Review | 北海道・虻田「羊蹄山の湧水」


文・撮影 | あだち麗三郎

 今回ご紹介する水は、北海道虻田郡真狩村の「羊蹄山の湧水」。羊蹄山は、蝦夷富士とも呼ばれ、アイヌ語ではマチネシリと呼ばれる美しい山だ。その麓には大量の湧き水が湧いている。8割の関東近辺の水が富士山系の水というのと同様に、商品として存在する北海道の水は大体が羊蹄山系で、大好きな北海道のコンビニ・チェーン「セイコーマート」では『京極の名水』として売られており(これがまた安くておいしくて文句なしなのだ)、羊蹄山系水は北海道を代表する湧き水と言えるだろう。

 初めて北海道の水を飲んだのは、水にハマってすぐの頃。ネットで全国の水を買い漁っていた頃だ。20ℓの箱の水を毎月購入し、今月は九州、今月は東北といろんな種類を味比べして楽しんでいた頃に購入した北海道の水。なぜか、ほんのりミルキーな味がするのだ。まさか?と己の舌を疑った。直前に牛乳は飲んでいないし、グラスに牛乳が残ってたなんてこともない。もう一口飲んだ。やはりミルキーな味、味というよりは香りに近いものが感じられるのだ。これは、間違ってミルクが混入しちゃったのか?

 味覚がおかしくなったと思った。北海道といえば、そう牛乳、乳製品。だから水が乳製品の香りがするなんて、あまりにも味音痴だ。確かめてもらいたく、数人にも飲んでもらった。「確かに、ミルキーだ!」と言われて少し安心した。ちなみにそのミルキーな水で作るシチューは最高だった。

 現地に行っても本当に、ミルキーなのだろうかと、数年後にライヴ・ツアーで行った北海道で居残り、湧き水と温泉の旅に出た。そしてついに生の羊蹄山の水を飲んだのだ。やはりほのかにミルキーな香りがした。ここの土の香りがミルキーな香りがするからだと思うのだが、なぜ土がそんな香りがするかの原因は不明である。「こいつは本当は水の味の違いなんてわかっていないんじゃないか」と馬鹿にされるかもしれないが、自分の基準をそんなにアテにはしていないので、本当に単なる思い込みなのかもしれないとも思っている。

「羊蹄山の湧水」 | Photo ©あだち麗三郎

 ただ、この世界は思い込みではないと物理的にも実証できていないわけで。“わたしが存在している”ことや“時間が流れている”ことなど、当たり前とされていることはほとんど思い込みの可能性もある。全部が思い込みで、全部が思い込みでない、と考えても良いだろう。“思い込み”で自分の脳を騙してステップアップのために上手に使ってあげたらいいし、「思い込みかもしれない」と情報やムードに流されないように、考えるように習慣づけるのも良い。とは言うものの、最近、何が正しくて何が間違っているか、いくら自分で考えてもわからない情報がたくさんある。なんとなく納得がいくところあたりの境界線でただ揺れている。「踊らされているかもしれない」と自覚しつつも、その前に「自分の意思で踊っているのだ」という自発的なエネルギーだけは失わずに生きていたい。踊る理由は後付けで良い。「羊蹄山の水はほのかにミルキー」が事実かどうかはぜひ実際に確かめていただきたい。

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
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あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。