『Days of the Ocean Waves』発売記念対談
本稿ではアサクラ(synth | 以下 以下 A)、ミヤノ(g | 以下 M)、ツヅキ(dr | 以下 T)、ヤマザキ(b | 以下 Y)のメンバー4名と、『Glare EP』に引き続きプロデューサーを務めたサイトウ "JxJx" ジュン(YOUR SONG IS GOOD | 以下 S)に、『Days of the Ocean Waves』をめぐるあれこれについて語っていただきました。
取材 | 宮内 健 | 2023年7月
撮影 | 三田村 亮
序文 | 仁田さやか
――Half Mile Beach Clubとサイトウさんは、どのようにして出会ったんですか?
Y 「僕がサイトウさんのウェブサイトの問い合わせフォームから連絡を入れたんです」
――問い合わせフォーム!正面きってのアプローチだったとは(笑)。
S 「そうですよね(笑)。コロナ禍に入ってバンドのライヴもできなくなっていたんですけど、そういえば自分の仕事をまとめた個人のウェブサイトがなかったと気づいて。それで2021年だったかな、サイトを立ち上げたら、わりとすぐに問い合わせフォームから連絡が入って。うわ、本当に問い合わせが来た!って嬉しく思ったのを覚えてます(笑)」
Y 「何の接点もないヤツからいきなり連絡きても戸惑うだろうな、なんて自意識も邪魔して、送信ボタンを押すまでにビールを2杯ぐらい飲みました(笑)。コロナ禍に入ってから、僕らのバンドがダンス・ミュージック的な方向性を追求する中で、一時期エレクトリックなアプローチに向かっていたんです。当時はリモートで音のやりとりもしていて。だけど少しコロナが落ち着いたときに一度スタジオに入ってバンドで合わせたら、エレクトロニックな色が強すぎたというか、人力でやるところにバンドのおもしろ味が少ないなって感じたんです」
――そこは実際に合わせてみないと、なかなか気づけない感覚だったんでしょうね。
Y 「そこから生音でダンス・ミュージックをやろうと模索しているときに、いくつか参考にしている音源があったんですね。その中で、個人的には近年のYOUR SONG IS GOODのハウスっぽい感じやバリアレックな感覚にすごくシンパシーを感じていて、アレンジを考えるときにも参考にさせてもらっていたんです。それで、当時作っていた曲もそんな方向性で考えていたけれど、デモができた段階で、バンドでやると試行錯誤しそうだなって思って。だったらもう、ここはサイトウさんにアドヴァイスをもらいたいと思って」
――そこでビール2杯分の勢いも借りつつ、問い合わせしてみたわけですね。
A 「ちょうどその頃、バンドの編成が変わってこれからどうしようって会議をしたんです。そこで、さっきヤマくん(ヤマザキ)が言ったような生楽器中心のスタイルでやっていこうとメンバー同士で話をして。その中でYOUR SONG IS GOODのサイトウさんといつかコラボレーションできたらいいよね、って話はしてたんです。だけど、ヤマくんのこの行動によって“サイトウさんにプロデュースしていただくことに決まりました!”と後に報告を受けて(笑)」
――コラボとプロデュースでは、関わりかたもだいぶ違いますしね。そもそもYOUR SONG IS GOODというバンドについては、どういう印象をお持ちだったんですか?
Y 「サイトウさんのことは、中学生の頃からスペースシャワーTVでずっと観ていましたから。“あ、スペシャボーイズの人だ!”っていうのが最初の印象(笑)」
S 「ははは。そのくらいの年齢差っていうことです(笑)」
Y 「YOUR SONG IS GOODは、やっぱり最初はパンクが出自のイメージが強かったけれど、『OUT』(2013, カクバリズム)の頃にサウンドがちょっと変わったという印象があって。そこから『Extended』(2017, カクバリズム)以降のダンス・ミュージックに焦点を絞った時期が僕は好きで。インストのバンドで管楽器も入ってるけど、ジャズやフュージョン寄りというよりも、クラブ・ミュージックに近づいていったところにも、すごく文脈を感じるバンドというイメージが強かったですね」
――Half Mile Beach Clubは、当初のヴォーカルが入るスタイルからインスト・バンドに変化していったわけですが、そこに行き着くにはどういった経緯があったんでしょう?
M 「もともとはヴォーカルを際立たせるよりも、全体のサウンドの中である意味でテクスチャーとして聴かせるということをやりたかったんです。ただ、ヴォーカルがある編成でライヴを重ねていく中で、観ているかたのフォーカスがどうしてもヴォーカルに寄ってしまうというところに、本来我々がやりたいような聴かせかたができていないんじゃないかと思うようになって。当時作っていた曲も、メンバー全員でダンス・ミュージック的なカタルシスを演出できるようなものをやりたいと思っていたんですけど、ヴォーカルが入るとなかなかそれが難しい。じゃあ、インストにトライしてみようと考えて、ヴォーカルの要素を減らしたり、それこそ以前はサンプリング・ヴォイスを入れていたところを削っていったり。その精査を試行錯誤していたところで、サイトウさんに入っていただけた」
――その試行錯誤しているときに、ひとつ超えられない部分だと感じていたのは、たとえばどんなところだったと思いますか?
Y 「サイトウさんに最初相談した当時、バンドというよりダンス・ミュージックのプロデューサーが作った音源を参考にして、みんなで話していたんです。でもバンドではやっぱりそういう風にならないみたいな部分が、どうしてもあって。じゃあ生で置き換えるにはどういすればいいんだろう、みたいなところをずっと試行錯誤していましたね」
M 「なんていうか、音をどこまで削ぎ落とすべきか、みたいなところが難しくて。ひとつ核となるメロディがあって、それを強くしていけば1曲成り立つ。そういうところに僕らがあまり気付けていなかったというか。不安になって、いろんな音を出しちゃったり」
――Half Mile Beach Clubの過去の音源を聴くと、たしかにコラージュっぽいというか、サンプリングも駆使しながら、様々な音が重なり合っていくことで、ひとつのグルーヴが生まれていくような音楽ですよね。サイトウさんとしては、Half Mile Beach Clubというバンドの、どんなところに魅力を感じたんですか?
S 「僕は自分のバンドで、客観的なスタンスでみんなの演奏を聴くタイプで。だから、ヤマくんから今回のデモを聴かせてもらったときに、このあたりはもうちょっとこういうふうに変えたらいいかもっていうのが、わりと具体的に見えたんですよね。それと、彼らが好んでいるダンス・ミュージックが、自分と同じような感じのものだったので。これだったらうまく一緒に作っていけるんじゃないかって思えたところです。これだったら自分の経験値を活かしてバンドにとって良い提案をできるかもしれないと思ったんです」
――実際の作業は、どのように進めていったんですか?
S 「コロナ禍だったこともあって、最初はリモートでした。オンラインでミーティングをして、バンドでリハーサルに入った音源をデータで送ってもらって。レコーディング当日に初めてメンバーのみんなと直接会えたみたいな状況で。例えばライヴをやっているところを観たらバンドがどんな雰囲気か一発でわかるけど、そうもいかなかったので、最初はピュアに音源だけに向き合っていた感じでした。メンバーみんなのキャラクターは全然わからなかったので、ちょっと遠回りしたところもありました。でも音源先行でみんなと交流したことも、今考えたら良かったと思うんです。動いている姿を観たことがなかっただけに、バンドの音を新しく変えたいっていう彼らの意識にも先入観なく向き合えた気がします」
――サイトウさんがプロデュースで関わったのは、どの曲からなんですか?
Y 「“Vibrant Sun”からですね。実はこの曲の最初のデモは、情報量が盛り盛りだったんですよね。それをサイトウさんに聴いてもらったら、“これ、3曲分くらいのアイディアがあるから、分けたらいいんじゃない?その中で、この部分を拡張していったほうがダンス・ミュージック的な感じになるんじゃないか”というアドバイスをくださって。その一部がアルバムの最後に収録した“All Sunlight Must Fade”に分割されたんです」
S 「最初にデモで送ってもらってから、かなり変化していったよね。今回のアルバムに収録されているのはアルバム・ヴァージョンで、その前にEPで出したヴァージョンとはちょっとミックスが違うんですが」
Y 「メンバーみんな、プレイヤーとしてアイディアを盛り付けたくなっちゃって、そのうちに音像や展開がマキシマムになってくるんですよね。サイトウさんは引き算としてアレンジを捉えて、整理して客観的にアドヴァイスしてくれるんです。制作中にしばしば会話に出てきたのが、“とにかく気持ちいい感じにする”っていうこと。気持ちいいところを伸ばして、聴き手に難しく感じさせてしまうであろう部分をなるべく修正していく。それが、すごく勉強になりました」
――今の話を聴いていて、Half Mile Beach Clubが試行錯誤しながらもスタイルを築いていく変遷が、YOUR SONG IS GOODのサウンドが変化していった歴史とも通じると感じました。YOUR SONG IS GOODは前進バンド時代から含めると、アイディアがありすぎて消化できないからと1~2分のショート・チューンを詰め込んだり、逆に長尺の1曲の中にいろいろと詰め込んだり、そういうことをやってきた人たちじゃないですか。
S 「ですね(笑)。宮内さんは昔から取材してくれているからよくわかってくれていると思いますけど、僕らも盛り盛りにアイディアを詰め込んじゃうタイプだったから。でも、長くバンドを続けているうちにどうにか減らしかたを覚えたので(笑)。それを若い彼らとシェアした感じです」
Y 「この“Vibrant Sun”ができたことで、我々もちょっと味を占めまして(笑)。サイトウさんと一緒に生み出すサウンドで、もっと曲を作りたいと思ったんです。この方向性を突き詰めればアルバムができるんじゃないかって」
S 「それからまた、ヤマくんからわりとすぐに“新しくデモができました”って連絡があって。そして、もっとバンドの感じを出したいって言ってくれて。ちょっと戻ってしまいますが、最初の曲“Vibrant Sun”は、打ち込みっぽい感覚と生楽器の落とし所をどの辺に設定するかを、かなり探りながら作っていった感じがありまして。まずは彼らが最初にやりたいと考えていることを大切にして、そこに自分のアイディアでうまく寄り添えないかと、慎重に考えていたところはありました。なので最初は、YOUR SONG IS GOODの生演奏感よりも、もっとダンス・ミュージックの打ち込みトラック寄りな立ち位置なんだろうなと考えていたんですが、その後に上がってきたデモは、もっと4人のプレイヤーとしての個性が立っている、ライヴ・バンドっぽい感じのアイディアに変わってきていて。その“ライヴ・バンドっぽさ”という部分が、今後彼らをプロデュースするにあたってのキーワードなのかもしれないと感じました」
――僕が今回のアルバムを聴いて感じたのは、とくにツヅキさんのドラムが、ものすごくいい塩梅で生音のならではのグルーヴを出しているところ。エレクトリックなダンス・ミュージックの、スクエアでタイトなグルーヴとはまた異なる心地よさといいますか。
S 「まさにそうです。“Vibrant Sun”のレコーディング当日まで、ツヅキくんとは会ったことがなかったんですね。さっきの話の通り、デモ段階で生演奏だけどダンス・トラックっぽい、カチッとしたビート、グルーヴをバンドとしてやっていこうとしているのかと思いきや。レコーディング当日にツヅキくんのドラムを生で聴いたら、これはちょっと違うぞ、めちゃめちゃ個性派ドラマーだなと思って。想像よりももっとはみ出てくるタイプで、すごく個性的なグルーヴがあったんですよね。後から知ったんですけど、ツヅキくんはもともとジャズの人だったんですよね。それは、自分にとっては嬉しい誤算でした。また、そのレコーディングの雰囲気がとても良くて、いろいろ話を聞いてみたらヤマザキくん、ミヤノくん、ツヅキくんの3人が中学からの同級生で、アサクラさんもひとつ上の先輩なんですよね。だからもともと友達だったっていうのもあるし。いろいろ聞いていない情報がいっぱい出てくるんですよ。もう、めちゃくちゃバンドじゃん!って(笑)。そこから一気に考えかたが変わりましたね」
T 「僕も最初は打ち込みっぽい音を目指していたんですけど、サイトウさんと作業をしていく中で、自分としてもアプローチのしかたがけっこう変わっていったかもしれない。僕はもともとフィルインも、そんなにやらないんです。どちらかというと音色で変化をつけていくタイプだったんですけど、いろいろと引き出してもらったと思います」
S 「たしかにツヅキくんは、フィルをなかなかやってくれないんですよ(笑)。ちなみに、アサクラさんはテクノの人なので、ダンス・ミュージック的な筋肉はすでにバンドに備わっていた状態で。ドラムもフィルをあまりやらないっていうのも、ある種クラブ・ミュージック的な発想からだったのかなと思いつつ。でも、ツヅキくんのビートはジャズからの影響も強いし、まさしく“ドラム”なんですよ。生ドラムのナチュラルな良さがあって、スネアワークのファンキーな感じとか素晴らしいし。これを引き出さない手はないっていうか、やらざるを得ない感じになってた」
Y 「そうですね。ツヅキも僕もジャズ部出身なんです。彼がめっちゃフィルをやっていた時期も知っているから、もっとフィルやってよ!って思ってた(笑)。でも、ダンス・ミュージックだからっていうのもあって、しばらくやってない時代があった。だけど、サイトウさんとこうして制作するようになって、プレイヤーの気質としても、ここはフィルがあったほうがナチュラルなんじゃないかって、バンドがもう一度戻れたっていう感じはあります」
――バンドのグルーヴについていえば、今回のアルバムには数曲で松井 泉さん(元bonobosのメンバーで、YOUR SONG IS GOOD、TENDRE、VIDEOTAPEMUSICなどのサポートで知られるパーカッション奏者)が参加していますね。
Y 「当初“Vibrant Sun”には、サンプリングのループでパーカッションの音を入れていたんですが、生音っぽさを強く打ち出したいと考えているときに、やっぱり人間がパーカッションを叩いてるほうがいいなって。ツヅキがフィルを入れたりするのと同じ感じで、人間的な揺らぎがあるグルーヴにしたいと。それで、以前にEPとして“Vibrant Sun”を出したときに、泉さんがインスタにいいねを押してくれていて、これはお願いできるんじゃないかと考えて、オファーしました」
――まさに松井さんは、まさにパーカッション人間という感じですもんね。
S 「松井くんに入ってもらって、大正解でしたね」
A 「そうですね。俺はサイトウさんにめっちゃ感謝してることがあって。プロデュースしてもらう前の音源って、俺のリズム・マシンとツヅキくんのドラムの両方の音を出していたんです。それで、バンド内の会議で自分から、“リズム・マシンは抜いて、ドラムだけに絞ったほうがいいんじゃないか”って提案したんです。だけど、メンバーはずっとあった要素だから残したほうがいいって言ってくれていて。だけど、サイトウさんにプロデュースしてもらうことになって、最初に“リズム・マシンはないほうがいい”とアドヴァイスしてくれて。ああ、言ってもらえてよかった!って、アドヴァイスを噛み締めましたね。シンセのパートの立場からすれば、目をつぶって聴いたときに、DTMが見える音楽じゃないほうがいいと思うんです。ツヅキくんのドラムに変化が生まれた理由には、(リズム・マシンの)リージョンがひとつなくなったことも大きいんじゃないかって思います。すごくよくなったし、それは最初のスタイルではできなかったことだから」
S 「コロナ禍のリモートを経て、実際にメンバーと生でコミュニケーションをとっていく中で、ナチュラルに4人のキャラクターを生かしたものへと変遷していったんですね。(ミヤノ)マフユくんの歌心のあるギター・ソロをもっと前面に打ち出してみてもいいんじゃないか、とか、メンバーみんなの良いところがどんどん出てきた」
M 「前作のアルバムの頃は、ギターはある意味リフ担当というか、伴奏的な役割を担っていた。でも“Vibrant Sun”ができてから、自分の中でメロディを奏でる楽器っていう自覚が生まれた。覚えやすいキャッチーなものを弾こうっていう意識に変わっていったのは、このアルバムからですね」
S 「そうしてサウンドに変化が生まれる中で、たとえばツヅキくんのドラムは、これはもう彼のやりたい感じをどんどん出すほうが良くて、それを生かしながらアンサンブルの構造としてはマフユくんのギターがリードとしてあり、アサクラさんのシンセのリフとパッドがあり、ヤマくんのベースラインがあって、それぞれがHalf Mile Beach Clubというバンドのシグネチャーの音になってきた。これまでの試行錯誤でいろんな音のチョイスの仕方はあったんですけど、みんながライヴをやりながら、スタジオで実践しながら、だんだんと自分で鳴らす音が定まってきた印象でしたね。そこで、そのシグネチャーとなる音、構造を軸にした曲を増やしていこうと提案して。やっていけばやっていくほど、だんだんと形になっていったよね」
Y 「そうですね。だから最初は探り探りやっていた感じもあったけど、後半になるにつれて作業もスムーズに進むようになりました」
M 「8、9割楽曲ができた段階で僕らの練習スタジオにサイトウさんに来ていただいて、最終のチェック作業をしたときが僕はなんだか一番楽しくて。サイトウさんから“ここをもうちょっとこう変えてみない?”ってアイディアをいただいたのを、その場で試して、それが最終的なアレンジとなったりしました」
S 「最後のほうはもう、ソロのフレーズのメロディをもう少し音を上げてみたらとか、細かい部分だけで、メンバーみんな、頼もしい限りでした」
――ちなみにサイトウさんから見た、メンバーそれぞれのキャラクターはどんな感じですか?まずヤマザキさんから。
S 「ヤマくんは、バンドの全体像を常に考えている人ですね。バンドの窓口という重責を担当しつつ、サウンド面でも客観的にバンドのことを理解している。ベーシストとしては、すごく研究肌。ティッシュ1枚挟むだけのミュートで微妙に音の長さが変わるとか、そういう試行錯誤も一緒にやりながら、僕も勉強させてもらいました。だから、ヤマくんがバンドにとっての実質的なプロデューサーですね」
――シンセサイザー担当のアサクラさんは?
S 「アサクラさんは他のメンバーより1学年上というのもあってバンドの兄貴分ですよね。メンバー3人は同級生同士だから、たまにうわーっとなるときがあるんだけど、アサクラさんはめちゃくちゃ冷静で、それでバンドがまとまるっていう。その関係性がまたいいなっていう。あとはバンドにとって重要なのが、アサクラさんは個人でテクノのトラックメイカーでもあるので、バンドに電子音の要素が入っているという部分に説得力があるんですよね。またそのソロでやってるテクノの曲がかっこいい。あとは美大出身で、バンドのアートワークも一手に引き受けていて。そうそう、思い出野郎Aチームのメンバーと同級生でもあったり、個人的にも実は近しいところにいて」
――ドラムのツヅキさん。
S 「ツヅキくんはもうね、ザ・ドラム人間っていう感じで、ドラムのことしか考えてないよね(笑)?ドラムが大好きで、グルーヴが大好き。それが、すごくいいんですよね。そして、バンドの肝というか、Half Mile Beach Clubの他のバンドにない部分といったら、ツヅキくんのドラムっていう気がします。このサウンドに、このドラム、それがHalf Mile Beach Clubっていう感じで。もう、あとは思う存分やってください(笑)」
――そして、ギターのミヤノさん。
S 「マフユくんはもう、このバンドのすごく大切な部分、メロディ担当っていうのもありますが、感性としてバンドの叙情性を担っている人ですよね。そして曲やアルバムのタイトルを全部決めている、バンドの世界観を作っている人っていうことですね。一緒に制作していく中で、ギター・ソロがすごくいいなと思ったんですよね。グッとくるフレーズを入れてくれるので、聴き甲斐があります。ぜひ、今後もずっと追求してほしいと思っています」
A 「僕もマフユがコンセプトとか骨組みを作り上げていると思っていたので、サイトウさんの見た人物像が全部当たってると思って、びっくりしました」
S 「とにかく全員、役割がすごいちゃんとしてるっていうか。いま話してみて改めて思ったけど、すごく良いバランスの面々が揃ってますよね」
――そうして足掛け3年の月日を費やして完成したニュー・アルバム『Days of the Ocean Waves』ですが、仕上がった作品を聴き返してどんな印象を受けましたか?
M 「もともとダンス・ミュージックをやりたいと思ってバンドを始めたわけですけど、しっかりと僕らの文脈で作ることができたアルバムだと感じてます。あとはやっぱり、僕らが逗子出身で、Half Mile Beach Clubっていうバンド名からしても逗子のどこかから頂戴してる感じなんで。そのバンド名とサウンドがこう、ばっちりハマるアルバムがちゃんと作れたと思います」
T 「僕は、余白がすごく増えたなって思いました。それまではいろんな音がレイヤーで重なっていて、 あまり隙間がなかった感じだったけど、要素を削ぎ落としていくことで生楽器の良さが出てきて。ライヴでの演奏にしても、ドラムが合いの手を入れるような感じで、その時に浮かんだフレーズを叩くことが増えてきて。そこはすごくジャズ的なんですよね。最近はちょっとそれをやりすぎて、怒られたりもしますけど(笑)」
A 「僕は、プレイヤーそれぞれの立ち位置がはっきりしたことが大きいと思っていて。自分はシンセサイザーだから、いわゆる生楽器とは違うわけで。どういう風にアプローチしたらいいかというのはちょっと考えてたんですけど、サイトウさんからは使う楽器を絞ることとか、その中でもシグネチャーとなる楽器を定めることとか、そういうアドヴァイスをいただいて。楽器を絞っていったら、生楽器に寄り添いつつもちゃんとシーケンスとして成立するやりかたが見えてきた」
Y 「使う楽器やサウンドを決めることや、たとえばツヅキであれば自分の出自にあるジャズっぽいプレイをするとか、マフユだったらギターらしいオーガニックな音色を担って、エフェクティブな音はアサクラさん……という感じに分担することが、今回のアルバムでできた。その中で僕は、昔はシンセ・ベースみたいな音やプレイを追求した時期もあったんですが、それはシンセサイザーがいるからいらない。むしろ古いベースの音、Motownっぽい音を今回は意識して。めっちゃティッシュ詰めてミュートしたりね。サイトウさんとの一連の制作で、みんなが自分のパートのキャラクターを決めていった結果、アルバムとしてHalf Mile Beach Clubのサウンドを確立できたことが、バンドとしてすごく良かったと思うんです。ライヴをやっていても、楽曲と自分の出してる音との矛盾が少なくて、すごくしっくりくる。サウンド・シグネチャーができて、しかもそれがなんとも形容しにくいオリジナルなものになって。一聴するとシンプル、でも実はものすごく細かいディティールと工夫のバランスで成立している。だけど聴いている人にとっては、難しくなく気持ち良く聴こえる。その両方がバランスよく達成できた。めちゃくちゃ細かく試行錯誤しながら作ったけど、シンプルに聴きやすく仕上がったのも、すごく良かったと思っています」
――ミヤノさんがおっしゃってましたけど、バンド名とサウンドがガシッとハマっているというのは、まったくその通りだと思うんです。真っさらな状態で耳にして、ただただ気持ちいいっていうのは、シンプルだし素晴らしい魅力ですよね。
A 「そういえば、2023年だったと思うんですけど、みんなでYOUR SONG IS GOODのライヴを観に行ったんです。その時、ステージでのパフォーマンスとサウンドの関係性がとてもわかりやすいということが、メンバーの一致した感想だったんです。その後、自分たちのライヴ映像を観たらけっこうわかりにくいよなって話したよね」
M 「うんうん。わかりやすさっていうのは、今回の制作の中でも大事なキーワードだった」
Y 「そこから僕らも衣装もちゃんと意識するようになって。やっぱり服は大事だ、みたいな(笑)」
A 「ちゃんと海岸で写真撮ろう、とかね(笑)」
S 「そうそう、YOUR SONG IS GOODもアロハ・シャツをオリジナルで作ったり、トロピカルな要素を入れてきてますけど、そもそも自分はニュータウンの団地育ちで。それで、あらためてHalf Mile Beach Clubはメンバーって全員逗子出身か……本物だ、と思って(笑)。だから最初はプロデュースの話をいただいたときに、ちょっと気が抜けない感じがあって(笑)。でも今もバリバリ逗子に暮らしている人たちかと思ったら、実は今は全員ほぼ東京に住んでいて。あれ?って思って。ここで距離が一気に近くなったところありました(笑)」
――なるほどね(笑)。
S 「それでサウンドを作るときにすごくおもしろかったのが、 曲のイメージに沿った明るい印象を与えるコード進行を何個か提案したんですけど、メンバーから“これはちょっと思っている明るさとは違うんです”っていうレスポンスがあったんです」
A 「“Vibrant Sun”にしても“Remain in Brightness”にしても、最初のデモの段階だとわりと涼しげというか、ちょっと暗めなテイストになっちゃうんです。だけどサイトウさんのアドヴァイスを受けると一気に明るくなる。これが本当に不思議だなって。メジャーなコード感が一気にブーストされるというか」
Y 「それまでも僕らの曲は、ダークになりがち問題っていうのがあって。クールにしようとすると、コードがどんどんマイナーな方向になっていく。だからもうちょっと抜け感のあるものにはしたいなと思っていて。サイトウさんとコードについてのやりとりをしているときに、ここまで明るくしなくていいんだけど、暗くもしたくないバランスがいいんですって話して」
S 「それを聞いて、なるほど逗子で育った人ならではの温度感みたいなものがあるんだろうなって。借り物じゃない、住んでる人じゃないとわからない、ちょっとした湿度や翳りも含んだ明るさなんだろうなって。これは実際に行かないとわからないと思って、デモを聴きながら逗子方面から134号線を走ってみたりして」
Y 「その連絡もらったとき、嬉しかったです(笑)」
S 「実際、ただただ気持ちいいドライブでもあって、すごく楽しんでしまったんだけど(笑)。そういえばHalf Mile Beach Clubの初期の作品では、海の写真をヴィジュアルに使っていなかったのかな。それも今考えたら、海や湘南のイメージをイージーに使いたくなかったんだろうなって」
Y 「逆コンプレックスといいますか、最初は僕らも、いわゆる湘南のイメージに吸収されることに抵抗があったんですよね」
S 「やっぱりそこで生まれ育った人ならではの肌感覚というのがあるのかな。地元を雑にしてない感じがとても信用できるというか、いいなと思いました」
A 「まあ、その結果こじらせちゃってるんですけどね(笑)。バンドとしての見えかたにも葛藤があったりして」
Y 「議論に議論を重ねて、今回ようやくアーティスト写真を海で撮ったっていう(笑)」
S 「Half Mile Beach Clubの地元に対するそういうリアルな感覚、好きなんですよね(笑)。最初は音を通じて交流してましたけど、だんだんメンバーの人間性も大好きになっちゃって。レコーディングやリハの合間も雑談するのがまたすごく楽しいんですよ」
Y 「サイトウさんと一緒にアルバムを作り終えた今は、ライヴをやりたいというのと、スタジオ・ワークが楽しいからこの調子で曲をどんどん作りたいというのと、両方ありますね。これまではライヴをやるにしても、昔の曲を織り交ぜながらじゃないと成り立たなかったのが、新しいHalf Mile Beach Clubのスタイルで、セットリストも完結できるようになったので。このアルバムを作ったことで、このままバンドを続けられそうという気持ちが高まりました」
S 「みんなと一緒に作業して、試行錯誤とかも含め、本当に楽しかったですね。3年かけてバンドのかたちができあがっていく。その過程に僕が立ち合えたのは、プロデューサー冥利につきるすごく贅沢な体験でした。それと最後に、一緒に3年間制作してくれたbig turtle STUDIOSの藤城さんにも感謝しています。今後のHalf Mile Beach Clubがどうなっていくのか楽しみです」
See Also
■ 2024年8月2日(金)発売
Half Mile Beach Club
『Days of the Ocean Waves』
http://p-vine.lnk.to/wBq1ZU
[収録曲]
01. Sugar Vista
02. Remain in Brightness
03. Flowing
04. Drifted
05. Tide Loop
06. Turquoise Route
07. Vibrant Sun
08. Reef Chorus
09. All Sunlight Must Fade
■ Half Mile Beach Club
"Days of the Ocean Waves" Release Party
2024年9月28日(土)
神奈川 藤沢 江ノ島 OPPA-LA
開場 / 開演 16:00 / 終演 22:00
前売 3,000円 / 当日 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
LivePocket
[Live]
Half Mile Beach Club
[Guest DJ]
Calm (DJ set) / Ogawa & Tokoro (DJ set) / Ryota Tanaka