Column「平らにのびる」


文・撮影 | 小嶋まり

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 小学6年生になった姪っ子が、緊急用にスマホを持つようになった。電話をかけられるのは両親のみ、友達とのLINE交換はまだ禁止されていて、ラインにある連絡先は親族のみ。早速、離れて住む愛しい孫と母が気軽にやりとりできるように、姪っ子と姉と私と母でグループを作ってみた。

 74歳になる母はテクノロジーにめっぽう弱く、全くついて来られていない。最近母は、付き合いのあるお寺の会で会計役を任され、パソコンを使わなくてはいけなくなった。実家にある化石みたいなノートパソコンを久々に起動すると、うんともすんとも言わない。とりあえずわたしが母の代わりにExcelで表を作ってあげようと思っていたところ、長い間事務職をしていた母の友人が作業してくれることになった。母は定年退職してからパソコンに触れることもなく過ごしていたので、同世代の友人がパソコンを使いこなせることに感銘と焦りを覚えたようだった。そしてなによりも、周りに迷惑をかけてしまい申し訳ないと心を痛めているようだった。

 母は、スマホもかろうじて、なんとか使っている。アプリやOSのアップデートの通知が画面に表示されるたびに、スマホが壊れたんじゃないかと慌ててわたしに電話してくる。説明しようにもダウンロードとかアップデートとか、基本的な用語の意味を理解していない。教えてもしっくりこない。現代の文明における共通言語がここまで通用しないのかとわたしも途方に暮れてしまう。スマホで検索するのも一苦労で、ステマっぽいサイトばかりクリックしてしまう。母にとってスマホは得体の知れない、恐ろしい存在になってしまっているようだった。

 そんなおぼつかない様子でスマホを扱っている母だけれども、旧友たちとLINEグループで頻繁にやりとりして、一緒にお茶や温泉に行ったりしている。みんなと写真を送り合ったりしていて、楽しそうである。そんな中、先日実家に行ったときに、母がおそるおそる、LINEのスタンプってどうやって買うの?と聞いてきた。旧友のみんなは、がんばれ!とか、おつかれさま!とかメッセージの入ったかわいらしいスタンプを使っているのに、自分は最初からある白くて丸い豆腐みたいな顔をした人型のスタンプしかなくてちょっと恥ずかしい、ともじもじしていた。思春期の少女のようである。気の毒になり、スタンプの買いかたを教えてあげて、母が好きそうなスタンプを一緒に探してあげた。その結果、ほっぺを赤らめたふわふわのくまさんスタンプを購入した母は、とても嬉しそうだった。

 その夜、家に戻ると姪っ子たちとのグループLINEから通知が届いた。見てみると、母からである。ふわふわのくまさんがベッドに寝転んでいるスタンプがひとつ、送られてきていた。ゆっくり休んでね、と吹き出しの中に書いてある。きっと母は、ワクワクしながら送ってきたに違いない。姪っ子からすぐに、ばぁばかわいいね!と返信が来た。母の人知れない努力は、報われている。

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正編 | トーチ (リイド社) 「生きる隙間
小嶋まり Mari Kojima
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ライター、翻訳、写真など。
東京から島根へ移住したばかり。