Column「平らにのびる」


文・撮影 | 小嶋まり

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 1年半ほど、ほぼグルテンフリーで暮らしている。真夏の海辺バーベキューで焼きそばを食べたら身体中に蕁麻疹が出て、それから小麦を食べる度に蕁麻疹が出るようになってしまい、小麦アレルギーと診断された。それ以来、小麦を使ったものを食べないことがわたしの正義となった。大好きだったパンや麺類を諦めるのは辛かったけど、肌や胃腸の調子が良くなった上に腹周りの肉も落ちて、良いことしかなかった。今はもう、パンや焼き菓子、麺類は一切口にしていないし、特に食べたくなることもなくなった。

 しかし、今年の初夢で、フカフカのシフォンケーキを躊躇いながらも食べる夢を見た。次の日はラーメン。さらにその次の日は、お好み焼きをお腹いっぱい食べていた。3日間も連続して、グルテンだらけの夢。特にグルテンを欲しているつもりはなかったのに、自分を知らず知らず抑圧していたのだろうか、水面下で静かに潜んでいた小麦粉に対する欲望が、一気に噴出したようだった。そして、夢の中で食べるグルテンの塊は、すんごくおいしかった。

 夢には、願望と、睡眠中に見る無意識の心の動きというふたつの意味があると思う。わたしは眠りのなかで、知らず知らずのうちに堪えていた欲を爆発させていた。わたしが正しい行いとしていた抑制は、あくまでも表面的なもので、欲望は積もり積もって暴走しかけていたのかもしれない。そして、別物に見えたふたつの夢の意味が、“憧れ”という点であっさりと重なってしまった。

 正しさを簡単に裏切る無意識が、こんな身近に潜んでいたとは。
信仰深くあろうとするほど、悪魔と悪巧みする夢を見てしまうのだろうか、と想像する。その夢は言葉にできない罪となって、悪と手を繋ぐ己の可能性を孕んだ暗い影を心の奥底に落としてしまうのだろうか。心の潔白を盲目に肯定し続けることは、反逆の卵を温めるようなものだ、なんて考えながら、今日もお餅でなんちゃってフレンチトーストを作っている。

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正編 | トーチ (リイド社) 「生きる隙間
小嶋まり Mari Kojima
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ライター、翻訳、写真など。
東京から島根へ移住したばかり。