Interview | FATHER x Sayaka Botanic x FUJI|||||||||||TA


自分を抜く作業にただ集中する

 隔月で全5回が予定されているFATHER(以下 F)とSayaka Botanic(以下 S)によるパーティ「Fruitfulness – 豊穣」の第4回が、東京・下北沢 SPREADにて11月6日に開催された。同公演では、自作パイプオルガンと声を主軸としたサウンド・アーティストFUJI|||||||||||TA (以下 |||)をゲストに迎え、それぞれがソロ演奏を披露。Sayaka Botanicの情緒的な演奏から始まり、FATHERがそれを組み立て、解体し、その先の時間をFUJI|||||||||||TAが完成させていく。一貫して個々の演奏を楽しむというよりは、全ての演目を通してひとつの時空が生まれていくような繋がりがあった。それは「Fruitfulness – 豊穣」ではいつも体感することだが、企画者であるFATHERとSayaka botanicが、この企画の出演者たちを共同体のように捉えているから起きる現象なのではないかと思った。ライヴ・イベントとしては不思議な感覚だが、種から木になって実ができるような、必須の連携を感じるのだ。そんな音空間を生み出した3人に、イベント終了後に話を聞いた。

 なお同イベントの最後となる第5回は1月29日(日)にSPREADにて開催。ギタリストの大上流一(Riuichi Daijo)を迎え、FATHERとSayaka botanicによる不定期のユニット“豊かな実りのフンボルトの海”での演奏が予定されている。本稿末には、FATHERによる、第4回の開催を振り返るとともに第5回についての文章を掲載。

取材・文 | 鷹取 愛 | 2022年11月
写真 | 渡邉 隼

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」FATHER | Photo©渡邉 隼

F + S 「今日はご出演いただきありがとうございました」
||| 「こちらこそいい企画で貴重な機会、嬉しかったです」
F 「日本でのライヴは久しぶりですか?」
||| 「8月にやったので、3ヶ月ぶりですね」
F 「Spreadみたいな小さい空間で演奏することは最近あったりするのかな?」
||| 「規模的には久しぶりです。6月にアメリカにツアーで行ったときに1、2ヶ所くらい今日のような距離感でやりましたが、日本とアメリカで雰囲気も違うので」
F 「何がどう違うと感じる?FUJI|||||||||||TAくん、最近よく海外に行ってますよね?」
||| 「そうですね。とにかく海外って演奏しやすくて。自分にとっては。逆に日本でやるときは、いい状態で演奏するのが改めて難しいと思っていて。邪念が多いというか」
F 「それって一体なんだと思いますか?」
||| 「やっぱり知っている人が多いし、場所も知っていたり、土地感もあったり。演奏する場所に家から行くし」
S 「たしかに、家から行くというのはあるかも」
||| 「そう、距離があるじゃないですか、海外は。知らないところに行って、観ている人も遠くから来たっていう前提があるので。精神的に気にしてることが少なくて、わりとシンプルにその日の演奏を楽しめることが多い」
F 「私もよくその場の状況や雰囲気に引っ張られることがあるから、どこかでちょっと頭空っぽにならないと……じゃないけど。そこがけっこう重要かなと思っている」
||| 「本当にマインド次第だから、ライヴってね」
S 「FUJI|||||||||||TAさんのあの繊細さ、七生さんのドラムもそうだけど、精神的に引っ張られそうと思って。指が震えるのもそうだし、ちょっと口がこわばるとか、そういう僅かなことで影響が出そう。今日はそういう意味でも緊張感があったな」
||| 「緊張感がある状態でやりたいわけじゃないんだけど、性質みたいなのはしょうがないので」
S 「会場が狭いからというのもあるけれど、ディティールを見ることができてすごく良かったです」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」Sayaka Botanic | Photo©渡邉 隼

――今日は特にFATHERさんがすごく演劇的というか、序章があって、盛り上がりがあって、エピローグがあって、ひとつの舞台を観ているような演奏で、音の作りかたが似てるって思いました。
||| 「たしかに」
F 「音をどこから始めるか。本当に物事レベルで0から立ち上げるところが、FUJI|||||||||||TAくんと似ているなとは思いました。音量や演奏スタイルとかではなくて」
||| 「言われてみると。基本僕の楽器って、声は自由なんだけど、それ以外は行動しても、パッと出せないので、意識してもしょうがないっていうか。アタック音とかもないし」
F 「でも、今日のFUJI|||||||||||TAくんの演奏はすごい踊りたくなった」
S 「うんうん」
F 「静かなんだけど、躍動していて何かがすごくダンスだったんだよね」
S 「動きが見えているのが、私はすごくフィジカルだと思った。それがビートに聞こえる」
F 「そうだね」
S 「拍だった」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」FUJI|||||||||||TA | Photo©渡邉 隼

――ずっと目が離せなかったです。いろんな動作があることもあって、見逃さないようにしないと、と思って夢中でした。
F 「なんとなく今回の目論みとして、大袈裟なことじゃなくて。ちょっと儀式みたいなことを思い描いていて。この組み合わせと順番とか。それが見事にうまくいってて。一番目のSayakaちゃんが、人のカルマを引っ張り出すみたいな。1回荒れて、感情を引っ張り出して。自分のドラムはそれをまとめて、叩いて払うみたいな。その後にFUJI|||||||||||TAくんが風を」
S 「そう、凪いだ」
F 「何もない状態の、払った後の状態にすごい良い風を運んできて。なんかこう、場所がどんどん豊かになるみたいな。この場所の空気が変わって。すんごく軽くなって」
||| 「たしかに言われてみると、そういうイベントだったのかもね」
S 「土地が豊かになった」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」Sayaka Botanic | Photo©渡邉 隼

――このイベントのコンセプトが「豊かな実り」ですもんね。今回のSayakaさんの演奏もこれまでと違って、すごく私は好きでした。
S 「音数が少ないふたりが、私の次に続くから。一番最初は爆弾みたいなもののほうがいいと思って。一番最初に爆発が起きて、徐々にたぶんこういうことになるんだろうな、と思っていて、その通りになった」
F 「全体でいろんなかたちがあったね」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」FUJI|||||||||||TA | Photo©渡邉 隼

――4回目でFUJI|||||||||||TAさんを誘った理由は?
||| 「たしか本当は3回目の予定だったんですよね、最初は」
F 「スケジュールの面でいろいろありまして。結果的にいい流れだった気がする。極まってきてる。全5回に向けて」
S 「コンセプトが“豊かな実り”だから、今日はすごい秋の実りで。ゆくゆくは収穫祭を迎える、季節の流れみたいなイベントを最初1年間で考えてて。今はちょうど秋の実りの季節の回だから。最後にすごい実った。秋が終わって冬になるから、秋は生と死がすごく近くて。今日はそれをすごく感じた」
||| 「季節感が演奏に出たりしますか?」
F 「あー……出ますね」
S 「ここに来るまでの道とかでたぶん、肌で感じるものはそのまま体で出たりするのかな、とは思う」
F 「ドラムは体を使うから、すごくそれが出るのかも。あまりに湿度が高かったりすると、重いな、とか」
||| 「ちょうど数日前に知り合いの音楽家の人と電話をしていて。その人が、ほとんどの表現は、どれだけすごい表現でも一方的になってしまうのがちょっと虚しいよね、みたいな話をしてて」
F 「観る側が?」
||| 「そう。その人のコツコツやってた表現を観たときに、それを“見せられている感じ”になりたくないという話をしてて。まあ、そうだよな、って。僕がライヴで普段やっていることって観察で。基本、現象を扱っている生楽器だし、場所毎の影響もすごく受ける楽器だから。空間で音が立ち上がって、その現象をお客さんと一緒にとにかくよく観察している、っていうのが基本なんですけど。でもやっぱり、さっきの話でも緊張っていうワードがあったけど、その緊張を見せてるようなことが紙一重であるじゃない。自分の表現の性質上、僕は観察しているだけで、ああ、こうなるんだっていう感じで、お客さんが思うのとなるべく同じように自分もいたいと思っていて。まあ今日もやってるんですけど、難しいなあっていつも思う。だから季節感とかが出るっていうのは、本当はそうあるべきというか」
S 「気温とか風とか、みんなが持ってきたものとか、着ている服とか」
||| 「そうそう」
F 「関係ないっていうほうが不思議だよね。その見せてしまうということに関してだけど、演奏するときに観察とは少し違うけど、自分の感情とか、自分っていうものを、どんどん抜いていく作業にただ集中する。本当にその場にいるだけというか、音がその場にあるっていうことに集中するというのは心がけているかな」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」Sayaka Botanic | Photo©渡邉 隼

――邪念は?
F 「邪念ももちろんあるし。邪念があると抜ききれなかったりするんだけど。そのために、音を0から立ち上げるみたいなのを、音の力を借りてやっているっていうのはあるかもしれない」
||| 「おもしろい。だって0から立ち上げるとさ、積んじゃうじゃないですか。積むってさ、構成しちゃうから。だから実はけっこう僕も0から作っていくけど、それって積んじゃったから、ある意味そこに引っ張っられがちじゃない」
S 「なんとなくふたりのライヴを観ていると、積みながら流していく、っていう感じがあるのかも」
F 「その時間軸をなるべくなくすっていうことかも。さっき言ってたことは。ただ、そこにいるだけ、みたいな。0から1のその連続。そしたら前と後はなくなるから」
||| 「いいですね。積まないでいたい」
F 「なんだろうな。積んでもいいんだけどなぁ」
||| 「でも、積んだ時点でやっぱり、本当に全てが抜けていって、ただその瞬間いるだけにはなりづらいと思うんだよね」
S 「私の頭の中には小石がたくさんある川の水が流れる場所に一度上がって、浄化されて流れて、一度上がって流れて。みたいなのが共通点であるのかなって。空気と一緒に流れていく感じがした」
F 「いつでも、リセットできるようにしておきたい。特にソロをやるときは、無にできるような状態で進みたい。そこはFUJI|||||||||||TAくんと共通していると感じたよ」

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」FATHER | Photo©渡邉 隼

――今日は後半のFUJI|||||||||||TAさんは、唸っちゃうくらいの雰囲気になっていましたね。
||| 「嬉しいです」
F 「不思議な感覚だった」
||| 「たぶん本当に僕のやっている音って聴く人次第なんで」
F 「どういう状態かとかね」
||| 「どう聴くかによって、たぶん変わるから。僕はたぶん何もしていないんですよね」
S 「押し付け感が0。それがすごく気持ちよかった」
||| 「そうであったらいいんですけど」

――素晴らしいライヴでした。今日はありがとうございました。

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.4」FATHER | Photo©渡邉 隼

 第4回目を無事に終えることができた。会場にはたくさんの人々が来てくれたにもかかわらず、前回とは打って変わって一貫して静寂を纏った回であるようにも感じた。

 今回は3者のソロ演奏のみで構成されていたが、別々の背景や活動をしているそれぞれの、この日という接点は、不思議と川と川が交わる合流地点の様な日であった。そうか、川は繋がっていたのだなと思った。回を追うごとにどんどん豊かな実りが収穫できている実感がある。SPREADのような小さなスペースでは、場、演奏者、お客さんの存在の熱量も大いに関わってくる。4回目を経て「Fruitefulness」という時間のキャラクターのようなものがちゃんとできあがってきているのが興味深い。

 そして、ついに最終回となる第5回目のゲストは、ギタリストであり、即興演奏スペース「Permian」の立ち上げ人でもある大上流一さんをお招きします。あるがままで存在し、精神性の高さを感じる大上さんの演奏は、まるで地殻に咲く鉱物のような美しさがあります。音楽の源流ともいえる大上さんの演奏をぜひ生で体感しに来てください。FATHERとSayaka Botanicは、不定期のユニット“豊かな実りのフンボルトの海”で演奏します。最終回の「Fruitefulness」お見逃しなく!
――FATHER

FATHER Instagram | https://www.instagram.com/father_info/
Sayaka Botanic Instagram | https://www.instagram.com/sayaka_botanic/

See Also

「FRUITFULNESS - 豊穣」

Interview | FATHER x Sayaka Botanic x Matsubara aka Romy Mats (SPREAD)

そこでしか絶対に起きないこと

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.1」FATHER, Sayaka Botanic, YPY | Photo©三田村 亮

Interview | FATHER x Sayaka Botanic x YPY x Matsubara aka Romy Mats (SPREAD)

予測不可能な電子楽器の緊張や興奮

FATHER x Sayaka Botanic x Albino Sound x COMPUMA x MATERIAL x 近藤さくら | Photo©池野詩織

Interview | FATHER x Sayaka Botanic x Albino Sound x COMPUMA x MATERIAL x 近藤さくら

不確かで未知で未熟な事象を明るみに出す

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.3」FATHER, Sayaka Botanic, 灰野敬二 | Photo©三田村 亮

Interview | FATHER x Sayaka Botanic x 灰野敬二

自分の音楽にすればいいじゃん

「Fruitfulness – 豊穣 Vol.5」Fruitfulness-豊穣 Vol.5

2023年1月29日(日)
東京 下北沢 SPREAD
開場 18:30 / 開演 19:00
2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
https://t.livepocket.jp/e/fruitfulness05

出演
大上流一 / 豊かな実りのフンボルトの海(FATHER + Sayaka Botanic)

薬草茶・パワーボール
山フーズ