさん自身が最高。淡々といろんなことを受け止めてくれる、度量と優しさ。また、個性豊かな日替わりのスタッフがみんなかわいい。そしてたこ焼きが本当においしい……。
私はこのお店でたこやき革命が起きた。京都在住時代、定期的に行われていた“たこパ”。今思うとあれはたこやきじゃなかったのかもしれない。おたこさんのたこやきは、“ふわっ”“とろっ”“さくっ”の3拍子が体験できる魔法のたこやき。『ソース』『なめたけバター』『わさびしょうゆアボカド』『ハーブ塩アボカド』『めんたいマヨ』『梅かつおしょうゆ』『ゆずこしょうポン酢』『にんにくしょうゆ』『なっとう』『梅なっとう』など、お味の種類も想像を絶する組み合わせ。何がおいしいかと聞かれても全部おいしいんだけれど、私が一番好きなのは『チャイナタウン』というザーサイの浅漬けが乗っているたこやき。邪道だという人がいたら、食べてから言ってください……。
さて、おたこさんの店内は本当にイカしている。チャームポイントを語ろうとすると本当にたくさんある。まずはおたこさんのイメージ・キャラクターの“たこ”が至る所にある。豹柄を愛するおたこさんの豹柄シリーズも目に入ってくる(トイレの床、花瓶、オーダーメイドで作っている器も全て豹柄で、「(元)鶴谷洋服店」で購入した文化屋雑貨店のもの)。見上げればニョロニョロだらけ(手すりやハンガーラックのニョロニョロは「クネット」、2Fのニョロニョロは「itou」で購入)。内装を担当したとんち造作計画作の、海に浮かぶブイで作ったスピーカーもすごい!1階2階を繋ぐたこやきエレベーター(たこやきが1階から上がってくる姿はとてもかわいい)、カラフルな祭壇、巨大な観葉植物など、店内のどれもがおたこさんのセンスでかわいくてかっこよくて、お店でありながらおたこさんのギャラリーでもあるなと思う。みんながきっとおたこさんの日々の変化を楽しみにしていると思う。
誰でも語っている言葉ではあるけれど、本当に店は人だな、と思う。おたこさんは「東京の人たちは人を繋げてくれる」と言うけれど、人として魅力的であるおたこさんだからで、お店のママとしての天性がそうさせるんだと思う。おたこさんは、街に寄り添って、自然にそこに集う人たちのコミュニティを作っていく場所。今はSNSでお店を知ることも多いけれど、こうやって人が人を繋いで盛り上がっていくようなお店は、とても貴重で大事だ。今後は、お店でたくさんイベントをやっていきたいと話す、自分の音楽もお店も表現も止めないおたこさん。今は、タイミングや偶然によって何かが生まれるような“場”が本当に少ないけれど、おたこさんは、そういう場所になっていくんだろうと感じる。
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南3丁目37−5
平日 19:00-23:30 LO / 土日祝 18:00-23:30 LO
※ まん延防止等重点措置適用のため、2022年2月13日(日)まで休業
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東京、京都を中心に「山ト波」という屋号でイベントや展示の企画をしています。近年は、京都「かめおか霧の芸術祭」の「KIRIマルシェ」運営、東京・学芸大学「SUNNY BOY BOOKS」の展示サポート・メンバー。1日1人ずつ日記を書くサイト「一日遅れの日記」主宰。山フーズ、画家・山口洋佑とのトリオ「バー人間」や、映像作家・玉田伸太郎との映像と音楽のプロジェクト「安身立命」でもたまに活動。京都で店をやってた本屋「homehome」名義での出店も。