自分の音楽にすればいいじゃん
なお今年10月まで隔月で全5回を予定している同イベントの第4回は11月6日(日)にSPREADにて開催。自作パイプオルガン、声などを主軸としたサウンド・アーティスト、FUJI|||||||||||TAを迎え、FATHERとSayaka botanicそれぞれのソロ演奏が予定されている。インタビュー記事末には、FATHERによる、第3回の開催を振り返るとともに第4回についての文章を掲載。
取材・文 | 鷹取 愛 | 2022年6月
写真 | 三田村 亮
F + S 「今日はお疲れ様でした」
F 「今日の演奏、ご自身で振り返ってみてどうでしたか?」
H 「俺は全然緊張しないから。楽しかった」
S 「私もすごく楽しかったです」
H 「これから絞りがいがありそうだったね」
F 「ということはこの3人での2回目もありますか?」
H 「もちろんもちろん」
F 「じゃあぜひ!」
H 「次は絞ろう……失礼な言葉じゃなく」
S 「ようやく絞れるくらいまで来れたかな」
F 「絞りがいがあるというのは、褒め言葉ですね」
S 「めっちゃ褒め言葉」
H 「あたりまえじゃん。Sayakaちゃんと初めて会った頃から考えると、今はこういうことになってるんだな」
S 「灰野さんと初めてお会いしたのは10年前くらいで。あのときはたしか、“僕のところに来るまで30年くらいあるね”って言っていて。私は個人的には灰野さんのライヴには高校生のときから行ってはいたんですが、初めてお話したのは、私がロンドンから帰ってきて、まだヴァイオリンを始めていない頃です。始める直前くらいに友人のヤマダサトシくんに紹介してもらって、灰野さんにお会いして。その後、ヴァイオリンを始めるんですって報告したら、“ヴァイオリンを持ってきなさい”って言われて。ひたすら灰野さんからヴァイオリンを教わるっていう。けっこうスパルタでしたよ。ランダムにいろんなCDを引っ張ってきて、それをかけて、それに合わせて弾いてみるっていうのを何時間かやりました」
H 「厳しいね(笑)。3回くらいやったね。思い出してみると、僕のマネージャーをやっていてくれたんだよね。1年半くらい」
S 「そうですね。お手伝いしていました。ほとんどメール業務くらいなんですけど」
H 「その後、消えた」
S 「はい……消えました。外国のほうに」
H 「彼女の仕事が忙しくなったのと、バンドをやりだしたのと、海外に行ったのもあって」
F 「それで長い年月を経て、このタイミングで一緒にやるっていう」
S 「まさか灰野さんの隣に立って演奏する日が来るとは全く思っていなかったです」
H 「ベルリンで1回会ったっけ?」
S 「何回か会いました。同じフェスティヴァルに出たりして。だから今日は感慨深かったです」
H 「こういうライヴはジャンケンだよ。早いもの勝ちとジャンケン。待ってるんなら、先に音を出そう。いつやるのかなとか待っていたらダメ。きっかけが掴めないから、ジャンケンで決める」
F 「そうですね」
S 「灰野さんから言われたことで一番気にしてるというか、いつも思い出すのは、無駄な音は出すなっていうことと、最初の1音をためらうなっていうのと」
H 「今日は良い意味でそれがいっぱいあった。“おお……きたきた”っていう」
S 「あとは、“弓の1cmをマックスで弾け”っていうのを言われました。この弓の動きの1cmの間に、どれだけ長く音が出せるかと、どれだけ短く出せるか。それを意識して練習。それだけの練習を1時間ほどしたりしていました。灰野さんは覚えていないかもしれないですけど、私はそれがすごく頭に残っていて、それを意識していました」
F 「無駄な音を出さないっていうのは、すごく難しい。瞬時に選択して行くわけだし」
H 「自分がこれが音楽だって知らないうちに決めつけちゃってるから、そうすると、フレーズも自然にできちゃっているのが無駄なの。違う1音を出すっていう意識に戻れるかどうか」
F 「常に意識的であるということか」
H 「自分が音楽に負けていないかどうか。既にあるものをやるというのが負けているんだよ。自分で作るっていうのと、音楽をやるっていうのは違うから。音楽はいっぱいあって、適当にやっても音楽になるわけで。自分が作るっていうのは全然意味が変わるから。自分が音楽に負けない自信があるか。大概音楽さま〜って身を委ねる、そういうときに無駄な音がいっぱい出る」
F + S 「うんうん」
H 「自分の音楽にすればいいじゃん。自分自身が音楽そのものに負けない。もっと音楽を広げてやろうくらいにならないと。それが音楽好きって言ってる人たちの、音楽に対する恩返し。“え?これ音楽?”という音を出せるかどうかでしょ。音楽以上の音楽にしてしまうということ。今は“ノイズ”っていう言葉で示されているけど。本来のノイズってそんなもんじゃないから。もっとぶっ壊したあと、殻を破って、ひびがビビビって入ったものがノイズなので。ノイズって言葉が生まれて市民権を得ちゃってるわけだから、そんなのは全然興味ない」
F 「ジャンルみたいになっちゃってますよね」
H 「みんなが拍手をした時点で、僕はさようなら。終わってます」
S 「ノイズって、言葉通り、騒音。それに対して拍手が送られてる」
H 「皮肉だよ。だから、今日の第2部はエレクトロニクスはやめようって言ったの。どっかにあるようなものがひょこひょこ出てきても、せっかくヴァイオリン弾いてるし、ドラム叩いて、とりあえず叫ぶんだから。それでいいじゃん」
F 「1stセットを終えて、全然そっちに向かう気にならなかった」
S 「私も完全にそう」
F 「灰野さんは、今も演奏していて難しいって思うことってありますか?」
H 「何にもない。どうなりたいっていうのがないから。じゃあ何やってるんだって言ったら、必ずお話を作る。Sayakaちゃんは苦手って言っているけど、パッと違うものに切り替わっていく」
F 「お話をどんどん変えていく」
S 「これ本当におもしろいと思って。私はすごい絵巻物みたいな物語を想像するんですけど。たぶん、灰野さんはもっとページがあって」
H 「絵巻というか3次元。深さとか」
F 「本当にそうだと思う。立体というか球体っぽい」
S 「私はすごく線だな、と自分で思って」
F 「たしかに、私はいつも2次元かそれ以上の次元の違いというのはよく考える」
H 「意識の違いかな?と思うけど、なんだかんだで、遠近法って楽しいと思うから。ステージにいて、お客さんがいて、お客さんは音を聞いてるっていう感覚だけど、それがどのくらい迫ってくるのか、どのくらい遠のいていくのかっていうのが、一番楽しい」
F 「1stセットの、すごく小さい音の太鼓のところとか演奏していておもしろかったです。どんどん生音で小さくなっていっても耳がついていく。大きい音は、勝手に耳に入ってくるけど、やっぱり耳が音についていってる感じは、すごく立体感があった」
H 「自分が何の楽器を持っているかで、一緒にやっている誰かが音を出したときにどの空間に音が響いてるのかを確認して、自分はこっちから出せばいいとか考える。同じ空間に出したらぶつかって終わりだから。それができたら、いろんなところから、点じゃなく線として、角度もいろんな角度でうねることもできる。“わー、灰野さんでかい音出した〜悔しい〜じゃあ私カーテンになっちゃおう”とか」
F + S 「(笑)」
H 「カーテンって言ったら全部吸い取る場所だからね。大きい音って、今日もふたりは意識的にやってたんだけど、静寂を作るって一番大きい音を受け入れる場所だから。静寂の感覚にはなっているんだけど、終わりかたじゃなく、“終われかた”を意識してほしい。終わりかたっていうと、こうですねっていう感じだけど、自然とふわっとなくなる。最後にちょっとムッとした顔をしたと思うけど、5回エンディングを出したから」
F 「何回もそれには気づきました」
S 「やってもうたなと思いました」
H 「音楽って今日だけじゃないから。もっといっぱいやりたいですっていうのは、いい時間の過ごしかたじゃないと思う。ふわっと切る。それで、また次やりましょうっていう。僕が重々感じてるのは、長い演奏をやってお腹いっぱいになると、お客さんは次、来ないんだよ」
F 「今日最後はそんな感じがありましたね」
H 「バタバタして“終わろうよ”って言いそうになったもん。Sayakaちゃんが場面を変えていくのが得意じゃないって言ってたけど、自分が得意じゃないってわかっているなら、どうしたら得意になれるかって考えていけばいいから」
S 「あれからすごく考えてました。単純な音の大小だけじゃない奥行きの作りかた」
H 「僕今日は、ここで終わりたかったの。ここまでやりたくなかったの」
S 「そうですね」
H 「ある意味でお客さんがミュートしちゃう。時間をミュートするって感じだから。“ハッ”て、いつの間にか終わってたような終わりかたがいい。苦しいんだけど」
S 「お腹いっぱいの手前で」
H 「ちょっとお腹いっぱいなのと、アンコール2分やったかな。でも、さっきも言ったけど、ぐいっと入ってくるのがすごい嬉しかった。ふたりとも」
S 「それを意識した」
H 「まったりされるとやる気あんの〜ってなるかもしれないけど。追ってきてくれたから」
F 「それは嬉しい」
S 「誰かのものを待ってそれに合わせてやるっていうのはすごく失礼だなと思うので、そこはむしろ、強気で仕掛けていって、そこから何かが回っていくっていうくらいの意識でやりました」
H 「その前向きなものが、エンディングでできたらよかった」
F + S 「(笑)」
S 「灰野さん、この後何回会ってもきっとこの話しますよね。私、毎回も言われると思う(笑)」
H 「しないしない。次にやらなきゃいいんだもん。次はふたりが先に終わって、灰野さんまだやってるんですか?ってなったらいい」
S 「そうしますよ次は(笑)」
H 「そうなったときは、どうしてやっているのかをちゃんと説明するから。やりたいのは、自分がなんでやりたいのか説明できればいい。やっちゃったっていうのはダメ。オマケみたいな感じはダメ」
S 「反省」
H 「反省じゃなくていいよ。だからさっき言った、これから絞りがいがあるっていうのはそれで。よく言う、豆腐を金槌で殴ってもダメじゃん。そうではない」
F + S 「それは良かった」
H 「それより何より“終われかた”っていう言葉を自分の中で持っていられたら。3人がピタってなる瞬間を持てるのが一番気持ちいいので」
F + S 「そうですね」
S 「今日は難しいところだった」
F 「だけど意図を持って演奏するっていうのは心がけてやりました」
H 「始まりましょうがあるんだから、終わりましょうっていうのがある。まだまだいろんな話をしてないから、話をして、お互い何を考えているのかってわかってくると、ちょっと曖昧な言葉だけど阿吽の呼吸っていうのができてくる」
F + S 「そうですね」
H 「でも、それも気をつけないと、毎回なんとなく“終われ”ちゃうって、緊張感なくなるから。そこがパキパキパキって終われれば最高だけど、パキパキ……ボロン……ってなると」
S 「こぼれ落ちていく。今日は最後に緊張の糸がプンってなっちゃったかな」
F 「前回のこのイベントで、私はSayakaちゃんとは別のトリオで演奏したんですけど、ある意味最後だけ、今まさにっていう感じで完璧に終わったんですよ」
S 「あのときはライヴ・ペインティングも一緒にやっていたんですけど、それも含めてスパッと終わったよね」
F 「たしかにありますよね。ただ終わりになんとなく向かっていくとかじゃなくて」
H 「さらに僕は批判するけど、それが終わるときって、ふわっと終われたように思えても、反応で終われているっていう情けないやつもあるよね。お互いが終わろうねって言ったのではもう遅い。あ!終わったっていうすごい瞬間があるのよ。それをやっぱり、僕はいつでもやりたい。気持ちよさって言葉じゃ、全部は語れないけど」
S 「余韻ですかね」
H 「凸凹が嫌だからさ」
F 「それは以前灰野さんがお話しされていたポリフォニックですよね」
H 「そうだね。その言葉にも近い」
F 「すごく印象的で。自分の中の解釈でのポリフォニックって何かな?ということを今日は考えていました」
H 「一緒にいるってこと自体がポリフォニックじゃないので。難しいけど2よりも3の関係になったほうが、いろんな絡まりかたができるから。デュオをやっていると、気を付けないと、ある意味VSになっちゃうので。デュオに慣れちゃうと、トリオのポリフォニックって難しい」
F 「そうなんです。だから今、一番トリオに興味があります」
S 「私もデュオをやることが多くて、トリオは初めてです。三角形がそもそも初めて」
H 「ずっとデュオをやっていると、まさに言葉通りカップルだから、他の人が入れない。ふたりだけしかわからないゾーンがあるから。そこに入ってくださいっていうのは今までふたりでやっていたやりかたを解体させないと他の人は入れない。知らないところでバリケードを作っているから」
S 「本当にそう」
H 「そこで、自分たちの居心地の良い場所を作っちゃう」
S 「すごく凝縮された、ふたりだけの世界っていうのができあがって、そこに別の要素を入れることができなくて、やっぱり回らない。卓球してるみたいになってしまう」
H 「対話だからね」
S 「ずーっとこれが続くので、そこにひとつ増えるだけで、こんなに回るのかっていう。その体験が初めてのことだったので」
H 「対話をして、最初は喧嘩してるけど、大概だんだん仲良くなっちゃう。仲良くなると、悔しいけど、レベルが落ちちゃう。お互い我慢しだすから。トリオだと、もうひとりが批判できる。それじゃダメでしょうって」
F 「3人批判役がいるってことですもんね。パターンとして」
H 「お互いが点になって、言い合えるから。ふたりで話していたのが、もうひとりがこれもあるよねって言えるから。そうすると3人なんだけどいろんな関係ができるから。デュオってわかりやすくいうけど、右のスピーカーと左のスピーカーだから」
F 「ソロはどうですか?」
H 「嫌い。邪魔してくれないから」
S 「それ、すごく気になってました。ソロをやるときの気持ちと、誰かと一緒にやるときの気持ちの持ちようの違いというか、心地よさの違いとか、楽しさの違いとか」
H 「心地良すぎて、邪魔しないから、いくらサンプラーを使おうと、いっぺんに5種類くらいの音を使っても、結局自分が出した音だから。どうして作ってるかがわかるわけじゃない。あれ?っていうのがやっぱりないと。だから今日のふたりが、ゴンって音を出したときに“よしよし”って」
S 「楽しさがすごくありました」
H 「またやりましょう」
F + S 「はい、またぜひ!」
H 「今度は本番中に怒ろう(笑)」
S 「それもおもしろいかもしれないです」
F + S 「今日はありがとうございました」
怒涛の第3回目を無事に終えることができ、その日の“瞬間”を目撃しに来てくれた人々の集中力も相まってか、2時間余りの演奏はあっという間のできごとだった。今回のトリオを経て、この広い世界の中で偶然か必然か、ただ人が出会い、大きな回旋の中で接点を持ち、重なるということだけで、世代を超えて受け継がれる精神性や霊性というのは確かにある、そうやって世の中は歪ながらも形を保っているのだと感じた。いつだってやはり人と人は出会っていきたいと思うのだ。
全5回のイベントもあっという間に折り返し地点を過ぎてしまった。第4回目のゲストには、自作パイプオルガン・声などを主軸としたサウンド・アーティストFUJI|||||||||||TAさんをお招きする。静寂の中に躍動しているエネルギー、自作オルガンの空間を震わせる現象、そして禅僧のような佇まい。独自の眼差しで実験的な活動を行い、近年ではヨーロッパやアメリカなどのツアーを精力的に行っているFUJI|||||||||||TAさんとのFruitefulness、東京・下北沢 Spreadでの音の響きをぜひ体感しに来てほしい。この日はFUJI|||||||||||TA、FATHER、Sayaka Botanicとそれぞれのソロ演奏を楽しめる会となるだろう。
――FATHER
Sayaka Botanic Instagram | https://www.instagram.com/sayaka_botanic/
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■ Fruitfulness-豊穣 Vol.4
2022年11月6日(日)
東京 下北沢 SPREAD
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 50名限定
[出演]
FUJI|||||||||||TA / FATHER / Sayaka Botanic
[予約]
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