Interview | DJ HOLIDAY | 今里 (STRUGGLE FOR PRIDE)


肩肘張らない音楽との接しかた

 2018年にAriwa音源を使用したミックスCD『Ariwa’s Tunes From My Girlfriend’s Console Stereo.』を発表し、2019年には続編『Still Listening To Ariwa’s Tunes From My Girlfriend’s Console Stereo.』をリリースしている今里(STRUGGLE FOR PRIDE)のDJエイリアス・DJ HOLIDAYが、1960年代後半から現在にかけて多くの作品を送り出している英レーベル「Doctor Bird」にフォーカスした『Flipping Many Birds. “Selected Tunes From Doctor Bird”』を今年8月にリリース。世界初CD化音源を含む、同レーベルの魅力をナチュラルにパックした内容です。なお12月には、現在Doctor Bird音源のハンドリングも担う名門「Trojan Records」のリイシューをDJ HOLIDAYが監修した『不死身亭コレクション -TROJAN ORIGINAL ALBUMS-』シリーズ6タイトルも発売されています。

取材 | 小野田 雄 | 2020年


――Mad Professor主宰レーベルAriwaの音源のみを用いた昨年のミックスCDシリーズ『Ariwa’s Tunes From My Girlfriend’s Console Stereo.』に続き、今年8月に発表したDJ HOLIDAYの『Flipping Many Birds. “Selected Tunes From Doctor Bird”』は、ロックステディの名曲をはじめ、多数の良質な作品をリリースしてきたレゲエ・レーベル、Doctor Birdの楽曲のみで構成した作品です。レゲエ関連作品のリリースが続いていますが、まず、レゲエとの出会いについて教えてください。

 「80年代後半くらいにスケートでレゲエが流行ったときがあって、スケートのビデオでレゲエがよくかかっていたり、ハードコアでも、BAD BRAINSのH.R.がソロでレゲエ・アルバムを出したり、レゲエに傾倒した時期が一瞬あって。VIOLENT GRINDのちょっと上の人たちもレゲエを聴いていたので、俺もそれを真似して聴くようになったのが最初ですね。当時、ZOO(* 1)の木曜日によくかかっていたスカは、自分が高校生だったこともあって、夏休みっぽい、甘酸っぱい記憶があったり、ZOOや90年代初頭の東京の夜のイメージが思い浮かぶんですけど、聴き初めた頃は、映画『ハーダー・ゼイ・カム』のサントラやVIOLENT GRINDで謎に流行ってたEek A Mouse、あとZiggy Marleyとか、そのあたりの作品を聴いて、ステレオタイプなイメージでレゲエを捉えていました」
* 1 東京・下北沢 | pre-SLITS | 1995年閉店

――その後、ステレオタイプなイメージが覆っていったと。
 「そうですね。ただ、何か具体的なきっかけがあったというより、じわじわ変わっていった感じかな。その後もレゲエのレコードは常に聴いていたけど、ハマったというより飛び飛びという印象で、例えば、サンフランシスコに移住した友達の引っ越しの手伝いをした時、借りた車を返しに行く道すがら音楽がかかってて、“これ誰?”って訊いたら、Byron Leeで。その旅先でByron LeeのCDを買って聴いたりとか、2001年にリリースが始まった『RELAXIN’ WITH LOVERS』(* 2)とか。あと、下北周りだとクボタ(タケシ)くんがスカをかけるようになって、俺が鮮明に覚えているのは、クボタくんがDJしてるってことでMIX(* 3)の階段を降りていったら、BLITZの“Razors In The Night”がかかってて、思わずぶちアガったんですけど(笑)、そういう曲とスカを混ぜてかけたりとか」
* 2 Sony | ラヴァーズの名作コンピレーション・シリーズ
* 3 東京・青山 | 2005年閉店

DJ HOLIDAY

――UKのクラブ・ミュージックの根底には常にレゲエ / ダブがありますし、そこから派生したり、掘り下げるかたちで、東京の遊び場にはスカやレゲエ / ダブが常に身近にありましたよね。
 「その後、NAKATANIさん(THE CRACKER JACKS)やDETERMINATIONSをはじめ、大阪で知り合ったかたたちのレゲエの捉えかたを知ったことがきっかけになって、完全にレゲエにハマっていたんですけど、大阪の人たちにとってのレゲエは、“夏だ、レゲエだ”みたいな、世間におけるイメージとは対極にあったというか、自分がZOOやVIOLENT GRINDを通じて知った緊張感のある尖った音楽としてのレゲエと近いものを感じて、そこにヤラレちゃったんですよね。あと、東京でもSHUFFLEっていうバンドのボーカルのWOODさんが2000年代頭には、DJの時にNate DoggとRoland Alphonsoを一緒にかけたりしてたんですけど、そういう音楽に共通点を見い出せていなかった自分には衝撃的だったし、今だと宮田(信 | MUSIC CAMP, Inc.)さんがチカーノ・ソウルとロックステディの親和性の高さを提示していたり、そういう視野の広いルードボーイ・ミュージックの認識は世界共通のものになっていると思うんですよ。例えば、カリフォルニアのソウル・グループがチカーノ・ソウルとロックステディを普通にやっていたりとか、それぞれのローカル・シーンに共通点があっておもしろいんですよね」

DJ HOLIDAY

――今だと、そこにJohnny Cashに象徴されるようなアウトロー・カントリーが混ざっていたり、ルードボーイ・ミュージックの捉えられかたが進化しているというか、あるべき姿で捉えられるようになってきていますよね。
 「埼玉・蕨の連中がまさにそういう感じで、Johnny Cashとレゲエを一緒にかけたり、他の音楽との共通点を見い出しているんですよ。そもそも、レゲエという音楽自体が海外の音楽の影響を受けて成長してきた音楽だから、根底に流れるものが一緒だったり、共通した要素がある音楽とはやっぱり親和性が高いですよね」

――特にレゲエは同時代のアメリカの音楽からの影響が大きかったりしますからね。
 「以前、NAKATANIさんからいただいた本『Young Gifted And Black: The Story Of The Trojan Records』を、英和辞書を引きながら読んだんですけど、そこに書かれているレゲエの歴史をアメリカの音楽の歴史と照らし合わせてみると、すごくおもしろいというか、ジャズやR & B、ソウル、ディスコだったり、いろんな辻褄が合うんですよね」

――そうした背景を踏まえつつ、Doctor Birdは今里くんにとって、どんなレーベルなんですか?
 「レゲエって、レーベル、サブレーベルがいろいろあるし、同じ曲がいろんなレーベルから出ていたり、その関係が複雑というか、わかり難かったりするし、そのわかり難さがレゲエを掘り下げるうえで、おもしろい要素だったりするんですけど、自分にとってDoctor Birdは意識してレコードを集めていたレーベルではなく、気付いたら手元に集まっていたレーベルという感じですかね」

DJ HOLIDAY

――オーナーのオーストラリア人、Graeme Goodallさんは、Island Recordsの共同設立者というのはよく知られた話ですけど、もともとは、ジャマイカの2つラジオ局を立ち上げた録音技師で、地元の音楽の録音を皮切りに、のちにTuff Gong Studioに発展するFederral Studio設立をはじめ、Studio One、Byron LeeのDynamic Studio、Channel Oneといったレコーディング・スタジオ設立時にアドヴァイザーを務めたエンジニア畑のかたなんですよね。レゲエ界の超重要人物でありながら、隠れた英雄と呼ばれていたり、個人的にはビジネスマンというより現場を熟知した音楽人という印象があります。
 「そうなんですよね。リリース・タイトルから受ける印象として、みんな、こういう音楽が好きなんだろうなって考えて、作品をリリースしていたような、その音楽を必要としていた人々の顔が見えていたレーベルなのかなって思っていて。ただ、このレーベルから出ていた曲が別のレーベルからも出ていたり、レゲエ特有の関係性がわけわからなすぎて、周りの人に聞いたりしながら、レーベルの歴史を徐々に知っていったという。リリース・タイトルのなかには、所謂レアな作品もあったりするんですけど、NAKATANIさんが主宰する“不死身亭”は、一般的な価値と自分たちにとっての価値は違うというか、ものの価値は自分たちで決められるというのが基本だったりするので、今回のミックスCDを制作するにあたっても発掘作業というより、そのへんにとまっている虫を捕まえるような感じでした(笑)」

DJ HOLIDAY

――はははは。要するに、コレクター的な観点で作られたミックスCDではない、と。
 「そうですね。持っていないレコードは先輩から借りたりもしつつ、自分が持っているレコードをベースに選曲したんですけど、そのレコードにしても人からオススメされて買ったものとか、人からもらったり、まとめて託されたレコードのなかの1枚であったりとか、そうやって出会ったレコードもあったりします」

――内容的にも、ロックステディを軸にしつつ、スカがあったり、スキンヘッド・レゲエがあったり、それこそ、1曲目のJOE WHITE AND CHUCK WITH BABA BROOKS BAND「Every Night」に至ってはリズム & ブルースだったり、Doctor Birdがリリースしてきた多彩な作品を網羅していますよね。
 「1曲目はレーベルのファースト・タイトルで、早い段階からこの曲を1曲目にしようと考えていたんですけど、非常事態宣言以降、宮田さんがブッキングをやってる代官山の晴れたら空に豆まいてにDJで呼んでもらう機会が増えて、あるとき、DJをしているときに自分のスタイルがなんとなくわかった日があったんですよ。それがどういうものかというと、自分のDJは導入部が長い、みたいな(笑)」

DJ HOLIDAY

――つまり、冒頭から「レゲエのミックスCDです!」という選曲にはしたくなかった、と。
 「そう。作品の構成としては、色んな年代の曲を入れたかったので、曲調に幅が出たということもありますし、昨今のカリフォルニアから出てきているような、表はレゲエ、裏はチカーノ・ソウルだったりする7inchとも通じる感覚……今はそれを意識的にやっていると思うんですけど、当時はただ好きなものを表裏でやっていただけであって、今の視点で捉え直すと過去の音楽にもおもしろい混ざりかたをした曲がたくさんあるなって」

――例えば、17曲目のBruce Ruffin「O-O-H, Child」はシカゴのソウル・グループ、FIVE STAIRSTEPSのカヴァーですけど、このカヴァー曲はオリジナルが出た1970年にリリースされたものだったり、当時のシーンを俯瞰で捉えると、その時々のクロスオーヴァー感覚が垣間見えるという。
 「そういう状況を照らし合わせるとおもしろいですよね。FIVE STAIRSTEPSのヴァージョンは、映画『クルックリン』(* 4)で主人公のお母さんが亡くなって、葬儀に行くシーンでかかるんですけど、自分の母親が亡くなった年にその映画を観たこともあって、個人的に思い入れが深い曲だったりもするし、Bruce Ruffinのヴァージョンもオリジナルに負けず、すごくいいなって」
* 4 スパイク・リー監督 | 1994

DJ HOLIDAY

――音楽的にも、ロックンロール・シンガーBuddy HollyのドリーミーなバラードをファンキーにアレンジしているDandy Livingstone「Raining In My Heart」であったり、THE ROYALETTESのR & B名曲を取り上げたKen Boothe「It’s Gonna Take A Miracle」であるとか、カヴァー曲はアレンジのアプローチも楽しみどころだったりしますよね。
 「Dandy Livingstoneのヴァージョンは、オリジナルとニュアンスが違っていて、アレンジの仕方がスタイリッシュで、粋な仕上がりだと思うんですけど、カヴァーは原曲を知っているとより楽しめますよね。あと、ジャマイカの音楽にはなんでカヴァーが多いのかというと、大阪のかたがた曰く、ジャマイカ人は気が強いから、いい音楽を聴くと“俺らのほうが上手くできるでしょ”って思うらしく、それでカヴァー曲が多い、みたいな。作者への敬意というより、勝ち負けの世界っていう(笑)」

DJ HOLIDAY

――はははは。そういうラフな一面もレゲエの魅力だったりもしますし、この作品も甘い曲ではじまり、THE VALENTINES「Blam Blam Fever (Guns Fever)」という物騒な曲で締め括っているところにレゲエの多面性が感じられるし、DJ HOLIDAYらしいマナーでもあるという。
 「はははは。ありがとうございます。その曲は、2006年くらいだったか、Joji Nakamuraくんていう友達と、栃木にPAYBACK BOYSのライブを観に行った車中で聴いていたTrojan Recordsのコンピレーションに入っていて、“なんて物騒な曲なんだ”って思ったんですよ。今回、選曲していて、この曲で描かれているシチュエーションが今の東京の状況とも似ているような気がしたし、こういうゆったりした曲調で物騒なことを歌っていたりするところが、Gファンクにも通じるところがあるというか、魅力があるなって」

――屈強な男がメロウな楽曲で泣き言を言う歌であったり、ゆったりした曲調で物騒なことを歌った曲であったり、そういうコントラストが楽曲の強度に繋がっているという。
 「自分の中で拳銃と失恋がトピックになっているという意味で『Music To Driveby』(CMW)とかと変わらないというか。あと、作品全体も前半は失恋の歌で、後半は恋の歌という流れになっているんですけど、曲の並びで作品全体のストーリーを作ることで、自分の気持ちが入るし、聴くときに想像が膨らむんじゃないかなって」

――ヒット曲、レア曲の詰め合わせは、まぁ、それはそれでいいんでしょうけど、コンピレーションやミックスCDのいいところは、音楽をぐっと身近に、深みを与えてくれる流れやストーリー性、パーソナルな思いや視点ですよね。
 「例えば、大阪のDrum & Bass Records主宰のレーベル、Rock A Shackaが2000年代に入ってからスタートしたコンピレーション・シリーズとか、希少価値に関係なく、いい曲を知れる、聴けるコンピレーション・アルバムが大好きなんですよね。レゲエの歴史的にもTrojan Recordsがコンピレーション・アルバムを薬局や駅の売店で売って、当時の若者が買っていたという話があって、そうやって音楽を敷居の高いものではなく、生活に密着したものとしてみんなが楽しめるようにすることは意味があることだと思うんです。だから、今回、自分が選曲するにあたっても自分が好きな曲、いい曲だと思うものをチョイスしたんですけど、その作業が楽だったというか、楽しかったし、肩肘を張らない音楽との接しかたを許容してくれるDoctor Birdは、良いレーベルなんだなと改めて思いましたね」

Trojan Records Official Site | https://trojanrecords.com/

DJ HOLIDAY 'Flipping Many Birds. "Selected Tunes From Doctor Bird"'■ 2020年8月12日(水)発売
DJ HOLIDAY
『Flipping Many Birds. “Selected Tunes From Doctor Bird”』

CD OTLCD5231 2,300円 + 税

[収録曲]
01. Every Night
02. Your Photograph
03. The Loser
04. Raining In My Heart
05. Here Comes The Night
06. I Can’t Forget
07. Walk The Streets
08. Born To Love You
09. Falling In Love (With You)
10. It’s Gonna Take A Miracle
11. Anything You Want
12. Cool Night
13. Sentimental Reason
14. Love Me Tonight
15. Cocktails For Two
16. More Love
17. O-O-H Child
18. Christmas Time Again
19. Blam Blam Fever (Guns Fever)