Interview | 「ORM」


軸や基準を設けずに

 2000年代生まれ、Z世代と呼ばれる彼ら(フジタ | 以下 F, カジハラ | 以下 K, マツヒロ | 以下 M)がつくるメディア「ORM」。国内外問わずインディペンデントのアーティストとコンタクトをとり、インタビュー記事をDIYで発信する彼らはどのようなものに影響を受け、どのような方法で取材しているのだろう。最先端のシーンを新しいかたちで切り取っていく彼らにいろいろな話を訊いてみた。

取材・文・撮影 | SAI (Ms.Machine) | 2021年9月


――自己紹介をお願いします。

K 「ORMのカジハラと申します」
M 「マツヒロです」
F 「フジタです」

――サイトを立ち上げた経緯はどういったものだったんでしょうか?
K 「僕とフジタは都内のCDショップで働いていて、僕は過去に洋楽コーナーの展開とかを担当していました。ただ、コロナが蔓延して以降、思うように出勤できなくなり……。個人的にはフロアの展開をやりたくてこの仕事を始めたので、コメントを書くスキルとかを活かしたいと思ったのがきっかけですね」

――なるほど。
K 「当初はブログみたいな形式で、僕らが好きな音楽にコメントを付けて発信しよう、というところから始まり、途中からはインタビューとかやれたらおもしろいよね、となりました。振り返ると、そのときにこうやって自主的に海外のバンドやレーベルにインタビューしているメディアはいないな、って思っていたのと、そういうものを自分としても読んでみたいという思いがあり。だったら自分たちでやろうと。そして、今の活動に至ります」

――コロナウイルスが世界で蔓延し始めた去年頃から、ORMはスタートしていますよね。コロナ禍の動き辛い時期に活動的に動いていてすごいな、って思ってます。
K 「逆にコロナだからこのサイトをやろうと思ったんですよね。コロナがなかったら、店舗の展開をやっていたはずなので。自分がアルバイトを始めた理由のひとつがコロナで潰された感じがして、その悔しさを何かにぶつけようと、スタートしました。コロナは憎いですけど、ある意味では感謝しているのかもしれません(笑)」
M 「こんな状況じゃなかったら、こんなに記事を書いている時間もあまりなかったもんね」

――3人の出会いはどういう経緯だったのでしょうか。
M 「僕が初めてこの2人と会ったのは、サイトを始めて半年するかしないかくらい。たまたまインスタでフジタと繋がっていて……」
M 「同世代で音楽の話をする友達がひとりもいなかったんですけど、20歳になったくらいでたまたま知り合えて。こんな人いるんだ、すぐに会おう!となりました。初めて会ったのは、School In LondonでMs.Machineがライヴしていたときなんです」

――そうなんですか!じゃあすごい最近ですね。
F 「そうなんです。その日に僕が一緒にやろうよ!って誘ったんです」

――そんなことが下北沢で起こっていたんですね〜!
F 「Ms.Machineのライヴよかったねえ、俺たちもなんかやろうよって」

――めっちゃ嬉しいです。インタビューのアポはいつもどうやって取っているんですか?
K 「メンバーそれぞれに話を聞きたい人を見つけたら、個々でメールやDMするのが主ですね。インタビューの方法は、アーティストと相談してメールかZoom、場合によっては直接会ってお話することもあります」

――Zoomでは、英語でインタビューしているっていうことですよね。
K 「そうですね。これまでに何度か海外とビデオ通話を繋いでやったことがあります。過去には、訛りがきつくて録音を巻き戻しても聞き取れないなんてこともありました(笑)」

――なるほど~!訛り問題が……。
K 「それがあって、基本はメールなんですよね」
F 「イギリスは特に訛り問題が……。北とかになっていくと、聞き取れないレベルなんですよね」

――(笑)。
K 「雑音が入ったり、接続が悪かったり、あとは言葉の壁とかいろいろと大変な面もありますけど、インタビューの最後には“今の日本は、コロナどうなの?”とか、そういうフランクな会話もあったりしました。喋りながらやることのおもしろさはこういったところにありますね」

――どういうメディアに影響を受けて、自分たちでやってみようと思ったのでしょうか?
F 「メンバーの3人全員が『So Young Magazine』という、イギリスの雑誌が好きなんです。DIY精神を持ってアーティストにインタビューしたり、最近だとレーベルを立ち上げたり、素晴らしいアーティストを集めた入場無料のフェスとかをやったりしていて。本当に音楽が好きなんだな、っていうのが伝わってくるような人たちが、愛を持って運営しているのを見て、僕たちも同じようなことをしてみたいと思いました」

Photo ©SAI

――『So Young Magazine』はどうやって知ったんですか?
F 「BIG LOVEかもしれないです。“イギリスのシーンを影から支える雑誌”って紹介されていて」
M 「しかも、レジ横に置いてるから目につきやすかったんです。“DIY”っていう言葉がけっこう自分たちの会話にも出てきていて。例えば、写真を撮ろうとか、サイトのリニューアルもそうなんですけど、誰かに頼るっていうことができる中で、“自分たちでやろう”っていうのはかなり大事にしていますね」
M 「どちらかというと、僕たちは雑誌というよりかはSNSやYouTube、Spotifyとかで直接アーティストの発信を見ることが多いですね」

――そうか!雑誌の世代じゃないんですね!
一同 「そうですね(笑)」

――なるほど……!時代は変わりますね……。邦楽は、みなさんどういうのを聴いたりしていましたか?
M 「高校2年のときにWaaterとかGeGeGeとか。SPEED界隈をよく聴いてましたね」
F 「最近のアーティストだとD.A.N.とかを聴いていますね。親の影響もあって一世代前の邦楽アーティストをよく聴いてました」
K 「僕は、2013〜15年くらいにシティポップのムーヴメントが出てきたタイミングで邦楽に目覚めました。Yogee New Wavesとか森は生きているとか。あとは親の影響でORIGINAL LOVEがすごく好きです。渋谷系をがっつり掘っているわけではないですが、そういうサウンドも好きですね」

――マツヒロさんは、高校生のとき、どうやってSPEEDを知ったんですか?
M 「ブリットポップから入って、いいなあって思ったとき、日本にもそういうアーティストはいないかな?って思って最初に知ったのがDYGLだったんです。その関連で出てきたオススメのアーティストとかで知って。それまでこういったシーンがあることは知らなかったので、衝撃を受けました。それでライヴに行って、みたいな感じでした」

――なるほど。以前RisaさんにインタビューしたときもSPEEDの話が出たんですよ。やっぱり影響力すごいですね。DYGLもたくさんのファンがいるし、リスペクトされてますよね。
一同 「そうですね」
M 「あまり、ああいうサウンドが日本で幅広く聴かれることってなかったように思います。CMの楽曲に使われたりとかもそうですし。海外でも活躍していてDIY精神も感じますし、尊敬しています」

――私の同世代で海外で活動しているバンドって指折り数えられるくらいしかいない気がします。少し上の世代だとbo ningenとか挙げられるんですけど。あとは、PLASTICZOOMSやGroup Aとかはベルリンで活動していましたけど……。日本人で海外で長期的に活動している人って本当にあまりいないですね。
K 「ORMで取り上げる邦楽の基準みたいなものは、みんなが聴いてきた音楽の共通点が海外のインディロックということもあって、そこと共鳴するような音楽や、自分たち視点で広く知ってもらいたいと思うものを取り上げていますね」

――みなさん大学3年生で、夏休みとかに海外に行くチャンスがあっても、コロナで行けない世代ですよね……。
M 「そうですね。バイト代を貯めて、1ヶ月くらいイギリス行くことになっていたんですけど、それも中止になっちゃって。そんなときに2人と会えたので本当に良いタイミングだったと思います」

――コロナウイルスの影響がなかったら、どこの国に行きたかったとかありますか?
F 「僕はイギリスです」
M 「僕もイギリスで、次にデンマーク。ICEAGEとかもそうだし、COMMUNIONSとかも観たいです。でも一番はやっぱりイギリス」
F 「そうだね。Ian Curtisの墓参りするっていうのが僕の夢で……」
一同 「(笑)」
F 「イギリスに行ったら絶対そこは行かなきゃいけないって。JOY DIVISIONのTシャツ着て、お花を置いて、写真を撮るっていうのが」
K 「インディには何年も前から興味があって、イギリスがすごくおもしろいっていうのは重々感じているので、本場を生で見たいですね」
F 「あとマツヒロと僕はフットボールが大好きなので、イギリスのスタジアムには行きたいね、って話はしていて」

――ICEAGEとかCOMMUNIONSを好きになったきっかけとかありますか?
M 「高校2年生のときにすごく好きで。たしか来日とかしてたじゃないですか。それでTwitterなりで情報が流れてきて知ったんだと思うんですけど、その頃はずっと聴いていました。それこそORMに入って最初のインタビューがCOMMUNIONSだったので、昔好きだったアーティストにインタビューできたことは感慨深いです」
F 「文化祭のやつは(笑)?」
M 「高2の文化祭で友達がいなさすぎて……みんな2、3組で回るんですけど、それでハブになっちゃって、COMMUNIONSを聴きながら文化祭の途中で帰るっていうことがあったんです(笑)」

――(笑)。めっちゃいいエピソードですね。実は数年前にICEAGEにインタビューしたことがあるんですけど……。
一同 「そうですよね、読みました!」

――読んでくださったんですね!ありがとうございます……。そのとき、ちょっとつまらなそうだったんですよ。
一同 「ええ~~こわ~~(笑)」

――そうそう(笑)。だからインタビュアーがあまり聞かなそうな質問をしようって思って「クラスでどういうキャラだったの?」っていうのを聞いたんですよ。そしたらElias(Bender Rønnenfelt)が「アウトサイダーだった」って言っていたのを思い出しました。
一同 「(笑)」
M 「たしか地元で彼は“モンスター”っていうあだ名がついていたらしくて、本当に喧嘩ばかりだったみたいですね。いまだにメンバーがEliasのお父さんに会うと“Eliasは大丈夫?ちゃんといい子にしてるのか?”って言われているとかで」

――そんなわけで、クラスで浮いていても全然いいと私は思うんですよね。話は変わりますが、今おもしろい場所ってやっぱり下北沢らへんですか?
M 「「ひとつすごくいいなって思った場所が、東麻布のoa。NEHANNがアルバムを出したときに、ヴォーカルのかたが弾き語りをやったところなんですけど、ボロボロの骨組みの小さいアパートみたいで。“TOKYO MOIST”というイベントで、The CabinsのMasamiさんとのかたとDYGLの秋山(信樹)さんと下中(洋介)さんも出ていたんですけど、30人くらい入ってパンパンみたいな感じの空間がすごく良かったです。そこで秋山さんと下中さんにインタビューしたいです、って話しました」

K 「コミュニティとしては下北かもしれないですね。似た精神性、ガッツみたいなものを持っていて、“一緒に面白いことをやろう”って思ってライヴをやっているという話は、以前インタビューしたことのあるアーティストからも聞きました」
F 「WAREHOUSE TRACKSっていう、Sugar HouseAya Gloomyさんが所属しているレーベルがおもしろいと思っています」
F 「Sugar Houseは、DIIVみたいな曲をやりつつ、ヴァリエーション豊富ながら全曲かっこいい。この間ライブに行ったったんですけど、演奏もすごく良くて。個人的には一番楽しみにしているバンドのひとつですね。そういう意味でも下北沢は今一番おもしろい場所なのかな」
M 「ライブハウスが多いからっていうのもあるかもね」

――サイトをリニューアルしていましたよね。リニューアルのきっかけを教えて下さい。
K 「大きな理由は、以前使っていた運営ソフトがすごく重くて、それをまず改善したかったということ。ふたつ目は、ヴィジュアル面で見やすくしたかった」
M 「やれることの幅が広くて、今のほうがいろいろといじれるよね」
K 「そうだね。今までは単純に、記事と動画みたいな。わかりやすいとは思うんですけど、そこから派生して、共有とかまでできたらいいな、と思って」
F 「あとロゴも変えたのが大きいかな。カジハラが作ったんですよ。シンプルかつ、イメージに残り易くてカッコいいロゴができたのかな。それもリニューアルしてよかった」
M 「それとスナップも始めました。自分たちに関連するバンドとか音楽に関連する洋服を友達に着せて、自分たちでスタイリングを組んで写真を撮るという企画です。ロックが盛り上がってきたとはいえ、ヒップホップもすごく勢いがありますよね。何でかな?って考えたときに、単純にヒップホップって、ファッションも含めてシンプルなカッコ良さがあって、入りやすいと思うんですよね。一方で、ロックはもう少し難しいイメージを持たれているような。それこそ、僕が中3のときにOASISを聴いて初めてロックに触れたとき、音楽のことは何もわからなかったんですけど、ヴィジュアルとか、ファッション、パフォーマンスがカッコいいっていうのが大きくて。現在のロックでも、そういう面はあると感じているのでその側面も発信できたらと思っています」

――そうですよね。自分でも思いますが、ロックって例えばストレートエッジとかフェミニズムとか、強い思想が歌詞に織り込まれてる場合があって、その考えに触れてこなかった人にしたら、ひとつひとつ紐解いていく作業のハードルが高いですよね。
M 「知識がないとわからない、みたいなのが多いですよね。そういうことも、若い人がロックから離れている原因のひとつかもしれないですし。もっと単純に“なんかカッコいい”とか、そういうライトな感じで楽しむ人がもっと増えてもいいんじゃないかな?って。ヒップホップとか、ライヴ観ているとすごくカッコいいし、Tyler, The CreatorがやっているGOLF WANGっていうブランドもすごくカッコよくて。そういう魅力を広めることも大事なのかなと思います」
F 「バンドTシャツを着ているのにバンドの音楽を聴かないやつ、いるじゃないですか。僕は全然いいと思ってる。ファッションも入口として、聴かなくてもこれから聴けばいい話で。そういう人が興味持って、例えば僕たちみたいな、インディの、人目につかないようなところも聴くようになったら。増えていったら。ファッションから音楽に入ることも素晴らしいと思います」

――受け入れがソフトだとリスナーの母数が増える可能性あがりますしね。
M 「それで言うと、Ms.Machineのライヴを初めて観たときもカッコいいな、って思いました。ライヴのパフォーマンスもVJとかも。あまり音楽に熱心ではない友達に、すごくカッコいいバンドいたんだよって、そのときに撮らせていただいた動画を観せたら、“カッコいい!聴く!”ってなったので」

――ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです……!それでは最後に、今後やりたいことを教えてください。
M 「いろんなことをやりたいです。インタビューもだし、noteもだし、スナップもだし」
K 「単なる情報発信メディアになってもいいんですけど、そうではなく、幅広くいろんな人にリーチできたらいいな、と思っています」
F 「やれること全部やりたいね」

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