Interview | ヒカシュー | 巻上公一


思索を生み出すもの、考察するために重要な力になるもの

 ヒカシューの最新アルバム『雲をあやつる』が、とても良い。前作『虹から虹へ』も傑作だったが、それとはまた違う新鮮な響きがあることに驚かされる。このバンドならではの即興性が縦横無尽に展開しつつ、それが「チンピーシーとランデヴー」「東京辺りで幽体離脱」といった前作収録曲で存分に発揮されていたキャッチーさと、いっそうシームレスに一体化していて興味深い。今年で結成45周年。巻上公一、三田超人、坂出雅海、清水一登、佐藤正治という強固なラインナップが定まって18年。テクノポップ / ニューウェイヴの流れで語られたデビュー期の頃から、前衛ジャズや各地の民族音楽、さらには音楽以外にも様々なおもしろい創作表現を飲み込み続け、今のヒカシューは真の意味において“他に類を見ない”次元へ到達したのだと思う。

 ともあれ、一体どうしたら、こんなアルバムができてしまったのか?新作の背景に大きく横たわる、今年5月に死去した旧ソビエト連邦・ドニエプロペトロフスク(現ウクライナ・ドニプロ)出身のアーティスト、イリヤ・カバコフ(Илья́ Кабако́в)との深い深い共振を中心に、巻上さんからじっくり話を聞いてみた。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2023年9月


――最新アルバム『雲をあやつる』を制作する直接的なきっかけとなったのは、新潟で開催されている「大地の芸術祭」に参加したことだったそうですね。

 「そう。2022年に、大地の芸術祭で“カバコフの夢”っていう展示をするにあたって、カバコフ最後の作品になった『手をたずさえる塔』のお披露目みたいなイベントに出演したんです。もともと“大地の芸術祭”には、2000年と2003年かな、第1回と第2回に関わって、第1回のときは山下洋輔さんとか梅津和時さんと一緒に行ったし、次の第2回目では“東アジア音楽祭”っていうのを僕がプロデュースして、いろんなところから……例えばアイヌの人や、韓国とモンゴルの演奏者を呼んで、ちっちゃなコンサートを企画しました。その後しばらく縁がなかったんだけど、カバコフの作品が揃ったタイミングでプロデューサーの北川フラムと話をして、“じゃあ今年は何かやってくれ”と頼まれたので、2000年に作られた『棚田』っていう作品の前で演奏することになった」

――そもそも、カバコフに注目したのには、どんな経緯があったのですか?
 「2000年にカバコフが来日したときに新潟で設置した『棚田』っていう作品を見て、これはすごいと思いました。彼自身の故郷と新潟の共通点であるとか、いろんなものが詰まっていた。テキストが宙に浮いていて、そのテキスト越しに棚田を見るっていう作品なんだけど、テキストが宙に浮いてるのは、モスクワ・コンセプチュアリズム(1970年代からモスクワで興隆した非公認芸術)の流れを汲んだものだし、そういったカバコフの出自みたいなものも詰まっている。それからカバコフを本格的に好きになり、チェックするようになった。これまでに日本で何回も展覧会をやっていて、神奈川近代美術館で開催された“イリヤ・カバコフ『世界図鑑』絵本と原画”(2007)では、まだソビエトの時代、彼が(当局に取り締まられないような)仕事のためにたくさん作っていた絵本を見たんですが、それもまた素晴らしくてね。それから、“シャルル・ローゼンタールの人生と創造”(1999, 水戸芸術館 現代美術ギャラリー)にも、とても影響を受けました」

――どんなところに影響されたのでしょう?
 「“シャルル・ローゼンタール~”での、メタテキスト / メタフィクション的な構造がおもしろくてね。カバコフは、自分の芸術作品のことを“トータル・インスタレーション”って言う。それはどういうことかというと、例えば“シャルル・ローゼンタール~”の場合、シャルル・ローゼンタールというのは架空の作家で、その人物の展覧会を作っているんですよ。初期の作品としては、こんな絵を描いていたよって、シャルル・ローゼンタールの絵が展示されている。だけどそれは、実は全部カバコフが描いているんです。旧ソ連がペレストロイカを迎えて、ようやくアーティストたちが海外で活動できるようになった頃、ドクメンタっていう、そこから有名になる作家がたくさんいるようなドイツの美術展に、カバコフも作品を出展した。そこで“西側の人に自分たちのコンセプチュアリズムというものを理解してもらうにはどうしたらいいんだろう?トータルで作品を感じてもらえればいいんじゃないか”と考えて、絵画とか造形だとかを単に出品するのではなく、その世界観を全て表すために“部屋から作る”ということをやった。具体的には、ドクメンタの会場にトイレを作ったんですよ。ロシアのトイレをね(笑)。その中に作品がある、みたいな、そういう展示のしかたを工夫して、トータル・インスタレーションというやりかたを作り出した」

――なるほど。
 「すごく興味深いし、自分も音楽でそういうことができないかな、ってずっとぼんやり考えるようになりました。例えば、音楽の歴史……どういう音楽でもいいんだけど、例えば『現代の音楽の歴史』っていうタイトルにして、ある作曲家を想定しながら、その人のレコードを作る。曲を自分で書いてね。それで“20世紀に入ると、いわゆる楽器の拡張というのがされるようになってきて、ヴァイオリンでも特殊奏法がたくさん発明された”みたいな話をしつつ、その架空の作曲家の作品を聴いてみる……自分が録音したやつなんだけど(笑)。そういうことができないかなあって、ずーっと考えていたんです。発想の手がかりをイリヤ・カバコフがくれた。そこで、“大地の芸術祭”で“『カバコフの夢』を歌う”をやるにあたっては、“実はこれまで気付かれていなかったんだけど、作品が設置してある場所の地中に『カバコフの夢』っていう譜面集が隠されていた、それが最近になって発見され、僕のおじさんが新潟出身だから、音楽をやっている自分の甥っ子にその譜面を見せてみようと考えて、それが僕だった”ということにして(笑)。じゃあ、その譜面を演奏してみようか……っていうスタイルを採ってみた。そういう、メタフィクション的な、メタな構造を基に作ってみようと思ってやったのが、『カバコフの夢』です」

――じゃあその、発見されたという楽譜をもとに作り上げられたのが……
 「この『雲をあやつる』というアルバム……っていう話にしているんです(笑)」

――実際には、どんなふうに曲を作っていったのですか?
 「2022年に、大地の芸術祭で『カバコフの夢』をやったわけだけど、その年の初頭から作り始めて、もう夏には実演して。その後にレコーディングです。スタジオで録音しながら、大地の芸術祭でやった演奏も組み合わせて。ライヴはマルチでレコーディングしてあるから、その音源も使ってますね」

――今作もそうですが、ヒカシューの多くの曲には、いわゆるインプロヴィゼーション的な要素が自然に入っていて、これを一体どうやってスタジオで録音しているのか、ずっと気になっているのですが。
 「全部一緒に、“せーの”で録ってます。このところ……というか、『転々』(2006)というアルバムを録ったくらいから、ずっとそう」

――やっぱり、そうじゃないとできないですよね。パートごとに録音していくようなレコーディングでは……
 「そういうやりかたは捨てましたね、だいぶ前に(笑)。レコーディングは、だいたい1日で終わります」

――ええっ!ちなみに、歌も同時に録るんですか?
 「歌も同時。そうでないとたぶんできない。タイミングとかあるから」

――後からデジタルなエディット処理はどれくらいするのでしょう?
 「そこは、けっこう時間をかけてやってます。主に坂出(雅海)君が中心になって。例えば、1曲目の”棚田に春霞”で途中にシンセが入ってくるところ、あれは僕が全部やっているんですけど、後から坂出君にはめ込みをしてもらった。やっぱり違う音が欲しくなったりとかして、せーので録った後に、ちょっと加えてみたりはする。ただ、歌や楽器の補正っていうのはほとんどしなくて、付け加えるか引くか、くらいですね」

――レコーディング前にリハとかは、どれくらいやっておくんですか?
 「リハは、ほぼやらない(笑)」

――ええええっ!?
 「『転々』で試したレコーディングのスタイルを、その後そのままずっとやってる。前作の『虹から虹へ』(2021)も、うちのスタジオで、やっぱりバーッと録っただけ。まあ、”東京辺りで幽体離脱”という曲には、後からサックスを入れようってことになったんで、纐纈(雅代)さんに、東京にある坂出君のスタジオまで来てもらったりはしたけど」

――サックス・プレイヤーの纐纈雅代さんは、今度の『雲をあやつる』では全面的にゲスト参加していますが、彼女とはいつ頃から交流があるのですか?
 「秘宝感っていうバンドがあって。トースティー(熱海宝子)とかと一緒にやっていたんですけど、そこで彼女の演奏を観て、良いサックスだなあと思って。それからどんどん良くなっていって、今や売れっ子ですよ」

――纐纈さんは今回、前作とは違って最初から一緒に演奏しているんですよね。
 「『カバコフの夢』を上演するときから一緒に演奏したし、アルバムをレコーディングするときも一緒に集まってやってもらいました」

――しかし、リハもほとんどやらず、いきなり1日でアルバムをレコーディングって、かなりすごいことだと思います。
 「いやあ、できますよ。纐纈さんも一発でできてました。録り直しはほとんどない。丹念に積み上げて何回も録り直すようなレコーディングとか、いろんな方法がありますけど……ヒカシューも初期の頃はそういうのをやりました。でも、あまり効率的じゃないと思ったし、変なところに気を遣ってしまって演奏する力が削がれちゃう気がした。タイミングが合っているとか合わないとか、そんなことばかり気にするようになってね。僕らはヒット曲メイカーっていうわけじゃないから、生きている音楽のスタイルっていうのを録りたいわけで。よく、リズムもクリックを聞きながら演奏っていうのがあるけど、“馬鹿馬鹿しいな、リズムっていうのは揺れるもんだ”と思って、やらなくなった。クリックを廃止する、っていうことにしたわけです。要するに、演奏するときにマジックが起こる瞬間を演出することがまず大事で、それこそがプロデュースの役割なんですよ。ずっとニューヨークで録っていた理由もそれで、みんなが一緒に集まって、1週間くらい一緒に過ごして、余計なことを考えないで曲に集中し、そうしてレコーディングに臨む。その前には一緒にコンサートを観に行ったり、芝居を観に行ったりしてから、レコーディング・スタジオに入る、っていうことをやっていた」

――そうやって作り上げられた音楽は、この最新作で、ポップなフレーズとインプロヴィゼーションの要素がますます自然に一体化しているという感触を受けました。
 「『転々』を作ったときは、歌も含めて全て即興だったけど、他の作品では、だいたいのフレーズは書いてあります。例えば、今作の“紅茶の染みの全音符”なんかは譜面にもなっていた。ただ、ここは自由に演奏する、みたいな部分も組み合わせていますけどね」

――「紅茶の染みの全音符」って、かなり抽象度が高いほうの曲じゃないですか。譜面があるんですか?
 「そうそう(笑)」

――たしかに、ライヴでも普通に演奏してましたね。
 「譜面があるからね(笑)。こないだ(9月20日)STAR PINE’S CAFE(東京・吉祥寺)でやったライヴでは、譜面通りに演奏しないでって言ったんだけど。やっぱり、あるとけっこうそれに則っちゃうね。あと、その日にはアルバム最後の曲“棚田式トランスパレント”は演奏しなかったけど、これも譜面が一応ある。清水(一登)さんのサンプリングが五段階くらいに分かれてて、そこでやり方が指示されてて、っていう」

――この最終曲については、CDのブックレットにユニークな作りかたをしたことが書かれていますね。
 「難しいこと書いてあるでしょ。これ、誰もわかんないでしょ?」

――カバコフの作品を基にした、ということみたいですが?
 「いや、ここは想像。つまり、もしかしたらカバコフの棚田が5段なのには意味があるんではなかろうかって、清水さんが考えたらしくて。清水さんはAREPOSというバンドをやっているんですけど、そのバンド名はラテン語の回文“SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS”から採ったんです。最近だと『テネット』(2020, クリストファー・ノーラン監督)っていう映画でも使われていた(タイトルや登場人物の名前などがこの回文に由来する)けど、気付いている人が何人いるかわからない。まあ要するに魔法陣みたいなもので、ひとつの図象 / 図案が力を持っているという有名な(5行5文字の)回文です。ネットで調べればすぐに出てくるよ。それで“棚田式トランスパレント”という曲は5段階に分かれた作曲で、カバコフの棚田にある図象を写真に撮って、それを透明なフィルムに写したんです。そこに別の譜面みたいなのをいくつか作って、透明なシートのところに置いていくの。そうして自分の譜面を作る、それぞれのパートの人が。それを演奏する。なんか説明すると、めっちゃ難解だけど(笑)、みんな自分で書いた譜面通りに演奏しているとは思えない。作曲者も含めて、ちゃんとやっているかどうか誰にもわからないし」

――清水さんは、作曲者として曲のコンセプトみたいなものを示している、という感じですか?
 「そうそう、図形楽譜の作品とかに近いんだけどね。ただ、もう少し複雑なやりかたが採られていて、5段階に分かれているバッキングを清水さんがもともと作っておいて、そこに乗せていくっていうスタイル。ややこしいね(笑)」

――この曲は「大地の芸術祭」のライヴで演奏したんですよね。
 「アルバムの音も、その演奏から採っています。あとは“人生の婉曲 (アーチ)”もライヴかな」

――「人生の婉曲 (アーチ)」は、ゲストの吹雪ユキエさんと一緒に、巻上さんがセリフを喋っていますが、ここもライヴ録音なんですか?
 「これは、僕のセリフも彼女のセリフも、別に録音しておいたものを、僕がその場で出しています。あと、この曲ではコンダクションっていう方法を使っているんですけど、コンダクションっていうのは……なんか面倒くさいね(笑)、説明するの大変。Conductionっていう言葉は、Butch Morrisっていうニューヨークのコルネット・プレイヤーが1984年頃に作ったんですけど、要するにコンダクトとコンポジションを混ぜた造語で、指揮をして、その指揮が作曲になる。指揮が譜面っていうことで、演奏者はそれを見ながら演奏する、というか。僕も何年か前、まだButchさんが生きているときに日本でやったんですけど、“人生の婉曲”でも、その手法を採っています。ただし、やりかたはいくつか変えていて、ここではカバコフのポストカードに1、2、3、4と番号を付け、1にはどういう意味、2はどういうものって、図形楽譜的に使っている。それにプラスして、ハンドサインを使いながらやっています。本当はもっと長い演奏になったんだけど、アルバムにはエディットして収録した」

――つまり、その場で指揮をしながら作った曲、ということですか?
 「その場で指揮をしながら、そこには僕が事前に作ってきた音も入れ込んでいる。シンセサイザーっぽいのは、ほとんど僕が出してます。用意だけしてあって、その場で出来上がる。後で付けたものではなく、指揮をしながら同時に鳴らしているんです。僕らの普段のレコーディングで、せーのでやるのと近い感じ。そのままレコーディングとなると、慣れてないと怖いかもしれないから、他の人はあまりやらないことだとは思うけど、もうヒカシューは長年そうやってきているので。みんな演奏は上手だし、それで完成するんですよ」

――例えば「どこまでが空なのか」の、イントロやメインのリフの部分はかなりキャッチーですが、ここは作曲にクレジットされている坂出さんが事前に書いてきたのですか?
 「そうそう、あれは坂出君が、もともとあるカバコフのテキストを基に作ろうって言って、なんていうか、イージー・ミニマル的な発想で曲を書いてくれて。そこに特徴的な“あーあーあーあああーあーあああ”っていうフレーズが付いたので、後からカバコフ風のテキストを僕が3つ作って付け加えました」

――それから、先日のライヴでは、「祈りは今日も行方不明」で佐藤(正治)さんがギターを弾いていましたよね。少なくとも自分は、ヒカシューのステージで佐藤さんがギターを弾く姿を初めて見たと思いますが、過去にはなかったことですよね?
 「ああ、そうかも。アルバムの収録曲でも、ステージで弾いたのも初めてかな。曲を作ってきたときにギターを弾きながら歌っていたから、それを聴いたとき、三田(超人)さんのタイプのギターじゃないけど、あったほうがいいから、じゃあマサが弾きなよっていう流れでしたね」

――三田さんは弾かない感じのギターというか、ライヴで観たら、ちょっとYESのSteve Howe風っぽい印象を受けました。
 「なるほど、プログレ度が高いのかな。そうだ、カバコフは“トータル・インスタレーション”だけど、かつてプログレでは“トータル・アルバム”っていうのがあったね。コンセプト・アルバムっていう言いかたの前にトータル・アルバムって呼んでいた時代があった。今回のヒカシューのアルバムも、それに近いかも」

――MCでも「新作は『うわさの人類』(1981)以来のコンセプト・アルバム」だと話していましたね。
 「そう、『うわさの人類』は『フリークス』(1932, トッド・ブラウニング監督)っていう映画にインスパイアされて、全部の曲を書いたアルバムだった。作曲の段階から基になるイメージをみんなで共有してやるっていうスタイルは久しぶり」

――そのせいなのか、どこか特別感のあるアルバムになっていると感じます。
 「なんか、いいのできたなあ、とは思ってますよ。そうですね、ヒカシューにとっても特別感があります。それも、出発するところが、やっぱりトータル性というか、イリヤ・カバコフという人がいたっていうことが大きいですね。ジャケットにも、カバコフさんの絵を使わせてもらったし。この絵は『空を飛ぶ男』っていう作品なんだけど、ジャケット的にはこれがいいと思ったので。快く使わせてもらえて、ありがたかったです」

ヒカシュー '雲をあやつる'

――残念なことに、アルバム完成前にイリヤさんは亡くなられてしまったんですよね。
 「もともと、“大地の芸術祭”でやろうというときに許可を得ていたので、完成したアルバムの音は聴かせられなかったけど、コンセプトについては話していたから、イリヤさんも知っていました。もちろんエミリア・カバコフさんには聴いてもらって、すっごく喜んでくれた。感謝されたし、認めてもらっている。エミリアさんには12月に会うんですよ。ニューヨークでイリヤさん追悼の展示があって。このアルバムも、そこに出しますって言ってくれて、嬉しいですね」

――私も、ニューヨークに行くのは難しいですが、いつか新潟で『棚田』を見てきたいと思います。
 「アルバムを作っているとき、この『棚田』の青と黄色がウクライナのカラーだっていうことに改めて気がつきました。2000年に初めて見たときには、わからなかった。新潟の棚田の空の色と稲穂の色だと思っていたんです。ウクライナの国旗の色は、麦の黄色と青空だけど、それと重ね合わせていたんだって、去年になってわかりました。ああそうか……って」

――このところの社会情勢が、カバコフさんの作品にあった政治的な意味合いを、改めて浮かび上がらせたわけですね。
 「そう、ロシア軍がウクライナに侵攻したことによってね。カバコフさん夫妻は、戦闘が激しいウクライナ東側の出身なんだけど、活動の拠点はモスクワだった。“モスクワ・コンセプチュアリズム”だしね。だから、一層複雑だと思います。侵攻が起こる前には、平和を希求して『手をたずさえる塔』っていう作品も作っているんだけど、その後しばらくしてから、こういう事態になってしまって……悲しいことだけれど、作品が持つ力っていうものを、もっともっと発揮しなきゃいけないと思うようになりました」

――ヒカシューは、ニューヨークをはじめ、いろんなところへ行って活動してきて、モスクワもその中のひとつでしたが、そうした実績が、ここにきて大きな実を結んだようにも見えます。
 「カバコフさんの仲間の人たちとは、もともと親しくて。ドミトリー・プリゴフさん(Дми́трий При́гов)っていう詩人がいるんだけど、2000年に僕がモスクワでソロをやったときにも観に来てくれたので、そこでじっくり話をしたり。あと、モスクワ・コンセプチュアリズムに参加していたセルゲイ・レトフ(Серге́й Ле́тов)っていうサックス・プレイヤーがいて、彼もヒカシューがモスクワで演奏するときはいつもゲストに迎えたりしていた。だいたい演奏するのはドム(ультурный центр ДОМ)っていうライヴハウスなんですが、そういった芸術活動の拠点になっているというか、そこで交流が生まれる。だから、ヒカシューが行ったときには、ヒカシューの曲をテーマに、アーティストが何人か集まってドローイングして、それを全部会場に展示してくれたり」

――ただのライブハウスじゃなくて、アーティスト全般が集まる場所になってるんですね。
 「そうなんです、すごく素敵なところ。そんな意味でも必然的に、いろんなアートの話をする場になるし、アーティスト全般と人脈が繋がっていく」

――普通のロック・バンド以上に、演劇をはじめ、様々な芸術が背景にあるヒカシューだからこそ、そういう場に対応できるというのもあるかと思います。
 「いわゆるエンターテインメント性っていうのは……もちろん重要ではありますけど、基本的にヒカシューは、最初からエンターテインメントだけじゃなくて、やっぱりいろんな思索を生み出すものであるとか、考察するために何か重要な力になるものであるとかをテーマにやっているので、そのあたりは向こうの人たちとも気が合うところですね。あとまあ、共通の作家や本の話ができるっていうのも重要なのかな、と思います。そのために、自分の教養も深めていかなきゃいけないし、そこから考えたことを文章にしたりとか、そういう活動は大事なんじゃないかな」

ヒカシュー Official Site | http://www.makigami.com/hikashu/

ヒカシュー '雲をあやつる'■ 2023年9月9日(土)発売
ヒカシュー
『雲をあやつる』

CD mkr-0019 3,000円 + 税
https://hikashumusic.ecwid.com/CD-2023年新作-『雲をあやつる』-ヒカシュー-p576996701

[収録曲]
01. 棚田に春霞
02. 雲をあやつる
03. どこまでが空なのか
04. 祈りは今日も行方不明
05. 紅茶の染みの全音符
06. 人生の婉曲 (アーチ)
07. ソロマトキンさんは運転手
08. 棚田式トランスパレント

ヒカシュー 'はなうたはじめ'■ 2023年12月20日(水)発売
ヒカシュー
『はなうたはじめ』

Vinyl LP HRLP318 4,800円 + 税
https://hikashumusic.ecwid.com/はなうたはじめアナログLP-p594426587

[Side A]
01. びろびろ -プヨプヨに対抗して-
02. ウイルスと共に
03. はなうたはじめ
04. くたびれた靴の軌道
05. もったいない話
06. いつしか夏の骨となる

[Side B]
01. 虫の知らせ
02. 偉大なる指揮者1
03. はなうたまじり
04. ポトラッチ天国
05. 偉大なる指揮者2
06. 偉大なる指揮者3
07. はなうたむすび
08. アンナ・パーラー

K.A.N presents "Lost New Wave 100%"K.A.N presents
Lost New Wave 100%

2023年12月1日(金)
東京 代官山 SPACE ODD

開場 19:00 / 開演 19:30
前売 5,500円 / 当日 6,000円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | ローソン | ぴあ

出演
8½ / ヒカシュー / Phew / SHE TALKS SILENCE

DJ
高木 完

マンスリーヒカシュー2023
巧妙な迂闊の遥か

2023年12月28日(木)
東京 吉祥寺 STAR PINE'S CAFE

開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | STAR PINE'S CAFE
U-23 2,000円(税込 / 別途ドリンク代 / 要身分証 / 当日清算のみ)

配信
2,500円(税込)
販売期間: 2023年11月1日(水)10:00-2024年1月3日(水)20:00
アーカイヴ視聴期間: 2024年1月3日(水)23:59