Review | Ghostemane『N/O/I/S/E』 | she luv it『she luv it』


文・撮影 | 久保田千史

| Ghostemane『N/O/I/S/E』

 オリジナルは2018年の作品だから、きっとあらゆる角度から語り尽くされて今更感あるんだろうけれども、Triple-B Recordsというレーベルからのリイシューは象徴的だし、思うところあったので、ちょっと付き合ってください…。

 Ghostemaneがトラップ・メタル村においてのみならず、頭ひとつ抜けて“音楽的”に“実験的”で“新しい”存在として評価される理由のひとつに、ノイズ / インダストリアルの意匠を用いるスタイルが挙げられると思うんですけど、それってそんなにエクスペリメンタルなんですかね?すでに1980年代の黎明期においてAfrika BambaataaやGrandmaster Flashはエクストリームに実験的だったし、それがなかったらChristian Marclayみたいな美術家も誕生しなかったわけですよね。DEATH COMET CREWやTACK HEADのようにインダストリアル・ヒップホップなんて呼称もあったし、90年代にだってAsphodel / WordSound周辺やICE / TECHNO ANIMALなんかもいたんだから、エクスペリメンタルはけっこうヒップホップのお家芸なんですよ。しかもGhostemaneのノイズ / インダストリアルって、かなりNINE INCH NAILSのマゾヒスティックなノイズ / インダストリアル感なんだよね。CODE ORANGEのノイズ / インダストリアルにFEAR FACTORYを感じちゃうのと一緒で。その向こう側にCOILやFoetusを見るのは可能だし、キメたEINSTÜRZENDE NEUBAUTENみたいなシンボルも然りではあるんだけど、要はトラップっていう昨今っぽいキーワードが先行した90sリヴァイヴァルなんですよね。PANTERAをサンプリングしていた過去もそれを裏付けるし、本作に至ってはTriple-B Recordsが扱うタイトルに通底するムードはもとより、演奏陣がGOD’S HATE、IRON REAGAN、MAMMOTH GRINDER、MIZERY、TWITCHING TONGUES、録音がArthur Rizk(COLD WORLD, WAR HUNGRY)なんだから、ガチとしか言いようがない。それがダメって言いたいわけじゃなくて、故Lil PeepひいてはSCHEMAPOSSEとの関係性を踏まえても至ってナチュラルだし、かっこいいと思うんですよ。突出した部分をヘンに拡大してピクセルが潰れたまんま切り取るのはどうかな〜?って感じるだけです。

 こういう音楽が支持を得ている現状も色々思っちゃう。『ゼロ・トゥ・ワン』なんてクリエイショニズムを提唱するピーター・ティールみたいなリバタリアンたちが早々と脱出の準備を進めている現在となっては、“Becoming Godsize”だとか“You get me closer to God”だとか、ある種の超人論を歌っていた時代がバックグラウンドにあるわたしたちサイドの音楽なんて、同じように“God Is Dead”が原点にあるのかと思うと超絶皮肉って気しかしないわけよ。結局わたしたちはここでノイズをぶちまけるしかないのかな?“N/O/I/S/E(No One Is Safe from Evil)”ってタイトルも、救いのなさを端的に表してる。

| she luv it『she luv it』

 初めて触れたSLI作品は、WDsoundsのオンライン・ストアでポチったCD-Rでした。アートワークが気に入ったのか、Mercyさんのレビューが熱かったのか、勘が働いたのかは覚えていないんだけれども、とにかくポチった。しかも送料とか考えないで一択でポチった気がする。届いた現物を聴いて、CONFUSEがBULLDOZEのカヴァーやってるみたいでヤバい!こういうの待ってた!って驚愕したので、間髪入れずにTシャツもポチった(ガンショットのやつ)。載せてるノイズ感ではなくて、出てくるノイズ感なのがすごかった。Mercyさんには発送のお手間をお掛けしてしまったけれども、非常に満足度の高い消費でした。しかし消費は更なる欲望を掻き立てるもので、もっとたくさんBULLFUSE聴きてー!ってなるわけですが、その間に4年もの歳月が経過。在宅感ハンパないけど、再びWDsoundsでポチったTONE DEAFとのスプリットは各4曲のシズル・サイズで悶絶しました(嬉しかったけど)。しかも、あれっ?CONFUSE感引っ込んでる…と思って最初は正直ガッカリしたんです。でも聴き込むうちに、主張が異なるノイズのレイヤーがネオサイケとかドリームポップみたいに重ねられているのに気づいて、極悪デスメタリック + スラッジィなDYINGRACE〜BURDEN OF DESPAIR感が前面に出てきたのはかっこいいけど、やっぱ蝉系のノイズコア感は欲しい…って安直に考えていた自分を恥じました。ノイズの扱い方がしなやかでヤバい。サブカル感皆無。それからまた4年待った作品なんだから、ヤバいに決まっていて、実際ヤバいです『she luv it』。『Unholy Judgement』収録曲の変貌ぶりだけでもスゲー!スゲー!ってなる。ローカル・ビートダウンをフレームワークにしているのは変わらないけど、各メンバーのキャリアが鋭いバランスでミックスされて、クラシックでありながら既視感はゼロ、ブルータリティを増せば増すほどキャッチーというアンビヴァレンス。そして音響面がやっぱゴイス。シュトックハウゼンのビートダウン・ヴァージョンというのは言い過ぎかもしれないけど、“音響ビートダウン”って響きヤバくない?DARKSIDE NYC『Optimism Is Self-Deception』を落とし面で強化して、アンビエント・テクノ以降の感覚で洗練させたらこうなるかもしれないけど、これは大阪だから実現できたんだろうな。真壁さんのアートワークもそういう部分にハマっているように感じます。