Column「平らにのびる」


文・撮影 | 小嶋まり

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 あと1週間もしないうちに2023年は終わってしまう。思い返せば今年は諦めから始まった年だった。新年早々、占いを見た母からまりは耐え凌ぐ年になるらしいよと言われ意気消沈、来年まで引きずらなきゃいけない厄介なこともあったりで新年会で友人たちと集まったときに、わたしは今年が早く終わってほしいと切実に語っていた。滅多に風邪なんて引かないのに年明けからコロナにもなるし原因不明の熱も出すし、引き籠りがちになり、心身共になんとなくコンディションの整わない年だった。年越しを目前にして、やることなすこと投げやりに過ごしてしまったこの1年を後悔している。

 反省を書き出すとキリがないけれど、あまり悪いところばかりに注視してもよくないので、今年出会って良かったものを紹介しようと思う。

 近所にある温泉のフリーパス
 冬になると古民家のお風呂場は凍えるほど寒い。床のタイルは冷たいし、ホーローのバスタブは劣化して底が剥げてきていて、お湯を溜めるのに抵抗がある。改装するにもお金がかかるしどうしようかなと考えていたら、近所の温泉がフリーパスを販売しているのを知り、早速購入。それからは毎朝起きて家事を済ませたら温泉へ、そして夕方にランニングをしてからまた温泉に向かっている。温泉は掛け流しで露天風呂もあるし、サウナも付いている。ほぼネット中毒者であるわたしにとって、スマホを手放し素っ裸でお湯に浸かりボーッと過ごす時間は貴重である。温泉では周りにいる人たちもこっそり観察してしまう。サウナに入るとおばあちゃん2人が裸体で向かい合ってごろんと寝転んで会話しているのを目撃したり、体の洗い方が豪快すぎてなんの恥じらいもない強者を目の当たりにすると気品と色気は大切にしようと思ったりもする。お風呂に浸かっている間、目を閉じている人が多いことに気付いたから、わたしも目を閉じるようになった。目を閉じることは脳を休めることらしいですね。人間が一番無防備な状態で集う場所、おもしろい。

 しじみ
 夜はスナックで働いているけれど、飲み過ぎたりもするので朝は辛い。そしてわたし、数年前からガンマ値が高くなり、医者に注意されている。肝臓に良いことをしなくてはと思い、朝はしじみのお味噌汁を作って飲むようになった。ここはしじみの収穫量全国1位の土地なので、しじみがどこにでもある。その上安い。一気にたくさん買い込んで塩水で砂を吐かせてからジップロックに入れて冷凍しておくと、いつでもしじみのお味噌汁ができてしまう。こんなマメな作業、今までにしたことがなかった。しじみを使って何か他の料理も作れないかなと思い、しじみのボンゴレビアンコを作るようになった。オリーブオイルにニンニクと鷹の爪、アンチョビペーストを入れて弱火にかける。ニンニクの色が変わってきたら凍ったままのしじみを入れてちょっと煎るようにしてから日本酒を入れて蓋をして蒸す。しじみが口を開けたらパスタの茹で汁と硬めに茹でたパスタを入れ和えるようにして水分を吸わせる。水気がちょっと残るくらいになったら出来上がり。簡単だけどこれがとてもおいしい。気付いたらほぼ1週間連続で食べていたりする。はまってしまうと同じものを食べ続けてしまうクセがあるので、また何か違うものを作らなくてはと思いながら過ごしております。

 ポッドキャスト
 コロナ禍に突入した頃にジェーン・スーさんと堀井美香さんがホストを務める「OVER THE SUN」を聴き始めてから、おもしろそうなポッドキャストを見つけては聴くようになった。TBSラジオのアーカイヴから雑学、地方のニッチなものまでいろいろ聴いている。今年は海外のポッドキャスト番組にも手を出すようになり、最近はNYCで暮らすコメディアンの女性2人が赤裸々に私生活などを語る「Worthless Clowns」、人種やプロナウンスも様々なゲストを呼んで影響を受けたことなどを語る「Two Nosy Meerkats」がお気に入りである。わたしも去年、近所の友人たち4人でポッドキャストを始めたら、近所の商店街などで地味に話題となり、行く先々でまりさんですかと聞かれるようになった。ちょっと恥ずかしくなってしまったし、みんなもそれぞれ忙しくなったので更新しなくなったけれど、音楽家の多久和千絵ちゃんとふたりで「わたしたちへのメモ」というポッドキャストを始めた。ちえちゃんとは一昨年こちらに帰ってきたときに友人の紹介で出会い、同い歳ということもあって仲良くなった。Uターンしてきてきっと友達もできずに孤独に過ごすことになるだろうと思っていたや矢先に出会った救世主である。いろいろやりたいことがたくさんある同士だったので、溢れ出る思いやアイディアを書き留めるようにと交換日記を始めたけれど、ちえちゃんは字が上手だった。わたしは義理の兄に引かれるほど字が下手である。自分のへたくそな字を見せるのが恥ずかしくてわたしが交換日記を止めてしまったこともあり、音声でその日その日のあれこれを細々と記録することにした。今まで都内やらでは出すことのなかった方言で喋りながら言霊だったり自己中についてだったり、アラフォーの身の周りの問題について語っていたりするので、もしお暇な時間があればSpotifyのポッドキャストで聴けるのでぜひどうぞ。

 今日は1226日、クリスマスイブはひとりきりでペヤングを食べ、ノンアルビールを飲みながらジェニファー・ロペス主演のラブロマンス映画を観たり、とんでもなく寂しいクリスマスを過ごしたのですが、来年は悔いのないよう、愛する人たちと楽しい時間を共有して過ごしたいと思う。みなさま、良いお年を。

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正編 | トーチ (リイド社) 「生きる隙間
Photo ©小嶋まり小嶋まり Mari Kojima
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ライター、翻訳、写真など。
東京から島根へ移住したばかり。