Interview | ENDON | SWARRRM


円満だった世界を歪ませる

Artwork ©田巻裕一郎

 かねてより節目節目で共演を重ねてきた東京のENDONと兵庫・神戸のSWARRRMが、必然と言うべきスプリット作品『歪神論 -Evil Little Things-』を9月にリリース。ENDONは今年米「Thrill Jockey」からのワールドワイド・リリースが話題となった『Boy Meets Girl』、SWARRRMは日本語ロックとしてのエクストリーム・ミュージックを先鋭化した昨年の意欲作『こわれはじめる』を経ていずれも新曲を1曲ずつ持ち寄り、所謂“洋楽”のカヴァーでサンドして“Made In Occupied Japan”の生産国表示を押印した同作は、両者の親和性と相違を改めて浮き彫りにする内容です。作品のバックグラウンドについて、ENDONから那倉太一さん(vo / 以下 T)と宮部幸宜さん(g / 以下 M)、SWARRRMからKapoさん(g / 以下 K)と原川 司さん(vo / 以下 H)にお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2019年11月


――タイトルについて。“神論”と付されるからにはクリスチャニティとの関連が連想されますが、どのような意図が込めれているのでしょう。両者の“歪神論”をお聞かせください。特にSWARRRMに関して言えば、『偽救世主共』のタイトルをはじめ、ヴィジュアルも含めてキリスト教的モチーフを折々で用いているように思います。

K 「『偽救世主共』というタイトルは、当時ハードコア流のデタラメな正義を振りかざす嘘つきバンドや、利益をバンドに分配しようとしない糞レーベルのくせにシーンに貢献してる風な態度の連中に当てつけたような記憶があります」
T 「そういうことだったんですね。語感とか漢字の存在感として『偽救世主共』のことは確かに想起していました。で、今回の“歪神論”はいわゆる、ユダヤ / キリスト教的な、唯一の神を想定する世界観とはむしろ対峙するものだと思います。様々な“歪神”がいて、その文化体系なので“論”とつけよう!って思ったんです。“歪神”は僕の中で、まあ固有の何かであればなんでもいいんです。なので、むしろ、アニミズム的と言えると思います。だから、例えば、楽曲1曲で神1匹というか、そういう対応です。日本には“神曲”という言葉もありますしね。で、“歪神”て何かってことなんですが、ちょっと遠回りしますけど、昔、何で読んだか忘れましたが、考える、思考というのは、その手前まで完璧に流れていた時間が淀むことだ、っていうのがあって……何が言いたいかと言うと、それだったら、物を創るということは、それまで円満だった世界を歪ませるということ、と言えるんじゃないかと思ったんです。と同時にデミウルゴスという、この世界を、イデア / 天上世界に似せて作ったとされる造物主である神のことも思い出していました。(エミール)シオランに『悪しき造物主』の中で、本物の神は創造などしない、だからこの世を造ったのは下級な神だ、このクソみたい情況が証拠だ、といった具合で責められていたデミウルゴスです。まあ、とにかく、まずはそんな世界観を持ってディレクションしていきました」

――メインタイトルと並べられると、サブタイトルも多分に神学的な“悪”が含まれているように受け取れます。実際はいかがでしょう。Rozz Dyliamsみたいに“Called Love”と続きますか?もしくは無神論と関係がある?黄金期avex traxの可能性も捨ててはいません(笑)。
T 「“Evil Little Things”とは、その名の通り“小さき邪悪なもの”という意味です。これは自分が聴いてきた、喧しい音楽の名曲を、こうあれこれ思い起こす場面を想像しながらつけたんです。あの、“思い出”という単語に対して“ひとつひとつがキラキラと輝いて”って常套句ありますよね。あんな感じで過去に愛でた名曲たちの印象を“小さき邪悪なもの”と呼んでみるというか。実際“歪神論”も“Evil Little Things”も個人的なプレイリストの名前として使っていたことがあります。また、当然ですが、人間の悪意と関連づけています。悪意ある行動ではなく、ただの悪意に大小はあるのか、という問題設定を背景にしています。そんなこと考えていると自分の惨めな悪意も超えていけそうな気がしません(笑)? 例えばそういったような、生を肯定するための方略として、エクストリーム・ミュージックが怒りや悲しみだけでなく、悪意や劣情、許されざるモノ / コトを扱ってきたという側面について、ポリコレに対峙する、とまでは言いませんが、今一度思いを馳せた、というか。ちなみに、アレです、avex traxダジャレは当然そうです(笑)。“全ての小さき邪悪なもの”にしたいですもんね、ほんとは」

――タイトルとアートワークの関係性についてお聞かせください。旧約聖書を経典とする宗教の一部において“Evil”、不浄の象徴として扱われる蛸を素材にしたコラージュは、パレイドリア以上に“人間”、それも弱者を想起させると同時に、唯一者〜超人〜ポストヒューマンの過程も思わせます。大野雅彦さんとはどのようにコンセプトを擦り合わせたのでしょうか。
T 「さっきまで話していたようなことを考えながら、大野さんにタイトルをお渡ししました。海外リリースするのは折り込み済みで、明朝体で“歪神論”と記したいな、僕が思う創元SF文庫と角川ホラー文庫の表紙を混ぜたようなものにしたいな、とは考えていました。CDのジャケなのに、どこか文庫本の装丁を感じさせるようなものにしたくて。それで、大野さんが、何回かのやりとりの中で、それこそ造物主として突如創造してくださったんですね、あの2体を。僕はあの2体を“人間のように負傷しているクトゥルフ”だと思いました。クトゥルフは人間には計り知れないパワーを持った支配者とされているじゃないですか、なのにヒトのように戦争から負傷して帰還したようにも見えるし、片方は人間のように悶えているようにも見えます。彼ら2体が、そういう矛盾と奥行きを大野さんから与えられた境界線上の存在だと気付いた時には嬉しかったですね。大きく世界観が膨らんだ気がしました」

――インナーの内側に描かれた072さんのピースや、田巻裕一郎さんによるトレイラー(店舗特典のキラキラシールも)素晴らしいです。それぞれ、どのように主題と関わる意味を持つのかを教えてください。トレイラーに関しては、「THE M/ALL」の“100 VOTE T-Shirts PROJECT”でENDONと田巻さんが制作した『Doubt Yourself』や、2017年のフル・アルバム『Through The Mirror』との関係が気になっています。
T 「072のアートワークと田巻の映像に表されたこの2体の歪神において、共通したテーマは顔の歪みと美醜についてです。2人のアートワークはどちらも、この切り取られた瞬間以外の場面において、より美しい状態、というか、より均整・均衡のとれた状態を想像させます、即ち歪みの場面なのです。072は“叫ぶマネキン”を描くことで、田巻は顔面への手術 = 美容整形手術を強く意識させることで、顔面というフィールドにおける歪みを扱っています。過去作品の中に歪神をみつけることも勿論可能ですが、今回に関してはとにかくビックリマン・シールのようなスタイルで歪神を紹介していってる感じです」

――“Made In Occupied Japan”の刻印について。僕自身は事実を象徴的に記しているにすぎないと感じますが、反射的に『玉砕放送』(HG Fact, 2004)がフラッシュバックする人は多く存在する気がします。SWARRRMの在り方は、本作『歪神論 -Evil Little Things-』がENDONとのスプリットであると言う事実はもちろん、活動の端々から窺えますが、めちゃくちゃ正直に言うと、いち聴者として『玉砕放送』に全く決着がつけられていません。あの作品に対する見解もお聞かせいただけると嬉しいです。
K 「あの作品は出た当時、僕らと同世代や年上の方々からの評価はすごく高かったのですが、ハードコアに限定的なイメージを刷り込まれた世代からは拒否された感があります。あの歌詞から(藤本)修羅君のサービス精神(ユーモア)を汲み取れない方も大勢いたようです。“表現の自由”。我々のような音楽を作るものにとって大事なのでは。(ハードコアの)教科書から外れると攻撃の対象、正にここにも社会の縮図。ファシストを糾弾したつもりが、自分がファシストになっているなんて、最高に人間らしいですが。僕の見解としては、企画者である僕の目論見をはるかに上回る素晴らしい出来だったと記憶してます」
T 「難しい質問ですね、前提的なことについて話してもいいですか?日本人には、もはや個人レベルでは意識されなくなったほど浸透したと言える、敗戦の否認、という大きな歪みがあると思うんです。“Made In Occupied Japan”はそういう歪みの下で産み出された、という意味なんです。生産者として産地の特性を明記しているわけです。一応説明しておきますけど、“Made In Occupied Japan”というのは、“占領下の日本製”という意味で、第二次世界大戦後の1947年からサンフランシスコ講和条約が発効された1952年まで、日本からの輸出品に表記が義務づけられた文言です。日本がアメリカのケツ舐め国家、あ、いや、宮台真司嫌いなのにこの言い方しちゃった(笑)、えーと、そういった政治 / 外交的な関係性を端的に表現してるのも勿論なんですが、喧しい音楽がなにかしら力を誇示するものならば、その主体の意志作用は構造的にはどうしたってアメリカに対して“ヤラれながらヤっている”状態にならざるを得ないんだと考えています。しかし、そういった構造を持っていることで、恍惚にアクセスしやすいとも考えています。『玉砕放送』も本質的にそういう面を持っている作品だと感じています」

――本作の特徴のひとつである“白人が作ったロック”のカヴァーについて。当然、ロックは黒人が作ったものと認識しているのですが、やはり本作での“白人が作った”には“黒人から鹵獲した”の意味も含まれているのでしょうか。カヴァー・アートから僕が感じた“弱者”、マイノリティのイメージとも関係があれば、教えてください。
T 「黒人がロックを作った、というのは僕らにとっては考古学的な次元です。R&Bやブルースは黒人が生んだものかもしれません。しかし、それらがロックになるためには、R&Bやブルースの中に含まれる共通の強度を発見して“ロック”と名づけて消費する視線が必要です。だから、ロックの生みの親は白人の消費者だと思うんです。一般的にもロックの親をLittle RichardやChuck Berryその人でなく、彼らをラジオで紹介して流行らせたAlan Freedとして紹介するパターンがありますよね。そういう土壌から出てきた白人によるビートブルース歌謡、即ちTHE BEATLESとTHE ROLLING STONESが日本人にとってのロックでしょ、という大前提、即ち、終戦後最初期に生まれたベビーブーマーが享受したロックの時代が我々にとっての公式なロック史のはじまりとされていると思います。例えば、僕が子供の頃に親に買ってもらった『クラシックロックガイド』みたいな本に載っていた黒人のグループといえば、SLY & THE FAMILY STONEとPファンク周辺くらいでした。この国で生きてきたそういう実感も関係していると思います」

ENDON / SWARRRM '歪神論 -Evil Little Things-'

――カヴァー曲、“原型を留めていない”という意見はもっともだとは思いますが、僕個人はとても原曲のムードに忠実であると感じました。「Cosa Nostra」はJohnny Thunders楽曲の中でも極めて風変わりな部類ですが、Thundersは自身のバックバンド名や様々なアレンジでの演奏も含め、このマフィアのイメージを長く使い続けましたよね。ENDONらしい選曲かつ、ENDONらしくそのムードを再現していると思いました。SWARRRMの2曲は、原川さんのヴォーカルに引っ張られてHELLCHILDのカヴァー集を思い出したりしましたが、Rie Lambdollさんのスリージーなコーラスと相まって、とても遊び心のある仕上がりが楽しかったです。それぞれの楽曲のアレンジにあたって考えたアイディアを教えてください。
K 「苦肉の策です」
M 「曲を聴いてアイディアが湧くかどうかで選んだので、あくまで取っ掛かりでの話ですが、前半はESP-Diskのインダストリアル解釈って感じで、ベースラインは機械仕掛けで固定のBPM。そこにフリーテンポのツイン・ドラムのコラージュ、2つを繋ぐためのギターで曲の土台を作っています。それから、コラージュと歌を乗っけてもらいました。後半はロックンロールとグラインド、あと響きの面でブリープっぽさを。原曲で言うと曲中で1回止まった後にギターのストロークが速くなるんですが、そのグラインド・アレンジです。あくまでカヴァーということで、ギターのチューニングは原曲と同じで、大きくはコード進行も前半と後半は同じです。曲の中に複数の時間があって、それがひとつになってゆくイメージでまとめました」

――それぞれの新曲について。SWARRRMは『こわれはじめる』での驚きを納得に変える説得力を、また異なるかたちで示しているのが衝撃的です。ENDONは『Boy Meets Girl』に近い構造でありながらも、もっとコールドでユーロっぽく仕上げていて、現在のモードを察することができますね。長年お互いを確認し続けてきた間柄から見て、それぞれの曲にどんな印象を持っていますか?
K 「集中力、構成力、発想力がずばぬけている。演奏に貫禄がありすぎる。録り音が素晴らしすぎる。意味不明さを退屈な方向でなく、期待感に向けることに成功している」
T 「『I WANNA BE YOUR DOG』は僕の中にある洋楽を唄うという意識に訴えかけるものがあってスゴイなって思いました。『涙』は聴かせていただいたいたときにすぐ、いい曲を選んでくれたんだってわかってスゴく嬉しかったです!」

――シンプルなバンド原理ゆえに特異な両バンドのスプリットとしてはもちろん、すごいヴォーカリスト(幼稚な表現でごめんなさい)の顔合わせという面でも興味深い内容になっていると思います。いずれも日本語の歌詞を用いているとはいえ、太一さんの“叫”、原川さんの“謡”という違いも明確になっている気がしました。お互い、太一さん、原川さんの魅力をどう捉えていますか?
K 「司君は人間力を歌にのせる能力が素晴らしい。那倉君は瞬発力がすごい。全身をうまく使って声を出してる。2人に共通しているのは、やはり体力が素晴らしい(体力のないハードコアは惨め)」
M 「んー、そんな難題を……(笑)。ツカサさんもタイちゃんも今活動していて、2人とも常に変わってゆくので、僕の視点から2人の魅力を説明するなんてキャパオーヴァー過ぎて言えないっす(笑)。んー……うまく言えないですけど、2人はデルタとシカゴくらい違うんで、だからこそ今回のスプリットも成立していると思います」
H 「(那倉太一は)自分のやり方を歌に表すことができる人」

――とても充実した作品なのですが、欲を言えば、正直、もう1曲ずつくらい聴きたかったです(笑)。再度の組み合わせについて、両者でお話されたりしていないですか?
K 「ENDONとならまたやりたいですね。今回も時間さえあれば、もっと限定的なルールやテーマで縛ってやりたかったのが正直なところです」

ENDON Official Site | http://endon.figity.com/
SWARRRM Official Site | http://www007.upp.so-net.ne.jp/swarrrm/

■ 2019年9月25日(金)発売
ENDON / SWARRRM
『歪神論 -Evil Little Things-』

DYMC-333 1,800円 + 税

[収録曲]
ENDON
01. Cosa Nostra (Johnny Thunders)
02. Constellation For Triumph
SWARRRM
03. 涙
04. I Wanna Be Your Dog (THE STOOGES) / Steppin’ Stone (THE MONKEES / SEX PISTOLS etc)