それはきみたちが想像すべきこと
取材・文 | 久保田千史 | 2021年2月
通訳 | 山口洋佑
Photo ©Sophie Gransard
――長編デビュー作『ダーク・スター』の以前から、監督作品のサウンドトラックはご自身で手がけていらっしゃいますが、若き日のカーペンターさんにとって、映画が先だったのでしょうか。音楽が先だったのでしょうか。
「なんでそんなこと知りたいんだよ(笑)。まあ、先に好きになったのは映画だね。でも音楽は常に聴いていた。父(Howard R. Carpenter)が音楽科の教授だったからね。音楽もずっと好きだよ」
――では普段も、クリエイティヴィティはヴィジュアルが出発点?
「そうだね、ヴィジュアルが浮かんでから始まる」
――生まれて初めてのレコーディングは、どのような環境で、どのような機材を使ったものでしたか?
「おいおい……そんなん覚えてないって……。大昔のことだからな……(笑)」
――(笑)。そのときに作った音楽は、いずれかの監督作品と関係がある?
「いやいや、関係ないよ。自分のために作ったんだと思う。自分の楽しみのために」
――その頃と、現在とでは、音楽の作りかたはどう変わってきたと思いますか?
「変化ねえ……。経験からしか言えないけど、シンプルに、機材がすごく良くなっているよね。テクノロジーがどんどん更新される」
――最新の機材もいろいろ試していらっしゃるんですか?
「そうだね。当然だよ。使わないとわからないしさ。とにかくやってみる」
――逆に、昔から使い続けている機材ってありますか?
「ギターとピアノ。あとヴァイオリン」
――ヴァイオリンも演奏されるんですね!
「まあね(笑)。8歳の頃から演奏してる。ヒドいもんだけどな。才能ないんだと思う」
――やはり、お父様から習っていたのでしょうか。
「そう。父はヴィルトゥオーソだったからね……」
――ヴァイオリンからギターやキーボードに転向した感じだったんですか?
「うん。すぐそうなった。ギターのほうが断然好きだね(笑)」
――(笑)。若い頃、バンドを組んでギターをプレイしていらっしゃったそうですが、どんな音楽を演奏していたのでしょうか。
「カヴァー・バンドだったんだ。レイト60sの音楽を演奏していた。THE BEATLESとか、当時のR & Bとかね」
――長年のコラボレーターであるDave Daviesさん(THE KINKS)から、Steve VaiさんやBucketheadさん、ANTHRAX、そしてDaveさんのご子息であるDaniel Daviesさんまで、これまで共に作業したギタリストたちは皆、ハードなサウンドですが、ギタリストとしてのカーペンターさんは、どんなプレイヤーから影響を受けていらっしゃるんですか?
「THE BEATLESだよ、いつでも」
――THE BEATLESはやはり、ギター・サウンドのみならずテープ・コラージュに代表されるアヴァンギャルドな側面からも影響を受けたのでしょうか。
「もちろんそうだよ」
――カーペンターさんの、アヴァンギャルドなサウンドとオーケストレイション、ギターをミックスする手法は、『遊星からの物体X』で音楽を一任したEnnio Morriconeさんからの影響も大きいように感じます。
「うんうん、そうだね」
――昨年逝去されましたが、もし再び出会えて、共に作品が作れるとしたら、どんなものを作りたいですか?
「まいったな……彼は天才で……最高の作曲家だからな……。何も思いつかないよ(笑)。いなくなって、とにかく寂しい」
――そうですね……。エレクトロニックな要素についてはいかがでしょう。Bebe & Louis BarronやTANGERINE DREAMから影響を受けていらっしゃることがよく知られていますが、その他に好んで聴いていらっしゃったシンセサイザー・ミュージックがあれば教えてください。
「えっ、ちょっと待ってくれよ……一時期よく聴いていたのがあるんだ……時間をくれ。う~ん、クソっ……思い出せない……『派遣秘書』の劇伴をやっていた(*)……名前が思い出せない、ごめん。たぶん、もう一度試しても思い出せないわ(笑)」
* 『ロボ・ジョックス』の劇伴も手がけたFrédéric Talgorn
――大丈夫です(笑)。カーペンターさんの音楽はギターとシンセサイザーが特徴的ですが、このブレンドはどんな経緯で思いついたのでしょうか。
「それも思い出せないな……でも、エレクトリック・ギターとエレクトロニック・インストゥルメントの組み合わせがすごく良いものになるというのは、若い頃からわかっていた気がするよ」
――『Lost Themes Remixed』(2015, Sacred Bones Records)にはアイコニックなエレクトロニック・クリエイターが多数参加(*)しています。どのリミックスがお気に入りですか?
「それは答えるのがすごく難しい!どれも気に入ってるからね。強いて言えば、Silent ServantとUNIFORMがやった“Vortex”のリミックスかな」
* Prurient aka Vatican Shadow aka Dominick Fernow(Hospital Productions)、Bill Kouligas(Pan)、Silent Servant aka John Juan Mendez、ohGr aka Kevin Ogilvie(SKINNY PUPPY)、Blanck Mass aka Benjamin John Power(FUCK BUTTONS)、Foetus aka J.G. Thirlwell、UNIFORM、Zola Jesusが参加
――Cody Carpenterさんも、優れたミュージシャンですよね。やはり、Codyさんが幼い頃から共に演奏を楽しんでいらっしゃったのでしょうか。カーペンターさんがお父様の演奏を聴いて育ったように。
「もちろん。一緒に音楽を演奏するだけじゃないけどね。基本的には、かなりの時間をゲームに費やしてる」
――ゲームですか。
「そうだよ。だいたいゲームしてる」
――具体的に、プレイしているタイトルを教えていただけますか?
「『アサシン クリード』とか、『ウォーハンマー』『Fallout 76』とか。あと『ボーダーランズ』もいいね」
――映画や音楽に費やす時間とゲームのプレイ時間、どちらが長いですか?
「たぶんゲームだね。できればゲームをやっていたい(笑)」
――まじですか(笑)。でも、『Lost Themes』をリリースしてからは、これまでにはなかったライヴ・パフォーマンスにも挑戦していらっしゃいますよね。
「そうだね、すごく楽しかった。ヒーローたちの世界にいるような気分だった」
――ステージでの演奏は……ウイルス次第のところもありますが……これからも続けたいですか?
「うん、落ち着いたら、ぜひまたやりたい」
――叶うならば、日本でもカーペンターさんの演奏が聴きたいです。
「それはもう、できることなら、もちろんやりたいよ!BABYMETALの前座でもいいよ(笑)」
――BABYMETALそんなにお好きなんですね(笑)。
「最高だろ」
――音楽はこれからどんなものを作ってみたいですか?
「ちょうど、『ハロウィン』の新作の音楽を作ったばかりなんだ。デヴィッド・ゴードン・グリーン監督の『ハロウィン・キルズ』。すごく良い映画だよ。もし彼がまた続編を撮るなら、音楽を作りたいね。自分のアルバムも、もっと作りたい」
――3rdアルバムは、前2作と比較して、音が分厚くなっているように思います。よりパワフルな音を求めていらっしゃるのでしょうか。
「そうだね。あとは、私の体重が増えて身体が分厚くなったからだと思うよ、たぶんね(笑)」
――(笑)。3rdアルバムには“Alive After Death”というサブタイトルが付けられていますよね。どのような意味を込めていらっしゃるのでしょうか。
「芸術は、作家の死後も生きたままであってほしい、という願いかな」
――なるほど……。クリエイティヴィティはヴィジュアルが浮かんでからとおっしゃっていましたが、3rdアルバムではどんな絵が浮かんでいましたか?
「秘密だよ(笑)。それはきみたちが想像すべきことだからね!むしろ、私に教えてほしい!」
――もし、新しい映画のアイディアを持っていらっしゃるのであれば、こっそり教えてください。
「う~ん、たぶん作る、としか言えないなあ。映画作りは大好きだからね、そうしたいんだけど。今はそれしか言えない」
――そろそろ時間ですね、ありがとうございました!
「こちらこそありがとう。日本に行けたらいいな。身体に気をつけて。バイバイ!」
■ 2021年2月10日(水)発売
John Carpenter
『Lost Themes III: Alive After Death』
国内流通仕様CD SBR-265JCD 2,200円 + 税
[収録曲]
01. Alive After Death
02. Weeping Ghost
03. Dripping Blood
04. Dead Eyes
05. Vampire’s Touch
06. Cemetery
07. Skeleton
08. Turning the Bones
09. The Dead Walk
10. Carpathian Darkness