自分の好きなことって何だろう?
取材・文・撮影 | SAI (Ms.Machine) | 2022年5月
――自己紹介をお願いします。
「CHOBO CURRYと申します」
――最初、Twitterをフォローしてもらったのはなんとなく記憶にあったんだけど、どんな人かまで見てなくて。
「たぶん、見てもどんな人かわかんなかったと思う」
――DMもらったときに「えー!懐かしい!」みたいな気持ちで。
「そうそう。あのときは特に、もう活動を始めて半年以上経ってたんだけど、ちょうど本当に孤独を感じてきた時期(笑)。Twitterとかインスタで、同世代に身近で話ができる人がいないから、探してた時期で。そんなときにSAIちゃんのMs.Machineの活動とか、かなり見ていたというか。FUJI ROCKも応援してたし」
――ありがとう。
「行けなかったけどね」
――ふふ。
「話したいとずっと思っていて」
――そっかそっか。連絡くれたの、たぶん冬とかだったよね。
「うん、それくらいだったはず」
――会社を辞めたのが、去年の夏くらいっていうこと?
「ちょうど1年くらい前だね。4月末に辞めた」
――なんか周りも転職とかしてるから、人生の転機だよね。
「俺の周りもかなり多い。ちょうど俺ら、30になる年じゃん」
――うんうん。
「同世代でも多いし、年下でも。まあ、たぶんパンデミック後にいろいろ考えて、みんなそれが行動に現れる時期だよね」
――うん、たしかに。でも、CHOBOくんみたいな感じで活動を始めたり、海外に行ったりっていうの周りに全然いなかったですよ。
「あ、そうなんだ。たしかにわりと自分が早めだったかな、っていう感じはする。1人イギリス留学に行った友達とか知ってるけど。海外に行ってなんかしたい、みたいな気持ちの人が多いなあっていう実感だったというか。まあそれは“多いぞ”って自分に言い聞かせたのかもしれないけど。やってもいいんだ今は、みたいな」
――いろんなことが止まって、いろんなものが変わったよね……。どんな会社で働いていたの?
「広告代理店」
――コロナでけっこう影響受けてた?
「めっちゃ影響受けてた。広告会社だってピンキリだけど、全然うち大手とかじゃなくて。大企業の子会社っていう立ち位置だったんだけど。親会社が新聞社だったのね。だからやっぱり体制がまあ古いというか。やってることも、売っているものも古いし、高齢者向けビジネスみたいな感じだったんだけど。広告って予算が絞られるときに最初に絞られるところだったりするから、かなり打撃を受けて。本気でつまらなくなっちゃった感じだったな」
――新卒で入ったんだっけ?
「新卒で入って、そのまま4年働いて」
――なるほど。いろいろ人生の転機だったんですね……。というわけで、名前の由来を教えてください。なんでCHOBO CURRYになったんでしょう?
「CHOBOっていうのは、俺のあだ名で。自分の中では別名みたいな感じ。カレーは、俺、作るのめっちゃ好きで。将来的にカレー屋を開こうって思ってたんだよね。会社もカレー屋やりますって言って辞めたし」
――そうなんだ!
「でっかいカレー屋の社長になりますとか適当なこと言って」
――ふふ(笑)。
「まあ、カレー屋は40代で始めてもいいけど、音楽は40から始めるのがきついかなと思って」
――たしかに。
「たぶんいなくはないと思うんだけど、 なんかやっぱエネルギーいるじゃん」
――そうだよね。特にヒップホップというジャンルでYouTuberやるのって……。ヒップホップは、ユースカルチャーっていうか、20代前半とか10代の子たちが勢いある感じがするから、40代になったらできない気はするかも。
「やっぱり、やるならイケてることしたいっていう気持ちはあったから。若いうちしかできないこと、やっとこうっていう感じかな」
――なるほど。「MMT」って、バンドのサークルだったわけじゃないですか。みんな、いろんな音楽が好きだったと思うけど、そこからヒップホップを選ぼうと思ったきっかけとかあるの?
「きっかけは、ずっと聴いていた音楽と地続きにヒップホップがあったから。ずっとサイケ・バンドをやっていて、TAME IMPALAが一番好きなバンドなんだけど、Travis Scottとか、A$AP Rockyとか、ヒップホップに影響与えていたり。あのへんのアーティストのプロデュースをしたり、一緒に曲を作ったりしてるのとかを見て、最初はそこをきっかけに引きこまれたかな。あと、ネオソウルとR & Bにハマって。そこからヒップホップに流れていった感じかな」
――うんうん。
「バンドをやっていた身からすると、ヒップホップってとっかかりにくいというか、なんか別物っていう意識があったけど、いつの間にか世の中がヒップホップ一色に染まってて。アメリカのチャートだと独占してるし。そんな状況を見て、こんなパワーある音楽、他にないよなって。飛び込んでみたくなった感じがする」
――かなり、波に乗っている感じはするよね。日本のヒップホップもそうだし。CHOBOくんがこのタイミングで始めたっていうのも。すごい伸びしろっていうか、これからどんどん上がっていく感じがあるっていうか。
「客観的に見ると、こういうやつがいてもいいよなっていうタイミングで、俺が出てきたみたいな感じかな、と思って」
――「POP YOURS」が開催されたときに、ヒップホップに特化したフェスが日本にあまりないっていうのをツイートで見て、そうなんだなあと思いました。
「そうそう、なかった。ターニングポイントだと思う。俺、始めたときは本当に全然詳しくなくて。全然わからない状態で、いくつか好きなアーティストがいるみたいな状況。 最初はTohjiがめちゃめちゃ好きで。MCバトルとか、 前からいたような日本語ラップのアーティストはあまり聴いてきてないんだけど。Tohjiとかって、ハイパーポップの要素があったり、そういうところに衝撃を受けて、おもしろいと思って。毎日ヒップホップのプレイリストを聴き込んで、チャンネルが伸びるのと一緒に自分も知識を増やしてった感じ」
――そうなんだね!
「だから、コメントとかで、めっちゃわかってるね、すごい愛を感じる、とか言ってくれるの本当にありがたいんだけど、俺はけっこうまだまだ浅くて、たぶん見ている人のほうが全然詳しかったりするんだろうな、と思ってる」
――最初はあまり詳しくなくて、成長していくっていうの良いと思うし、インタビューが世に出たときに、あ、そういう感じで始めてたんだってなって、勇気づけられて始める人もいると思う。
「そう。始めるきっかけも……とにかく音楽をやりたかったけど、自分の技量とか能力でできることは限られていたから、まずできることをやってみた、みたいな感じ。そうしたらだんだん、できることが増えていったみたいな」
――なるほど。音楽をやるっていう選択肢として、ラップを始めるとか、バンドを始めるとか、けっこうあると思うんだけど、その中で、なんでYouTuberを始めようと思ったのかが気になる。
「そうだね。学生時代にバンドをやっていて、バンドで売れるっていう成功イメージって、俺、全くなくて」
――わかるわかる。
「バンドをやっていてもそう思う?」
――うーん、その道で生活するのは、なかなか茨の道ではあるよね。
「俺も、まだ考えられていない状態ではあるんだけど。音楽を大学のときにやって、仕事しながらバンドを続けていくみたいな選択肢はもちろんあったんだけど、やっぱり中途半端な状況でできるほど、自分が器用じゃないって思ってた。あと、目の前で、俺らの世代だとYogee New Wavesとか、never young beachとか、けっこう同じようなライヴハウスに出てはいるけど、毎月のようにぐんぐん成長が見えるというか、ああいう勢いになれる気が自分でしなくて」
――うーん、なるほど。
「うん。なんか成功イメージが自分の中になかったのね。だから、新しく地道な音楽活動というか、純粋にラッパーになって、音源をサンクラに上げて、それが誰かの目に留まって、オファーが増えて、みたいな道筋って、ちょっと自分の中で現実味がないというか。極端に言うと、ちょっと賢くないっていう気がしていて。それよりは、自分にあるものすべてを使って、今注目を集めないと、やってけないんだろうなっていう気はして」
――なるほど。
「その中で、なんかミームっぽいものとかをやってみたいって思っていたから、ちょっとコメディ調のこととかで注目されるのはそんなに難しいことじゃないな、っていう風にイメージが湧いて。今くらいの感じになるイメージまではあったっていう感じかな。他の方法はあまり思いつかなくて、TikTokとかもあるけど、俺はちょっとその才能もないと思ってたから。純粋に音楽活動を始めるっていうよりは、一旦YouTuberっぽくなって、そこから転身して、 アーティストになるっていうのがいいかな。そういう意味で言うと、Jojiとかはかなり影響を受けたというか」
――そうなんだ!
「そう、まあでもあんなレベルでコメディYouTuberとして気合入れてやれてないから」
――Jojiは名前だけしか知らないんだけど、YouTuberからアーティストになった人なの?
「もともとYouTuberをやっていて、コメディ・チャンネルだったんだよ。ふざけるタイプの人で。それが、曲を作ったらけっこうシリアスな感じだったりとか、バラード調の曲ばかり出していて。なんかこう、ふざけた奴が、ふざけた殻を脱ぎ捨てて、 かっこいいことをやるみたいなのって、けっこうサクセス・ストーリーとしてめっちゃカッコいいと思っていて。俺も、根がめっちゃふざけた人間だから、ずっとふざけていたい。今日もうずっと真面目にしゃべってるから、信用性ないけど」
――ふふ(笑)。
「ふざけた人間だから、とにかくカッコつけられなくて。ふざけるところから始めたいっていう気持ちがあったから。だからイメージはJojiとかから」
――イラストは、前から描いてたの?
「イラストは、YouTubeのアカウントを開設して、ギリまだ会社に籍があるみたいなときに、無料のお絵かきアプリを落として、初めて描いた。描いたことがなくて。ショートカットとか調べながら」
――前から描いてたのかと思ってた。
「全然。それも始めてから身につけた感じかな」
――すごいなあ!
「でも、今もガイドがなければ描けない。MVの画像を引っ張ってきて、上から描いてるだけだから、絵の技術があるわけじゃなくて。これは音を作って出すためにしょうがなく絵をやってるっていうバランスかな、自分の中で」
――最初見たときに、イラストは別の人がやってるのかと思った。
「なんかよく言われる」
――全部自分でやってるって、すごいことだよ。
「たいしたことしてないよ。1人で似たようなことやってる人もたくさんいるし」
――動画の元ネタみたいなものはあったの?
「“全部俺の声”っていうジャンルはニコニコの時代からあるらしくて。全然、俺がオリジナルですよみたいなツラするつもりはないし。直接参考にしたのは、アメリカの、すげー若い10代の人とかが……今もしかしたらもう年数経ってるから、20歳とかだと思うんだけど、Travis ScottとかTyler, The Creatorとかの曲を全部声でやっていて。それが一度バズっているのを見ていて、ああ、これは全然俺にもできるって思ったから。アメリカの曲で何100万とか再生されるなら、100分の1くらいは再生するんじゃないかなって思って。日本でも」
――その動画を見つけたときって、YouTubeの動画とかを見てたの?
「うん、見漁ってたかな。通勤のときの生きがいだったかもしれない、その頃は(笑)。そういう動画とかを知ったのは3、4年前で、いよいよ会社辞めたら本腰入れてやろうみたいな感じで。その人も、絵がめっちゃ下手で、すっごい雑な絵なの。そのタッチも相まっておもしろいんだよね。だから俺が投稿を始めたときも、最初は雑だったら雑なほどおもしろいんだろうなって思って真似して。でも、だんだん絵が上手いほうが褒められるというか」
――ふふ(笑)。
「絵も音も、綺麗にやったほうがいい反応がもらえるようになってきて、それでだんだん方針転換して、っていう感じかな」
――なるほど。録音機材とかって見せてもらえますか?
「マイクは、一番安かったやつで、全部サウンドハウスで買った気がする」
――そうなんだ!
「めっちゃ安い。バンドのときも、これでずっとデモ録ってたし。いまだに録音はこれでやってる。でも、やっぱりだんだん良いマイクが欲しくなってきた。“アプリはどうしてるんですか?”とかめっちゃ聞かれるんだけど、本当に全部無料のソフトでできるから。マイクとかはサウンドハウスで買えるし、始めるときに高いものを買う必要はないかな。アイディアだけあれば」
――めっちゃいいじゃん。もう今回のインタビューでめっちゃ良いこと聞けたっていう感じした。
「あとは、 Logic Proは使ってる」
――Logic使ってるんだ。
「バンド時代から持ってて。動画作るなら無料のGarageBandでも十分だけど、Logicのほうが音楽は作りやすいから」
――でも安い機材を使ってるの、めっちゃいいな。
「ですか?」
――読んだ人が“これなら俺も始められんじゃん”とか、そういう気持ちになりそう。
「なったらいいよね。機材はクソザコでも」
――始めようと思って、実際行動するって、すごいこと。人によっては、やる前に諦めてしまったりするもんね。
「本当に勇気いるよね。怖かった。やり始めるときとかは、マジで会社辞めるわけだしさ。まあ、仕事なしでも雇用保険とかがあるからなんとかなってたけど」
――サラリーマンを辞めるときはどんな感じだったの?
「勢いで辞めたとかじゃ全然ない。めっちゃ考えた。毎日、本屋と図書館に行って、嫌いだったんだけど自己啓発本とかも読んで。フリーランスのなりかたとか心構えみたいな本とか。やりたいことを続けていくために、そもそも自分の好きなことって何だろう?みたいなところからめっちゃ本に頼りまくって。かなり、答えというか、イメージはついた状態で辞めたね」
――なるほど。
「ビビりだからね。そういうことしちゃうんだけど……勢いもめっちゃ大事だと思う。ただ俺の場合は、とりあえず辞めてみればなんとかなる、みたいな感じでもなかったというか。自分の中で確信を持てるまでシミュレートした感じかな。だからそういう意味でも全然、ライヴハウスに通うみたいな始めかたは、ちょっとできなかった。音楽を始めるってなったとき、そういう始めかたではなかった。自分としては、ビジネスとして成立するのか?みたいなところを考えて」
――どういう曲をカヴァーするか、選曲のポイントを教えてください。
「基準はやっぱり、カヴァーしたらおもしろくなりそうで、好きな曲だよね。個人的になんかのれないなって思ったやつとかは、やっぱりやってもしょうがないし、リリックの面で嫌だなって思うやつとかは、歌うのしんどいから、やらない。人の言葉を言って、それが嫌な言葉だとけっこうしんどくて……。一度はやろうって決めるんだけど、その歌詞が嫌すぎて、やらずに終わるみたいな。2日くらいかけて無理だってなって、曲を変えるとかはあった」
――耳コピってどうやってやってるの?
「もともと、得意なんだよね。サークルでコピー・バンドをやるときも、友達の代わりにコピーとかしていて。そこは自分の強み。音を再現できる。聴いたらだいたいギターで弾けるし。どうやってやっているかっていうと、当たるまで聴く。フル尺じゃなくて、同じ曲の同じ部分を、何回も繰り返して当たるまで聴くから、1日で何100回も聴いてると思う。わかるまで聴くっていうだけかな」
――バンド時代の耳コピの経験が活きてるっていう感じだね。
「うん。でも、経験がなくても、めっちゃ聴けばなんとかなると思う」
――そうかな?
「うん。俺はめちゃめちゃ聴いてるから。めっちゃ聴いてる度合いは自信ある。英語の曲だと発音が難しいから、平気で1,000テイクとかいったりする」
――すごーー!! 努力の上に成り立っているんだね……。YouTubeの動画、1本作るのにだいたいどれくらいかかるの?
「俺、スロウスタートだから12時、昼くらいに始めて。最近はちょっとゆっくり、クオリティ高く仕上げるようにしてるんだけど。急いでるときは6時間で音を作って、2時間で描いて、1時間で動画にするみたいな。だから、9時間くらいあればできるかな。まあ何らかの休憩を挟んで11時間くらいかかってる。投稿して12時間で、終わったっていう感じで夜中」
――集中力と、自分に厳しくないと、なかなか……な仕事ですよね。
「うん。でも、そこめっちゃ集中できるのは、エンジニアとかに必要なところなのかな。そういうのに耐えられないといけないんだけど。全然好きだからできてるっていう感じかな。会社員時代に向かっていた机の感じと違うから。それよりは、だいぶ気持ちは明るくやれてる」
――再現するのに工夫しているところとか、コツってありますか?
「おもしろくないと観てもらえないから、おもしろポイントを作らなきゃ、と思いながらやってる。でも、やりすぎると臭うから、臭わない程度に。この曲が好きなんだよっていうリスペクトを伝えつつ」
――“臭う”ってなんですか?
「いや、ふざけすぎるとさ、なんかふざけにきてんなって(笑)。ちょっと嫌な感じするじゃん?」
――そういうことか(笑)。
「いや、全部ウケ狙いでやってるんだけど。狙いすぎると冷めるじゃん。塩梅は気にしてる」
――ウケ狙いでやってるって、あまり思ってなかったけどな。
「最初のほうは本当に、ギャグみたいなつもりでやってた」
――そっか。会社員を辞めた頃からCHOBO CURRYを知ってるから、そう見えないだけか。知らない人がやっていたらそう見えるかも。
「だいぶ、ふざけチャンネルだと思うよ(笑)」
――やりがいってどんなところですか?
「YouTubeはやっぱり、やればやるだけ数字になって跳ね返ってくるから。観てくれた数は、もちろん収入につながるし、この努力が自分にちゃんと返ってきてるっていう実感は、今までの人生でやったことの中で一番はっきりある。あとは、やっぱりコメントはめちゃめちゃ嬉しいね」
――リアクションがあると嬉しいよね。
「こんなにもらえるんだ、っていうくらいもらえるようになったし。思ったよりも、クリエイター想いのコメントってけっこう多くて。YouTuberとかに対して、人じゃないみたいな視点で見ちゃうこととか、批判ばっかり浮かぶことって、自分としてもあったんだけど、俺の動画のコメント欄は思ったよりあったかいんだよね。クリエイターの視点に立って、これをこの期間で仕上げるのはすごいとか言ってくれたり。こう言われたら嬉しいなっていうことがだいたい書いてある」
――なんか面接みたいになってるね(笑)。
「3つめに私が挙げたいと思うのは」
――うん(笑)、
「やっぱめっちゃ音楽の勉強になる。どういう構成でヒップホップの曲ができているのかとか、トラックメイキング / ビートメイキングの参考にはかなりなったかな。1曲仕上げるためにどういう要素が必要で、どうやって曲として成立させて、どこで盛り上がるのか、みたいな。歌ってるから、全部わかるようになった感じ。めちゃめちゃコーラス重ねてるんだ、ヴォーカルをめっちゃ重ねてるんだ、みたいな。オートチューンの使いかたとか。シンプルにめっちゃ音楽として勉強になってる」
――大変なところはどう?
「大変なところは、やっぱメンタルケアだよね、自分の。ウケてもウケなくても続けなきゃいけないし」
――それはたしかにね。
「毎日投稿していたときとか、本当に3ヶ月くらい、ほぼ買い物以外で出かけなかったし。最初の頃の2ヶ月半くらいは、勢いをつけたくて毎日投稿するのをやっていて。そのときは4、50日連続で投稿してたんだけど、60日以上あたりで本当に感情がなくなってきて(笑)」
――やばいね(笑)。
「全く感情がなくて(笑)。あ、そろそろ毎日はやめよう、みたいな。これはちょっと崩壊しそう、みたいになったときに、会社とかだったらね、帰りに軽く飲み行こうよみたいなのができるけど」
――そうだね。
「結局自分ひとりだし、みたいなのもめちゃめちゃあったから、精神的にはグラつくよ。けっこう」
――それはわかる。
「初めてフリーランスで家に籠もるみたいなのもそうだし。公衆の面前に晒されているみたいな気分……みんな気にしてないだろうけど、やっている側からすると、めっちゃ身を削って晒されてるみたいな感じでね。自分は、たいしてそんなこともないんだけど、被害者意識が生まれて。本当はそんなことないんだけど、みんなわりと温かい目で見てくれてるけど、俺なんかどうせクソだみたいな気持ちになってくるから」
――そうなの?
「マジであるよ、そういうとき。全然今日もあった。普通になんかクソだな、みたいな。散歩とかしてごまかすけどね」
――たしかにね。会社とかバイトとか行って外に出て、今の状況とかを人に話すだけで楽になったりするけど、ひとりっきりで打ち込み続けるって、けっこう精神的にくるところがあるよね。
「会社にいたときって、怒りの対象が外にあったというか。究極、俺のせいじゃないと言い聞かせられるというか。自分のミスだとしても、たくさんの人が関わっている中で出たことだし、薄れたりするんだけど、100%自分で責任を持って、何があっても自分のせいっていうのが、過去にない経験で。だから、やるのもやめるのも自分だけだし」
――うん、たしかに。
「でも、やらないと、また会社員にならなきゃいけないっていうプレッシャーもあって、なんとかやってるんだよね。でも、それってたぶんアーティスト全般がそうだよね。きっと。もっと大きくなって関わる人が増えたら全然また別の悩みがあると思うけど」
――外に出すまで、リアクションがないから本当にこれでいいのかな?とか思ったりするし、終わりもない。
「そうそう、終わりがない」
――ソロでやると特に。どこまででもやれるから、完成度っていうか。
「うん。そうだね」
――私は、普通の仕事ができないっていうか、所謂普通のバイトとかしていると怒られることが多いんだけど、音楽をやっているときの自分への評価と、バイト先からの評価って全然違うんだよね。音楽とかやっていなかったら自己肯定感ずっと低いままだったんだろうなっていうのが、すごいあるから。有名になりたいっていうよりかは、自己肯定感のためにやっているところがあるのかも。
「俺も、めっちゃポンコツだったよ。超遅刻するし。やれって言われたことできないし、しんどかった」
――今後の展望を教えてもらうところで、一応インタビューは最後なんですよ。
「オッケー。展望は、自分の曲を出す。今、カナダに住むようになって、たぶんだけど、来年再来年あたりからアメリカに住めたらいいなと思って。カナダにいる間は、ローカルのプロデューサーとかビートメーカーとか、DJとかと一緒に何かするっていうのが今の目標。今は本当に、日本人の10代、20代がちょっとだけ見てるYouTubeチャンネルみたいな感じになってるけど、アーティストとして見てもらえるようにシフトチェンジしたいっていうのが今後の展望」
インタビューは5月、この動画は8月頃。着々と叶えていってる!
――アーティストの活動をする、というのが着地点にあったから、カナダに移ったの?
「そこは深くはないんだけど、やりたいことを同時進行していたら、それぞれがクロスしていって。 せっかく会社辞めて住む場所に縛られなくなったんだし、海外に住んでみたいっていう気持ちが音楽活動と別軸であった。腰が重くなる前にやりたいことのリストの中に、海外に住んでみるっていうのがあって」
――なるほど。
「いろんな人がいそうなところっていう理由で、カナダに来たんだけど。まじで全人種いる」
――いいな〜。
「バンクーバーでは日本人はマイノリティになるけど、かなりいろんなルーツの人がいるから嫌な思いはしないかな。やっぱりヨーロッパ系が多いけど、アジア人として括れば全然マイノリティじゃないし。むしろアフリカ系がちょっと少ないかな。そういう場所で生活したことないじゃん、日本人って。日本に住んでいるとそういう、人種のバランスとか、絶対に気付かないところでめっちゃ視野狭くなってるし」
――うん、それはわかります。
「コンプレックスだったというか、もっと知るべきことがある気がしていて。いろんなバックグラウンドを持つ人が集まっているところに行きたいと思って。そういう目標があって、とりあえずカナダに住んでみたら、ここで音楽やってる人も全然いるし、繋がれたらいいな、みたいな気持ちが芽生えてきて。だから、もともと海外で音楽活動しようとは思っていなかったんだけど、日本に向けてやりたい気持ちもありつつ、海外でも受け入れられるものが作れたらいいなと思ってる。チャートで見ないじゃん、日本人の音楽。俺がチャートに乗るほどいけるかわかんないけど」
――いや、絶対いけるよ。
「なんかね、うん、いけると思ってる。なんとなく」