Interview | さよひめぼう x パソコン音楽クラブ


早く家に帰ってDTMやりたいな

 ヴェイパーウェイヴに触発され活動を開始し、ハイブリッドな音楽性と圧倒的なクオリティで注目を浴びるさよひめぼう。今年10月には最新アルバム『ALIEN GALAXY MAIL』をリリースし改めて話題を呼んだ。この度、その活動の初期からのファンであり、貴重な初ライヴを目の当たりにした経験もあるパソコン音楽クラブの西山・柴田両名を招いた鼎談を行った。今年8月にミニ・アルバム『Ambience』をリリースしたパソコン音楽クラブは、主催イベント「パソコン音楽クラブ Presents 『COM_PLEX』」を11月29日に東京・恵比寿 The Garden Roomにて開催。その出演を経た3人による、互いへのリスペクトあふれる対話をどうぞ。

 なお『ALIEN GALAXY MAIL』の発売を記念して、CORNER PRINTING制作の「さよひめぼう x GraphersRock ロングTシャツ」2種(ホワイト / ブラック)を販売。デザインはアルバムのカヴァー・アートを手がけたGraphersRockによるもの。


進行・文 | imdkm | 2020年12月

「パソコン音楽クラブ Presents 『COM_PLEX』」フライヤー

――パソコン音楽クラブ(以下、パ音)のおふたりとさよひめぼうさんは、先日「COM_PLEX」で共演されたばかりですね。イベントはいかがでしたか。
西山 「今回、新型コロナの感染拡大真っ只中でやることになったので、感染症の対策をやれるだけやりつつ、結果的に普段とは違うイベントになったかなと思ってます。特に、座席指定でお客さんに入ってもらったので、さよひめぼうさんも含めて身体性を重視したジャンルの音楽が多い中でどうすればいいか、不安と期待がありました。でも終わってみるとすごく満足感が高くて。記憶に残るものになったと思います」
柴田 「クラブなのかコンサートなのか、その中間って体験したことなかったので、そこを探っていくのがわくわく感もありつつ不安でした。実際にやってみると、クラブともコンサートとも違った別の“何か”ができていました」
さよひめぼう 「感染症対策が万全にしてあって、その上で参加できたっていうのがまずありがたかったです。実際にその場所に行ったら、席がたくさん置いてあって全然普段のクラブみたいな雰囲気じゃなかったんで、始めはどう時間が進んでいくのか不安なところもあったんですね。でも、音が出始めて、だんだん時間が進むにつれてお客さんも馴染みながら場ができていくという感じで、すごくおもしろいイベントになっていっていると感じました。全部終わってみたら、なんかもう、この2020年を象徴するような素晴らしいイベントになったなという感想です」
西山 「そういってもらえるとすごく嬉しいです」
さよひめぼう 「観る側としてもすごく楽しめたので、また世の中が正常に戻ったときにこういうイベントが再び盛大に開催されたら最高に楽しいなと思います
西山 「お客さんもどういう風に楽しむかをイベントが進むにつれて理解してくださって。かつ、大きい声をあげないとかそういうことを意識してくださったので、声を上げる代わりに手を叩くとか、別の形で盛り上がりを表現するようなことも最終的にあって、“みんなで作っていく”ってよく聞きますけど、そういう表現が適切なイベントになったなあと思いました」

パソコン音楽クラブ | 「COM_PLEX」配信映像

――『ALIEN GALAXY MAIL』のリリース・コメントで西山さんがおっしゃっていますが、さよひめぼうさんの初ライヴもパソコン音楽クラブの主催イベントだったとか。
西山 「“SOUND EXPO”っていうイベントで、2回やっているうちの1回目ですね(* 1)。さよひめぼうさんに全く面識がない段階でお声がけして、来ていただきました」
* 1 2017年12月9日、京都・METROにて開催
柴田 「どこに住まれてるかもわからなくて。日本の方かもわからなかったんですが、外国の方でも渡航費くらいだったら出そうという話になって。絶対に見たいから。どこに住んでるかを突っ込んで調べるのも野暮だなと思って、とりあえず呼んでみようと」
西山 「あのときって、さよひめぼうさんは“PLUS100”とか“Business Casual”からもうリリースしていましたよね。ポスト・ヴェイパーウェイヴみたいなイメージでさよひめぼうさんのことを話す人が多い頃だったかな。僕も柴田くんも、さよひめぼうさんの作品はとにかく聴いたことないような音楽ってイメージでした。実際ライヴってなるとどういう音を出すのかまったく想像がつかない状態で。パソコンを使ってライヴするのは初めてだったってあとからおっしゃってましたよね」
さよひめぼう 「元々自分がSNSをやっていなくて、始めたのがその年くらいだったので、そういう反応をわかっていなくて。実際、呼ばれたときもあんまり状況をわかっていなかったんです。バンドのイベントに呼ばれたんだと思って、バンドで出なきゃいけないのかと」
西山 「そうですよね。バンド組まないと、みたいな」
さよひめぼう 「だからちゃんと編成を揃えて出なきゃいけないのかな、って。最初は編成で出ますって伝えて」
柴田 「DMのやりとりをしていたのは僕で、最初は確か3人編成くらいでしたよね。“金田の娘バンド”って言って、2MCで」
西山 「って書いてあったんですよ。どんな形になるんだろう?って」
柴田 「MCがもともといらっしゃって、直前でひとりになったんですよね」
さよひめぼう 「それで申し訳ないです、と連絡して」
西山 「結局ひとりでいらっしゃってパソコンでライヴされてたんですけど。正直、それこそ“COM_PLEX”でのライヴと比べても遜色ないくらい最初から完成されてるように感じたんですよね」
柴田 「普通は初めてクラブでライヴするとなると、クラブならではの鳴りは想像できないと思うんですよ。でもその日(さよひめぼうさんが)一番鳴りがよくて。めちゃくちゃびっくりして(笑)」
西山 「あの日は出演者にDJのSEKITOVAくんとかもいて、どっぷりクラブ・ミュージックをやっていた人たちと一緒に聴いていました。まだ僕たちも含めてお客さんがいっぱいいるイベントを作れる状況でもなかったから、フロアにいるのは出演者も含めて60人ぐらいだったと思うんですけど、全員これはどういう音楽なのか、聴いたことない音楽をめっちゃ浴びて、すごくわくわくしたというか……。すごい気持ちになったのはめっちゃ覚えてるんです。演者含めて衝撃的な日だったのを覚えてます」
さよひめぼう 「僕の場合は、これも全然無知だったからなんですが、トラックメイカーという概念がなかったんです。ライヴをしてくださいって言われたくらいから、いろいろと調べていって。誘われるちょっと前に“Maltine Records”からリミックスの依頼がきて、それでMaltineを知って。そこから知った長谷川白紙さんとかトラックメイカーの人たちもライヴをやってるんだ、みんなひとりでクラブでやってるんだっていうのを知って。自分の中ではクラブはDJの人がやる場所であって、ライヴはライヴハウスでやるものだって思い込みがあったんです。それが取り払われて、全然やっていいんだ!ってわかって。METROでのイベントは、初体験みたいな。みなさんにものすごく影響されたというか、クラブでこういうことをやったりしていいんだというのが記憶に残ってます。帰ってからは日本の近い人を調べて聴くようになりました。日本のシーンへの“入り口”として、そういうものを知れた機会でした」
西山 「嬉しいです」

さよひめぼう | 「COM_PLEX」配信映像

――パ音のおふたりがさよひめぼうさんを知ったきっかけはなんだったんでしょう。
柴田 「これは……惑星ネオン(* 2)が出たあたりで、4年前。捨てアカさん(* 3)か誰かがTwitterでさよひめぼうさんのMVをシェアしたのをたまたま見て、なんだろうこの人?って。ヴェイパーウェイヴといえばサンプリングして遅回しする、みたいイメージだったのに、IDMとかレイヴとかまで全部ごちゃまぜにしていて、それがもう本当に衝撃すぎて。この人なんかおかしいぞ!? と強烈に印象に残りました」
* 2 『惑星ネオンからの師走からの贈り物 / The Gift From Neon Planet』 | 2017年に「PLUS100 Records」よりリリース
* 3 捨てアカウント | ネットレーベル「Local Vision」主宰。島根県在住
西山 「ジャケット・デザインとかタイトルの付け方には確かにヴェイパーウェイヴが一時期持っていた様式があったと思うんですけど、実際に音を聴いてみると、多くのヴェイパーウェイヴと呼ばれている人たちの音楽とは明らかに違っていて。今でこそPC Musicとかハイパーポップとかいろいろな呼び方が増えましたけど、当時はそういう参照できる音楽っていうのが僕たちの中にあまりなくて。さよひめぼうさんの曲はめちゃくちゃ鮮烈で新鮮、聴いたことのないものとして聴こえました」
柴田 「曲の毒々しさのベクトルとタイトルのキュートさだったりが、ヴェイパーマナーとは違って異常に記名性が高いというか」
西山 「そういうところも含めて、本当に何者なのか、宇宙人なのかな?って、謎に包まれているというのが最初のイメージで。METROの最初のライヴでいらしたときって長髪でしたよね?ハードロッカーが来た!と思ったくらいの。そうやって勝手に作ったイメージも壊されてしまうし、全然想像がつかない人が来たって記憶があります」

さよひめぼう | 「COM_PLEX」配信映像

――さよひめぼうさんはパ音のことはご存知でしたか。
さよひめぼう 「(“SOUND EXPO”のオファーが)“Maltine Records”からリミックスを依頼された直後くらいだったので、ちょうどいろいろ調べて聴いてたんです。そのときはバンドだと思ってました。しかも、ほんと申し訳ないんですけど、YMO世代くらいの人たちがやってるのかなって思って聴いてて。音だけ聴くと、昔の人というか、昔の機材を使ってバンドをやっている人なんだって印象だったんです。あとでYouTubeのライヴ動画を見たり、“Maltine Records”関連の情報を辿っていくと、今あえてそういう機材を使ってやっているんだというのがわかって。それからいろいろと調べて聴いていました」

――「SOUND EXPO」のオファーがあった他には、聴いた人からのオファーやコンタクトはありましたか。
さよひめぼう 「なかったです。でも、地方の音楽マニアのかたから毎日メールが来るようになって。“ファンです”って。その人すごく音楽に詳しいんですよ。これもまた恥ずかしい話なんですけど、ヴェイパーウェイヴのことを僕はあんまりわかっていなかったんです。メールをいろいろ読んでいって、サンプリングでほとんどやってんだっていうことに気づいて。けっこう後に気づいたんです」
柴田 「(笑)」
さよひめぼう 「自分でどんだけ打ち込みで生に近づけるかって感じでやってたのに……。そういうコンタクトはありました」
西山 「他にも、渋谷でのイベント(* 4)に出られたりしてましたよね。あれって何年くらいでしたっけ」
* 4 2017年12月17日に東京・渋谷LOUNGE NEOで開催された「POOL」
さよひめぼう 「SOUND EXPOのすぐ後なんですよ」
西山 「なるほど。個人的には、僕らのイベントに出た後にもう日本でさよひめぼうさんが呼ばれまくってすごいところに行ってしまうんだろうな、くらいに思ってたんです。僕たちは常にライヴを企画するときに“今回さよひめぼうさんに声をかけるのはどうかな”っていつも言ってました」

パソコン音楽クラブ | 「COM_PLEX」配信映像

――最初にコンタクトをとってからもう数年間お互いに活動してきたわけですが、変化を感じるところってありますか。
西山 「2019の12月に東京・代官山 UNITでやった、前のアルバムのリリース・パーティ“Night Flow Remixes Release Party”にもさよひめぼうさんに出ていただいて。そのときのライヴが、以前よりもディスコの要素、クラブ・ミュージックの要素を感じるもので、その日の雰囲気にとても合っていた。その時はさよひめぼうさんといえばヴェイパーウェイヴというイメージがありましたが、個人的にはIDMの要素が強くて、次に何が来るのかわからない、さまざまな音が絡まって作られるような曲だと思っていて。(UNITのライヴでは)そこからさらにダンサブルな感じになっていた。さよひめぼうさんの音楽はこういう形に変化してるんだ、と思った瞬間でした。もちろんその前にも細かい変化はあったと思うんですけど、久しぶりに見ていい意味で新しいショックを受けて。“COM_PLEX”でのライヴやそのちょっと前にあった配信ライヴ“HOMEWORK PROGRAM”もそうなんですけど、最近はニューウェイヴの感じも入っていて。ニュー・オーダーのカヴァーもされてましたよね。それを聴いて、またおもしろい、新しい聴かせ方をされてると思って。ただ、ウワモノの感じとか質感はさよひめぼうさんだってわかるアレンジや音作りになっていて、どういうふうに変わっても唯一無二の個性が消えない。毎回圧倒されていますね」
柴田 「自分も、さよひめぼうさんの初ライヴからずっとファンとして見せていただいていて、毎回びっくりしてるんです。やっぱりさよひめぼうさんは音楽的な語彙がとても広くて、いろんなジャンルの音楽から毒々しさを引っ張り上げてくるのが上手いなといつも思ってて(笑)。ヴェイパーウェイヴもメランコリーな方向に行く人もいれば、ダークアンビエントの方向に進んでいく人もいる。そんな中で、ヴェイパーウェイヴの持っている毒々しさをご自身の語彙で培養していったようなイメージでした。見るたびに笑っちゃうんですよ、えげつなさに。こないだも、スクリッティ・ポリッティをサンプリングして曲を作っていたときも、“あれをサンプリングしたらこうなるかな”という想像を越えて、曲の一部をバラバラにしてブレイクコアに仕上げてしまって。こんな、まるでSCRITTI POLITTIをカツアゲしたみたいな曲を作ってる人いるかな?って。なのに、ライヴ前には“今日はアルバムの曲全然やらないんですけど大丈夫ですかね”とか目を見て話してくれるので。あんなに温厚だった人が、こんな猟奇的なものを……って(笑)」
西山 「犯人が実は優しい人だった、みたいなね(笑)」
柴田 「本当に、ライヴのときはそんな気持ちでした。すごい、すごい!って。あと、さよひめぼうさんはたくさん声ネタをハメられてると思うんです。宇宙人が喋ってるようなものとか、Speak & Spellの声とか。そのハメ方やリズムの幅がとにかく広すぎて。わけわかんないなって(笑)。食らいまくってます。話が長くなっちゃってますけど……」
西山 「引き出しの多い人って表現をすると、色んな音楽をカヴァーできたり、“これっぽいものを作ろう”みたいに作家性を寄せたりすることが上手にできたりって思われがちですけど、ボタンの掛け違い的な、何かを参照したときに、この成分をこう入れてくるのか!というところ、しかも最終的にさよひめぼうさんの音楽として記名性が高いものに仕上がる、そういう引き出しの多さなんです」
柴田 「重ねていってドォーン!って爆発オチみたいな、それがもう……(笑)」
西山 「そうなんですよね。……長くなるんですよ、さよひめぼうさんの話をすると」

さよひめぼう | 「COM_PLEX」配信映像

――本当に西山さんからも柴田さんからも話が止まらないですね(笑)。さよひめぼうさんはいかがですか。
さよひめぼう 「話がちょっと別になっちゃうかもしれないんですけど、僕はYMOに触発されて音楽を好きになったんです。正直、日本でYMOに代わる……というのはおかしいですけど、自分の思ったような音楽を作られているバンドの人たちっていうのはなかなか現れなくて。素晴らしい音楽作ってる方は沢山いても、自分の好みのバンドってあんまりいなかったんです。でも、誘っていただいたのをきっかけにいろいろな音楽に触れて、日本でもこんなにおもしろいことをやってる人たちがいるんだっていうのを知ったのが久しぶりで。そこからいろいろ追うようになって。イベントでライヴを観て、さっきの話にも出ていた自分の曲がダンス・ミュージック寄りになってたっていうのも、そこからすごく影響を受けてるんです。クラブのフロアで機能するような音楽の影響はすごく大きくて。毎回、こういう方向もあるのかって思いながら聴かせてもらっています。(パソコン音楽クラブが)今年リリースしたインストものの『Ambience』も、またこれまでと全然違う方向でしたよね。あれにまた影響を受けていて。聴き終わるとすぐにDTMをやりたくなっちゃうんですよ。おもしろい音楽を聴くとDTMをやりたくなっちゃうから、この前の“COM_PLEX”のライヴのときも、早く家に帰ってDTMやりたいな……って」
一同 「(笑)」
さよひめぼう 「観終わった後に、あれ試したいなって」
西山 「わかります」
さよひめぼう 「すぐそうなっちゃうんです。(パソコン音楽クラブには)そういう要素が多くて、聴く度にそうなる。なかなか自分にはなかったことでもあって、大きく影響を受けてるんだなと感じます」
西山 「嬉しいです」
柴田 「ありがとうございます」

――お互いに影響を与えあっているんですね。お互いにここは共感できるな、似ているなってポイントはありますか。
柴田 「曲によりますけど、和声感というか、コードやサンプルの噛み合わせで気持ちよく感じる音の積み重なりとかが同じなのかな、って思うことがあって。それこそ、YMOって坂本(龍一)さんしかり細野(晴臣)さんしかり、使うコードにクセが強くて。明るいのか暗いのかわからない中間みたいな音がたくさん使われていて、そこがさよひめぼうさんにも通じていて、突然そういう響きが現れたりする。“それ、いいよねぇ!”って勝手に思ったりします」
西山 「お互いにリリースしているもので考えると、毒の成分が両方ともあるなと思っていて。明るい曲を作っていても、その曲が“いい人”ではない、みたいな(笑)。変な奴なんですよね、曲が。明るさが単に朗らかであるわけではなくて、強い毒を持っている。それが何から来ているのかなって考えると、さっき柴田くんも言ってくれた調性感や和声感は大きいのかなと思います。使うスケールとかも……。理論を勉強して“こういうふうにしよう”っていうよりも、身体がそういうのを好きで、勝手に曲がそうなっていくというのがお互いあるのかな。いいなと思うのはそこかなって僕も思います」
さよひめぼう 「あと、東洋感っていうのがあると思うんです。意識してあえて出しているわけではなく、西洋音楽や世界中の音楽に憧れてやったのに、結果として“外側から見たちょっと変な東洋”みたいな東洋感がどこかに出ちゃっているというか……。何かフィルターがかかってそうなってしまう。そういうおもしろさがあるのかなと感じてます。YMOはそういうところがすごく刺激的だったし、通じているのかなと思います」
西山 「海外からやってくる新しいものや聴いたことないものに近づこうって思う人は多いし、自分もそう思うことは多いんですけど、結局自分が好きな音楽って、“ボタンの掛け違い”や“勘違い”が起こって、目指していた人にもできないような独自のものが出来上がっちゃうみたいなもので。“東洋”“西洋”という分け方が正しいかどうかはわからないですけど、僕は音楽の理想像として“自分にしかできないもの”というのがあって、さよひめぼうさんにはそれがある。憧れる部分でもあるし、自分たちもそうなんだとしたら共通点や惹かれ合う部分になるのかなと思います」

パソコン音楽クラブ | 「COM_PLEX」配信映像

――『ALIEN GALAXY MAIL』についても伺いたいと思います。これまでの作品と比べてポップな作品に仕上がっているように感じたんですが、どのように制作に臨んだんでしょうか。
さよひめぼう 「アルバムを出しませんかという話をもらったのは今年の初頭で、そこから作りはじめました。それまでのアルバムは、好き勝手に作って出来上がったものを出すというのが多かったんです。でも今回は、最初に依頼があってから作りはじめたこともあって、やっぱりどこかでポップな面を出したいなと思っていました。“いろんな人に聴いてもらいたい”という意識が初めて出てきた。人に聴いてほしいという気持ちがあったから、結果ポップになったんだと思います。ただ、アルバムを作っていたのってけっこう前のように感じていて。日々曲を作っているので、それが進んでいるからアルバムのことって忘れてるところがあって。例えばライヴをやるってなると、出したアルバムよりも今の自分の取り組んでる曲をやりたいと思っちゃうのが正直なところです」
柴田 「こないだの“COM_PLEX”ですごいバグったライヴをしていて衝撃を受けてたんですけど、そのすぐ後に“今アルバムを作ってて、もっとバグったものができると思います”って言っていて。びっくりしちゃって(笑)」
西山 「ただ、アルバムを出した直後に次のモードに行ってる感じって共感できるんですよ。今回のアルバムは全国流通盤じゃないですか。なんやかんやと音源を納品をしたあとにいろんな作業をして最終的にレコード店に並べてもらうという段取りを踏むと、出来上がったあとから数ヶ月経っていたりするので。その間にいろんな刺激を受けて、“次はこういうのを作ろう”って頭が切り替わっちゃって、リリースした頃には全然違うものを作りたくなってるみたいな。それってやっぱり影響を受けたものに対してどんどん関心が切り替わっていく新陳代謝があるということで。さよひめぼうさんってどんどん変化していくそういうモードなんだなって思うと、すごいですよね」

――パ音のおふたりは『ALIEN GALAXY MAIL』を聴いていかがでしたか。
西山 「コメントにも書いたんですが、これまでの作品に比べると間口が広くなった作品になっていると思いました。ライヴのときに来てくださったお客さんはわかると思うんですけど、すごい爆発力や聴いたことのない衝撃があるパフォーマンスをされるんです。でも今回のアルバムって、そういう要素をしっかり残した上で、はじめて聴いた人にもその良さがわかる、スッと入ってくるような内容に仕上がってるなと思って。より多くの人に届けようと考えて作ったんだろうなというのを、聴いてすぐに思いました。次のアルバムがどういったフォーマットでリリースされるのかはわからないんですけど、お客さんがイメージしているさよひめぼうさん像がさらに更新されるような作品が出たらおもしろいなって思ってます」
柴田 「そうですね……。本当にもう、最高すぎて……。なんか準備しといたらよかった(笑)。さよひめぼうさんのこれまでのアルバムでも、ポップな部分……という言い方がいいのかはわかりませんけど、便宜的にいうとポップな部分。それがすごく前面に出ていて。でも、そこそこポップなのに一方通行めな感じがとてもいいなと思って。間口を広げたように聴こえるんですけど、最終的にさよひめぼうさんが大暴れしてこっちがボコボコにされてしまうみたいな(笑)。それが最高だなと思って。アルバムも素晴らしくて、それでこないだのライヴみたいなことをされたら、同じ音楽を作ってる身としては、クリエイターの鑑だなって思って。そのアティテュードにまず感心しきってしまって。あと、『ALIEN GALAXY MAIL』のちょっと後に出た、ぷにぷに電機さんとのコラボ曲“電子DISCO密林”もそうなんですけど、歌モノとああいう情報量の多いアレンジって融合させるのが難しい。バランスを取るのが普通はできないんじゃないかなって思うんです。でも、パッとおさめていく丁寧さみたいなものに、どういう集中力があればここまでまとめ上げられるんだろう?って……(笑)。そこが“すごい!”の一言です」
西山 「やっぱり、今回のアルバムって“アルバムを作りましょう”というスタート・ラインから始まった曲も多いと思うので、1曲目から最後までの流れの構成までを含めて練り上げられているなと思って。既存曲を集めたアルバムって、曲順に関して最終的に思うように配置することが難しいじゃないですか。今回は、1曲目、2曲目、3曲目、次の曲はこうして最後の曲はこうして……っていう設計図があって作られたのかなって想像できて。そういう意味ですごく嬉しいアルバムだなと思いました」
さよひめぼう 「もともと“コンセプトから作ろう”というのがあって、そこから作りだしたので、前からあった曲はひとつくらいしかないです。全体を1から10まで作るっていう作り方を初めてしたアルバムでした。そのために設定も作って、だからアルバムとしてまとまったのかなと思います」

――最後に、みなさん新型コロナ禍で作品のリリースやイベント開催をされた2020年でしたが、振り返ってみていかがでしたか。
西山 「今年は難しい年だったっていうのはみんなの共通認識だと思うんですけど。僕らは比較的恵まれているほうで、家で音楽を作って、演奏するといってもパソコンからなんで、配信ライヴとの相性もよかったし、いろいろ試せることも多かった。いろいろ取り組んで一通りやって、やれるだけのことはやったという自覚はありますね。そういう意味では、難しい年のわりにがんばれたかな……って。よかったとは言えないので、難しいですね。ただ、『Ambience』というアルバムを8月に出して、自粛生活をしないといけなくなったことが曲を作るモチベーションになっていて。こういう状況での僕らのメンタルの状態であったり、世の中のムードとか、そういうものを音楽にしたいと思って、そして自分たちなりに形にできたというのは、いつか振り返って、あれはよかったねって言えるんじゃないかと思っています」
柴田 「今の状況を反映した『Ambience』を作ったり、“COM_PLEX”というイベントをやったりしましたが、通常ならああいう作品も作っていないし、イベントもああいうやり方をしなかった。そういうことに自分たちのできる範囲で取り組めたことや、今の状況下で何かを残せたのは、後に印象に残るんじゃないのかな……。いいとか悪いの軸じゃないんで難しいですね」
西山 「できることはやったかな、っていうのは思ってます」
さよひめぼう 「自分の場合は、技術的なことは全然わからないので、この前の“COM_PLEX”にしても、こういう取り組みに参加させていただいたのがありがたいというか。裏方で動いてくださる方やまとめてくださっている方の頑張りのおかげで、この状況でもできることがある、と思えることに参加できたのはありがたかったです。アルバムもスタッフの方々が動いてくれたおかげで出せたので、今年は自分以外に感謝するような年でした。今後世の中が通常に戻ってイベントや音楽活動ができるようになったときには恩返ししたいな、みたいなことを考える1年でした」
西山 「現場で人が入れなくなったのでその代わりに配信をするというのも、コロナじゃなければこれほど進歩しなかったと思うし、自分たちのライヴに配信を入れるなんて絶対してなかったと思うんです。感染症の問題がなくなって平和になったタイミングでイベントを企画しようというときに、地方の人も見れるように同時に配信をしましょうという発想に今後なると思うんです。実際にやるかやらないかは別として、そういう選択肢は増える。それが今年唯一前向きなことだったかなと思っていますね」

さよひめぼう Twitter | https://twitter.com/sayohimebou/
パソコン音楽クラブ Official Site | http://pasoconongaku.web.fc2.com/

さよひめぼう『ALIEN GALAXY MAIL』■ 2020年10月21日(水)発売
さよひめぼう
『ALIEN GALAXY MAIL』

CD PCD-20429 2,000円 + 税

https://smarturl.it/SAYOHIMEBOU

[収録曲]
01. 拝啓 聖 猫娘
02. NEO ICE AGE
03. GALAXY MAIL
04. Runway
05. ON-GAKU
06. Camouflage i-Land
07. Spam Trap (ハニーポット)
08. Summer Skate Link
09. AFRICA Mickey Museum
10. 1998-2050 (Memphis)

パソコン音楽クラブ『Ambience』■ 2020年8月7日(金)発売
パソコン音楽クラブ
『Ambience』

https://ultravybe.lnk.to/ambience

[収録曲]
01. Breathing
02. Curved River
03. Ventilation
04. Murmur
05. Downdraft
06. Overlay