Column「アグネスの5次元パーラー」


文・撮影 | アグネスパーラー

| 第7回: 柑橘パラダイス

 東京に出てきて22回目の春を迎えました。上京したての春は今でも特別な時間で、あの時のまま風景は全て私の心の中で止まっているような気がします。いつも歩いていた道、夕焼けの綺麗な光、暮らしていた部屋、さみしくて泣いた夜、いろんなことを思い出すと切なくなるけれど、まるで昨日のことのような、とても不思議な感覚になります。思い出の感触、匂いだったり色だったり光が重なって、その場にいなくてもふとその瞬間に帰ることができますよね。これって人間だけが感じられることなのか、過去っていったいどこにあるんだろう。時間って目に見えないのにみんなを支配していて、私たちはどこに向かって生きていて、残りの人生の春をどこでどう過ごすのか、わからないことばかり。そのわからないことばかりを考えることが楽しかったり気になったり、それも麗かな春のせいかもしれません。

アグネスの5次元パーラー 第7回: 柑橘パラダイス | Photo ©アグネスパーラー

 大学の進学で生まれ故郷の大阪を離れて上京しました。テレビや雑誌で見て東京のことはなんとなく知っていたような気がするけれど、いざ飛び込んだ夢の東京ライフは思っていた以上にカルチャーショックが多くて驚きました。ラジオのDJがみんな標準語でかっこよくて、町で知らない人に話しかけられることもなくて、バスを降りる時に運転手さんにお礼が言えなくて、おでんに牛すじが入っていなくてちくわぶとはんぺん、うどんの出汁が黒くて、マクドのことをマックと言う、ジャンケンのリズムが違う、などなど。そして何より関西ローカルのテレビ番組が観られないのがホームシックに拍車をかけていました。そんな私のことを知ってか知らずか、弟が毎週楽しみにしていた番組を録画しておいてくれていたのです。なんて優しい弟なんでしょう。今はネット配信で全国のローカル番組が観られるようになったし、ラジオも聴けるし、故郷を離れても電波関連のストレスは少なそうでなによりです。

 いろんな衝撃を受けながらも今となってはすっかり東京に染まり、関西弁もやや下手くそになってきているし、大阪の文化もうろ覚えという状態です。最初は戸惑ったとしても住めば都。そこはパラダイス。ということで、新生活にまだ慣れていない誰かのために、今回はこの時期のパーラーの定番メニュー、柑橘パラダイスの紹介です。甘さの中に柑橘の酸味と香りが広がって、新しい環境に疲れた身体と心をリフレッシュしてくれます。ぜひスカッと1杯飲んでみてください。

[材料]
| 好きな柑橘数種類 果肉だけで350g
| レモン 1個
| 砂糖 100g
| 熱湯 100cc
| ローリエ 1枚

[手順]
01 | 熱湯に砂糖を入れてよく溶かし、冷ましておく。
02 | 柑橘の果肉を取り出す。薄皮もなるべく剥がす。果肉が取りにくい柑橘の場合は果汁を絞る。
03 | レモンの果汁を絞る。
04 | 清潔な瓶に01、02、03を入れて、ローリエも入れて蓋をする。
05 | 半日から一晩、冷蔵後で冷やしてできあがり。
06 | グラスに氷を入れて、ソーダ水、水、紅茶などで割る。シロップは好みの濃さで。

アグネスパーラー agnesparlour

アグネスの5次元パーラー | illustration: あお木かな
illustration あお木かな
2010年よりオリジナルのシロップなどを使ってドリンクをメインにしたケータリングの活動を開始。ライヴ、展示、パーティ、蚤の市、商店街のお祭りなどに出店。執筆活動として鳥取のベーグル店「森の生活者」発行のジン『森と生活者』に寄稿中。

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