Interview | Dave Lombardo | DEAD CROSS


自分以外の人間の音に耳を傾けなきゃ

 スラッシュ・メタルの確立に絶大な貢献を果たしたスーパー・ドラマーとして名高いDave Lombardo。だが、ご存知の通り、ほどなくして彼はオリジナル・メンバーを務めたSLAYERから脱退し、ジャンルの枠に収まらないプレイを模索していった。キューバ生まれという出自を根に、もともと持っていた幅広い音楽の素養が、一気に表現領域を押し広げるきっかけとなったのは、Mike Pattonとの出会い~FANTÔMASへの参加だったという。近年では、MISFITS、SUICIDAL TENDENCIES、TESTAMENT、そしてMR. BUNGLEといったレジェンドをサポートする一方、ドラムを叩くだけにとどまらず、作曲 / プロデュースなどにおいても自身の可能性を追求し続けている。先頃リリースされたDEAD CROSSとしての2ndアルバム『II』(Ipecac Recordings)では、そうしたトータルな音楽家としてのLombardoが、最もバランスよく発揮されているように思える。他のメンバーのコンディションに少なからず不安がある状況下でのレコーディングとなりながら、それを乗り越えて完成させた作品は、聴き応え満点の傑作に仕上がった。それも含め、彼が関わった様々なプロジェクトを改めて聴き返したくなる濃密なインタビュー、ぜひ読んでください。

取材・文 | 鈴木喜之 | 2022年10月
通訳・翻訳 | 竹澤彩子
Photo | ©Becky DiGiglio


――DEAD CROSSの2ndアルバム『II』製作時には、Michael Crainの癌との闘病や、Mike Pattonの精神的な不調があったと伝えられています。こうした状況を背景にしたレコーディングがどういうものだったか、その結果アルバムに何がもたらされたか、あなたから話していただけますか?

 「まず最初に、うちのバンドのことを取り上げてくれてありがとう、心から感謝するよ。そう、今作の曲を書いている最中にMichael Crainが癌だっていうことが発覚してね。ただ、本人が病気に意識を持っていかれることを望んでいなかったし、それよりも純粋にクリエイティヴでいて、この作品を完成させることにフォーカスしたいっていう思いを強く持ったんだ。そりゃ当然のことながら、最初のうちは動揺していたし、落ち込んでもいたけど、結果的にはそうした恐怖心も、彼自身だけでなく、バンド全体の背中を押してくれたと思う。自分が生きてるうちに、なるべく多くのものを作り出そう、時間を無駄にしてるヒマなんてない、さあやろう、俺たちの思い描いてるものをかたちにしようぜ!って、前向きなムードだった。それから、Mike Pattonのメンタル面も間違いなく反映されているだろうね。今回、ヴォーカルやメロディに関して、いわゆるメタル / パンク的なスクリームとか、がなり声を使った激しい表現よりも、Pattonの個性がより色濃く出た気がしてる。その結果、今作にはFAITH NO MORE的な要素が加味されているんじゃないかな。そんなふうに、メンバーそれぞれがパンデミックで直面した困難な状況が、今回のアルバムの原動力になっていることは間違いないと思う」

――現在、バンドの調子はいかがでしょう?あなたとMike PattonはMR. BUNGLEとして12月にツアーを行うようですが、来年にはDEAD CROSSのライヴ活動もあり得ますか?
 「いやあ、本当にそういう流れになればいいと願ってる。MR. BUNGLEとのツアーで、Pattonが人前に出たり大勢の人々に囲まれてる状況にだんだん慣れていってくれればいいと思う。これは今後、DEAD CROSSとしてツアーできるかどうかの試金石になるだろうな。自分としては、マジでうまくいってほしい。ただ、不安というよりも前向きに考えてるよ。自分はPattonがどんな男か、よーく知ってるからね。あいつがどれだけステージを恋しがっているか、痛いほどわかる。ていうか、あの快感を忘れられるはずがない。俺たち2人はいわゆる“同じ穴のムジナ”というやつで、ステージで演奏することが何よりも好きだし、あいつもライヴが恋しくてたまらないはずなんだ。だから再び舞台に立てば、きっと調子を取り戻すって信じてるんだ」

――Michael Crainの病後の様子は?
 「彼は、無事に癌を克服したよ。今はもう完全に復活していて、めちゃくちゃハッピーだ。ていうか、Crainってそもそも丈夫な上に本人も日頃から健康に気を使っていて、食い物を選んだりヨガをやったり、昔から意識高いんだよ。だから、あいつが癌になったと聞いて、超健康体のあいつがなんで!? って、みんな驚いてたな。“ジャンク・フードとかには一切手をつけてなかったのに!?”って。ちょうど1週間ぐらい前、自分がやっているもうひとつのバンド、TESTAMENTのLAでのショウを観に来てくれたんだけど、すっかり元気そうでめちゃくちゃ嬉しかったよ!」

――ちなみにCrainは、先行楽曲にもなった「Reign of Error」を作っているときに「Jeff Hannemanの存在を近くに感じた」と証言しています。あなたはその話を聞いて、どう感じました?
 「それは……あり得る(笑)。なにしろ、あいつは初めて会った時点で、思いっきり腕にSLAYERのタトゥを彫っていたような奴で、誰がどう見たってハードコアなSLAYERファンっていうのがモロわかりだった(笑)。それが大病を患って自分の人生を振り返ったとき、困難を乗り越える糧として、信奉してやまないJeff Hannemanを心の拠り所にしたっていうのは、おかしくない話だよ」

――もうひとつの先行楽曲「Christian Missile Crisis」のリリースに際しては、「アメリカ自殺防止財団サンディエゴ支部」およびサタニック・テンプル(The Satanic Temple | 本部 マサチューセッツ・セイラム)の「宗教における生殖に関する権利キャンペーン」の支援を目的とするオンラインのオークションが行なわれました。サタニック・テンプルに関しては、あなたはJustin Pearsonと一緒に、代表者であるLucien Greavesのアルバム『Satanic Planet』にも参加しています。悪魔教の音楽作りに参加するのはどんな経験だったか、感想を聞かせてください。
 「Satanic Planetについては、パンデミック中に話をもらったんだけど、めちゃくちゃ楽しかった!もともとダークで不穏な音楽が大好きなわけだし、しかもあの作品はインダストリアル系だったこともあってなおさらツボでね。Justinから“試しに1曲書いてみようぜ?”って誘われて、一緒に作ってみたら、先方がそれをえらい気に入ってくれて。もともとリミックスとかのプロダクション関連作業は好きでね。ドラムを叩く以外にも、作曲やPCを使った作業なんかも本当に好きだから、この話が来たときにも超興奮しまくったし、しかも自分がやった曲を向こうがたいそう気に入ってくれて、1曲、また1曲とオファーをこなしてくうちにアルバム1枚分になってしまったんだ。作曲家として以外の貢献についても大いに買ってくれたみたいで、プロデューサーとしてもクレジットしてくれた。マジで気持ちよく仕事させてもらったよ。サタニック・テンプルという団体の活動に関しては、特に女性に対する支援という面で、世界にポジティヴな影響をもたらしていると思う」

――DEAD CROSSの新作の内容もそうですし、MR. BUNGLEでもTHE EXPLOITED「USA」をカヴァーしたり、Jello Biafraと共演するなど、近年のあなたとPattonの表現には、政治的な色が強くなってきているように思えます。やはり、近年の社会的な状況が、表現に影響しているのでしょうか。
 「そう、まさに。パンクであり、怒りを抱えた音楽っていうのは、常に政治的な面と結びついてるものだ。とりわけ今みたいな状況下では、とりあえずでもいいから政治に関心を持ってもらわないと。この際どっち側を支持するとか関係ない……いや、実際のところ大いにあるんだけどね(笑)。俺は過去30年から40年の間、アメリカ以外のいろんな国を旅して、世界中の本やニュースに触れてきた。言葉の壁もあるから正確には把握できていないかもしれないけど、それでも自分なりに世の中を見てきた経験によって、どういう事態が起きているか想像することはできるつもりだ。自分たちの住んでいる地盤がどれだけ危うくて、一歩間違えれば恐ろしいことになりかねないか、十分わかってる。今起きていることなんてまさしくそうで、それに気付いていない連中があまりにも多すぎる。独裁者っていうのは、右側左側どちらの扉からも集団心理に忍び込んできかねない。あいつらは最初、みんなが聞きたい甘いことを言っておいて、権力を握った瞬間に手のひらを返しやがる。俺の母国キューバでも、まさにそういうことが起こったんだ。フィデル・カストロも最初は人々にとってのヒーローだったのに、権力者になったら豹変して、その結果キューバは独裁体制になった。自分は、母国がそうなる姿を目の当たりにしてきたわけで、しかも同じことはどの国にでも起こりうる。ミュージシャンであり、しかもこの手の音楽をやってるからには、そういう問題を避けて通るなんてできないよ。怒りやフラストレーションは、パンクっていうものと常に抱き合わせなんだから」

――先行楽曲「Heart Reformer」のMVに参加しているChris Cunninghamは、Aphex Twinの映像仕事などで知られる、あのChris Cunninghamなのでしょうか?
 「そう、あのChris Cunninghamだよ。たしかPattonかJustinかどっちかに共通の友達がいて……とかじゃなかったっけ? 自分はそのへんあまり詳しく知らないんだ。バイオをチェックしてみたらAphex Twinとか出てきて、うわ、そうなんだ!って(笑)」

――今作では、PattonとPearsonがデュエットのようにかけ合いで歌っているところが目立つと感じました。これには何か理由があるのですか?
 「Pattonが前々から、Justinと一緒に歌いたいって言ってたんだ。ふたりとも声質が全く違うし、Pattonたっての希望でJustinにも歌ってもらいたいっていうことになったんだけど、最初Justinは“いや、自分は歌なんて得意じゃないし、しかもMike Pattonの横でなんてマジ無理!てか冗談だろ!?”みたいなノリだったのを、Pattonが“本気でお願いだ、頼むからこのパートを歌ってくれ!!”って拝み倒してね(笑)。Justin本人も半信半疑で歌い始めたみたいな感じだった。ちなみに、PattonもJustinもそれぞれ自分の家のスタジオから個別に歌入れをして、音声ファイルのやりとりで仕上げたんだよ。このツイン・ヴォーカル形式は今作に新たな要素を加えてるし、バンドにとって現在進行形でもっとおもしろいことになりそうだろ!ここからいろんな可能性が開けていくような気がする。Justinがバース、サビをPattonが歌ったっていいし、なんだったら同時に歌ってもいい。いろいろなアイディアが膨らんでくるよ。それに、Pattonからの提案っていうのがまたいいじゃないか。Justinに対するリスペクトが伝わってくるだけじゃなく、他のヴォーカリストを積極的に受け入れようっていう姿勢なのがわかってさ」

――前作に引き続き、今回もRoss Robinsonがプロデュースを担当していますが、彼はDEAD CROSSの作品において、どのような役割を果たしてくれていますか?
 「バンドにとって、めちゃくちゃデカい存在だよ。精神的な面でものすごくポジティヴなエネルギーをもたらしてくれるんだ。俺も他のメンバーも、Rossのことが大好きだよ!そもそもDEAD CROSSの始まりは……彼に別のプロジェクトを担当してもらう予定でスケジュールを組んでもらってたのに、直前になってプロデューサーを立てるつもりはないって言い出したから、そんないい加減なことがあるか!って俺はブチ切れて速攻で降りて。それでRossに“せっかくスケジュール押さえてもらっていたのに申し訳ない!”って謝ったら、“いやいや、そんなこと気にすんな。それより明日うちのスタジオに来いよ”って言われてね。それで行ってみたら、そこにMichael CrainとJustin Pearsonがいたというわけ。つまり、彼が俺たち3人を引き合わせてくれたんだ。だから当然、このバンドにとって非常に大きな存在だよ。いろんな方向からインスピレーションを与えてくれるし、アイディアの部分でも刺激を受ける。まさにプロデューサーと組むことの醍醐味を味わせてくれるんだ。自分にはない知恵とか視点を提供してくれるしね。ドラム・パターンのヴァリエーションとか、曲のアイディアでも貢献してもらってる」

DEAD CROSS | Photo ©Becky DiGiglio

――ところで、DEAD CROSSの新しいアーティスト写真は、かなり悪ノリしているというか、とてもおもしろいものになっていて、あなたも思わずSNSで「Caption this」とネタを募集していましたね。あれは誰のアイディアだったのでしょうか?
 「もともとPattonが大の写真嫌いで……というか、少なくともつまらない撮影に付き合うのはゴメンだっていう感じ。壁に背を向けているだけとか、ゴミ置き場に突っ立っているだけとか、そんな退屈な写真にするくらいならいっそのこと、ということで“家からスーツ一式持ってこい!ついでに帽子も持ってこい、コスチューム持ってこい!”ってPattonが言い出して、他のメンバーはその指示に従った。だから、あの一連の写真はすべてPattonのアイディアからの流れなんだ。線路まで行こう!って撮影現場を急に移動したり、全部その場のノリで(笑)。あと、どういうわけだかMichael Crainって、やたら脱ぎたがるんだよ。それであいつだけなぜかパンツ一丁っていう(笑)。他のメンバーもそこは温かい目で、好きにさせてやろうぜって(笑)」

――さて、あなたは近年、このDEAD CROSSだけでなく、MISFITS、SUICIDAL TENDENCIES、TESTAMENT、そしてMR. BUNGLEといったレジェンド級のバンドに数多く参加してきています。それぞれのバンドでプレイするにあたって、ドラムキットのセッティングだけでなく、プレイ・スタイルに関してどう意識を切り替えているのでしょうか。
 「当然、切り替えは必要だ。MISFITSの場合はパンクなんだけど、ロカビリーっぽいテイストがあるから、そういう叩きかたになる。普通にストレートで速いプレイだけど、パンク / スラッシュ的なドラムとは違って、若干スウィングが入ってる感じなんだ。それからメロディについても、Aメロ / Bメロ / サビとかをかなり意識して叩くことになる。もちろん、MR. BUNGLEでもDEAD CROSSでもやっていることではあるけど、アプローチが微妙に違っていて、その2つではどちらかと言うとギターの複雑な絡みとかのほうにより意識がいくんだ。それがSUICIDAL TENDENCIESになると、今度は少しグルーヴィなフィーリングになるんだよね。あくまでもパンクに根差しながら、同時にファンク的な要素もあって、いわゆるパンク・ファンク的なところに寄せるし、当然グルーヴも変化する。あとは単純に、MISFITSのドラムはたった4ピースのセットなんだけど、TESTAMENTでは……えーっと1、2、3、4……合計10ピースになるのか。DEAD CROSSとMR. BUNGLEに関しては基本7ピース。だから勿論バンドごとに違うし、各バンドの中でも曲によって、ちょこちょこ変えていったりする」

――DEAD CROSS、MR. BUNGLE、そして FANTÔMASでは、Mike Pattonと仕事をしています。彼との共同作業は、どういうおもしろさをあなたにもたらしてくれますか?
 「なるほど、そうくるか……あいつと最初に会ったのは1997年か98年頃で、その後すぐにFANTÔMASの音楽を聴かせてもらって、すぐに“あ、わかる”って思えたんだ。自分はこれを昔から知っていたという気持ちがしたし、100%同意できるってね。そこからはアーティストとして、ただひたすら尊敬しまくってるよ。なんと言っても、あの熱量!常に創造へと身を捧げてるんだから。そんな姿を見ていると、ああ、俺もこんなふうにクリエイティヴになりたい!って、めちゃくちゃ刺激される。いくつもバンドを掛け持ちしているところなんかは、彼の影響かもしれない。仕事に対する熱意から、スケジュール管理の方法まで、ビジネス・パートナーとして、友人として、同志として、学ぶことが多すぎる。しかも本当に心根が良い奴なんだ。付き合いが長くなると、それこそSLAYERなんてまさにそうだったけど、家族と同じで、お互いに対する配慮や思いやりを忘れがちになってしまったりする。なのに、Pattonは本当に気遣いの人で、俺がいつもと様子が違ったり、本調子じゃないなっていうときには、必ず“よお、デイヴ、元気か?”って声をかけてくれるような奴なんだ。“おまえんとこのワイフや子供たち、元気でやってる?”っていう感じで。ちょいちょいメールとか電話で気にかけてくれる、そういう奴なんだよ!この点は本気で尊敬していて、自分も見習いたいと思ってるところ。そんなわけで、あいつの物語、レガシーの一部に自分も参加させてもらってる事実が光栄で仕方ないね。あと、ステージでの即興能力のハンパなさ!これは俺とPattonの両方が持ち合わせている珍しい才能だって気付いたんだけど、その場でパッと思いついたものを作品のかたちにしてしまえるんだ。それが縁で、John Zornとも交流できた。俺が即興向きだから、ステージで他のミュージシャンの音を聴いて、さらにプラスしてその場で返せる奴だっていうことでね」

――ジャンルに凝り固まりがちなヘヴィメタルのシーンに、あなたやMike Pattonの存在は大きな刺激を与えてきたと思います。あなたが、定型的な枠に収まらないドラマーになった理由は、どういうところにあったと思いますか?
 「昔からそうだった、毛色が違うというか。それがあったからこそ、SLAYERを始めた頃すでに、80年代初期から他のスラッシュメタル・バンドのドラマーと自分は一線を画していたんだと思う。ただ、そういうプレイが本格的に開花したのは、それこそFANTÔMASで叩くようになったり、Pattonみたいな人間と演奏するようになってからだ。ああ、こっちのスタイルでも受け入れてもらえるんだ、ってね。実際、自分はスラッシュ系のドラマーっていうことになっていたけど、Pattonと出会ったおかげで、それ以外のジャンルに飛び込むのも躊躇しなくなったし、そもそもの性格からして、退屈なのに我慢できなくてさ。ミュージシャンとしては常に新たなプレイを模索していたいじゃないか。そのためには自分以外の人間の音に耳を傾けなきゃいけないし、自分とまったく違う種類のドラムに触れていく必要がある。実際、自分とは違う演奏スタイルや、セットの組みかたを持っていたりする革新的なドラマーを見ると、インスピレーションをガンガン受けるよ。新たなアイディアやアプローチを試しているドラマーを尊敬する。ただ、それって普通に、成長するということの一部だと思うし、成長が止まった瞬間から自分がやっているバンドに不満を感じるようになるわけ。自分は何か新しいものを発見して、それを自分のスタイルに応用するときにこそ、めちゃくちゃ興奮をかき立てられるんだ。だから、常に新しい音楽や影響に対して自分を開いておいて、中身を刷新していかないとね。そのために、ひたすらいろんな音楽を選り好みせずに聴きまくることが必須なんだ」

――DEAD CROSSの1stアルバムではBAUHAUSの「Bela Lugosi's Dead」をカヴァーしていますが、ああいうタイプの音楽も好きなんですか?
 「もちろん。THE DAMNED、BAUHAUS、X、CHRISTIAN DEATH、それからB-52'sも、要するに80年代半ばから後半にかけてのあの辺のスタイルだよね。BAUHAUSのあの曲も大好きで、いろんな人にカヴァーされてるけど、俺たちのが一番いいと思ってるよ!」

――では、今あなたが高く評価しているドラマーは誰になりますか?
 「今ハマってるのは、NPRのTiny Desk Concertで見つけたTH1RT3ENっていうバンドのドラマーで、Daru Jonesっていうんだ」

――あ、Jack Whiteのバックで叩いてる人ですよね。
 「そうそう、ちょっと前にJack WhiteとFUJI ROCK FESTIVALに行ったんだよね。あの独特のスウィングがたまらなく好きだし、ドラム・プレイも型破りで!あえて微妙に拍を遅らせてあって、それが何とも言えない感じでツボを突きまくりっつうか、マジ最高!! まさに快感!もともとTH1RT3ENの頃からファンで、その後Jackのバックでやっていると知って、最高に腑に落ちる組み合わせだと思ったよ!あともう一人、これまたTiny Desk Concertで見つけたSON LUXっていうバンドのIan Chang。なにしろ変わりすぎていて、もはや異次元レベルなんだけど、独自の美学が貫かれていて、リズムに対してもそうだし、サウンドやクリエイティヴィティっていう面においても本当に刺激的だ。いわゆるスラッシュ系ドラマーの中で新たなドラム・スタイルを模索している人間はそうそういないから、それもあって別ジャンルのドラマーのほうが自分にとっては新鮮で刺激的だったりするんだよね」

――あなたのことを尊敬しているドラマーは、日本にもたくさんいるので、彼らに何かアドヴァイスをするとしたら、どんなことになるでしょう?
 「いろんな音楽に対してオープンであれ、とにかく視野を広く持て、っていうことかな。でも、今そう言いながら、自分がまだガキだった頃、周りの連中がみんな全員KISS好きだったのを思い出すな(笑)。いや、KISSは最高だよ、あのドラムも最高!姉の夫がラテンだのジャズだの、ブルーズだの教えてくれたのに、当時の俺はロックンロール以外は相手にしないみたいな態度ではねつけたりしていたこともあったよ(笑)。いやいやLED ZEPPELINでしょ!みたいな(笑)。でも、やがて成長して大人になるにつれて、義兄に聴かせてもらった音楽が実はものすごく参考になるってわかったんだ。だから若いミュージシャンにアドヴァイスできるとしたら、とりあえずいろんなドラムに触れろっていうことだね。俺なんか今じゃドラムの起源に遡って、アフリカの部族ごとのドラムとかを研究しているくらいなんだ。ドラムがそもそも生まれたのはアフリカだから、新しいものを発掘するのも大事だけど、時にはルーツに戻ってみるのも大事だしね。あるいは中東のドラム、日本の太鼓、インドのタブラに至るまで、拍子や音程の取りかた、それぞれ全然アプローチが違う。まあ、そんな感じで、とにかくオープンであること。それが一番のアドヴァイスだよ」

――FANTÔMASとMELVINSが合体してビッグバンド編成で演奏するとき、Dale Cloverとのツイン・ドラムでやるのはおもしろいですか?
 「マジで勉強になってる。Daleのサウンドって、ステージ映えするんだよ!一緒にステージに上がって隣でドラムを叩くことになって、自分のドラム・サウンドについてものすごく考えさせられた。ステージ以外でも、Daleが別のドラマー(Coady Willis)と一緒に叩いているMELVINSの『(A) Senile Animal』っていうアルバムがまた最高!もともとスラッシュメタルやパンクは全体的にペース速めなんで、音と音の間合いをどう取るかっていうことに関して、めちゃくちゃ勉強になったよ。間近でプレイを観て、音を聴かせてもらって、MELVINSのあのスタイルを1対1の個別指導で勉強させてもらったようなものだから、そりゃ自分にとってプラスになるに決まってる。しかも、Daleって自分とは出自から何から見事に違うから、一緒に叩いていて楽しい!そういうふうに、心をオープンにしておけば、新しいインスピレーションが向こうからどんどん入ってくるんだ。自分自身、それで多くのことを学んできたしね。MELVINSとの経験は、明らかにDEAD CROSSの音にも反映されていると思う。たとえば1stのスロウな曲とか、あきらかにDaleでありMELVINSからの影響が出ているよ」

――さて、あなたはキューバ出身ですが、ハバナのメタル・バンドZEUSのドキュメンタリー映画『Los Últimos Frikis』(2019, ニコラス・ブレナン監督)にスコアを提供することになった経緯と、実際にやってみた感想を教えてください。また、キューバという出自が、自身の音楽観に影響を与えていると感じることはありますか?
 「うわ、そりゃ壮大すぎて、どこから始めればいいんだ。まず監督から打診があって、やり取りしていく中で、サウンドトラックをやってみないか?みたいな話になり、こっちもぜひ!ということで……それが2010年だったかな?そこから7年経ってようやく、映像ができたよ!って連絡が来て(笑)。こっちはてっきりプロジェクト自体が立ち消えになったと思っていて、その存在すらすっかり忘れてたよ(笑)。やがて、そこから素材がどんどん送られてくるようになって、関連映像やTV番組なんかにもがっつり関わるようになっていったんだ。これまでいろんなプロジェクトに携わってきたけど、サントラ全体というのは自分にとって初めての経験だった。でも、せっかくだから乗っかってみようって思って。作業を進めていくにつれて、感情的にグッとくる場面はいくつもあった。だって、ZEUSのメンバーが経験したことは、俺の人生に降りかかってもおかしくなかっただろうから。自分は1965年生まれで、もし両親がキューバを出ていなかったら、今もキューバに暮らしていたかもしれないし、ZEUSとも知り合っていたかもしれない。今となっては、たらればの話でしかないけど、彼らの軌跡を映像で見ながらそのための音楽を作るっていうのは、自分にとって怒涛の感情が押し寄せてくる強烈な体験だったよ。実際、この件がきっかけでキューバを訪れたんだ。2018年に、80代になる母親を連れて、妻と一緒にね。自分の生家を訪れたり、それまで会ったことのなかった親戚と会ったり、ZEUSのメンバーとも対面できて、キューバの役人と話をする機会をもらった。さらにその数ヶ月後にはSUICIDAL TENDENCIESがキューバでライヴをやることが決まり、再び戻って演奏することもできた。強烈にエモーショナルな、忘れられない体験だったよ。故郷の人たちと繋がることができて、それまでそういう機会がなかったから、本当に自分の人生において、かけがえのない素晴らしい経験になった。母と一緒に、かつて両親が暮らしていた家や、父親が商売していた店を訪問することもできて……これは本当に感極まるような体験で……しかも、うちの長男がちょうど同じタイミングでガールフレンドと一緒にハバナに滞在していて、それも含めて何から何まですべてが貴重な体験だったんだ」

――それ以前から、キューバと自分との繋がりを意識していましたか?
 「もともとそうだったのが、2018年1月のキューバ訪問で大団円を迎えたような感じだね。そのドキュメンタリー用の音楽を成し遂げることができたのも、さっき話した、ラテン音楽やブルーズ、キューバの音楽全般を愛してやまなかった義兄のから影響なんだ。後から、あ、あれってあのときのやつだ!って思い出して、自分でアルバムを買いに行ったりとかもした。それに子供の頃から父と母が家でキューバ音楽を聴いていたし、というのも、2人とも英語が達者じゃなくてね。それでも企業で働いて、定年して他界するまでスペイン語で暮らしていたんだ(笑)!そこがアメリカっていう国の素晴らしいところだね。英語なんて話せなくても、家も買えるし、就職もできるし、最低限ハロー、グッバイ、サンキューくらい言えたらなんとかやっていける(笑)。だからキューバ人としての血は作品の中にも流れているし、特にあのサウンドトラックを作っていた時期は、本当にいろんな感情がワーっと一気に自分の中に押し寄せてくるみたいだった」

――それでは、今後このバンドで叩いてみたい、この人と共演してみたいと思っているアーティストなどがいれば教えてください。
 「もうたくさんありすぎて、どれかひとつに絞ることなんてできない。ドラム以外にも作曲業やプロデューサーとしての仕事も大好きだし。来年の始めにも、自分が参加しているアルバムを何枚か控えてて、今の段階ではそこまでしか言えないんだけど、マジで興奮しまくってる。あのDave Lombardoがソフトなバラードでブラシを使って叩くのに挑戦していて、しかも本人がプロデュースしてるっていうんだから、これはかなり見ものだぜ!もう作っているそばから楽しかった!しかも、すでに2作目も視野に入れながら3曲くらい作っていて、現在進行形で進化してる。自身の音楽を更新し続けて、思いっきり楽しんでいるよ」

DEAD CROSS | Photo ©Becky DiGiglio

――最後に、テキサス州でDEAD CROSSのメンバー全員が逮捕されたりしたこともあったそうですが、数多くの困難を乗り越えてバンドを存続するパワーはどこから湧いてくるのでしょう?
 「そりゃいろんな理由があるけど、最大の理由としては、音楽を愛しちゃってるからだね!心の底から音楽が好きで、オーディエンスの前でプレイするのがひたすら喜びで、そうやって大好きなことをやってるうちに、JustinやMichaelみたいな生涯においてかけがえのない仲間と繋がることもできたしね。残念ながらGabe Serbian(DEAD CROSS初代ヴォーカリスト | ex-CATTLE DECAPITATION, THE LOCUST, HEAD WOUND CITY, HOLY MOLAR, RETOX etc.)は亡くなってしまって、今は安らかに眠っているけれど。ただ、生前Gabeから、これ以上は続けられないって言われて、Mike Pattonを誘ったら快く応じてくれたっていう、こんなできすぎたストーリー、こんなに都合のいい話がどこにあるかと思うね。とりあえずダメ元で声をかけたら、イエスって言ってくれたんだ、マジで奇跡でしかない!これだけでも恵まれてるのに、さらに自分たちのことを待ってくれているファンの存在もあるわけだから。そのためにも続けていかなくちゃ。音楽は文句なしに最高、本人も楽しくて仕方ない、これこそが続けていくための原動力だ。そりゃ人間生きていればちょいちょい困難にぶつかることもあるけど、そんなの屁でもないくらい大きな感動を目の前にしているわけだから。この先どんな素晴らしいことが自分たちを待ってるのか見てみたい、というか、今与えられたこの機会を思う存分楽しみ尽くしてやろうっていう気持ちなんだ」

――ありがとうございました!
 「こちらこそ、ありがとう!どうか近い将来、日本に行って直接みんなと会えますように!」

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DEAD CROSS 'II'■ 2022年10月28日(金)発売
DEAD CROSS
『II』

国内流通仕様CD IPC248CDJ 2,400円 + 税

[収録曲]
01. Love Without Love
02. Animal Espionage
03. Heart Reformer
04. Strong and Wrong
05. Ants and Dragons
06. Nightclub Canary
07. Christian Missile Crisis
08. Reign of Error
09. Imposter Syndrome