『Under The Sun』発売記念対談
対談という感じでセッティングしたものの、集まって“話している”という感じになったのだけれど、おかげで貴重な意見を聞くことができた。アルバムだけじゃない話だけど、ライフは続いてるんだなと思えたし、すごく笑えると思う。
取材・文 | Lil Mercy ( J.COLUMBUS | PAYBACK BOYS | WDsounds | Riverside Reading Club) | 2025年2月
C 「やっぱ声だよね。ラッパーは。俺、意外と声高いじゃないですか」
E 「そんなに高くないよ」
――けっこう高いと思うよ。以前の作品だともっと声高いんですよね。
C 「あれさ、アガりすぎて高くなってる。『Cakez』 (2014 | CENJUの1stアルバム)のとき、声高すぎるんだよね」
――今はもっと歌っている感じになって、少し落ち着いた感じがする。すごくいいんだけど、前のバシバシにラップしている声高いときのラップはまた聴きたい。
C 「あれに戻りたいっていうのはある」
E 「そういう“戻りたい、スピットしたい”感じはあるっすね。今回俺はそれだったんすよね」
C 「スピットしてたよね。超ラップしてた」
E 「ちょっとスピットしていたのに戻りたくて作ったんですよ」
――1stアルバム『3 Words My World』(2012)のときはスピットしてますもんね。
C 「『3 Words My World』のときって、ラップがすごい生きてるじゃん。ラップがめっちゃ走ってて、しかもエロいことも言ってて。すげーかっけーな、めっちゃストリートじゃんこの人みたいな。偉そうだったのが良かったですよね。“俺、ラッパーだから”然としているのがめっちゃかっこよかったよね。今回のもかっこいいけど。あれかっこよかったよ」
――あの頃はERAというラッパーの存在を知らなかったからこそ、そう感じたっていうのはありそうですね。
C 「そう。知らなかったから。それで意識したし」
――ERAのことを、当時CENJUはいろんな人に“レジェンド”って言ってたよね。
C 「よく言ってたから、ERAくんの話を。俺、ERAくんはチンピラみたいなイメージだったんすよ。超シャレてんじゃん、洋服とかもイケてるし、すげーラッパーが出てきたな、みたいな。そんなん出てきて、ヒップホップひっくり返るんじゃないっすか?みたいな」
――当時ERAのことをラッパーがどう見ていたかっていうのはあまり聞いたことないので、その話を聞かせてください。
C 「そのときは、近くに5lackがいたじゃん。ERAくんが出てきて、2人とも脱力系ラップみたいな。2人はスキルっていうかオリジナリティがあってかっけーな、俺は真似できないな、みたいな感じだった。2人が出てきたときは羨ましかった」
――時期的に、2010年前後って日本のヒップホップにまた新しいスタイルが出てきた時期だと思うんですよね。
C 「そう、ひとつひとつ出てきた。バンドの人たちがラップをし始めたり」
――5lackもその頃はスケーターのイメージが強かったですよね。
C 「そうそう。みんなラップできるんだ、っていう感覚にはなったよね。みんなラップできて、本当にいい意味でのスタイル・ウォーズだった気がする」
――最初はERAをどこで観たんですか?
C 「PVだよ」
――CENJUはラップをどういう風に始めたんですか?会ったときからラッパーだったから、聞いたことなかった。
C 「初め?その話します?俺、高校入ったときにすっげー好きな女子がいて、その子がヒップホップすげー好きだったの。それでラップを始めたっていう(笑)。そのときはSnoop Doggしか知らなくて、ダンスやってた。クリップウォーク。美竹公園(東京・渋谷)でダンス習ってて、俺ラップやるしかねえな、みたいな。スケボー、ダンス、ラップみたいな」
――その恋は成就したんですか?
C 「バックDJに取られて終わりましたね。ERAくんがラップ始めたときは?」
E 「ラップ始めたときは、金が欲しかった」
一同 「(爆笑)」
E 「ラッパーが金になるっていうイメージすごかったんです。THE DIPLOMATSもだけど、日本のラッパーも金持ってたから。バンドって金にならないから」
C 「オーレーとか言って。金になったんすか?」
E 「なってないよ(笑)」
一同 「(爆笑)」
E 「なってないんだけど、始めたきっかけは夢になるなって。金になるから夢があるなって。ラップだけで金になるんだったら夢ってすげーあるじゃないですか。そこからですね。始めた当初は、そこから徐々に変わっていきました」
C 「ラップで金を稼ぐ」
C 「ハードコア・バンド(WIZ OWN BLISS)のヴォーカルをやってたじゃないですか。ラップに切り替えたときってチェンジしたマインドありますか?」
E 「あるあるある。マーシーは2つ同時にやってるけど、俺は2つは同時にできないなって思ってる。ラップは、ラップとしてやらないとできないと思ったから」
――「ラップ始めるからさ、これからは全部乗せだから」って言ってませんでした?俺は新宿で言われたの忘れてないです。ヴォーカル、ラッパー、グラフィティ・ライター全部乗せってやべーって思いましたよ。
E 「最初は全部乗せだったんだよ」
C 「完全ニューヨーカーみたいなやつだ(笑)」
――それかっこいいと思ったから、自分も全部やってやろうって感じでしたよ。
E 「全部乗せもかっこいいよね。できる人であればね」
C 「ラップはやっぱりO.I.がいたから始めやすかったの?」
E 「そうそう、O.I.がいたから。最初はPAPER SOLDIER$にいて、そこをクビになってどうしようもなくなってたんだけど、O.I.がいたからできた。PH Flon(MICROPHONE PAGER | PAPER SOLDIER$)が『3 Words My World』を聴いて、あんなにダメ出ししたのにかっこいいじゃん、ってなったのよ」
――PVもやってもらってますもんね。
C 「俺、ERAくんが出てきたときって何もリリースしてないんですよ。だからビビった。バンドの人たちがラップ始めた、みたいな。なんか、どうすんだ俺?って。マーシーもやってたじゃん」
――そのときはあまりやってないですよ。
C 「でもやってたじゃん、CIAZOOとか、TONOSAPIENSとやってたじゃん。しかも、その話がどんどんデカくなり始めたときなんだよ。バンド出身なのにラップ始めて、やっぱりバンドの人たちって音楽を売る才能に長けてるじゃん。うまいじゃん」
――アンダーグラウンドの中ではね。WDsoundsも、ヒップホップをリリースすることを決めたときはお金っていうのが重要で、ヒップホップはお金を稼ぐのが正しいことっていう風には考えてました。だからプロモーションだったりもかなり緻密にやってましたよ。Tシャツ作って、フリーのミックステープをリリースして、雑誌にも取り上げてもらった。
C 「かたちを作るのが、パッケージ作るのがうまいから。俺はもう敵わない、と思ったんだよね。あのときに。その頃もうマーシーとは下北で会ってるから。うわやべー、バンドの人たちが攻めてきた、やられた、みたいな。それは俺はキツかった(笑)」
E 「DIYっていう言葉があるくらいだから。DIYでやっちゃうからね」
C 「すごいと思った、あの勢いは。俺はけっこう脅威に感じてたね。バンドの人たちがヒップホップをやったらこんなになっちゃうんだ、俺はそっちのほうに行きたいな、みたいな」
――『3 Words My World』のあとにA$AP Rocky「Purple Swag」のリミックス(Cherry Brown, ERA, PUNPEE, DJ TY-KOH, Vito Foccacio from SQUASH SQUAD)をレコーディングしたときに「ERAはレジェンドだから気を付けろ」ってCENJUが言っていたっていう話を、けっこう後になって318(Gunsmith Production)から聞いたのを思い出しました。
E 「そのままいけばよかったよね。ずっとレジェンドのまま(笑)」
C 「我慢できなかったんだと思うよ。もうちょっと突っぱねて」
E 「どんどん素の自分になってきちゃって。弱さとか」
C 「ヒップホップってそういうもんじゃん、素の自分と向き合うようになってくるじゃん」
――それこそ、今回のアルバムでは「Swaying In The Wind」が一番素の自分に向き合っている曲だと思います。弱いことを一番うまく消化できている曲だと感じました。
C 「だってあの曲、あれだもん、リリック変えてるからね。最初に出来上がった状態から。“夏”を変えたりとか」
E 「K.E.Mのビート自体は速攻決まったんですけど、けっこう温めていて、CENJUとやりたいな、ってなって。それで、自分のことを歌っているんだけど、CENJUに向けてもそのメッセージもあるかなみたいな。そういう曲になってますね」
C 「俺がラップを入れて、ERAくんから“なんとか負けないでくれよ”って返ってきたときに、グッときちゃって。俺も負けねーでやるからさ、ERAくんも負けねーでやってくれよって。あれは嬉しかったな」
E 「けっこう温めてたんですよね。トラックもらった状態から。1年半くらいかな」
C 「ERAくんと話してるときに思ったんだけど、結局夏に作ったら冬に出るじゃん!だから、難しいよね。曲作るのって(笑)」
E 「夏のリリックを変えたってことだよね。そこは成功ポイントだった」
C 「成功したね。しかも声がすごくよかったよって言ってくれて。ERAくんがプロデュースしてくれて、声1枚でいこうってレコーディングしました」
――年齢を経ていく中でラッパーを続けていると、歳を重ねることに向き合っていくじゃないですか。ヒップホップにコミットしたリリックになっていくのはあると思います。カルチャーとしてヒップホップのことを歌うようになっていくっていうのがあって。2人は自分のライフ的なものにフォーカスして歌っていると思うんですよ。
C 「思うんだけど、俺らって特殊なほうじゃないですか。表現者としても特殊だし。売れなくても別にいいや、わかってくれないんだったらいいよ、みたいなところもあるじゃないですか」
――2人とも売れるためにキャラを崩そうとはしてるけど、崩せないもんね(笑)。
C 「そうなんだよね。売れない方向にしか行かないんだよね」
――「売れたい」っていつも言ってるし(笑)、考えているわりには全然崩れないよね。
E 「そうなんだよ(笑)」
C 「結局売れないじゃん、何やっても。でも、それって実は一番かっこいいのかなって最近思ってるんすよ。そう思わない?」
E 「それはあるけどね。アンダーグラウンドのかっこよさはあるよね」
C 「一番かっこいいことを実はやってるんだよ」
E 「でも俺、今また新しいアルバム作ってるっす。速攻で出そうかなと思って」
C 「絶対完ソロでやったほうがいいよ。マイク1本勝負でしょ」
E 「いや、フィーチャリング入れたほうがかっこよくなる。一度『Reaching』のときにやって、もう決まっちゃってるんだよ。ストリーミングでもうちょっと金が欲しくてね。がんばろうと思ってるんですよ」
C 「俺、ストリーミングちょっと入ってくるんすよ。4万が5ヶ月に1回。それが楽しみで。それで娘に靴とか買ってんすよ」
E 「ライヴをそんなにできない俺にとっては作品出すしかないもん」
C 「売れるために何か、とかはやりたくないよね。TikTokとか?どう?」
E 「あまりやりたくない」
C 「かっこよくなくない?俺は、あれですね、この対談に際して言いたいのは、バンド勢がラップをし始めたっていうのはすごいことだったんですよ。マーシーとかERAくんとかが。俺は本当にすごいと思ったもん。みんなラップするんだ、と思ったもん。それで、俺たちみたいなヒップホップだけしかやってない人より音楽性が高いんですよ。いろんなアプローチしてくるんですよ。ヒップホップに攻めてきた、バンドが、みたいな。全員来ちゃったじゃん、みたいな感じだった。だから俺たちもやらないと、って思ったし。でも、長くやってると仲良くなってみんなで一緒にやるよね。でここにいる3人で作ったのが“World End”(2014 | prod. BUSHMIND)。俺ってけっこう情報に疎いんですよ。でも仙人掌とかは情報早いから、ERAっていう奴がいるらしいよ、ラップけっこうイケてるやつがいる、って。おーマジで、って。俺ら、D.U.O TOKYO超聴いてたから。ラップイケてんじゃん。NYのラッパーみたい。ちょべ、ちょべ、ちょーべーって、スラングがすごすぎて。周りにそういう人がいないとできないラップじゃないですか」
E 「グラフィティ語なんだよね」
C 「俺らも真似していってたもん。ちょべっとか言って。やっぱO.I.のスラングとかすごいよね」
E 「O.I.の存在は大きかったよ」
――生活のスタイルも変わってきてるから、スラングは徐々に減ってきているように感じますね。
C 「シャラリとか」
E 「シャラリは言ってましたけど。なくなっていき(笑)。シャラってるけど、シャラっていきたいなとは思ってる。ここ最近、また考えかたが変わってきてるから。やる気になってきてるから。シャラってはいきたい。さっきCENJUが、 俺はバンドから出てきたって言ってたけど、バンドから出てきたっていうのがコンプレックスなのよ。ラッパーはラッパーとして認められたいっていうのがあるから」
C 「でも、出って大事じゃない。俺の出は下北沢しか言えなかった。ERAにはWOBがあったけど、俺には下北沢しかなかった」
E 「なるほど」
C 「バンドの人はラップしたら、ラップできちゃうわけじゃん。逆にずるいでしょ。俺は、ラップしかできない。バンドを従えてやっていたわけじゃないですか、ヴォーカルだから。俺、誰も従えてないよ。やるしかねえみたいな。マイク1本で俺いくしかいないから。羨ましいよ」
――そこからみんな1人になっていくわけじゃないですか。その瞬間をパックしたときを代表したのがERAだったと思うんですよ。みんな街にいたし。みんな何かやっていて、それを投影していたっていうのがERAだった。
C 「ERAくん出てきたときってかっこよかったもん」
――そこから今に至って、テーマが変わってきてる。
E 「向き合い系になってきてますよね」
――老いを感じて、それも認めながらやっていくところにフレッシュさと勇気を感じます。
E 「ありがとうございます。今回思ったんだけど、10年ぶりにちょっと注目されてるんじゃないかっていう気持ちがあって、それでまたがんばろうかな、みたいな気分で今いますね」
WDsounds Instagram | https://www.instagram.com/wdsounds/
■ DANCING MOOD
Online Store | Instagram
CENJUファミリーが東京・下高井戸で営むお直しメインの洋品店。
13:00-20:00
〒156-0043 東京都世田谷区松原3-29-20 1F
■ 2025年1月22日(水)発売
ERA
『Under The Sun』
HOW LOW
https://ultravybe.lnk.to/under-the-sun
[収録曲]
01. Favorite Food Prod. by 4thathr33
02. Summertime In The Hood feat. 仙人掌 Prod. by Cedar Law$ & kosy
03. Rooftop Prod. by Major Threat
04. In The Dream feat. anddy toy store Prod. by DJ HIGHSCHOOL
05. Name ERA Prod. by Vis The Kid
06. Swaying In The Wind feat. CENJU Prod. by K.E.M
07. Get Serious Prod. by DJ SCRATCH NICE
08. ケセラセラ Prod. by SIRCORE
09. My Life Prod. by TEMPO TUNES COLLECTION
10. 明日 Prod. by boi yanel
11. Turn The Page Prod. by MASS-HOLE