Interview | The mellows


実態のなさ、無に近づけるようなイメージ

 (インターネット経由の)ノスタルジアを内包したメロディとヴィジュアル、そのイメージを最大限に引き立てるベッドルーム感 / ローファイなテクスチャを、再現とは異質のモダンなフィルタを透過した感覚でビルドするThe mellowsが、転機作となった2019年のEP『Memory of Holo Love』に続いてフル・アルバム『BLMS(ブルームス)』を3月にリリース。過去作から引き継いだソフト / サイケデリックなムードに加えてビートワークを強化しながらも、より内省的でオーガニックな聴後感をも残す新境地を切り拓いています。同作について、メンバー全員にメールで語っていただきました。

 なおThe mellowsは、BOYS AGEをゲストに迎えて東京・下北沢 BASEMENTBARにて開催する『BLMS』リリース・ショウを9月20日(月・祝)に控えています。


取材・文 | 久保田千史 | 2021年6月


――メンバー紹介をお願い致します。これまでに携わった / 現在も進行するThe mellows以外のプロジェクト(バンドなど)もあれば教えてください!

 「ヴォーカルの葵です」
茶谷 「ギター / シンセサイザーの茶谷です。The mellowsで作詞作曲、レコーディング、ミックスなどを担当しています」
阿部 「ギターの阿部です。並行して宅録のpinkout bathroomとビートメイカーのnegaとしても活動しています」
池田 「ベースの池田です。僕個人では、セルフ・プロデュースのFUDGEHEADという名義でいくつか音源を出しています」

――僕がThe mellowsを初めて聴いたのは、東京・渋谷の「NERDS」というレコード・ショップの店内でした。ニュースクール・ハードコアのレコードを買いに行った折だったので、めっちゃ意外に感じたのを覚えています(笑)。The mellowsには、ハードコアのシーンと関わりのあるメンバーがいらっしゃるんですか?
茶谷 「ハードコアのシーンとは特に関わりはないのですが、NERDSのレーベルICE GRILL$の石井さんには以前、TURNOVERとNOTHINGの来日ツアーに呼んでいただいたことがあります。一見違うジャンルの中で知っていただけるのはかなり嬉しいですね……感謝しかないです」

――そのとき、お店の石井さんと小浜さんから“The mellows”というバンド名を教えていただいて、音まんまやんけ!という感想を持ったのですが(笑)、どういう経緯でこのバンド名になったのでしょう。
 「The mellowsというバンド名は、私がつけたんです。前身バンドが解散したタイミングでヴォーカルとして加入したのですが、茶谷の音源を聴いて最初に浮かんだイメージが“メロウ”だったんですよね。じゃあThe mellowsにしよう、みたいな(笑)」

――The mellowsは“バンド・フォームのヴェイパーウェイヴ”的な導入で記されることが多いと思うんですけど、ヴェイパーウェイヴ・インスパイアをバンドでやることに当初は抵抗ありませんでしたか?ヴェイパーウェイヴにバンド・アンサンブルでも演奏可能な楽曲が増えてきた頃って、初期のノイズ文脈的な部分に魅力を感じていた人々はウ~ン……って感じだったと思うんです。あれはあれで素晴らしいんですけど、Saint PepsiがSkylar Spenceになったタイミングとか。ウ~ンと思っている人々がいるとわかり切っている場所にわざわざ飛び込んでゆくことに対する抵抗というか。
茶谷 「たしかにヴェイパーウェイヴというジャンル自体が曖昧になったし、明らかに昔より勢いは落ちたときがあったと思います。ただSurfing、t e l e p a t h テレパシー能力者、Blank Banshee、ESPRIT 空想など、ヴェイパーウェイヴを進化させていると感じるアーティストも当時たくさんいて、そういった人たちから音楽もそうですし、アートワークや世界観からも大きな影響を受けました」
阿部 「当時まだ日本でヴェイパーウェイヴを取り入れているアーティストを知らなかったし、新しそうなことだと思ったので、抵抗はなかったです」
茶谷 「永遠とループしていくアンビエント的な要素や、チョップド & スクリュードなどではなく、サウンド的な部分を取り入れようと考えていました。スネアのリヴァーブ感やローファイ感などを取り入れたバンド・サウンドがヴェイパーウェイヴっぽいと感じてもらえたのだと思うので、ガチのヴェイパーウェイヴ界隈の人からしたら僕らはどう見られてるのかな……と怖い部分はありましたね(笑)」

――ヴェイパーウェイヴって、ある種のネクロフィリアだと思うんです。当時の音楽へのリスペクト云々という概念は皆無で、死体を切り刻んだパッチワークでノスタルジーという快楽のみを抽出するような不気味さが最大の魅力という気がしています。The mellowsの音楽はそういう要素を持ち合わせていると思いますか?
茶谷 「そういう要素は少なからずある気がします。実態のなさや、無に近づけるようなイメージで楽曲を作っているので、掴みどころがないけどグッとくる、不気味な静けさ、のような感じかたをしていただけたら嬉しいです」
阿部 「ヴェイパーウェイヴは冷たく霊的な要素が好きですね」

――バイオでは“bedroom band”を標榜していますが、実際のところ、楽曲の制作はどのように進行していますか?
茶谷 「ホームスタジオでレコーディングをしていて、マスタリング以外は自分たちで完結させています」
池田 「軸をリーダーの茶谷が作って、練習しながらアレンジを変えたりしているのが基本ですが、最近はいろいろ試行錯誤してるので、楽しみにしていただければ」

――ビートはヒップホップからの影響が顕著なものが多いですよね。特に『BLMS』では。しかも、ローファイ・ヒップホップだとか、J Dillaリヴァイヴァルだとか、10年代的なキーワードではなくて、90年代のトリップホップや、日本のポップスに用いられていたブレイクスを直接的に参照しているように感じます。例えば、DJ KRUSHさんによる中谷美紀さん楽曲のリミックスワークとか。
茶谷 「今回のアルバムを出してから“中谷美紀っぽい”と言われることが多いので、嬉しいです。中谷美紀さんのアルバムが好きで、DJ KRUSHさんのリミックスなんかは『BLMS』でやっていることに近いと思います。あと、葵の歌声も要因のひとつだと思います。ただ、直接的に参考したというわけではなくて、どちらかというとPORTISHEAD、STEREOLABあたり……あとビートは現行のChillhop的なビートメイカーの影響が大きいと思います。メンバー全員が共通して好きなところなので、今までのサイケデリック、ローファイなバンド・サウンドにビートメイカー的なビートを乗せるということが自然にできた気がします」

――『BLMS』は全体的に『サイレントヒル』みを感じるのですが(特に「どうして言葉に」はMVのメリーゴーラウンドも含めて)、山岡 晃さん、というかPlayStation®からの影響ってありますか?Frank Oceanの起動音みたいに、ゲームからの直接的なインスパイアってけっこうある気がしていて。
 「『サイレントヒル』って、一般的にはホラー・ゲームのイメージが強いですが、内容は主人公がトラウマや罪と向き合っていくドラマじゃないですか。たまらなく“人間”を感じることができるんですよね。人間臭さフェチなので、『サイレントヒル』は大好きです」
阿部 「自分は『サイレントヒル』をプレイしていないですが、『どうして言葉に』のMVは、90年代にVHSビデオカメラで撮られてYouTubeにアップロードされている、知らない誰かのホームムービーのような映像を作ろうとしました。PlayStation®のポリゴンや、ブラウン管テレビのスピーカーから聴く音楽が好きです」
池田 「初期プレステ・ソフトの時代感とか、初期プレステだからできたある種の秩序のなさみたいなものにノスタルジーを感じていて、そこからインスパイアされている世界観はたしかにあるかもしれないですね」
茶谷 「PS1のグラフィックって、ちょっとした不気味さがあってすごく好きです。それこそPlayStation®やNINTENDO64などは、ヴェイパーウェイヴ・カルチャーと切っても切れない存在ですよね。『BLMS』でも、自分が昔プレイしたPS1のゲームからのサンプリングをバレないようにひっそり入れたりしています」

――歌詞からは、メロウでシティなムードよりも、ジャパニーズ・ホラーのエモい部分や、黒沢 清映画における喪失のイメージなどを感じます。ブックレットのVHS感、ひいては“呪いのビデオ”感に引っ張られているのは否めませんが……。それぞれどんなモチーフで書かれているのでしょう。
茶谷 「“喪失”というよりは何かが欠けている感じというか、“欠損”というほうがしっくりくる気がします。曲を聴いていて、歌詞の意味があまり入ってこないほうが好きなので、一文一文の意味が繋がりすぎないように意識しています。思考や感情が見えすぎる歌詞だと、聴いている人が想像できる範囲が狭まってしまうような気がするので、自分の表現したいことや感情などはできるだけ見えないようにしたいと思っています。意図したものを意図せず表現する、という考えを大切にしていて、言葉やニュアンスはけっこう時間を使って考えるのですが、アウトプットするときにはあまり考えすぎず、直感的に歌詞を書いている気がします」

――アートワークもメンバー自ら制作していらっしゃるとのことですが、どなた担当していらっしゃるのでしょうか。
池田 「リード・ギターの阿部がすべて監修しています。僕にとってはバンド・メンバーであり、身近にいる尊敬するアーティストです」
阿部 「アートワークは、茶谷から前回の『Memory of Holo Love』が三部作の区切りだということを聞かされていたので、今回の『BLMS』は意識して雰囲気を変えたものにしました。前回まではメタ認知、マクロ的視点をテーマに作っていたが、『Fastiteration』『The Little Death』『BLMS』のアートワークは淡い紫色で内向的な印象を持たせようとしました」

――『BLMS』では、初期The mellowsと比較すると、西海岸であるとか、ある種のネオアコやNEW ORDERなども想起させる、どちらかといえば陽性のメロディが激減して、湿度の高い旋律の比率が増えているように感じました。アートワークもそうですね。この変化は意図的なものでしょうか。心境 / 環境の移ろいなどあれば教えてください。
茶谷 「前回までのアルバムはノスタルジーを感じさせるメロディが多かったと思うのですが、今回は過去を思い出すエモさというよりは、今に目を向けるようなアルバムにしたいと考えていたので、意図的に陽性のメロディは抑えました。グッときそうでこないというか、そういう絶妙なメロディを狙いたいと思っていたので、キャッチーになりすぎそうなときはグッと我慢する……みたいな感じでしたね」
池田 「もともと湿度の高い音楽が好きだったのもあるとは思うのですが、過去作と比べた時に“冷たさ”や“暗さ”の中に残る“優しさ”のようなものを表現したいと思っていました」
茶谷 「2020年以降はどうしてもコロナ禍というものを避けられないと思うのですが、『Memory of Holo Love』を出してすぐに、次はこうしようと思っていたことがあったので、ただそれに従った感じです。コロナの影響は多少あったかもしれませんが、個人的には特別意識しませんでした」

――『BLMS』のCDエディションには“親への勧告 / 露骨な内容”が印字されていますよね。The mellows的には、どのあたりが最も不適切だと思いますか(笑)?
阿部 「音です」
茶谷 「これからも不適切な音を出していきたいです」

――『BLMS』は『Memory of Holo Love』(2020)以上にターニングポイント作だと思いますが、今後The mellowsはどう変化してゆくのでしょう。
池田 「僕自身そう感じてます。過去作通しても今回のアルバムが一番好きですし、これからも毎回そう思えるような作品を作っていきたいと考えているので、楽しみにしていただければと思います」
茶谷 「アルバムを出す毎に、前作から前に進んでいると思われるように音楽を作っていけたらと思っています」
阿部 「根っこの部分で表現したいことは変わらず、自分たちがそのときに良いと思ったものを作り続けていきます」

The mellow "BLMS" Release ShowThe mellows“BLMS” Release Show
https://toos.co.jp/basementbar/ev/the-mellows-blms-release-live/

2021年9月20日(月・祝)
東京 下北沢 BASEMENTBAR
開場 17:30 / 開演 18:00

前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)

出演
BOYS AGE / The mellows

The mellows 'BLMS'■ 2021年3月10日(水)発売
The mellows
『BLMS』

PCD-22440 2,200円 + 税
https://p-vine.lnk.to/x5TxhLqF

[収録曲]
01. Fastiteration
02. The Little Death
03. No face
04. Inner shadow
05. Pixi call
06. どうして言葉に
07. Dazy blue
08. My blooms

Vinyl
2021年3月24日(水)発売
PVLP-2 2,500円 + 税
P-VINE SPECIAL DELIVERY限定販売

https://anywherestore.p-vine.jp/products/the-mellows-blms-lp