Feature | わたしたちのCAVE IN


文 | Stephen Brodsky | MAX | Ryo | 那倉太一 | Takashi Kawamura

 2月1日(土)・2日(日)の2日間に亘って開催されるライヴ・イベント「leave them all behind 2020」で、両日のヘッドライナーを務める米マサチューセッツのCAVE IN。その約25年におよぶキャリアは、スタイルの細分化を極めた1990年代ハードコアを基点とするバンド群において、突出して特異な歩みです。そもそもCAVE INはハードコア・バンドとして認識されていないのかもしれませんが、少しネットを巡回すれば、CAVE INが出演したハードコア・ショウのフライヤーを多く確認できます。PALEFIREやREMAINと同じAmmunition Records出身のエモーティヴ・ハードコアながらPusheadさんのアートワークでRoadrunnerデビューしちゃったDOWNER、唄うメロディック・ユースクルーの雄IGNITE、SHADOWS FALLのPaul Romankoさんや名プロデューサーZeussさんが在籍したPUSHBUTTON WARFAREと共演したEARTH CRISISのヘッドライニング・ショウにCAVE INが出演していたなんて、フツーにテンション上がりませんか?少なくとも筆者は初期のCAVE INにBARRIT、GANDIVA、TEN YARD FIGHT、YEAR OF OUR LORDのメンバーが在籍していたことを忘れてはいませんし、Hydra Head Records所属前のCAVE INは特殊なニュースクール・ハードコアとして認識していました。何が特殊かって、複雑な楽曲構成はもちろんですが、Moo Cow RecordsからリリースされたPIEBALDとのスプリットが初めての作品だったんです。Moo CowつったらDISEMBODIED、FALL SILENT、NEW DAY RISINGですし、PIEBALDつったらGET UP KIDS、JIMMY EAT WORLDと並ぶエモの源流です。Brian McTernanさん(ASHES, BATTERY, MILTOWN)、Walter Schreifelsさん(GORILLA BISCUITS, PROJECT X, QUICKSAND, RIVAL SCHOOLS, YOUTH OF TODAY)みたいな先人の存在や、GET UP KIDSとCOALESCE、SAVES THE DAYと454 BIG BLOCKみたいな関係性を知ってはいましたが、当時はまだ、今とは違って、そういうギターポップ・ライクなエモとメタリックなハードコアの繋がりは興味深く感じられました。ŻEGOTA(CATHARSISの半分が在籍)みたいにポリティカルなバンドとの絡みも外せません。FRAILやURANUSと併せて所謂“激情”のプロトタイプとして崇められているEARLY GRACE(ANTHEM EIGHTY EIGHT、REVERSAL OF MAN〜ASSÜCKのメンバーが在籍していたのは特筆すべき)の初作が、同時期に発表されたCAVE INとのスプリットだったりするのも、UNBROKEN、UNDERTOWとBloodlink Records、Ebullition Recordsみたいな関係を思わせますよね。それらの感じはHydra Headデビュー作となった『Until Your Heart Stops』や編集盤『Beyond Hypothermia』で(METALLICAメドレーでのルーツ開示も含め)なんとなく掴めるし、FAILUREのカヴァー(宇宙インスパイア含む)に象徴される『Creative Eclipses』でのKen Andrews、J. Robbinsラインのポスト・ハードコア / ポスト・グランジへのナチュラルなシフトチェンジ(ここでもSEASON TO RISK / SHINERとSTARKWEATHERの関係が浮かぶ)や、シンガー・ソングライターとしてのStephen Brodskyさんや、Adam McGrathさんのKID KILOWATTでの活動にも現れていると思う。そこまで広域に活動するバンドって、CAVE IN以外に浮かばないでしょう?CODEINEやMISSION OF BURMAに憧憬を抱くメタルヘッズっていうか。

 でも、筆者が素晴らしいと思うのは、活動フィールドの広さではありません。CAVE INのどこにも属していない感じです。クラシックなニュースクールの話題でCAVE INが挙げられることはまずないし、激情やエモの伝説扱いされることも勿論ない。FOO FIGHTERSもしくは極論KILLSWITCH ENGAGEみたいになった可能性もゼロではなかっただろうに、全然なっていない感じ。Hydra Headが一番フィットしたレーベルなのは間違いないけれど、そのカラーにも属していないようにすら思えるくらい。その時々で、CAVE INが思うベストなCAVE INをアウトプットしているんですよね。だからこそエヴァーグリーンな魅力とフレッシュネスを両立できているんだろうし、どこを切ってもかっこいい。Caleb Scofieldさんという大事な人の不在は、これまでにない難しい変化だろうけれども、「leave them all behind 2020」においてもきっと、現在のベストなCAVE INを見せる姿勢に変わりはないことでしょう。


 本稿に寄せてくださった「leave them all behind 2020」出演バンドの皆さんによるテキストで期待値を高めつつ、Brodskyさんご本人による作品解説で改めてヒストリーを振り返っていただければ幸いです。


文 | 久保田千史
MAX (GREENMACHiNE)

 個人的には、CAVE INが今どんなセットリストを組んでいるのか“あえて”調べていないので、当日の答え合わせが楽しみです。

 GREENMACHiNEが出演した「Roadburn Festival 2018」(オランダ・ティルブルフ)で、同じ日の同じ会場でCAVE INの2人が早い時間にアンプラグドを演っていたんです。結局間に合わなくて観られなかったのですが、音源を聴いたらしんみりと良かったです。もう演らないのかな。。

 CAVE INで好きな / 印象に残っている曲は
 | 「Luminace from『Creative Eclipses』Hydra Head Records, 1999
 | 「Sing My Love from『White Silence』Hydra Head Records, 2011
 | 「Winter Window from『Final Transmission』Hydra Head Records, 2019
 CAVE INはどの作品もカッコ良いけど、全作聴くとより味わい深いと思います。

GREENMACHiNE石川は古都・金沢の“ハードコア・ロック”バンド、GREENMACHiNEのギタリスト。
目下最新作は『Mountains Of Madness』(2019)。

https://www.facebook.com/GREENMACHiNE.Hardcorerock/

Ryo (CRYSTAL LAKE)

 CAVE INは、子供の頃『Antenna』(RCA, 2002)から入ったのですが、特に「Inspire」が初めて聴いた曲だったので思い入れ深いです。『Antenna』を聴いた当時は中学生で、地球から宇宙へ何かメッセージを送っているような壮大なイメージに圧倒されたのを覚えています(笑)。あの頃は何となく感じていた広大さを、今ようやくほんの入口を覗きながら聴けるようになりました。

 もう1曲は『Perfect Pitch Black』(Hydra Head Records, 2005)から「Trepanning」。ほどよいストーナー感にCalebのスクリームがとにかくかっこいい。当時こんな声を出したいと思ってこの曲を練習していました。セットリストに入っていたら上がってしまいそうです。

CRYSTAL LAKECRYSTAL LAKEのヴォーカリスト。
2018年の5thアルバム『Helix』から、昨年敢行したEUツアー時の映像を使用した「Sanctuary」のMVを公開したばかり。

http://crystallake.jp/

那倉太一 (ENDON)

 自分たちに引き寄せて言うならば、「Hydra Head Records」はハーシュ・ノイズやインダストリアル・ノイズとメタルやロックの融合において最高峰のレーベルでもあり、日本のフリー・ジャズや前衛音楽との交感 / 交流によって深化してきたという史実もあります。僕らがこのイベントに参加することによって、そういった関係性の現在を皆さんにお見せできればいいな、と考えています。また、特にCAVE INが提出するであろう歌心(我々日本人が慣れ親しんだ歌謡性とは違うものです)とメタルの高次な調和を現すであろうパフォーマンスを観賞できることを非常に楽しみにしています。

 先程述べたCAVE INの歌心とエクストリーム・ミュージックの融合という視点とは矛盾を感じる向きもあるかもしれませんが、僕はやはり『Until Your Heart Stop』(Hydra Head Records, 1998)というアルバムの素晴らしさを訴えたい。これは性分ですね。一番好きな曲は「Juggernaut」ですね。

ENDONENDONのヴォーカリストとしてのみならず、アパレル・ブランド「SLAVEARTS®︎」のディレクターとしても活躍。
ENDON最新作はSWARRRMとのスプリットEP『歪神論 -Evil Little Things-』(2019)。

http://endon.figity.com/
https://slavearts.thebase.in/

Takashi Kawamura (OTUS)

 CAVE INの楽曲を初めて聴いたのは実は『Antenna』(RCA, 2002)が最初です。当時自分はヘヴィな音楽、ハードコア的なものばかり好んで聴いていたのですが、このアルバムはなぜかとても耳に残り、印象的だったことを覚えています。そういった意味で今回『Antenna』の楽曲、特に「Anchor」「Penny Racer」などが聴けたら嬉しいな、と思っています。

 もちろん、音楽的なルーツとしては『Until Your Heart Stops』(Hydra Head Records, 1998)期の楽曲が聴けたら、とも思います。

 今回CAVE INはどんなスタイルでどの楽曲をプレイするのか?そんなことを当日まで考えながら楽しみに待ちたいと思っています。

OTUSINSIDE、STILL I REGRET、UMBRAGEの一員としての活動も知られるOTUSのベーシスト / リリシスト。
OTUSは1stフル・アルバム『Murk』を発表したばかり。

https://www.facebook.com/otushc

Stephen Brodsky (CAVE IN)

CAVE IN 'Until Your Heart Stops'| Until Your Heart Stops
Hydra Head Records, 1998

 このアルバムの大半は、結成から1998年までの間にCAVE INにいたメンバーそれぞれ(まあ結構な大人数だけど)がアイディアを出し合って作曲したんだ。以降のアルバムがこの路線にならなかった理由は、ひとえにそれだね。

CAVE IN 'Beyond Hypothermia'| Beyond Hypothermia
Hydra Head Records, 1998

 これは結成時から『Until Your Heart Stops』を作るまでにリリースしていた曲を集めたコンピレーション。大半はちょっとだけプレスした7″のアナログ盤だったから、完売するのも早かった。収録曲のうち何曲かはギターやヴォーカルを差し替えて、新たに数曲足したんだ。

CAVE IN 'Creative Eclipses'| Creative Eclipses
Hydra Head Records, 1999

 あるコンピレーション・アルバムに提供する曲をレコーディングしたとき、時間が残ったから勢いで「Luminance」とFAILUREのカヴァー(「Magnified」)を録音したんだ。しばらくして何曲か足して、このEPを完成させた。CAVE IN史上一番奇妙な作品かもね。

CAVE IN 'Jupiter'| Jupiter
Hydra Head Records, 2000

 リリースから1年経ってもまだ『Until Your Heart Stops』のツアーでアメリカ中を駆けずり回っていたとき、CAVE INのバンが火災に遭って、ほとんどの機材を失ってしまったんだ。やっとの思いで家まで辿り着いて、新しい機材を揃え直して。そんな頃に必死で書いた曲が入っている。

CAVE IN 'Antenna'| Antenna
RCA, 2002

 当時FOO FIGHTERSを担当していたディレクターに口説かれて、メジャーのRCAと契約したんだ。音源制作自体は先に進めていたので、契約から1ヶ月くらいでこのアルバムはリリースされたんだけれど、そのわずか数週間後に担当ディレクターが突然退社してしまってね。それ以降RCAとしてもバンドをどう扱っていいものかわからなくなって、僕たちは急に梯子を外された感じさ。だから商業ベースで言えば芳しくなかったし、実際、RCAでもう1枚出すということにはならなかった。とはいえ、当時はアルバム・サポートとしてツアーばかりやっていて、初めて日本にも行ったし、フル・タイムのバンドとしては一番忙しかった時期だね。

CAVE IN 'Epicenter'| Epicenter
BMG Funhouse, 2002

 これって、初めて正式な日本盤としてリリースされたCAVE INの作品じゃなかったかな?“日本盤”はボーナス・トラックや未発表音源がたくさん入っているという認識だったし、個人的にも好きなアーティストの日本盤を探して買っていたから、自分たちでもそういうものが出せたのは嬉しかったな。パーティに招いてもらってウキウキした感じみたいな。

CAVE IN 'Tides of Tomorrow'| Tides of Tomorrow
Hydra Head Records, 2002

 このEPの収録曲は、大半を当時MISSION OF BURMAが使っていたリハーサル・スペースを借りていたときに書いたんだ。スタジオのロビーに$0.25でビールを買える自販機があってね。皆で呑んで酔っ払いながら録音したのは、あれが初めてじゃないかな……。

CAVE IN 'Perfect Pitch Black'| Perfect Pitch Black
Hydra Head Records, 2005

 元々は『Antenna』と同様にRCAでのリリースになるはずだったんだ。デモを何回も録って当時のマネージメントやRCAの新しいディレクターたちに渡していたのに、彼らはことごとく気に入ってくれなかった。その鬱陶しいプロセスがRCAやメジャー仕事流れで周りにいた人たちとの終わりの始まりになったというわけ。このアルバムに入っている「Trepanning」の歌詞は、当時の僕らの偽らざる気持ちを表している。

CAVE IN 'Planets of Old'| Planets of Old
Hydra Head Records, 2009

 『Perfect Pitch Black』のツアーが終わったタイミングで、Calebはロサンゼルスへ、JR(John-Robert Conners)はベルリンに引っ越した。それが活動停止の一番大きな理由だね。4年経って2人ともマサチューセッツ州近郊に戻ってきたタイミングで、Calebが「またCAVE INやろうぜ」と言い始めて、皆その気になったんだ。そこから1年も経たないうちに、このEPを完成させたよ。

CAVE IN 'White Silence'| White Silence
Hydra Head Records, 2011

 アルバム全編、マサチューセッツ州オールストンにある僕らのリハーサル・スペースで、作曲からレコーディングまで自分たちだけで完遂した。ずいぶんレイドバックしたやり方だったけれど、バンドの運営面でも、クリエイティヴ面でも、混乱したことで何年も活動を停止していた時期から皆で調子を取り戻すには、こうするのが最善だったんじゃないかな。個人的にはCAVE INの全作品の中で一番気に入っている。

CAVE IN 'Final Transmission'| Final Transmission
Hydra Head Records, 2019

 Calebが亡くなる直前に録音していた音源を集めたアルバム。元々はデモとして取り掛かって、全曲書けたらプロデューサーを立ててきちんとしたスタジオでレコーディングするつもりだったんだ。この中の数曲は、僕ら全員の親友と最後に過ごしたときのドキュメンタリーでもある。

leave them all behind 2020 leave them all behind 2020

| 2020年2月1日(土)
東京 下北沢 GARDEN
出演: CAVE IN / GREENMACHiNE / ENDON / OLD MAN GLOOM / OTUS
開場 15:45 / 開演 16:30
前売 8,500円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ 0570-02-9999(P 164-913) / ローソン 0570-084-003(L 74914) / e+
※ お問い合わせ: SMASH 03-3444-6751

| 2020年2月2日(日)
東京 恵比寿 LIQUIDROOM
出演: CAVE IN / CRYSTAL LAKE / KRUELTY / POWER TRIP / SECOND TO NONE
開場 15:45 / 開演 16:30
前売 8,500円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ 0570-02-9999(P 164-913) / ローソン 0570-084-003(L 74914) / e+
※ お問い合わせ: SMASH 03-3444-6751

leave them all behind 2020 extra show leave them all behind 2020 extra show

2020年1月31日(日)
大阪 心斎橋 Live House ANIMA
出演: CAVE IN / OLD MAN GLOOM
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 7,500円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ 0570-02-9999(P 165-306) / ローソン 0570-084-005(L 52706) / e+
※ お問い合わせ: SMASH WEST 06-6535-5569

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