Column「平らにのびる」


文・撮影 | 小嶋まり

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 わたしは買い物が下手である。節約も苦手。反対に父は、物を大切に使うし、工夫もする。父の趣味のひとつが版画なのだが、わたしや兄が小学生の頃に使っていた彫刻刀セットをいまだ活用している。とうの昔に捨てたものだと思っていたけれど、父は大切に保管していたらしい。

 一昨年、両親とわたしで実家の片付けをした。物置に山ほど溜まったいらないものを仕分けして処分する準備をしていたけれど、父はわたしたちが小学生の頃使っていたMR.FRIENDLYのバックパックやボロボロのL.L.Beanのリュックなどをまだ使えると判断し、こっそりゴミ袋から抜き出していた。もう使う余地なんてないからやめて!片付かない!と母とわたしで父を叱ってしまったけれど、父は納得いかない面持ちで、その後も捨てるはずだった靴などをコソコソと救出していた。

 わたしが住むまで放置されていた祖母の家の片付けも大変だった。祖母の家からは、2tトラック2台分のゴミが出た。昔、祖母の家にお泊まりすると用意してくれていたフカフカの布団も湿気を含んでぺったんこになっていたし、バブル期を象徴するようなレッドパープルで別珍のソファーも穴が空いて埃まみれの粗大ゴミに変わり果て、衰退という文字が頭に浮かんだ。その中で父は目を光らせてわたしたちの監視を掻い潜り、使えそうなガラクタをかき集めていた。

 昨日は自分の家で作業する気分になれなかったので、実家に向かった。わたしは1日の予定を書き込めるデイリー・プランナーを使っている。数年前にFlying Tigerで見つけ、安かったので大量に購入しておいたものである。毎日やらなきゃいけないことを指定の欄に書き込み、それが終われば横にあるチェックボックスにペケを入れる。ペケを入れる瞬間の満足感が好きで使っている節もある。その他にも今日の気分、天気、飲んだ水の量、朝昼晩食べたものなども記録できて見返すと楽しい。リビングで作業していたら父がやってきたので、なんとなく、このデイリープランナーいいでしょ、とちょっと自慢してみた。ほぉ、と父は眺める。すごく使えるんだと伝えたら、いくらだったか聞いてきたので、わたしは誇らしげに300円くらいと答えたら、高い!と父は言った。その上、300円でノート5冊は買えるとか言い出したのでうるせぇなと思い無視、会話はそこで終わった。

 母が夕食を作ってくれたので食べ終わって帰ろうとすると、父が玄関の戸締りついでに見送りに出てきた。靴を履くと、違和感がする。見てみると、靴底がペロンと剥がれてしまっていた。履き心地が良くて散歩用にかれこれ6年くらい履いていたスニーカーだった。父は、わたしのことを物を粗末にする浪費癖のある人間だと思っているので、それを払拭できる瞬間だと思い、スニーカー履き潰しちゃった!6年目のやつ!底がパカパカ!なんて言いながら、これみよがしに見せつけた。すると父は、接着剤いる?と言ってきた。勝てやしないと思った。

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正編 | トーチ (リイド社) 「生きる隙間
Photo ©小嶋まり小嶋まり Mari Kojima
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ライター、翻訳、写真など。
東京から島根へ移住したばかり。