人生の宝を見過ごせない
世界は悲しみや困難に満ちているが(CAVE INが前回来日時に共演したバンドであるPOWER TRIPのRiley Gale、ENDONの那倉悦生も亡くなってしまった……)、生き延びた者はいっそう力強く真摯に、そして楽しく生き続けていくしかない……そのためのエネルギーを『Heavy Pendulum』は聴く者へと分かち合ってくれる。
CAVE IN以外にも様々なプロジェクトでフル回転の活躍を見せているStephen Brodskyのインタビューを、以下にお届けしよう。
取材・文 | 鈴木喜之 | 2022年5月
通訳・翻訳 | 竹澤彩子
Photo | ©Jay Zucco
――2020年2月に「leave them all behind」で来日した後、コロナ禍で世界中が大変なことになってしまいましたが、この間にはCAVE INだけでなくMUTOID MANでも活動し、さらにQUICKSANDのツアーやCONVERGEの『Blood Moon I』にも参加するなど、極めて多忙に過ごしてきましたね。あなたにとって、ここ2年はどのような時期だったでしょうか?
「僕には音楽があったおかげで、忙しくしていられてラッキーだったよ。友達みんなおもしろいことをやってるから、どれも断ることができなくてさ。自分でも楽しませてもらってるし、関わったどの作品も誇りに思ってる。今挙げてくれた他に、“Two Minutes To Late Night”っていう番組(CAVE INとEVERY TIME I DIEとのカップリングも昨年1月に配信)を通して、パンデミック中もライヴの代わりに、音楽ファンや共演者をたくさん楽しませることができたとも自負してるんだ。すごくクリエイティヴでふざけていて、普通だったらあり得ないアーティスト同士のコラボレーションを実現できた。それも、ツアーがなくなって、世界中のミュージシャンのスケジュールが白紙になったからこそ実現できたことだね。コロナ禍でもいろいろやらせてもらって、エンターテインメントを発信しつつ、自分自身も楽しむことができたのは、とても恵まれていたと思う。CAVE INにとっても、クリエイティヴな期間だった。今度のアルバムは、ロックダウン中に曲を書き始めて完成させてるから。たしかに、パンデミックで大変そうな人たちを見ると辛かったけど、自分の場合はやることもたくさんあったし、それで乗り越えることができたんだ」
――さて、CAVE INの最新アルバム『Heavy Pendulum』の完成、心から嬉しいです。70分超の大作となりましたが、やはり創作意欲が活性化し、どんどん曲が出てきて自然にヴォリュームが増えたという感じだったのでしょうか?
「そうだね、メンバー全員が同じ気持ちでスタートラインに立って曲を書き始めたような感じで、またCAVE INとしてアルバムが作れるっていうことにテンション上がってたし、そこから自然に音楽が湧き起こってきたんだ。それに、コロナのせいでみんな予定が白紙になってたから、今回はストッパーなしの状態だったね。こんなの何10年ぶりっていうか……自分は10代後半から年中ツアーに出ている生活をしてきてたのが、ゴッソリ予定がなくなって、初めてライヴやツアーについて一切考えない日々を経験した。それはそれで新鮮だったし、せっかくだからこの機会を有効活用しようと思ったわけ。だから、これだけたくさんの新曲が溢れんばかりに湧いてきたんだろうね」
――コロナ禍でのソングライティングはどのように進められたのですか?バンド4人の共同作業によって作り上げた作品というイメージを受けるのですが、全員が集まる機会はうまく調整できたのでしょうか?
「それが、うまいことできたんだよ。僕が作ったデモをバンドでシェアして、そこから気に入ったものをピックアップしてから、一緒に集まる計画を立てたんだ。今回の作品には、それがベストだと思った。このバンドの作曲プロセスにおいて、デモは起爆剤というか、みんなを興奮させ、やる気を出させる役割を果たしてるんだけど、たとえ最初は1人の作業からスタートしたとしても、今回の曲を形にするには全員が一堂に介して音を出すのが一番だと考えたんだ。当然、特殊な状況で……Adam(McGrath)とJR(Conners)なんか高校生の頃からの付き合いなのに、同じ空間にいることがなんだか違和感というか、お互いどう振舞っていいのかもわからないみたいな状況だった。まだコロナの初期段階で、何が正しい情報かもわからず、どういう距離感を保っていいのかわからなくて、妙にソワソワしてたよ。それに慣れるまでは少し時間がかかったけど、何度か練習を重ねていくうちにグルーヴが出てきて、そこから繋がっていくことができたけどね。あと、普通はスタジオでヴォーカルを録音するんだけど、歌うときに飛沫が飛ぶからっていうことで、プロデューサーを務めてくれたKurt Ballouの意向を尊重して、今回はリハーサル・ルームで録ったんだ。そうやっていろいろと作業を進めていく中で、最初はたしかに不安もあったけど、その都度変化に適応していけたし、実際にやりきることができたから、今後の自信にもなった。パンデミック中に思ったのは、こうやってみんなが集まって、音楽という目標に集中し、共に時間を過ごす経験が、いかにメンタルを健康な状態に保つのに役立ったかっていうこと。曲作りに集中することで、パンデミックの不安や恐怖について考え込まずに済んだし、音楽によって精神を安定させていたというか、そこだけは日常生活に戻ったような気持ちでいられたんだ」
――先ほど言われた通り、今作は1stアルバム『Until Your Heart Stops』(1998)以来となるKurt Ballouのプロデュースで、現GodCity Studioでのレコーディングとなりました。制作現場で特に印象深かったことは?
「そうそう、CAVE INにとって、GodCity Studioがオールストンからセーラムに引っ越してからは初のレコーディングなんだよね。あの感じの規模で、再びKurtと一緒にアルバム作りができたのはとてもよかった。メンバー4人中3人がマサチューセッツに住んでいたから、ロケーション的にも理に適っていたしね。Kurtもプロデューサー / エンジニアとして相当気合いを入れて臨んでくれて、向こうからもガンガン積極的にインプットをしてくれた。彼はやっぱりCAVE INと相性いいんだなあって思ったよ。今回のアルバムが僕らにとっていかに重要な作品かってことをわかってくれてたから、まるで自分の作品みたいにコミットしてくれたしね。久々のスタジオ・アルバム、しかもNateが入って初のアルバムになるわけだし。KurtとNateとCAVE INっていう組み合わせには、向こうも相当テンション上がっていたんじゃないかな。お互い同じレベルの気合いとテンションで挑んだわけ。その結果、これだけ素晴らしい作品にできたんだと思う」
――アルバム冒頭を飾る先行シングル「New Reality」のMVからも、コミカルに演出されつつ、レコーディングの熱気が伝わってきますね。このビデオのアイディアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
「もともと友人でもあるフォトグラファーの発案で、GodCity Studioで撮影しようっていうことになったんだけど、最初は別のストーリーで、実はKurtをもっと全面にフィーチャーする予定だった。ロックダウンのせいもあって、彼の髪が伸び放題だったから、まさにマッド・サイエンティスト的な風貌になってたし(笑)。でも、撮影中ちょうどKurtがめちゃくちゃ忙しくてさ……なんでかというと、MUTOID MANのアルバムをミックスしてたからなんだけど」
――それは邪魔しちゃいけませんね!
「そうそう、そっちに集中してもらわないと(笑)。とにかく、あのビデオを撮っていたとき、GodCity Studioの雰囲気は超最高だった。MUTOID MANのミックスとCAVE INの撮影が同時進行で行なわれていたから、NateにもMUTOID MANのアルバムにゲスト参加してもらったしね。Kurtのアシスタントが2階でずっと作業をしていて、まるでハードコア・パンクの夢の製造工場みたいな空気になっていたんだ(笑)!あの小さな工房の中でハードコアの作品がフル稼働で生産されていて(笑)、最高にいい雰囲気だったよ」
――この「New Reality」という曲に関して、歌詞の中でCaleb Scofieldに言及してる部分があると発言していますが、具体的にはどのあたりでしょうか?
「そう。”New Reality”の歌詞は、もうCalebは地球上には存在していないんだと実感することについて触れている。歌詞の中に、山奥に住んでる老人が出てくるんだけど、それはCalebの地元ニューハンプシャーに実際にあった山のことなんだ。その山は、かつて稜線が老人の顔のように見えて、もうそのかたちは残っていないんだけど、いまだに老人の顔のイメージのまま、地元で愛され続けてるんだよ。そのことが、僕らがCalebに対して抱いてるイメージとも重なってるような気がしてさ。 彼は他のメンバーより少しだけ年上で、兄貴みたいに慕われていたからね。あと、あの曲に登場するリフの一部は実際にCalebが書いたものなんだ。まだ彼が生きてる頃、『White Silence』(2011)を作っている最中にジャムしてたとき出てきたリフで、ずっと寝かせておいたものを使ってる。今までずっと気にかかってたリフだったから、今回ようやく日の目を見せることができて嬉しいんだ。新作のための曲作りを開始したとき、この曲が何かのきっかけを作ってくれる気がしたんだよ。だからこそ、歌詞の面でもCalebに捧げる内容にしたかった。実際に彼が書いたパートと織り交ぜることができたのも感無量だったね」
――続く2曲目「Blood Spiller」は、このバンドとしては、 初めて社会問題に言及する歌詞となったそうですね。
「これは誰にでも、ある程度は共感してもらえると思うけど、過去4~5年の間に政治があまりにも欠陥だらけだったせいで、世の中で起きていることに対して、とうてい無関係のふりはしていられないよね。自分もトランプ就任以降、これまでにはなかったくらい政治に関心を持つようになったんだ。 あんなにも政治にまるで関心のない人間が、アメリカという国で最も重要な立場に就いているなんて、どれだけクレイジーなことか……もう恐ろしくてたまらなかったよ。ただ、自分はそもそも一介のハードコア・パンク・ミュージシャンで、政治について何ができる?って感じではあるんだけど。自分にできることがあるとしたら、政治の世界で今いったい何が起きているかを学んで、何故こんなことになってるのか理解を深めていくことくらいなんだよね。自分たちが今、なぜこういう状況に置かれてるのか知識を持つことで、自分をガードすることはできる。“Blood Spiller”では“人々の恐怖を煽ることで、それを自分の武器にしている人間について、あるいは自分の政治的な立場を強くしている人間”について歌ってる。過去4~5年間、もっと正確に言うと 2016年から2020年の間には、ただただ憤りしかなかった。人間が日々普通に生きていくだけでも数々の不安や恐怖を抱えてるのに、これ以上、世の中に恐怖を植え付ける必要なんかないっていうのにさ。そうした政治的な力のために利用された不安や恐怖によって、社会や家族や友人関係にも亀裂が生まれてるし、そこからさらに分断が広がってしまった。だから、今回の作品で政治について触れないまま終わるなんてできなかったんだ。自分たちがアルバムのための作業をしてた2020年には、アメリカ大統領選があり、パンデミックがあり、ジョージ・フロイド事件とそれに続くBLM運動があり、あまりにも多くのことが起こりすぎていたしね。マジで気が狂ってるけど、それが今の現実なんだから」
――わかりました。それにしても、ヘヴィでスペイシー、メロディアスでキャッチーと、まさにCAVE INの集大成であり、同時に新機軸も示しているようなすごい作品となりましたね。
「今回、Nateが入ったことはマジで大きい。そもそもCAVE INが、こうしてバンドとして続いてるのも彼のおかげだし、本当に自分達は幸運だった。Nateは曲作りの段階から関わっていて、もちろんレコーディングにおいても100%コミットしてくれてる。しかも、アレンジャーとしての手腕が優れていてね。僕が作ったデモを強化するアイディアをプラスして、動きを出したり広げたり、場合によっては縮小したり、余計なものをバッサリ切ってくれたり、見事な編集スキルなんだ。そして、ヘヴィ・ミュージック・シーンでも最高レベルの声の持ち主ときてる。あの声が僕らのバンドで使えるってことだけでも相当テンション上がったね。ただ、その逆もまた然りで、CONVERGEや、OLD MAN GLOOMや、DOOMRIDERSではNateがあまり使わない、どちらかと言えばソフトで控え目なメロディを聴かせるための声を出しているから、彼自身にとっても新鮮な経験だったんじゃないかな。ようやくNateの個性を、アルバムのかたちでCAVE INの音に取り込むことができたんだ。それは今作の中で、強烈な存在感を放っているよ」
――たしかに、その通りですね。
「曲作りに行き詰まったときも、彼がいてくれたおかげでものすごく助けられたんだ。75%くらい作ってあった曲に、Nateが新しいアレンジなりパートなりを加えたことで、別の空間が突然バーンと開けたりとかもしたよ。こちらの歌ってるメロディに対して歌い返してくれるんだけど、サビのハーモニーが自分のメロディからはちょっとズレてくことがあってね。そこで自分の歌に合わせて向こうの歌を変えさせるんじゃなくて、Nateに合わせてこっちのメロディを調整すると、もともとのメロディと彼が聴き取ったメロディとの間でハイブリットなメロディが生まれたりして、そっちのほうがよっぽどおもしろかったりするんだ。ある意味、ヴォーカルとメロディと歌詞によるコラボレーションとでもいうか。あと、Nateは歌詞でも貢献してくれていた。Calebが曲のアイディアや詞、イラストなんかを書き留めていたノートを、もし何かの役に立つならって、CalebのワイフがNateに渡したんだけど、その中に未発表の詞を発見して、Nateが曲を書いた“Amaranthine”で使っている。つまり、そこではNateの音楽とCalebの言葉によるコラボレーションが行なわれているわけ。この曲はNateがCAVE INとして初めて書いた曲でもあって、本当に特別な曲なんだ。結果的に、ものすごく独特で、いい感じに仕上がった。どの曲にも色んな紆余曲折や背景が付随していて、そこがまたおもしろいんだ」
――一方「Reckoning」では、Adam McGrathがリード・ヴォーカルをとっていますが、彼はこういうヘヴィ・サイケ調のナンバーが得意ということなのでしょうか?
「いや、ほんとそう思う。“Reckoning”は、Adamがこれまで書いた曲の中でもベストのひとつなんじゃないかな?彼の歌も素晴らしかったし、デモを聴いた時点で今回のアルバムには必須だと即断したよ。しかも後半のあのタイミングに登場するっていうのがまたいいなと思ってる。そこまで約1時間、僕やNateの声をさんざん聴かされた後で、Adamの声がある種の清涼剤的な役割を果たしてるんだ(笑)。実際には、その前の曲でもAdamのバック・ヴォーカルは入ってるけど、あのタイミングで彼のリード・ヴォーカルが登場するのがいいんだ。“Reckoning”は録音に関してもユニークで、JRがロート・トムを叩いてる。彼が前回ロート・トムを使ったのが1997年だから、20年近くの時を経て再びJRのロート・トムが炸裂してるわけ。今回はパーカッションのレコーディングもめちゃくちゃ楽しくて、GodCity Studioの小さな部屋の中で、みんなでガンガン足を踏み鳴らしたり手を叩いたりしたんだ。その途中でJRが、履いていたブーツを脱いで手にはめて、それで床をバシバシ叩き始めたりとか。あとJRは“Reckoning”でシンセサイザーも弾いてる。週末を丸々かけてレコーディングした曲なんだけど、みんなして盛り上がったし、このアルバムに入れることができてよかった」
――ラストを締めくくる12分の大作「Wavering Angel」は、当初MUTOID MAN用に書いたつもりの曲だったそうですが、特定の曲を書き始めた時点で、CAVE INのものになるか、MUTOID MANのものになるかをどのくらい意識しますか?
「前にもそういうパターンになったことがあって、いったいどんな構造でそうなってるのか、自分でもよくわかっていないんだ。ある種のシナリオに従って曲を書き進めていくうちに、どうもしっくり来なくて、別のシナリオを試したらうまくいった、みたいな感じ。トライアル & エラーを繰り返していく中、“Wavering Angel”に関しては、ギタリスト2人のシフトがいいなって発見したんだよね。自分の頭の中にあるアイディアをすべてかたちにするためには……というか、あの曲の全体像をフルに浮き彫りにさせるにはギターが2本必要だった。あと、関わってる人間の熱量によることもある。さすがに43歳になってまで、嫌がる他人を無理やり説き伏せて自分のやりたいようにさせる気力は残ってないんで(笑)。しかも、自分が普段プレイしてる面々の大半は、自らが望んでもいないことに我慢してつき合えるほどの気力がない連中ばかりだし(笑)。だから一緒に演奏してる連中の出方を見つつ、曲を振り分けていく場合もあるよ。“Wavering Angel”に関しては、明らかにCAVE IN組のほうがMUTOID MAN組より反応が良かったから、こっちが正解だな!ってね。実際、CAVE INのメンバーはものすごく興奮してた。盛り上がりすぎて、どんどん曲が長くなって、永遠に続けたいって思ったくらい(笑)」
――さて、今作は、老舗レーベルのRelapse Recordsからリリースされることになりました。彼らとサインした経緯について教えてください。
「Relapseのスタッフの1人が、前作『Final Transmission』のマーケティング担当だったんだ。で、Hydra Head Recordsがクローズするって決まったとき、彼が最初にそのニュースを聞かされたうちの1人だったから、“もし次のレーベルを探してるなら、Relapseが超乗り気だよ”って声をかけてくれてね。そこから話し合いをしたんだけど、とてもいい感じでさ。他にもいくつかのレーベルと話し合いをしてはみたけど、東海岸拠点だという点からもRelapseが完璧だった。ペンシルヴェニアやフィラデルフィアを拠点にしていることは大きかったよ。CAVE INは、そのあたりを中心にライヴをやらせてもらうことが多いし、昔から何かと縁のある、ツアーで毎回盛り上がる地域なんだ。Relapseのスタッフも、所属アーティストとの対バンだったり、純粋にファンだったりして、僕らのライヴに何年も通ってくれていた。そもそもHydra HeadとRelapseには繋がりがあって、以前に共同プロジェクトを起ち上げたこともあるから(CAVE IN『Until Your Heart Stops』2000 Reissue、COALESCE『0:12 Revolution In Just Listening』1999、THE DILLINGER ESCAPE PLAN『Calculating Infinity』1999、BOTCH『We Are The Romans』1999、SOILENT GREEN『Sewn Mouth Secrets』1998 など)、かなり古いつきあいになるんだ。リイシューに関しても本当にいい仕事ぶりをしていて、CAVE INのカタログを預けるのも安心できるし、もちろん新作にも強い興味を示してくれた。だから悩むまでもなく即決っていう感じだったよ」
――ジャケットのアートワークは、MASTODONの近作なども手がけているRichey Beckettという人が担当していますね。彼を起用した理由は?
「Richeyは本当に素晴らしい、唯一無二のアーティストだ。最初に会ったのはオランダのRoadburn Festivalで、2019年のことだった。それ以前から彼のアートワークにはものすごく親近感を抱いていて、METALLICAの“Moth Into Flame”のTシャツとか、おどろおどろしくて恐ろしいんだけど、めちゃくちゃクールでね。で、パンデミックの少し前にブルックリンのSt. Vitus Barで、CAVE INのライヴを何本かやることが決定して、カッコいいポスターを作ろうっていう話になった時、すぐ彼の名前が候補にあがったんだ。コンタクトをとってみたら、向こうも乗り気になってくれて、すぐに『Heavy Pendulum』で採用されたアートワークのモノクロ・ヴァージョンを送ってくれたんだ。もう、ライヴの宣伝ポスターに使うには勿体なさすぎる!って大興奮するような出来栄えでさ。そのあとパンデミックのせいで、予定されていたライヴは延期になり、最終的にすべてキャンセルになってしまったんだけど、そのとき“あ、ポスターが必要なくなったってことは、アルバムのアートワークにそっくりそのまま使えるじゃん!”って(笑)。キャンセルから生まれた、棚からボタ餅的な展開だった。だから今回のアルバムは、曲を書き始める前からすでにアートワークができていたというわけ(笑)。通常なら最後のプロセスになるものだけど、それが逆になったんだよ。おかげで、今回のアルバムを作るうえでのバロメーター的な役割を、アートワークが果たしてくれた。土星が深紅の大海に墜落するイメージに匹敵するスケール感を基準にして、あのレベルに達しない音は容赦なく切り捨てていったんだ。なかなかおもしろい体験だったし、それによって相当いい作品に仕上がったと思う」
――なるほど。ところで、CAVE INとして、Townes Van Zandtのトリビュート企画『Songs Of Townes Van Zandt』(Neurot Recordings)にも参加していて、こちらも先頃リリースされましたが、ここでの提供曲は、いつ頃どんなふうにレコーディングされたのでしょう。
「僕がソロでNEUROSISのScott Kellyとツアーしたのがきっかけなんだ。小さなグリーンのワゴン車でイギリスとアイルランドを巡って何本かライヴをやって、Scottともすっかり仲良くなってね。そのとき彼が、毎晩Townes Van Zandtの“Kathleen”をカヴァーしていて、そのパフォーマンスと曲自体の魅力に一発でやられてしまった。そこからTownes Van Zandt作品を掘っていったんだけど、生き様にも惹かれたし、そこにあの音楽とアートと言葉が重ね合わさると何重にも味わい深くてさ。CAVE INのメンバーも一時期みんなハマり出してね。Calebがアコースティック・ギターでTownes Van Zandtの曲を練習していた思い出もあるんだ。だから、Roadburnで僕とAdamのふたりがCalebの追悼アコースティック・ライヴをやらせてもらったとき、Townes Van Zandtの曲は必須だろうと思った。それくらい自分たちの中ではCalebの思い出と結びついてるんだ。Roadburnでの演奏は、レコードでもリリースされることになって。そんな経緯もあって、Townes Van Zandtのトリビュート盤を出す話になったとき、僕らも声をかけてもらったんだよ。提供した曲のうち、“At My Window”にはけっこうな時間と労力をかけて、これぞまさにCAVE INだっていうサウンドに仕上げて大満足してたんだけど、その後、コンピレーションに参加している他のアーティストの作品を聴いて、“これじゃ完全に浮く!”っていうことで、よりダークで不愛想で実験的なヴァージョンに作り替えた。結果、アルバム全体の雰囲気ともマッチさせられた。ほんとに名コンピレーションになってると思うよ。『Heavy Pendulum』のプロモーションが一通り落ち着いたら、こちらについてもSNSやメディアで積極的に発信していこうと思っていたから、今ここで語らせてもらえて嬉しい」
――さて、今後は、どういう活動予定になるのでしょうか。MUTOID MANの新作もあるし、先日Walter Schreifelsにインタビューしたら、あなたをQUICKSANDの正式メンバーにしたそうな様子さえ窺えました。大変なスケジュールになりそうですね。
「いやいや、自分はQUICKSANDの正規メンバーではないよ。ただ彼らは、僕と演奏するのを楽しんでくれてるみたいではあるね。もちろん自分もめちゃくちゃ楽しんでるし、今のままでも十分いい感じだよ。それにしても、彼らの偉大さといったら!なにしろ僕は14歳のときから彼らのファンで、『Slip』(1993)と『Manic Compression』(1994)に合わせて何年もエアギターを弾いていたほどなんだ。まさにギター小僧冥利に尽きるっていうやつだね。それと、普段いっしょにプレイしてる面々の垣根を越えて、まったく違う人たちの輪の中に飛び込んで、全然違う雰囲気の中で演奏するのも新鮮だったよ。それから、初めてJeff Matz(HIGH ON FIRE, ZEKE ほか)を迎えたMUTOID MANの新作もすでに録音済みで、Sargent Houseからリリースする予定なんだけど、完成した作品を聴いてレーベル側がやたら盛り上がっちゃってさ。なんとか今年中に出せないかって言うから、“うわマジで?CAVE INの新作を出した直後なんで、もうちょっと先にできない?”って(笑)。そんなに興奮して早く出したいと思ってくれるなんて感激だけど、協議を重ねた結果、来年まで持ち越すことにしたんだ。いや自分としても、できれば早く聴いてもらいたところなんだけどね。これまでとはまたちょっと違う雰囲気もあって、MUTOID MAN的なツボはガッチリ抑えながらも、よりダークでヘヴィで捻りが利いてるみたいな感じの作品なんだ。そう、だから、かなり盛りだくさんだよ」
――前回MUTOID MANとして来日した際、「ドラムのBen Kollerが、たくさんのプロジェクトで活動しながら、すぐに意識を切り替えられるのがすごい」という話になりましたが、あなたもそういう状況に自分を置いてみようと思ったりしたのでしょうか?
「なるほど、おもしろいね。スケジュール管理ってことに関して、Benはまさに自分にとっての師匠というか、インストラクターだよ(笑)。Googleカレンダーの使いかたも彼から教わったんだ(笑)。いや、あのスケジュール管理方法は見事だ。1年前から綿密にスケジュールを組んでるんだからね。彼には、世界中のあちこちに演奏したいステージや現場が山ほどありすぎて、先を見越して計画を立ててないとえらいことになっちゃうんだ。そんなふうに自分もいろいろやってみて、たしかに大変だけれど、一緒に仕事している仲間と素晴らしい体験を共有させてもらってることには感謝してもしきれないよ。音楽っていうものと真剣に向き合って、積極的にステージに立ち、この音楽で思いや考えを伝えようっていう仲間ばかりだし、そういう素晴らしい人達とともに作った作品を祝う、最高のかたちがライヴだと思ってる。もともとステージで演奏するためにデザインされたような楽曲だし、スタジオ・アルバムとは違う場を与えられて、生演奏で観客からのエネルギーや様々なものが吹き込まれることで、また別次元のものに化けるんだ。オーディエンスがいっぱいの空間に、自分たちのサウンドを目の前で起きている出来事として鳴らして、その空間に居合わせることで、ひたすら興奮しまくってるファンの姿を見るのは、すべてが報われる瞬間で、このうえないご褒美だよね。だから自分にそういう機会が与えられる限り、実現可能ならば応えていきたいし、最大限に活かしていきたい。CAVE INにしろ、MUTOID MANにしろ、CONVERGEにしろ、OLD MAN GLOOMにしろ、みんな本当に最高の奴らばっかりで、本当に自分の人生にとって宝だと思う。それを無駄に見過ごすなんて馬鹿な真似はできないよ」
――MUTOID MANに加入した、Jeff Matzについても話してもらえますか?
「彼は最高だよ。ありがたくもMUTOID MAN加入のオファーを承諾してくれてね。去年の冬、初めて一緒にやらせてもらったんだけど、いっしょに作業してて本当に気持ちいい人でね。作品に向き合う姿勢も真摯そのもので、自分が今まで会った中でも一番じゃないかって思うくらい努力家だし、作品と本人とがそのままリンクしているんだ。とても手間暇かけて作品に向き合ってくれて、それがそのまま音にも出てる。ホントに素晴らしい人物だよ。録音した音を聴き返すときにも、僕からしたら何の問題もないのに、本人は“あー、自分のここがダメだったなあ”とかいろいろ気付いて反省していて、まさに職人というか。常にベストを尽くしてくれるし、毎回感心させられっぱなしなんだ。しかも性格もすごく穏やかで、優しくて、落ち着いていてね。マジで彼が加わってくれたのは、願ったり叶ったりっていう感じなんだ」
――あなたの現行の活動としてはもうひとつ、CONVERGEの『Blood Moon』への参加が挙げられます。このプロジェクトはあなたにとってどういう位置付けとなるのでしょう?
「『Blood Moon』はマジで最高。CONVERGEとはもう人生の半分以上のつきあいになるし、この間に何度も違う形で、お互いの道が重なったり交差したりを繰り返してきてる。『Blood Moon』は、長年に亘る自分たちの友情と共演とクリエイティヴィティを記念するような企画なんだ。声をかけられたときには、CONVERGEから“いっしょに音楽を分かち合って、世界へ送り出そうぜ!”って大歓迎で迎え入れてもらったみたいな気持ちがして、すごく嬉しかったな。それに、Chelsea Wolfeと一緒に歌わせてもらったのも光栄だった。彼女が部屋に入るたびに、現場の空気が変わるっていうか、みんな襟を正して“よし、気合い入れて引き締めていこう、Chelseaが目の前でマイクに向かってるんだぜ?”みたいな感じでね。みんな前のめりになって、最高の演奏ができた。彼女と一緒に歌えるなんて、自分にとっては何より素晴らしい経験になったよ。『Blood Moon』に関しては、こっちもスケジュールの許す限り関わっていきたいんだけど、何しろ総勢7名の大所帯になるから、スケジュールの調整だけでも大変なんだ。それでも最近アメリカで2本のショウを実現できて、それも最高に素晴らしかったし、まさに感無量だったな」
――では最後に、最近お気に入りでよく聴いている音楽を教えてください。
「最近のバンドの中ではSUMAC。新作が出るたび楽しみにしてるし、昔からの友人であるAaron Turnerが、以前からやっている音楽の枠を飛び越えて、素晴らしく才能ある人達と共演することで、ああいったヘヴィで奇妙な音楽の新しい扉をばんばん開いていってる姿が本当に頼もしいね。あと、Lingua Ignotaの大ファンなんだ。ものすごく惹きつけられるし、彼女の言葉の操り方は独特でパワフルでクールだよ。それから、TURNSTILEの最新アルバムもよかった。彼らがパンク・ミュージックに果たしてる貢献度って、相当デカいんじゃないかな。特に新作はアクセスしやすいし、パンクに入るきっかけの作品として理想的だと思う。入りやすいんだけど、自分がもうずっと何年も愛してやまないハードコア・パンクの大好きな要素が、いっぱい詰まってる。そして、メジャー作品で言うとDREAM WIDOWだね。FOO FIGHTERSが出演するホラー映画のサウンドトラックっていう設定なんだけど、残念ながらあまりそこは注目されていなくて……というのも、アルバムのリリースがドラマーTaylor Hawkinsの訃報と重なってしまって……ほんとに悲しいし、切ないよね。アルバム自体は本当にカッコよくておもしろいんだ。FOO FIGHTERS関連で自分が一番好きなアルバムかもしれない」
――わかりました。どうもありがとうございます!
「あ、あともうひとつ!Sasami!Nateから彼女の新作がいいって教えてもらって、試しに聴いてみたら超よくて、その何日か後にライヴを観る機会にも恵まれたんだけど、それもマジで最高だった!」
■ 2022年5月25日(水)発売
CAVE IN
『Heavy Pendulum』
国内盤CD DYMC388 2,500円 + 税
[収録曲]
01. New Reality
02. Blood Spiller
03. Floating Skulls
04. Heavy Pendulum
05. Pendulambient
06. Careless Offering
07. Blinded By A Blaze
08. Amaranthine
09. Searchers Of Hell
10. Nightmare Eyes
11. Days Of Nothing
12. Waiting For Love
13. Reckoning
14. Wavering Angel
15. Moor *
* Bonus Track