自分として生きようとすることって、誰しも逆境
社会に向けて“ザ・わかりやすさ”でアピールする商業音楽とは違うものであろうとする意識を持ち、二面性 / 多面性を内包しようという姿勢は、奇しくも同時期に世に出たGeordie Greepの『The New Sound』やLoupx garouxの『暗野』とも共通する部分を感じた。
聴けば聴くほど、『キメラ』が一筋縄ではいかない、挑み甲斐のある作品であることはたしかだが、あっこゴリラのパワフル & チャーミングなパフォーマンスに惹きつけられ、一緒に楽しんでいるうちに、ズブズブとハマっていくリスナーがジワジワと拡大していくに違いない。
取材・文 | 鈴木喜之 | 2024年10月
撮影 | 山口こすも
――新作『キメラ』は6年ぶりのニュー・アルバムになるんですね。ご自身で「この間スランプだった」っていうような発言をしていましたが、外から見た限り『NINGEN GOKAKU』や『マグマ I』もあって、どちらも良かったですし、順調に活動していたように思えます。いったいどんなところがスランプだったのか、っていうところからお伺いできますか?
「『GRRRLISM』っていう前のフル・アルバムが2018年に出ているんですけど、自分の中で、それまでの私の歴史は『GRRRLISM』に向かうための歴史で、それ以降が『キメラ』に向かうための歴史だったっていう感じなんです。この間、『GRRRLISM』の延長線しかできないっていう感覚があって。ざっくり言うと、いわゆる“エンパワーメント系”としての役割を担わされる機会がめちゃくちゃ増えたんですよ。『GRRRLISM』をきっかけにね。そういうアルバムだったので、それは自分でも必然的な流れだったし、嘘も何もないんですけど」
――いつの間にか違和感を覚えるようになっていた?
「“多様性”とか“エンパワーメント”とかが流行りになってきて、そういうものの上澄みだけ掬い取ったビジネスがそこらに溢れる状況に、だんだん、ちょっと気持ち悪いなって。私にもそういうリリックを求められている感覚があって、どこかで施しをしているかのような役割を与えられて、がんばっちゃっていたところもあった。そういう違和感は、もう『GRRRLISM』を出した3ヶ月後くらいから感じ始めていましたね。だから一度落ち込みましたもん、けっこう激しく。そこから、じゃあどうしたらいいのか?って。とにかく作るしかないから、作ってライヴして作ってライヴして、いろんなことをやってみたり、いろんな人に会ってみたり。それでがんばっていた感じです」
――なるほど。
「時代のアンサーを常に求められるというか、アクティヴィストがマイク握ってラップしてる、みたいな側面がデカくなりすぎちゃって。日本国内だと、アーティストで社会問題について発信する人って少ないし……今はそんなことないかもしれないけど、そのときは目立ったんでしょうね。どうしてもアクティヴィストとしての側面ばかりしか見られない。わかりやすく言うと、そういう発信だけめっちゃリツイートされるけどライヴには来ない、みたいな。それはあるあるだけど(笑)。でも、音楽っていうか芸術って、もっと深いものだし、言葉ってもっとおもしろいし。それを私はまだ描けていないんだなって思ったんです。実力として。鮮烈なヴィジョンが見えていなかったっていう。こうかな?ああかな?ってトライアル & エラーしていた歴史かなって思う」
――その鮮烈なヴィジョンというのを求め続けていたような状態には、(Sonyから)独立したことが関係していたりはしますか?
「独立に関してはわりと必然的な流れだったので、独立とスランプはあまり結び付いていないですかね、自分的には」
――では、ほぼ期間が一致するので聞いてみようと思うんですけれども、ラジオのパーソナリティを務めて、ほぼ毎日、何時間も生でっていうのは、かなりエネルギーを持っていかれることは間違いないですよね。
「うんうん、ヤバかったです。でも終わりました。最高(笑)!マジで」
――あ、開放感がある?ラジオに関しても、エネルギーを取られるっていう意味で、スランプに関係するようなところはあるでしょうか?
「私の考えかたって、そういう感じじゃないんですよ。たとえラジオをやっていなかったとしても普通にスランプだったし、独立していなかったとしてもスランプだったと思う。逆に言うと、ラジオをやっていてよかった、独立しておいてよかった!です。そうじゃなかったらとっくに私はくたばってるな、っていうふうにしか思わないな。ラジオをやっていなかったら、世間のこと何も知らないまま、社会をそれこそ上辺だけで全て見ているかのような気持ちになっちゃっていたと思うし」
――たしかに、ラジオの仕事は得難い経験だったと思いますから、 今作に活かされたところも大きいのでしょうね。
「めちゃくちゃ活かされました」
――具体的にはどういうところで?
「ありすぎるんだけど。まず、毎日いろんな音楽、トレンドも聴けば、世界各地の古いものから新しいもの、サブジャンルまでいっぱい聴くんで。それでわかったのが“ポップス、マジ興味ない”っていうこと(笑)。ポップスっていうか、ポップなものは好きなんだけど、要するにみんなが求めていることをやるというか、言いかたは悪いけどリスナーをナメてるっていうか、“こういうの好きでしょ”っていう姿勢が見えるものを私は敏感に察知してしまうっていうことがわかって。そういうものに感動したことが本当に一度もない。好きじゃないな、なんで好きじゃないんだろう?なんで不快なんだろう?って、いちいち私は向き合ってた(笑)。なんでこれが許せないのか?なぜ私はこれが好きなのか?とかにすごく向き合ったから、なるほどーわかったぞ!って。アーティストとしての根幹ですよね。そういうところでマジ足元確認できた。だから完全に振り切れたし、もともとこういう奴だったけど、はっきりわかった。おかげで“こうしたら、こう思ってもらえるかな?”みたいなのがなくなったっていうのはあります」
――なるほど、なるほど。
「それから音楽的な部分で言うと、もともと民族音楽とか民族楽器が大好きで、これまでにもビートに取り入れたりはしていたんですね。ドラマーなんで、そういう原始的なものにどうしても惹かれてしまう傾向にあるから。ただ中東の民族音楽っぽいやつをサンプリングして、アメリカで生まれたヒップホップの文脈にあるダンス・ミュージックに混ぜても、私が日本で生活しているラッパーであるっていうところのリアルが、ちゃんと消化しきれていないな、っていうのがずっとあった。そんなとき、番組がきっかけで日本民謡と出会って、そういうことか、民謡だ、なるほど!ってめちゃくちゃくらって。そこから民謡を2、3年くらい勉強して、まだまだペーペーなんですけど、それをやっと自分の音楽にも落とし込めたかな、っていうところですね。日本に生きるラッパーとして大きな一歩を踏み出せた作品だと自分では思います」
――その今作のビートについてですが、大勢のビートメイカーが参加していますね。これらのビートはどんなふうに生み出されたのでしょう?先に曲のテーマとかが決まっていたり、リリックが先にあったりすることも多いのでしょうか?
「私、ビートメイカー泣かせっていうか、相手はもしかしたらすっごい面倒臭いかもしれないんですけど。例えば“ここのキック和太鼓にしてほしい”とか細かくアイデアを言う。“笑う野良犬の冒険”と“着火”では、友達の団地で近所の人たちが火の用心をやっているのを、めっちゃ良い音だ!ってフィールドレコーディングして、サンプリングネタとして使ってください、とか。そういう感じでゼロから介入させてもらうことが多かった。あと、作ってもらったビートに私がベースラインを入れたり、そういうコライトみたいなやりかたもあったり。だから、それぞれですけど、今回はたぶん8曲くらいリリックが最初からあった。それ以上に、まずアルバム全体で考えていたんで、“ここにはこういう曲が必要”っていう感じでやっていきました」
――今回、Bo NingenのTaigen Kawabeさんがいくつかの曲でクレジットされていますが、彼の参加はどういう経緯で?
「もともと仲が良くて、今までも何曲かやっているんですけど、Taigenはロンドンに住んでいるから、ロンドンでセッションしたんです。例えば“キメラ”は、木崎音頭のフィールドレコーディングをベース・ミュージックと混ぜたくて、一緒にスタジオに入ってやってみて、めっちゃヤバいじゃんみたいになって。なんかでもちょっと足りないねって、食品まつり a.k.a. foodmanさんに入ってもらう流れでした。“キメラ”に関しては後から歌詞とかタイトルを乗せたんです。それでバチってきた。“ああ、これだ。やっと見えたアルバム!よし!”って思って。そこにはTaigenが醸してくれる匂いがあったから、“この匂いだな、なるほどな”って、Taigenにはもっと入ってもらおうって思いましたね、その時点で」
――それで、Taigenさんが参加されている曲が多めなんですね。
「そうそう。例えば“ふぉえば✌️”とか“from zero”とかでは(クレジットされていても)Taigenの要素は少ない。でも匂いを入れてもらいたかった。“from zero”は、Gimgigamが基本的なものを構築してくれて、Taigenが匂いを入れてくれたっていう感じかな。アルバム全体の統一感っていうか、ストーリー……私の中にあるムードかな、ムードを作りたかった。そういう役割としてTaigenにめちゃくちゃ入ってもらいましたね」
――その“匂い”っていうようなところとも関わってくると思うんですが、冒頭でアルバムのムードを決定し、タイトルにもなっている“キメラ”っていう言葉、これはどういうところから出てきたんですか?“合成生物”みたいな意味ですよね。
「日本民謡にハマっていたし、“お祭り”っていうテーマで作品を作りたい気持ちはずっとあったんですよ。でも、それだけじゃ何か足りない……さっき言った鮮烈なヴィジョンが見えてない気がした。ただ“祭”っつってもなーって。そこに、友達との会話の中で“キメラ”っていう言葉がパッと出てきて。私、ゲリラとかマグマとかゴリラとか、3文字カタカナ大好きなんで、キメラを改めてちゃんと調べてみたら、めちゃくちゃいい!人間は複雑で、いろんなものがアンビヴァレンツに含まれてるっていうところもそうだし、あっこゴリラっていうのがもうキメラ、あっこでゴリラ、人間 + 動物。ドラマーでラッパーとか。そういうところもあるし、これまでずっと描いてきたジェンダーの揺らぎだったり、心の葛藤とか矛盾と向き合うところとか、そういうのも全部入ってる。サウンドとしてのミクスチャーという意味でもめちゃくちゃいいなと思って。これでコンセプト組み立てていこう、1曲まず作ろうって“キメラ”ができて、よし、いける!っていう感じでした」
――続いて先行公開されたのが「generations」。ここでは、やはり世代論みたいなものを歌ってみたかったっていうことなんでしょうか。
「これもずっとやりたかったことで、今回やっとやれた。ラジオの台本に“Z世代の意見”とかよく書いてあって、何回言うの?って(笑)。でも、世代って自分のアイデンティティっていうか、自己にすごく深く入り組んじゃってるじゃないですか。切り離して考えることができないし。例えば、世の中で何かトラブルが起きると、“あのときはこれがアリの時代で生きていたから……”って、平然とヤバいこと言っちゃうおじいちゃんとかいますよね。これ実は、松本人志が炎上したときに書いていたんです」
――リリックの中で過去に殴られたTVスター
って言っていますね。
「そうそう。今考えたら普通に犯罪っていうことが昔は有耶無耶になっていたりとか。そういうのは今炙り出されるし、昔は潰されていた声がちゃんと届くような社会にもっとなってほしい。それとは別で、“松本人志が俺の神だったのに……”って悲しんでいる人たちを見て、自分が生きた証のツケが首を絞めてくることってあるよなーキツイよなー、って。この件に限らず、自分を形成していた大事なものが実は誰かを傷つけていたり、もう今の時代には、あなたのプライド、誇り、超邪魔ですっていうことあるじゃないですか。“漢気!”とか言っていた人とか超大変だと思うんですよ」
――大変でしょうね。
「“今の時代、そういうのはもう古いです”って、 私も超思うこと多いし。そうしたら最近“多様性って窮屈だよね”とか“なんかうるさいよね、生き辛いよね”で話が終わるみたいなことも増えて、うわこれじゃマジただ世界がふたつに分かれただけ!みたいな。だから、この混沌と向き合っている曲が書きたかった。私自身も、Z世代に比べたらファイティングポーズ野郎だと思うので、マッチョな思想というか、そういう古臭いところが絶対あって。言うてる私はこんな感じだよ、ってリアルな視点で書きたかった。綺麗事だけじゃ嫌だったんで。これはめちゃくちゃいいの書けたなって思う。だから“generations”は、団塊世代のうちのお父さんとかにも聴いてほしいかな」
――なるほど、曲全体としては、すごくフックのあるサビで、アンセム感もあるし、素晴らしいと思いました。そこから「danziri」を挟んで続く「笑う野良犬の冒険 feat. BSC」「human's ham」「逆境天使」の3曲は、かなりストレートな内容のリリックだという印象を持ちました。
「このアルバムの中では、“human's ham”からの“逆境天使”が、 ある種どギツいのかなとは思いますね。“generations”もどギツいと思うけど」
――この5年間の、もしかしたら“スランプ”という言葉とも関係する、 いろいろあれこれ考え詰めた、あるいは思い悩んだことが反映されてるのでしょうか。
「たしかにそうかも。私、週4で六本木ヒルズに通っていたんですよ。そういう生活を5年半。その前もいろんなレギュラーがあったんで、六本木にはずっと通ってた。業界の人と毎日のように触れ合う生活で感じていたことを、ラジオが終わったらこのしがらみが消えるだろうから、それを全部入れようと思ったんです。なんなら最初は、それだけで30曲くらいできちゃうかなと思ってたんだけど、“human's ham”と“逆境天使”の2曲で終わりました(笑)。2曲でできた、やった!っていう感じでしたね」
――「human's ham」は、人工肉みたいな話なのかと思いきや、例えば音楽で言えば、ウェルメイドなポップスを皆様のための安心安全な商品としてお届けしますよ、みたいなものに対する暗喩が入っているように感じたのですが。
「これは、ウェルメイドなものを批判してるわけではなくて、どっちかというと、売り捌こうとしているシステムのほうに対する批判ですね。業界とか、 あとは教育も批判しています。それからエンパワーメントとかそういうものの上澄みだけビジネスとしてやろうとしてるのとか、そういうものへの批判」
――この曲の全編で聴けるユーモラスな……“口上”って言うんですかね。これはどなたがやってるんですか?
「友達です。ただの友達。すごい上手でしょ。この人、本業はライターなんですよ。でも趣味で落語を昔からやっている子で、見せ物小屋モチーフの口上をしてもらった。初めは自分でやっていたんですけど、これはプロっていうか、落語家さんとかにやってもらうほうがよさそうだなと思って友達に頼んだら、めっちゃいいやんって」
――すごくハマってますよ。
「どギツいテーマだからこそ、おもしろくしたほうがより刺さるというか、そういうのも意識しました。私、昔から言っているんですけど、うちのお母さんがマルチにどハマりしていた世代で、ヤバかったんです。三者面談で先生にプレゼンするんだから。私の成績の話なんか一切しない。超デカい荷物を抱えて行って、これを見てください、うちの製品は……って。もう大っ嫌いで。変な宗教に勧誘されたら、めちゃくちゃ論破するみたいな、そういうこともやってました。今はそこまで憎んでいないですよ。それぞれ好きにしたらいいんじゃないですか?幸せはその人なりにがんばればいいんじゃないですか?とは思ってる。だからそういうフロウ、インチキ・フロウは超得意。小さい頃から、めちゃくちゃ聞いてきてるんで(笑)」
――(笑)。そして「逆境天使」もまた、かなり赤裸々というか。出だしのところなんか、実際にそういうやり取りがあったんだろうなと想像するんですけど、現在の自分が逆境にいるなという感じは、そこまで切実なんでしょうか。
「逆境じゃないですか、どう考えても。うん、全然逆境だと思いますよ。追い風ではないと思います。自分として生きようとすることって、誰しも逆境だと思うんです。その中で世界や自分や他人と向き合って傷だらけになりながら生きている人って、私からしたら天使なんで。そういう側面もありつつ、私自身、逆境の中にいる天使なんだって思ってやっているけど、誰かからしたら、悪魔?みたいな。あと、そういう逆境の中で、 私は天使なのに……って思い込んじゃっているおかしさに対して、別にそんなことねえからって揶揄しているところもある。傲慢に、私はこんなにいいことしてるのに……っていう、救世主コンプレックスに陥ってるちょっと前のあっこゴリラをイメージしたというか」
――この「human's ham」と「逆境天使」は、ちんどん太鼓とクラリネットで、シカラムータのこぐれみわぞうさん + 大熊ワタルさん(ジンタらムータ)がフィーチャーされていますね。お2人に参加してもらうことになった経緯を教えてください。
「ラジオの日本民謡特集で3回ほど出演してくださって、民謡のおもしろさをたくさん教えてもらって感激したので、その流れでお誘いしました。“逆境天使”は、最初は自宅で録っていただいたボイスメモのちんどん太鼓を軸にデモのビートを組んでいって、その後改めてスタジオでレックしてサンプリングさせてもらいました。そのときに“ちんどん屋さんは路上の広告、元祖ストリート・カルチャー”っていうことも教えてくれたんです。“human's ham”という曲は路上で怪しい店に誘い込む見せ物小屋というイメージがあるので、まさにちんどん屋さんの雰囲気が曲にピッタリハマると思って、こちらは“米洗い”という楽曲のお2人のプレイをサンプリングさせてもらいました」
――「逆境天使」の最後にあとの祭
っていう言葉があって、そのまま次の「あとのまつり」に繋げていくのもうまいなと思ったんですが、ここからちょっとムードが変わりますよね?サックスがいい雰囲気を出しています。
「そう、このアルバムは通しで時間軸が決まっていて、ド頭が祭を始める夜11時くらいなんです。ここから夜の底にどんどん向かっていく。そして、“あとのまつり”、“髪様”、“湿煙”が、夜のどん底ですね。“着火”から2時くらいでテンション上がるじゃないですか。ここからが深夜タイム。“magma rave”が深夜4時で、最後の曲が始発列車。そういう流れ」
――完全にコンセプト・アルバムですね!
「はい。だから“あとのまつり”から3曲は、夜のどん底パートですね」
――「髪様」では、“神”と“髪”をかけていますが、何か自分の髪に関して、具体的な心情があったのですか?
「私は10代の頃から、自分が女として見られることが嫌で、自分が何者なのかわからないっていう気持ちがすごくあって。今は、私は私でいいやっていう感じなんですけど。当時は思い悩んで、髪を全剃りしたことがあって、そのときの気持ちというか。経験が元ネタになっています。今、女性が坊主にするのも普通になってきたけど、昔は髪に神様が宿るって言われていたり、女性と髪の毛っていうものが密接に関わり合っちゃっているところがあった。だから剃りたかったんだろうな。“キメラ”っていうところで、やっぱりジェンダーの揺らぎみたいなところは、 どうしても1曲入れたくて」
――そうだったんですね。次の「湿煙」は“シケモク”と読むのでしょうか?
「そうです。“湿煙”はだいぶシブいこと言えてるなと思う。この曲のテーマは、例えば“願いは叶う、夢は叶うよ”とか“努力すれば報われる”っていうわかりやすいサクセス・ストーリーみたいなのってあるじゃないですか。それが通用しなくなった人の曲かな。“負けたけど諦めない”っていうシンプルな話ではなく、複雑に書けたと思いますね。それまで右手で常に着火していたけど、このやりかたじゃ人を傷つけるみたいだから、慣れない左手で着けはじめたが……っていう感じ。そういう曲。そして自分の肉体が湿っていて、もう簡単にハートに火がつかない、ちょっと弱ってきてる。だから“老い”もテーマかもしれないですね」
――そして「着火」なんですが、これは、いったい海外で何があったんだろう?と思ってしまうのですが。
「これねー、ちょっともう、お察しください(笑)。まあ、曲の中で言えばいいかなっていう感じですかね。この“湿煙”からの“着火”は、湿って火がつかねーってなっているところで、 本当に全て失ったと思ったときに着火するっていう気持ち、それを私は味わったことがあって。本当に本当、リアルの着火ですね。その体験が私を支えているんです。全て失った、仕事、キャリア、何もかも。だからやれる、みたいな。あと、祭もテーマになっているから、 祭っていうのはやっぱり、イキった若い子たちがいて、調子に乗ってやらかしたみたいな。そういうイキり要素として入れました」
――テンション上がってきた深夜タイムの「ふぉえば✌️」と「D.P.D.G.」。ここはポップに展開した印象でした。
「えー、これポップなんだ?Roska(“D.P.D.G.”の共作者)とか超ディープだと思いますけどね。“ふぉえば✌️”はたしかにちょっとポップかもしれない。こっちはKERO KERO BONITOのGus Bonitoがやってくれました」
――「D.P.D.G.」とは“ドープな駄菓子”ですか?
「そうですそうです。沖縄に行ったとき、なんか鼻から吸う白い粉みたいな駄菓子をもらったんですよ。サトウキビの粉みたいな。すげえドープな駄菓子だなって思って。でも、私の音楽ってそうだなっていうか、私がやりたい音楽的な部分でのコンセプトってそこ。手に取りやすい、わかりやすい。一見チープ、インスタント、ハードル低い。それって、ストリート・カルチャーの基本だと思うんですよね。誰でもできる、だけど一歩入ったら、あれ?何これ?てか“ソーダ餅”ってどういうこと(笑)?なんかそういう駄菓子のありかたって理想なんです。私のスタンス、音楽的にこうありたいという。だから、駄菓子愛っていうよりは、駄菓子という存在についての曲かな」
――なるほど。ちょっと油断させておいて、ただ安いだけのものではないぞっていう?
「そうですね。ナメてかかったら病気になるよっていう感じ。食いすぎたら危ないよって」
――昔の駄菓子って、サッカリンとかチクロとかいろいろ入っていましたし。
「そういう部分も意識しました。私は、誰が聴いても安心っていうものではないところを描いていると思うから。人が生きる上でどうしても出てしまうアクみたいなところを書くし。ていうか、そこを書きたいので」
――わかりました。まだまだ全曲には触れられていないし、一度のインタビューでは、なかなか語り尽くせない非常に濃密なアルバムだという感を改めて強くしましたが、その意味と価値をじっくり人々にアピールしていきたいですね。
「いやー、私は世の中もっと手ごわいと思ってる。『キメラ』が3枚は必要ですね。日本民謡とか日本の民族楽器とか、そういったものをベース・ミュージックとかヒップホップに、こうやって落とし込んでいくっていう、その第一歩。全然まだ第一歩なんで。このコンセプトで、あとフル・アルバムが2枚は必要って思っています」
――もはや全然スランプじゃなくて、次、その次をすでに見据えている?
「そうですね。たしかに今はスランプじゃないですね、『キメラ』のおかげで。これを世の中に伝えるのはめっちゃ大変だな。いやー、めちゃくちゃヤバいのができたと思ってます」
――まずはライヴ活動、という話になってくるかと思うんですが、アルバム・リリースを受けてのツアーも決定していますね。先日、新しいバンド・セットでのライヴを拝見したら、以前はもっとロック・バンドっぽい、ギターがいてベースがいてという編成だったのが、サンプラー + 女性コーラス + ドラムっていうスタイルになっていました。ドラムも、普通のドラムキットではなく、むしろパーカッションと呼ぶべきセッティングになっていて。それを見ただけでも、ああ、新しいステージだなっていうのが一目瞭然というか。
「そうなんです。自分でも必然感じます。来るべくして来たなあって」
――バスドラを、日本の大太鼓みたいに高い位置に置いて。あれは今回のコンセプトに合わせて考え出したアイディアなんですよね。
「あれはドラマーの子のアイディアです。バンドってゴールがないんで、もっともっとって探し続ける旅なんです。私がやっている音楽はずっとミクスチャーですけど、ライヴのときに普通の形態だとどうしてもロック色が強くなっちゃうところが、表現したいサウンドとズレてきて。ちょっとずつ、民族楽器を増やしていったり、自分が太鼓を叩くところを増やすとか工夫していって。『キメラ』ができたとき、ドラムの子にパーカッションいける?って聞いたら、いけますよって言ってくれたので、よし、パーカッションでいこうと。打楽器ならなんでも大好きだし。『キメラ』ができて、追求していきたいものがよりクッキリした。残りの人生、やることが決まってきちゃってるところもあるしね」
■ 2025年1⽉8⽇(水)発売
あっこゴリラ
『キメラ』
https://nex-tone.link/A00163910
[収録曲]
01. noroshi beat by Taigen Kawabe (Bo Ningen)
02. キメラ beat by 食品まつり a.k.a.foodman, Taigen Kawabe (Bo Ningen)
03. sawanobori beat by あっこゴリラ
04. generations beat by Taigen Kawabe (Bo Ningen), あっこゴリラ
05. danziri beat by Steven's (Kamathhh + DJ Casin)
06. 笑う野良犬の冒険 feat. BSC beat by 荘子it (Dos Monos)
07. human's ham beat by GuruConnect
08. 逆境天使 beat by XLII
09. あとのまつり beat by 小西 遼 (象眠舎, CRCK/LCKS)
10. 髪様 beat by KΣITO
11. 湿煙 beat by knoak
12. 着火 beat by Gimgigam
13. ふぉえば✌️ beat by Gus Bonito (KERO KERO BONITO), Taigen Kawabe (Bo Ningen)
14. D.P.D.G. beat by Roska
15. 10000yen (Taiko remix) beat by Gimgigam
16. magma rave beat by Gimgigam
17. あさいゆめ beat by Bucket Drummer MASA
18. from zero beat by Gimgigam, Taigen Kawabe (Bo Ningen)
[CD]
2025年9月27日(金)発売
https://akkogorilla.stores.jp/items/66efd0255f5ac53c8b818308
■ あっこゴリラ『キメラ』Release Party
はじまりの着火!新年会!
2025年1月17日(金)
東京 下北沢 BASEMENTBAR + THREE
開場 18:30 / 開演 19:00
一般 3,400円 / 学生 2,400円(税込 / 別途ドリンク代600円)
LivePocket
[Live]
AJATE / あっこゴリラ / 民謡ユニット こでらんに~ / 大冒険 / illiomote / RiL / Wang Dang Doodle
[DJ]
珍盤亭娯楽師匠 / judgeman / tsuna
[Shop]
ヘナアート & アフリカ小物販売 長井優希乃
[Food]
BEEF BOYZ
■ あっこゴリラ キメラTOUR
だから祭をするホモサピエンス
https://lit.link/chimeratour
| 2025年2月22日(土)
"AOBA NU NOISE"
宮城 仙台 SHAFT
17:00-
当日 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
[Live]
あっこゴリラ / PICNIC YOU / Ill Japonia(aka Taigen Kawabe from Bo Ningen) / SEND / Waikiki Champions
[DJ]
CASIN / EVOL / heykazma / 髙取信哉 (RAF-REC)
| 2025年3月15日(土)
愛知 名古屋 TOKUZO
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
予約
[Live]
あっこゴリラ / 6eyes
| 2025年3月28日(金)
大阪 南堀江 SOCORE FACTORY
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
予約
[Live]
あっこゴリラ
| 2025年4月18日(金)
東京 渋谷 WWW
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ
[Live]
あっこゴリラ
※ お問い合わせ: SOGO TOKYO 03-3405-9999 (月-土 12:00-13:00 / 16:00-19:00 | 日祝除く)