Interview | HUMAN IMPACT | Chris Spencer


誰にでも明白な、普遍的な考え

Photo ©Jammi York

 1988年にUNSANEを結成して以来、血塗れのアルバム・ジャケットに詰め込んだ重厚なノイズ・ロックを叩き鳴らし続けてきたChris Spencer。彼が2019年になって唐突にUNSANEをやめたというニュースは、日本のファンにも少なからぬ衝撃をもって受け止められた。

 驚きをよそに、新たなバンド = HUMAN IMPACTが直ちに始動。そのラインナップはSpencerに加え、COP SHOOT COPでキーボードを担当していたJim Coleman、同じく元COP SHOOT COPのドラマーだったPhil Puleo、そのPuleoと共に近年のSWANSでリズム隊を担ってきたChristopher Pravdicaの4人だ。2020年3月には、セルフタイトルを冠したデビュー・アルバムを、Mike Pattonのレーベルである「Ipecac Recordings」よりリリース。UNSANEから引き継いだ鈍色のサウンドはそのままに、末期のCOP SHOOT COPにもあったハードボイルド・タッチなサントラの空気感も増していて、まずは聴き応え満点だ。


 この力作を送り出したところで、彼らもまた世界的なコロナ禍に見舞われてしまったわけだが、そんな状況下、パンデミックの光景をとらえた映像をSNSで募集し、それらを素材に作りあげたビデオと合わせて新曲「Contact」を緊急リリース。同曲では「何も触らないようにする / 何を信じていいかわからない / 何も考えないようにする / 病気は目に見えない / ワクチンはない / 検疫はない / 感染は目に見えない」といったフレーズが歌われている。どうやらHUMAN IMPACTでのSpencerは、UNSANE以上に現実社会の歪みを反映した表現へと踏み込んできているようだ。


 そんな彼に、活動がままならない中どう過ごしているのか?といったことまで含め、メールで質問を送ってみた。即座に送り返されてきた返答が、以下のテキストである。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2020年4月


――まず最初に、あなたがUNSANEをやめたというニュースには、日本のファンも非常に驚かされました。「あのバンドで成し遂げたことはとても誇りに思うけど、前に進まなければいけないと感じ始めた」とのことですが、どういう心境だったでしょうか?

 「本当に、先へと進むべきときが来たように思えたんだ。人生の大半をUNSANEでプレイしてきたけれど、何か他のことをする必要性を感じていた。『Sterilize』をリリースした後、自分たちはとても良いレコードを作ったと実感できていたし、このバンドへの俺の関わりを終わらせるにはベストなときだって思えた。アルバムをサポートするためのツアーもすごく楽しかったよ。でも、他のクリエイティヴなことにも挑戦したくなってきたんだよね。クリエイティヴ面で強力な位置にいるまま終了することが重要だった。だからこそ俺にとって、最初のレコードから最後のレコードまで、自分たちがやってきたことを誇りに思うことができるんだ」

――元COP SHOOT COPのJim Coleman(key)、SWANSのリズム隊だったPhil Puleo(dr)、Christopher Pravdica(b)と一緒に新しいバンドをやることにした経緯は?それから、1990年代のNYCアンダーグラウンド・ノイズ・ロック・シーンでの交友関係についても教えてください。
 「HUMAN IMPACTは、Jimから何か一緒にやらないか?と誘われたのがきっかけだった。俺たちはUNSANEやCOP SHOOT COPを始める前からの友人で、ずっと彼とは仕事したいと思っていたんだ。かつて、UNSANE、COP SHOOT COP、そしてPUSSY GALOREは練習スペースを共有していたから、しょっちゅう顔を合わせてたし、対バンもして、いつもつるんでいたよ。実は、COP SHOOT COPが解散したとき(1996年)、俺はUNSANEの他のメンバーに“Jimにエレクトロニクスで参加してもらわないか?”って提案したんだけど、あいつらは3人組のままでいたいっていう反応でね。まあ当時のUNSANEは山ほどのツアーに明け暮れていたから、実際に参加することになったとしても、少し難しかったかもしれないな。だから、HUMAN IMPACTは非常に有機的に生まれたんだ。Jimと俺はいくつかの曲を書いていて、ちょうどリズム・セクションを必要としていたところに、PhilとChris PravdicaがSWANSを一休みすることになり、タイミングは完璧だった。この新しいバンドのためにJim、Phil、Chrisと集まったのは必然だったね。俺たちみんな、昔からの知り合いなんだ」

――UNSANEは数々の素晴らしいレーベル(Matador Records, Amphetamine Reptile Records, Relapse Records, Ipecac Recordings、Alternative Tentacles Records, Southern Lord Recordings)からアルバムを出してきましたが、今回あなたの新しいバンドはIpecacからデビュー作をリリースしています。なぜ、再びMike Pattonのレーベルと契約することにしたのでしょうか?
 「Ipecacは『Visqueen』(2007年に発表されたUNSANEの第6作目)のリリースに関して素晴らしい仕事をしてくれた。HUMAN IMPACTがフル・アルバムに十分な曲を揃えた後、それを出すために誰にアプローチしようか考え始めて、この音楽を出すのには彼らこそ完璧なレーベルだと感じたんだ。Ipecacは他のレーベルと比べて、より芸術的にクリエイティヴなロースターが揃っているし、俺たちに合っていると思った。正直に言うと、彼らがこの作品を出してくれるかどうかは、なかなか難しいかもな?っていう気もしてたんだけど、とにかく何曲か送ってみたんだ。そうしたら、すぐに返事が来て、俺たちの作品を出すことに興奮してくれていたんだよ。Ipecacのようなインディペンデントでオルタネイティヴなレーベルがまだ存在してくれていて、本当に幸運だと思うね」

――では、HUMAN IMPACTというバンド名の由来を教えてください。
 「俺たちは全員で、バンド名の候補をたくさんあげてみたんだけど、どれも今ひとつだったり、どこかで誰かがすでに使ってしまっていたりした。今やバンドを実際にやってなくたって、誰でも好きな名称で自分のウェブサイトを立ち上げることができるってのに、バンドの名前を決めるのはものすごく難しいね。俺たちは、個人の人間性を保ちつつ、ある種の社会的でグローバルな意識を反映したようなものを考えていた。ともあれ、HUMAN IMPACTがいいなっていうことで、メンバー全員の意見が一致したんだ」

――BC StudioのMartin Bisi、さらにHoboken RecordersでAlan Camletと一緒にレコードを作ることにしたのはなぜですか?
 「俺たち全員が、Martin BisiのBC Studioで以前に仕事をしたことがあったし、彼は良い友人だから、そこで作り始めることは理にかなっていた。彼のスタジオは、まるで我が家のような場所なんだ。とても居心地が良いんだよ。それから、JimとPhilの家になるべく近そうなスタジオを見て回っていたら、Hoboken Recordersを見つけた。そこでセッションをした結果、Alanと意気投合したんだ。それ以来、俺たちのレコーディングの大半は彼とやっている」

――今回のアルバムでは、どのように曲を書いてレコーディングしたのですか?新たなメンバーとやることになったわけですが、以前のバンドと比べて変わった点は?
 「これまでに録音した全てのトラックは、様々な方法で出来上がっていったんだ。スタジオで持ちよったものを組み合わせて完成したものもあれば、Jimと俺がホーム・スタジオで作ったアイデアをやり取りしながら生まれたものもあるし、全員で練習中に形になったものもある。まあ通常は、みんなで集まってリハーサルでアイデアを出し合い、最終的にはMartinかAlanのどちらかと一緒にレコーディングする。PhilとChris PはSWANSで何年もいっしょにやってきたし、Jimはエレクトロニック・サウンドに関して膨大な武器を持っているから、そりゃもう素晴らしいよ。俺がこれまでにプレイしたどのバンドでも、プレイヤー同士の間に違うダイナミズムがあるけど、このバンドでは信じられないほど簡単に物事が進むんだ」

――『Human Impact』の音は、後期のCOP SHOOT COPにも通じる“ノワール / スパイもの”の雰囲気を感じさせると思いました。この点はプロジェクト開始当初から意識していたのでしょうか?
 「そうだね、最初からマイナー・キーの映画的なサウンドがあることには気付いていた。俺たちのサウンドの中でも、とても気に入っている要素のひとつだよ」

――『Metal Hammer』誌のインタビューで、この現代社会の闇・狂気・不条理を表現した歌詞について説明していましたが、音楽的な変化が、歌詞を書く上で影響を及ぼしたりはしましたか?
 「たしかに、HUMAN IMPACTの歌詞は、これまでにとってきたアプローチとは少し違う。俺は、個人の切実さを表現しようとしているうちに、実存的な便利さがオーウェル的で暗い雰囲気を醸し出しているような、俺たちの生きる、企業に支配されたこの新しい世界が抱える問題について書くようになっていた。誰にでも明白な普遍的な考え、つまり“現代社会の問題”ってやつをね」

――先頃、デビュー・アルバムには収録されていない新曲「Contact」を急遽リリースしましたよね。SNSを通じて集められた映像を使用したビデオも非常に印象的でしたが、現在の世界の状況と結びつくような、この曲の内容について教えてください。
 「“Contact”は、COVID-19のパンデミックが起こる前に書いて、レコーディングしたもので、事態がどのように進展してきたかを考えると、この曲を出すのに適切なタイミングだと思ったんだ。パンデミック下で撮影された人々の映像を募集してビデオを作り、その収益をニューヨーク市のCOVID-19救済基金に寄付するというアイディアはJimが出した。それによって、この悪い状況の中、何かひとつでも良いことをしてみたほうがいいだろうしね」

――今、世界はコロナ・ウイルスで大変なことになっていますが、バンドの今後の計画と、現在はどうしているかについて教えてください。
 「現時点では、ひとりぼっちでいる間も忙しさを保つために、たくさんの曲を書いているよ。“Contact”の次には、アルバムには収録されていないナンバーを3曲リリースする予定だ。うまくいけば、これから数ヶ月の間にもういくつかビデオも作れると思う。7月末にはYOBと一緒に回るツアーがあるけど、それが可能かどうかは様子見だね。その後、9月にアメリカでのツアー、11月から12月にかけてはヨーロッパ・ツアーも決まっているから、それが実現することを願ってる。できれば日本にも行けたら最高だな。今後のリリースに向けて、この間も作曲やレコーディングを続けていくつもりだよ」

――ちなみに、YOBのようなポスト・メタル系のバンドについてはどう思いますか?
 「YOBとのツアーも実現すれば、きっと楽しいものになるだろう。彼らのライヴを見るのを楽しみにしている。音楽的なスタイルが違うのは確かだけど、素晴らしいショウをやることは間違いないよ」

――日本のファンも待っているので、いつか来日公演が実現することを願っています。過去に日本へ来た時の思い出を聞かせてもらえますか?
 「以前ツアーで日本を訪れた体験は素晴らしかった!東京の街をチェックしながら歩くのが本当に楽しかったよ。日本へ行ったときに、今も連絡を取り合っているような友達が何人かできたんで、もしまた行けたときに彼らと会えたら嬉しいね」

――では最後に、最近お気に入りのバンドや本、映像作品なんかを教えてください。
 「BUMMER、GRIZZLOR、PLAQUE MARKSといったバンドが好きだ。今はちょうどJ.G.バラードの『奇跡の大河』を読んでいて、HBOの『ウエストワールド』というTVシリーズに少しハマってる。インタビューどうもありがとう!マジでまたそのうち日本へ行きたいよ」

HUMAN IMPACT Official Site | https://www.humanimpactband.com/

HUMAN IMPACT 'Human Impact'■ 2020年3月18日(水)発売
HUMAN IMPACT
『Human Impact』

国内流通仕様CD IPC215CDJ 2,300円 + 税

[収録曲]
01. November
02. E605
03. Protestor
04. Portrait
05. Respirator
06. Cause
07. Consequences
08. Relax
09. Unstable
10. This Dead Sea