Interview | DEATHRO


歌うのは今起きていること、今感じていること

 DEATHROのニューアルバム『ガラパゴス-GALAPAGOS』が2月5日に自身のレーベル「Royal Shadow」よりリリースされた。私は、昨年行われたDEATHROとJ.COLUMBUS(時にPAYBACK BOYS)の2マン・ギグ「GREAT W BOOKING」の追加公演(毎年10月17日に東京・小岩 BUSHBASHにて追加公演は続いている)終演後に、ミックスが終わったこのアルバムのCD-Rをいただき、翌々日仕事に向かう車のカーステレオに入れて再生した。日常にあるべき言葉がそのままに歌われるジャパニーズ・ロック。DEATHROの音楽は世界に、日々に必要だと感じた。その理由をインタビューとしてここに記したいと思います。リリース直前の1月31日に新宿にて取材させていただきました。

 DEATHROが持っているポータブルCDプレイヤーの話から、CDの保管についての話へと話題は進んでいきます。


取材・文・撮影 | Lil Mercy (J.COLUMBUS | WDsounds | Riverside Reading Club) | 2025年1月

 「持ち出す最低限のやつ以外はジュエルケースにしまっておく。まずなくさないし。一番多いのが、遠征に行くときレンタカーに入れてそのままにして、帰ったらなかったっていう」

――そうやってレンタカーに忘れたCDを聴いた人から、新しい話が始まったらいいなと思うことはありますね。
 「たまにありますよね。入りっぱなしだったりするのは。そういうエピソードで一番もしろかったのが、2008年か2009年くらいにCOSMIC NEUROSEとU.G MANでHUCK FINN(愛知・名古屋)に行ったとき。谷口さん(谷ぐち順 | FUCKER)がレンタカーを借りてきて、2バンドで1台だったんですけど、谷口さんその頃IRON MAIDENにハマっていたから行きも帰りもIRON MADIENを聴いていて。鵜沢さん(故・鵜沢幸之介 | MANWOMAN, U.G MAN, SCREWITHIN, VOLUME DEALERS)が運転していて、CDを替えたんだけど、“やっぱりIRON MAIDENに変えようよ”って、CDが入っているのに谷口さんがIRON MAIDENのCDを入れて取り出せなくなっちゃて。葛飾区の図書館かなんかで借りてきたCDで、絶対に取り出さなきゃいけないから、レンタカー屋に頼んで取り出してもらったっていう」

 取材当日に『ガラパゴス – GALAPAGOS』のCDをいただき、早速開封する。私はCDはジュエルケースのままで保管しているものと、ケースからジャケットとCDを取り出して保管しているものがあるのだけれど、これは間違いなくジュエルケースのままで保管するCDだと感じ、質問した。

――8cm CDも出していたじゃないですか。そういうのは、自分の好みの中でのCDパッケージの追求ですか?
 「追求はしていないかもしれないけど、意固地になっているかもしれないです。『STARDUST MELODY』のシングルとか『4D』のEPとかは紙ジャケで出したんですけど、自分はやっぱりジュエルケースに入っているのが好きだなって思います。キャラメル包装を開けるときの感じとか。紙ジャケってレコードでも再現できるかたちだけど、ジュエルケースってCDならでは。そこはこだわってますね。やっぱりパッケージが簡素でも、味があるやつもあるし。自分のフィット感みたいな」

――自分の中で、ジュエルケースでこれはかっこいいって思い付く作品ありますか?
 「いくつかかありますね。V系ロックとかを聴いていたときに衝撃だったのが、バックのインレイがなくて盤が見えていて、そこにメンバーのヴィジュアルがオフセットでプリントされているやつ。そういうCDで初めて買ったのはZI:KILLの『HERO』っていう曲なんですけど。90年代のバンドってそういうのを推していたんですよ。スペシャル・ピクチャー・ディスクとかあって。そっちのほうが通常盤より高かったり。しかも通常盤にはボーナス・トラックが入っているのに、ピクチャー盤には入っていないとか。中学生だったので、究極の選択を迫られることもありましたね。あとZK Recordsから出ていた博多のグラインドサアフのアルバムも蛍光グリーンのケースだったんですよ。歌詞カードがなくて、トレイとディスクだけで。CDを取るとトレイにこれでもかっていうくらい歌詞と情報がいっぱい載っている、みたいな。それも好きでしたね」

DEATHRO 'ガラパゴス-GALAPAGOS'

――今回はオーソドックスなジュエルケース・スタイルですよね。この幻想的というか広い場所で撮られたように感じるジャケットの写真はどこで撮ったんですか?
 「オーソドックスにしたかった。写真は本当は地元で撮りたかったんですけど、これ江戸川なんですよ。江戸川の向こうが松戸になっているような千葉との境目で撮って。夕方で、そろそろ暗くなるところだったんで、時間帯も場所もわかりづらい感じに仕上がっていて良かったなって思ったし。今回も小野有希子さんに撮ってもらいました。メイクは、JENNっていう去年知り合ったかたがいるんですけど、彼女は独特なメイクをしていて、それを見て“メイクをお願いできますか”って頼んだら快くOKしてくれて。写真が上がってきて、めちゃくちゃいい出来だと思って。3名一致でこれがいいね、ってなりました。今回は、デザインもワープロを使って自分でやって」

DEATHRO | Photo ©小野由希子
Photo ©小野由希子

――ワープロでデザインをやろうと思った経緯を教えてもらえますか。
 「今回のアルバムはカセットテープMTRの4トラック録音で、ミックスもそれでやって。FOSTEXの『XR7』っていう1994年のMTRなんですけど、センド / リターンがあるんで、録ったあとからでもエフェクトがかけられる。トランジスタのラック・エフェクターとかを駆使して、ミックスまで一切PCのOSを通さずにやったんです。マスタリングでPeace Musicに持って行ったときに初めてデータ化した感じだったんですけど、そのときエンジニアの中村宗一郎さんに“これってジャケットどうするんですか?”って聞かれて、何人か頼みたい人がいるんですけどねって話したら、“まさか、ここまでカセットで作って、IllustratorとかPhotoshopで作るわけないですよね?”って言われて、たしかにそうだなと思って。音源のミックスまでPCを使わないでやったから、デザインもPCを使わずにやってみたいなって感化されちゃって。マスタリングが終わってすぐHARD OFFとかワットマンを回って、家から一番近いワットマン座間店に99年くらいのSHARP『書院』が2、3,000円で売っていたからすぐ買って帰って。その間にNAGのツアーがあって少し時間が空いちゃったんですけど、『書院』で打って、写真も有希子さんにチェキで撮ってもらったり。表1はFUJIFILM『写ルンです』かな。それをカメラはスズキっていうところで出してもらって。横浜駅の相鉄のビルの中にあるんですけど、銀塩プリントで出してくれるんですよ。それにいろいろ貼り付けていってこうなったっていう感じですね。いつもデザインをやってくれる井上くん(井上貴裕 | SHUT YOUR MOUTH)にも相談して作りました」

――ジュエルケースに封入されている歌詞カードは、Illustratorでは作れないようなワープロの文字ですよね。
 「Wordとかとも違う。リボンのかすれ具合とか。インナーの歌詞カードはリソグラフで印刷しています。たまたま、自分が子供の頃から愛川町にある文具のたまのやっていう文房具屋さんにリソグラフがあって。お店のレジのところに“リソグラフでの印刷は2023年の9月に終了しました”って書いてあったんですけど、恐る恐る店長さんに聞いて、頼み込んで印刷してもらいました。Hand Saw PressとかIRREGULAR RHYTHM ASYLUMみたいに自分で機械いじってはできなかったですけど、紙を持ち込んでやってもらいました」

――今回の作品は住んでいる場所からダイレクトに世界というか人に繋がっていくというのをすごく感じました。愛川町からどこかを経由するんじゃなくて。それこそDEATHROの部屋からダイレクトに来ているように感じました。
 「質感としては家の風呂場とか、ガレージとか、部屋で録ったっていうのはでかいかな。この間の“GREAT W BOOKING”のときの対談で話した、20年代とか30年代のUS南部のブルーズを聴くと、込み入った地名が曲のタイトルとかにも出てきたりする。目から鱗じゃないけど、捻らずに言っちゃっていいんだ、と思って。愛川町中津とか県央厚木インターチェンジとか、山際の交差点とか、今回出てきた感じなんで。もともと自分の部屋だったんですけど、US南部の音楽にインスパイアされてそうなったっていう感じはありますね」

――前作と比べてドライヴ感があるというか。DEATHROの部屋で楽器も録ってるんですか?
 「ドラムだけ家だと無理だったので、調布のStudio REIMEIで録っていて、自分がマイキングしています。マイク一個だけで。4トラックしか使いたくなかったので。(川又)慎くんめっちゃ大変だったと思います。いつもみたいにみんなで録ってるんじゃなくて、ドラムひとりで何が正解かわからないままやっていたんですけど、すごく良かったんですよ。ベースはMTRをYUKARIちゃん家の近所のStudio2timesに持って行って弾いてもらって、IxTxOxPもスタジオでギターを録る予定だったんですけど、セッティングしたら、まさかのマスターのカセットを家にごっそり忘れちゃって。どうしよう!? って取りに行って、そのままIxTxOxPにうちで録ってもらいました。これ家でも録音いけるな、ってなって、ギターの(小野寺)陽多くんにもうちで録ってもらって。4対6くらいの割合で家が多いですね」

――そもそもカセットテープMTRで録音やミックスをしようと思ったのはなぜですか?
 「それも、ここ5年くらいの自分の中での自然な流れがあって。コロナで暇になっちゃった時期があったり、Kohei(鏡 KAGAMI, KR-RIFLE, LACUNA SONORA, UMBRO)と2人でHARD OFFを巡ったりする中で、アナログの機材が増えていったりとか。自分の中で機材の知識も増えたりしたんで、漠然といつかやってみたいなと思いつつ。今までは作品を作るとき、自分で作ったものをみんなに演奏してもらったり、エンジニアに録ってもらって、第三者のフィーリングを入れて作りたいっていうのがあって、そういうやりかたをしていなかったんですけど。あとは、南米のハードコア・パンクのバンドを聴いたりすると、けっこうMTRで録ったりしているバンドがいて、ここ数年で自分が一番好きなペルーのMØRBØっていうパンク・バンドが、ドラムだけMTRで録ってるよ、とかインスタのストーリーに上げたりしていて。こういう風にマイクを立てたりしてるんだ、って勉強になったり。一昨年の12月にM.A.Z.E.が呼んで日本に来ていたSILICONE PRAIRIEもDEATHROに近くて、ギター・プレイヤーのIan(Teeple)のソロ・プロジェクトみたいな感じで。音源は彼がひとりでMTRで作っていて、ツアーのときは地元の仲間とか、今彼が住んでいるメルボルンの現地のメンバーたちとやったり。彼がツアーで京都に行くときに、運が良く1人車に乗れるっていう連絡が朝の6時くらいに来て、「今どこ?」って聞いたら「今出るところです」っていう返事だったので、すぐに厚木のインター向かって拾ってもらって。Ianといろいろ話して、スキルを教えてもらったっていうか。ドラムを録るスキルとか。マイクの立てかたもIanから教わったんですけど。彼はおもしろくて、ドラムをゆっくり叩いて一番遅いピッチで録って、あとでピッチを上げて自分好みのスピードにしていくんだって。それを実践したのはアルバムが最初じゃなくて、今Nanaeちゃん(MALIMPLIKI, SOCIO LA DIFEKTA, UNARM)、Kohei、FernandoとやっているLACUNA SONORAのデモテープを録るときに、今回も使ったFOSTEXのMTRで録ってみて。スタジオでベースとドラムを録って、ギターをKoheiIの家で録って、Fernandoのヴォーカルをスタジオで録って。意外とこの4トラックでもいけるじゃんと思って、DEATHROのアルバムも次はこれでやってみたらどうかな?って。でもDEATHROのサウンドってニッチなことやってから、ニッチすぎちゃうかなって思ったんですけど、一度振り切ってやってみようかって。これが作品になることを考えずに、慎くんとドラムを録ってみて、それが思いのほかうまくいったから、アルバムとして作品にしよう、って進めていった感じです」

――最初に録った曲はどの曲になるんですか?
 「まずドラムを全部録って。録り始めたのが8月の頭で、10月のGREAT W BOOKINGのとき(2024年10月17日)にはミックスまで終わってたんで、そのスピード感もMTRで録る良さでした」

――アルバムの制作を決めたときにはもうMTRで録音することも想定に入っていたんですか?
 「全部出揃ってからですね。もともとそういう想定では作っていなくて。ただ、なんとなく去年まで6人だったのが、冬くらいから4人体制になるっていうのはあらかじめ分かっていたことなんで。曲を作るときに、あまり凝ったことじゃなくて、4人でかっこいいものとして聴かせられるような感じで作ろうと思っていました。最初の“ガラパゴス”とか“圏央厚木IC”とかは4ピースでめちゃくちゃ勢いがある感じで。前回のアルバムは6人でけっこう凝ったことをやってたんで、作ったときの気持ちのままレコーディングに入れたっていうのもけっこうでかいのかもしれないです。立ち止まって考えるよりも“やろう”、“録ろう”みたいな。それが良かったし、自分でも作っていて楽しかった」

――歌詞も直接的なかたちのものが多いですよね。「NO MORE BLOOD」もパレスチナのことを直接的に歌っています。自分が見て感じたものをダイレクトに歌詞にして伝えているように感じました。
 「前のアルバムのときに作った「NO HYPER」っていう曲はちょっとメタっぽい使いかたをしているんですけど、「NO MORE BLOOD」は具体的に。2番の歌詞は、“Free Palestine”って体に火をつけて死んでしまったアメリカの兵士がいたんですけど、そのときにフレーズが出てきて。あと、パレスチナのことについて見たり調べたりしていて、アパルトヘイトってパレスチナだけの問題じゃなくて、アパルトヘイトって言われてはいないけど、自分たちの身の周りでも分け隔てられているっていうか、ハンディキャップだったり、そういうことについて改めて考えるようになったりして。前から考えていたんですけど、2ndアルバム(『NEUREBELL』2018)でも津久井やまゆり園の事件をテーマにした曲を作っていたんですけど、あの事件も根源として同じところなのかなって思いますね」

――イスラエルにはパレスチナの人たちを人間として見ないように教育を受けている人たちも多いわけだから。やまゆり園の事件も、犯人が障がい当事者を人として捉えていないからそういうことが起こると自分は感じました。今のガザで起きていることのを目の当たりにして、言葉にすることができたというか。発していかなければならないと思っていて。自分たちが当事者ではないとは言えないと思うんです。DEATHROの言葉からもそう感じました。
 「前にやまゆり園のことを歌ったときに、当事者のかたから“当事者じゃない人間がそういうこと言うのは”っていうニュアンスで厳しめの意見をいただいたことがあったんだけど、言わないと。パレスチナの人にしても、障害がある人にしても、もちろん自分にも加害性は絶対あると思います。でも、そこで萎縮しちゃうんじゃなくて、意識して改められることは改めて。こういうことが起きているよ、っていうのはライヴでも言いますけど、それを訴えたところでパレスチナの人みたいに銃で撃たれたり、家に爆弾落とされるわけじゃないんで。そこは安全圏にいる人間だからこそ言えることもあるかな、っていう」

――イスラエルで“Free Palestine”っていう言葉を発したら捕まりますしね。
 「そういう意味での特権みたいなものはあるんで。特権の中で言えることは言ってこうって。だから都度都度意見を言ってもらえると嬉しいです。周りの人たちからもインスパイアされてることが大きいと思いますし」

DEATHRO | Photo ©Lil Mercy

――DEATHROは反原発デモにしても、毎週行って声を上げているのを自分で発信していましたもんね。自分はそこにいた1人っていう、数になれればという感じで、発信はできていなかったんですよ。今も発信するのはなかなか慣れなくて。
 「自分は単細胞気質なんで。直接感情をぶつけるほうがイージーだからなのかな。わかりやすく、3.11のときも目の前に訴える相手がいる場所で訴えてたんで」

――今回の作品を聴いていて、3.11のときに声を上げていた姿が浮かびました。DEATHROの作品って、ときめきについて歌っているというのも今作で改めて感じました。
 「やっぱり自分の好きな音楽とかCDに触れたときに胸が踊る感じとか、それはずっと持っていたいな、っていう気持ちがありますね。一度そうなったら、よそが見えなくなっちゃうタイプ。ときめきは、恋愛の歌詞とかもあったりするけど、好きな物事に対してためらいたくないなっていう。なんか、ためらってもいいんですけど、迷いみたいなものが消化されるっていうことも絶対ありますし」

――「WRONGWAY」ではそういうことを歌っているように感じました。
 「そうですね。これもどっちかっていうとポジティヴなのかな。あなたから見たら間違ってるよ、一方通行だよって、ひとりエコーチェンバーって言うんですかね?袋小路に見えても。自分はこれがやりたいから。これは自分にとっての正解じゃないけど、自分はこれが好きだっていう感じですよね」

――自問自答みたいなことですよね。それがあってDEATHROになったし、DEATHROになってもそれはある。
 「俺ひとり相撲じゃないけど。聴いて感じてくれてる人がいて成り立ったりしているから。それはありがたいといつも思っています。あまり言葉を飾ろうとか思わなかったし。全部に関して削ぎ落とした結果なのかもしれないですね。録りかたもANGEL O.Dのデモテープ録った高3のときに戻ったみたいな。そのときはYAMAHAの4トラックで、パラっていうかエアでLRで録って、ヴォーカルを家で重ねるみたいな感じで録っていたと思うんですけど。一周じゃないですけど、始めたところに戻ってきた」

――蓄積があるから、“これで録れるじゃん”が“これで作りたいものが録れる”に変わった。
 「どう転んでも独特の音になるだろうな、って思ったんで」

――最後の「すべては孤独から産まれた」を聴いたときに、ここで産まれたものを聴いている自分も肯定してもらえたように感じたんですよね。それで、部屋から直接に届いているように感じたのかもしれないです。
 「これも、今まで歌っていることでもあって。1stアルバム(『PROLOGUE』2016)に入っていた“BOYS & GIRLS”っていう、シングル『BE MYSELF』のB面の曲とか。自分が隔てられていると感じられるときに出てきて。プラス、それに対して内面的なことじゃなくて、地理的に自分の住んでいるところはいろんな川に隔てられていて、線路がどうがんばっても伸びなかったっていう歴史的背景も重ねつつ」

――アメリカにツアーに行ったし、今度ニュージーランドに行ったりもするじゃないですか。年齢も重ねて、その中で地元の街の見えかたは変わってきてますか。
 「それまでは家には寝に帰るだけというか、今もそうなっちゃってますけど(笑)、2020年以降コロナになって地元にいることが多かったんで、ゆっくり見る時間があった。なんとなく子供の頃から肌感覚でわかっていたこと。工業団地があるんで、移民の人たちがけっこう多くて、クラスにも3、4人はブラジルやペルーのかたがいたりして、ブラジルのかたは日系何世だったりもするんですけど。自分の街って、もしかして特殊でユニークなのかな?って。いろんな人種の人が入り乱れている感じとか。それで僻地。俺が自分で思っているよりクールなんじゃないかなって。そこから積極的にペルーの人たちがやっているお店に通うようになったりして」

――ブルーズを聴くようになったのも地元の喫茶店なんでしたっけ?
 「それは大分のBATHING RECORDSですね。そういう思いがけない出会いって、レコード屋とかそういう場所にしかないと思います。なかなかサブスクリプションやネットサーフィンだけじゃ辿り着けないものがあるんじゃないかなって」

――いきなり違うものに出会えるっていうのはないですよね。サブスクリプションは近くて見えていないものに出会えることがあると思うんですけど、突然の出会いみたいなものはなかなかないんじゃないですかね。
 「そのへんやっぱり音源っていいなって思いましたね。ティム・バートン監督の音楽をやっているDanny Elfmanっていう人が率いていたOINGO BOINGOっていうニューウェイヴのバンドがあったんですけど、ずっとその音源を探していて、先々週くらいに2枚組のレコーディング・ベストみたいなのを町田で見つけて買ったんですよ。何曲かはYouTubeで聴いていたんですけど、そのベストにめっちゃいいなっていう知らない曲が入っていたりして。サブスクリプションだとやっぱりヒットしすぎちゃうんで。そうじゃない曲との出会いができるのってやっぱりCDとかレコードなのかなっていう気がしました」

――DEATHRO自体がそういう存在でもありますよね。いろいろなタイプの音楽をやっている人と一緒にやる機会が多いじゃないですか。DEATHROに唐突に出会う人もいると思うんです。
 「そういう出会いもありますよね。“COSMIC NEUROSEが”とか関係なしに来てくれる人とかとの出会いがあったりとか」

――偶然観て、そこからずっとライヴに来続けている人もいますもんね。それこそアメリカのツアーはどうでした?
 「何もわからずに観ていたんじゃないですか?USは半分THE BREATHに連れていってもらった感じなんですけど、ここ数年ツアー・バンドのサポートをやらせてもらう機会が多くて、そこでなんかいろいろ繋がって」

――NO RIGHTのときに出てもらって話したけど、特殊な感じというのはなくて、それがすごいところだと思います。
 「自分でもそう意識しているかもしれないですね。あまりギミックっぽくなりすぎないように。今回の作品も90年代とか80年代のテクノロジーを使っているけど、今起きていることを歌ってる。80年代とか90年代のそれっぽい表現をしてもしょうがないと思うんで。その時代に生まれた物を使っても、歌うのは今起きていること、今感じていることかな」

――ライヴをやるときに、その場所その場所で考えていることってありますか。意識していることというか。
 「ここ数年、とにかく自分で楽しもうっていう気持ちがめちゃくちゃ出ていて。超アウェイが好き。めちゃくちゃ気持ちがアガるというか。ここにいる人たちは俺が何をするかわかっていないんだよな、っていうか。USに行ったときはその連続だったから。驚かせたいって言ったら嫌味な感じになるけど。出て来てこういうことやって、これってなんなんだ?っていう感じ。人の想像の斜め下なのか斜め上なのかわからないですけど(笑)。違うことを投げかけられるのを楽しみたいのはあるかもしれないですね」

――アルバムの話をもう少し。「圏央厚木IC」は圏央道のことですよね。圏央道ができたことによって世界が変わったと思うんですけど。圏央道って曲になってることあるんですかね。
 「そうなると東名高速も出てくることがあるのかっていう。松任谷由実の“中央フリーウェイ”とか首都高はよく出てくると思うけど。大阪の環状線とか」

――東名高速もなさそうですね。新東名高速もなさそう。
 「新東名なさそうですね。圏央道ってまず県央とは字が違う圏央なんですけど、首都圏から放射線状に等しい距離で回ってるんで、TRIBECA(栃木・小山)に行くときに使うとか、だいたい通っているところのフィーリングって愛川町に近いと思うんですよ。桶川北本(埼玉)とか、鶴ヶ島(埼玉)とか。鶴ヶ島は129号とも16号とも繋がってるんで。首都圏からの距離感っていうのもあるかもしれないです。圏央自動車道沿いに住んでいる人は、そこが埼玉だろうと千葉だろうと、そのフィーリングがわかるところあるんじゃないかなって思います。同じ神奈川でも茅ヶ崎とは違う」

――今後の予定を教えてください。
 「2月5日にこのアルバムをリリースして、レコ発を大阪、名古屋、東京でやります。3都市全部単独公演で、チケット代フリーの投げ銭でやるっていう無茶な試み。やってみたかったんで。それが吉と出るか裏目に出るかはわからないんですけど。特に条件とかはないんで。アンダーいくつ以下フリーっていうのはやっていたんですけど、お金がないのって若い人だけじゃないよな、って思って。ふるいにかけたくないなっていうのもあったんで、やってみます。東京とか神奈川だけだったら今までもあるんだけど、大阪、名古屋でも試みとしてやってみて、いい感じでやれたらみんな真似してほしいな。それが終わったら2月27日から3月8日までニュージーランド8ヶ所でやってきます」

――今回はニュージーランドのバンドがバックを務めるんですよね?
 「2023年に日本に来たときに行動を共にしたUNSANITARY NAPKINっていうバンドが、同じメンバーでほぼパート・チェンジしないでDIPLEASUREっていう名前でやっていて。UNSANITARY NAPKINはアナーコ・ハードコア・パンクで、DISPLEASUREは音楽性が違って、どっちかというとちょっとインダストリアル / エクスペリメンタルっぽい感じなんですけど。その3人にドラム、ギター、ベースをやってもらってDEATHROも一緒に回ります。一番楽しみなのが船の上でのライヴ。ニュージーランドは3つくらい島があるらしくて、移動のときにライヴをやると乗船料がタダになるっていうシステムみたいで。フェリーだからライヴ目当ての人なんていないと思うんで、そんな中で唐突にやってどうなるのかな?っていう。他のローカル・ショウはある程度ライヴを観に来ている人だと思うんですけど」

――あとは「BEATDAM」ですか。
 「“BEATDAM”はセントルイスのSOUP ACTIVISTSのツアーの最終日として3月29日にやります。“BEATDAM”は公園で、昔だったら多摩センターの三角広場みたいに、それ目当てじゃない人とか、偶然そこに居合わせた人に向けてもやれるのが好きなんで。さっき話したけど、これから何が起こるかわらかない人に向ける楽しみもあるんで。かつ自分を心得てくれる人たちもいるっていう。ああいうところでやると、その二重の楽しみがある。続けられる限り続けていければいいな、っていう気がします。また都心とかでも野外で唐突にやりたいですね。LOW VISIONの“JUSTICE PARK”とかみたいな」

――そういうもの観ると街の見方が変わりますもんね。ゲリラでやっていたところにも意味がありましたね。
 「絶対できるのがわかっている中でやるんじゃなくて、できるかどうかわからないけど集まりましょう、みたいな。街と共存するための妥協点とかせめぎ合いとか。またああいいうのやりたいっすね。最近考えたのは、軽トラにサウンドシステムを積んでバッてやって、場所が変わるみたいなのとか。あの時よりも知恵も付いたと思うんで、やりかたもフレキシブルに。知恵のない中でやっていたピュアさもあったと思うんですけど。それこそABRAHAM CROSSの“CHAOS PARK”、高校生のときに行って、ここでこういうのがやれちゃうんだ!って勇気をもらったし」

――そのときの気持ちが根拠になってくるというか。
 「誰でもできるんでMTRで録ってみてください。その輪が広がることを願っています」

DEATHRO Official Site | https://linktr.ee/deathro_com

DEATHRO 'ガラパゴス-GALAPAGOS'■ 2025年2月5日(水)発売
DEATHRO
『ガラパゴス-GALAPAGOS』

CD RS-27 2,000円 + 税

[収録曲]
01.ガラパゴス
02. 圏央厚木IC
03. HIGHVVAY (type-2)
04. MOONLIGHT LOVE EMOTION
05. ときめき (type-2)
06. LOVESTREAM
07. NO MORE BLOOD
08. NO HYPER (type-2)
09. WRONGWAY (type-2)
10. すべては孤独から産まれた

DEATHRO TOUR 2025
WORLD WIDE GALAPAGOS

DEATHRO TOUR 2025 "WORLD WIDE GALAPAGOS"| 2025年2月11日(火)
大阪 難波 BEARS
開場 19:30 / 開演 20:00
入場無料 + 投げ銭

DEATHRO TOUR 2025 "WORLD WIDE GALAPAGOS"| 2025年2月12日(水)
愛知 名古屋 金山ブラジルコーヒー
開場 19:30 / 開演 20:00
入場無料(別途ドリンク代600円) + 投げ銭

DEATHRO TOUR 2025 "WORLD WIDE GALAPAGOS"| 2025年2月17日(水)
東京 下北沢 SPREAD
開場 19:30 / 開演 20:00
DJ: 坂田律子

入場無料(別途ドリンク代700円) + 投げ銭

DEATHRO Aotearoa Tour 2025 w/ DISPLEASUREDEATHRO
Aotearoa Tour 2025 w/ DISPLEASURE

2月27日(木)605 Morningside, Auckland
2月28日(金)Mesoverse, Hamilton
3月1日(土)Porridge Watson, Whanganui
3月2日(日)Newtown Festival, Wellington
3月7日(金)Yours, Dunedin
3月8日(土)Lyttelton Coffee Company, Lyttelton
3月9日(日)Roots Bar, Takaka

BEATDAM 2025BEATDAM 2025

2025年3月29日(土)
神奈川 宮ヶ瀬湖畔園地 野外音楽堂

〒243-0111 神奈川県愛甲郡清川村宮ヶ瀬940-4
10:00-15:00
入場無料

出演
THE BREATH / DEATHRO / Limited Express (has gone?) / M.A.Z.E. / Sorry No Camisole / SOUP ACTIVISTS (St. Louis)