Review | 祥泉窯 脚付き角皿


文・撮影 | 梶谷いこ

 去年の7月のある日。真夏のお楽しみ、とうもろこしとポークビッツのかき揚げが上手に出来たので写真を撮ってTwitterに投稿すると、しばらくして通知が入りました。

「同じ皿買いました~!うちでもめちゃくちゃ活躍してます!」

 返信元は伊藤槙吾さん。京都の古道具店「itou」の店主です。伊藤さんとはそれまで「itou」の店頭で会話をするのが楽しみではありましたが、同じ皿を愛用しているとなると急に大きな親近感が湧いてきました。ということで今回は、伊藤家にお邪魔して、わが家の皿と生き別れの兄弟に会ってきました。

祥泉窯 脚付き角皿 | Photo ©梶谷いこ

 青い唐草模様の角皿。並べた短冊を互い違いに少しずらしたような形をしています。皿の中央部分に向かって少し低くなっていて、裏側には4本の脚付き。すみずみまで見覚えのある皿に、初めての訪問先にもかかわらず一気に伊藤家が“ホーム”になったような気分です。ただ、伊藤さんもわたしも、お互い相手がこの皿を買ったのは自分と同じ店だろうと予想していたのですが、話していくうちに全く違うところで購入したことが判明しました。

 伊藤さんは京都の古道具屋で、わたしは東京の築地場外市場で。それぞれニッチな購入場所だっただけに、これは意外な事実でした。ちなみに、わたしがこの皿を購入した築地場外市場のお店は、主に飲食店向けの和食器を扱う専門店。商品はどれも新品ばかりでした。ということは、伊藤家のこの皿も最初はどこかの飲食店で使われていたものの、流れ流れて京都の古道具屋で売られることになったのかもしれません。

 皿の裏側の刻印には、「祥泉」の文字が確認できます。調べたところによると、「祥泉窯」は岐阜県にある美濃焼の窯元。確かに、わたしが購入した築地場外市場のお店のホームページには、美濃焼は定番の取り扱い商品だと書かれていました。わが家では、この皿は揚げ物専用の皿として活躍しています。唐揚げ、天ぷら、フライドポテトなど、揚げ物のこんがりとしたきつね色に青い唐草模様がよく映えるのです。考えてみると、伊藤さんがリアクションをくれたTwitterの投稿に載せた料理も揚げ物でした。

祥泉窯 脚付き角皿 | Photo ©梶谷いこ

 一方、伊藤家ではお刺身を盛るお皿として重宝されているそうです。

「うち、刺し身をよく食うんですよね」

と話す伊藤さんは、ご家族とふたり暮らし。ともに九州のご出身です。九州の醤油は甘みが濃厚なことで知られていますが、その九州の甘い醤油を堪能するには刺し身は欠かせないのだとか。甘くとろみのある醤油を「刺身醤油」と呼ぶこともあるくらいです。実際に伊藤家で愛用中という大分の刺身醤油でブリの刺身をいただいてみると、本当に良く合って驚きました。

 伊藤家もわが家も、料理の違いはあれど定番居酒屋メニューの指定席としてこの皿が使われているのがおもしろいところ。脚付きで高さがあるため、ちょっとしたおかずでも存在感が出ます。そんな伊藤家の食器棚を見せてもらうと、しっかりとした質感の和食器がかなりの割合を占めていました。これもやはり、多くは古道具屋などで見つけてきた中古のもの。伊藤さん自身古物商という職業柄、自然と集まってくるようです。

祥泉窯 脚付き角皿 | Photo ©梶谷いこ

 同じ皿でも、伊藤家では古道具というフィルターを通して、一方わが家では、業務用食器というフィルターを通して、それぞれ愛用に至ったと考えると、買い物という楽しみの不思議なおもしろさを感じます。買い物といえば、伊藤家を見渡してみると壁という壁に絵が掛けられているのに気づきました。それらの絵は、すべてふたりでコツコツ買い集めてきたものなのだそうです。好きな作家の絵や知人友人の絵。まだまだ買い集めたいというふたりですが、その1枚1枚がちゃんと部屋に馴染んでいて、数の圧をまったく感じさせません。

祥泉窯 脚付き角皿 | Photo ©梶谷いこ

 「itou」は、毎月店内の展示替えをするのが魅力のひとつ。伊藤さんのモードに合わせて、月に一度ガラリとレイアウトが変わります。そんな伊藤さんの「模様替え好き」は、住まいでも同様なのだとか。ここに引っ越して以来、もう何度も大がかりな模様替えをしているそうです。

「部屋をがんばっておしゃれにしたいと思うけど、どうやってもおばあちゃんの家みたいにしかならなくて……」

 そう言って笑うおふたりですが、壁にかかった絵はもちろん、インテリアのひとつひとつが目に優しいものが多く、あまりの居心地の良さにあっという間に時間が過ぎていきます。また必ずお邪魔する約束をして、この日は伊藤家をあとにしたのでした。

〒606-8164 京都府京都市左京区一乗寺出口町7 2F

13:00〜19:00
営業日: 毎月20日-月末日(25日は休み)
※ 仕入れやイベントにより不定休

梶谷いこ | Photo ©平野 愛
Photo ©平野 愛
梶谷いこ Iqco kajitani
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1985年鳥取県米子市生まれ、京都市在住。文字組みへの興味が高じて2015年頃より文筆活動を開始。ジン、私家版冊子を制作。2020年末に『恥ずかしい料理』(誠光社刊)を上梓。その他作品に『家庭料理とわたし――「手料理」でひも解く味の個人史と参考になるかもしれないわが家のレシピたち』『THE LADY』『KANISUKI』『KYOTO NODATE PICNIC GUIDEBOOK』などがある。