Column「実録・KLONNS亜州紀行」


文 | SHV (KLONNS)
写真 | KLONNS

マレーシア編

 今年4月に「Iron Lung Records」「BLACK HOLE」より約8年のキャリアを総括する1stフル・アルバム『HEAVEN』を発表し、5月には同作を携えて全10公演に及ぶ欧州ツアーを敢行したニュージェン東京ハードコア・パンク代表・KLONNS。Miura aka Septic Necrovoid(MORTAL INCARNATION)、岡本成央(dr | 珠鬼 TAMAKI, 家主)、SHV(vo | SOM4LI, 珠鬼 TAMAKI)、Zie aka 剤電(b | ゲタゲタ, 鏡 KAGAMI, 珠鬼 TAMAKI, XIAN etc.)の4名による一行が、欧州の興奮覚めやらぬままに11月、東南アジア・ツアーへとテイクオフ。本稿では、その模様をシンガー・SHVが詳細にしたためた。

序文 | 久保田千史


 こんにちは、東京のハードコア・パンク・バンドKLONNSのシンガーSHVです。2024年11月にバンド史上初の東南アジア・ツアーを敢行したのですが、特濃に次ぐ特濃、日本では絶対に味わえない凄まじい数日間を体験しましたので、こちらに紀行というかたちで残させていただきます。

 まずは、ツアーを実現するに至った経緯について。それはひとえにシンガポール・パンクスのFarhan(Muhd | DOLDREY, URAL)が尽力してくれたおかげです。筆者とFarhanの交流はコロナ禍の少し前くらいからInstagramで始まりました。KLONNSもDOLDREYも米シアトルを拠点とする「Iron Lung Records」のレーベルメイトということもあって秒で打ち解け、2年前に彼が妻のMiraと東京へ新婚旅行に来たタイミングでついにハングアウト。そんな彼がKLONNSのアルバム・リリースに合わせて東南アジア・ツアーをやらないかという話を振ってくれたのでした。インドネシアをはじめとする東南アジアのパンク / ハードコア・シーンの盛り上がりっぷりについてはかねてよりアンテナを張っていたので、願ってもないオファー。

 こうしてマレーシア、シンガポール、インドネシアの3ヶ国を巡るツアーが決定しました。この場を借りて、改めてFarhanに無限の感謝を!!!

KLONNS South East Asia Tour 2024

11月1日(金)マレーシア クアラルンプール
11月2日(土)シンガポール
11月3日(日)インドネシア ジャカルタ

Tour Poster by Andro Kristian

10/31 東京~クアラルンプール

 ツアー初日はマレーシアの首都クアラルンプール。当日入りしてそのままライヴはかなりハードなので前日入りすることに。諸事情で筆者とベーシストのZieはスクート航空、他2人はベトナム航空で朝9時頃に成田空港を旅立ちました。経費を抑えるため、シンガポール経由クアラルンプール行きの最安値の便をチョイス。スクートはツアーで何度も乗っていますが、預け荷物が追加料金なのは辛いものの、LCCの中ではまともなほうかなと思います。ちなみにベトナム航空はフラッグキャリアなので預け荷物無料の上に機内食付きです。それはさておき、トランジット含め約10時間ほどでクアラルンプールへ!

Photo ©KLONNS
ハロウィン仕様(?)にライトアップされたスクート機内。
Photo ©KLONNS
セミハード・ケースでも余裕で無傷。

 今回は楽器 / エフェクター類をすべて持ち込むスタイルだったので、入国審査がやや不安でした。しかし、クアラルンプール国際空港では入国カードの完全電子化および自動化ゲートが導入されており、入管職員と一切言葉を交わすことなくスムーズに無事入国できました。一息ついて、ベトナム航空組の到着をゲートの目の前のカフェで優雅に待つも、一向に現れず……。どうやら1時間以上到着が遅れているとのこと。マレーシアのプロモーター・チームが車で迎えに来る時間にすら遅れそうなので、筆者とZieで先に彼らと合流して待つことに。

Photo ©KLONNS
マレーシアのコーヒーは非常に甘い。

 今回マレーシア公演をサポートしてくれたのは「ksp.live」。KLONNSのCDをリリースしている「Black Konflik」のAizuと他数名が運営しているチームで、MORTIFERUMやSHITSTORMのクアラルンプール公演も手掛けたそうです。この日はAizuとDeanという人物が迎えに来てくれました。空港のエントランスを出ると、咽かえるような熱気!乾季と雨季の変わり目の季節でしたが、それでも気温は夜でも30℃近くあり、Dean曰くこの土地には“暑い”か“めちゃくちゃ暑い”以外の気候はないとのこと(笑)。ベトナム航空組も予定より2時間ほど遅れたものの無事到着し、2台の車に別れてクアラルンプール市街地へ!
 
 筆者はDeanの車に乗ったのですが、いろいろ話しているうちにマレーシア産ボストン・ハードコア・ライクなバンドSS/BLOCKのメンバーであることが判明し、テンション上がりました。確かMASA JUSTICE氏(THE BREATH)が一時期やっていた「STOMP AND SLAM radio」で紹介されていた記憶が。残念ながら最近はあまり活動していないそうです。

 車窓から夜景を眺めていると唐突に花火が上がり始めて、どんだけ歓迎ムードなのって感じですが、この日はヒンドゥー教の祝日「ディーワーリー」なのだそうです。マレーシアは大別するとマレー系、華人系、インド系から構成される多民族国家なので、それぞれの祭日があるとDeanが説明してくれました。

Photo ©KLONNS
歓迎の花火ありがとうございます。
Photo ©KLONNS
クアラルンプールの街並み。

 お腹が空いたねということで、車がまず向かったのはレストラン。テラス席、というか駐車場にテーブルと椅子を並べただけのような席に座りました。祭日だからなのか、レストラン内で謎のバンドがマレーシア版演歌みたいな曲を爆音で演奏しており、ある意味映画のワンシーンのような趣深い光景でした。筆者は豊富なメニューの中からナシゴレンをオーダー。日本でナシゴレンと聞くと海老などの魚介類が入っているイメージでしたが、本場マレーシアでは単に焼き飯のことを指すそうで、ナシゴレンという大カテゴリの中で具材を何にするか選ぶというスタイル。ナシゴレンだけで10種類以上ありました。お味のほうはめちゃくちゃうまい……!しかし厳格なまでにスパイシー……!!! 舌が痺れる感じではないのですが、汗が滝の如く止まらない……!!! 食事と水には気を付けようと心に決めていたのに、いきなりお腹の雲行きが怪しい(笑)。ちなみにツアー中は毎食後に正露丸を飲んでいましたが、それくらい気を付けたほうがいいと思います。

Photo ©KLONNS
“本物”のストリート・レストラン。閉店していて入れなかったのが心残り。
Photo ©KLONNS
ksp.liveチームと。
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True Malaysian HC
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旨辛すぎるナシゴレン。

 ひとしきり食事を楽しんだあと、今日から2日間宿泊するホテルへと向かいました。エントランスは普通のホテルという印象でしたが、階段へと向かう通路は改装中なのか廃墟のような様相で、“ツアーの始まり”を感じざるを得ませんでした。しかし、部屋の中は想像していたよりは綺麗な内装。水回りは浴槽なしのシャワーとトイレが一緒になっているスタイルで、まあアジア圏ではよくあるかなという感じ。お湯は出たので何も文句はありませんが、シャンプー等のアメニティ類はありませんでした。マレーシアでプリントしてもらったAndro先生デザインのツアーシャツと1stアルバムのテープ版も無事に受け取り、一安心!と思いきや、このあと早速我々に東南アジアの神秘なる自然の脅威が襲い掛かるのでした……。

 筆者とZie、ギタリストのMiuraとドラマーのOkamotoの2部屋に分かれて泊まったのですが、筆者が泊まったほうの部屋のカーテンに何か巨大な影が……?気のせいだ、見なかったことにしよう、と自分に言い聞かせつつも、どうしても看過できないレベルのおぞましさ……。そう、ゴ〇ブリがカーテンにしがみ付いている…!誇張なしで日本では見たことのない巨大さ……しかもよく見ると2匹いやがる……!!! あまりのデカさにカマドウマか何かかと思いましたね。絶望した我々はそっと部屋のドアを閉じ、夜の街へ逃げるように繰り出しました。

 まず向かったのはマレーシアの24時間営業のコンビニ「KK」。コンビニとスーパーマーケットの中間くらいの感じで、食べ物だけでなく日用雑貨の品揃えも豊富でした。そして、一瞬の迷いもなく一番強力そうな殺虫剤を購入(笑)。いざ、闘いの荒野へ……。

Photo ©KLONNS
噂のKKマート。

 激闘の末、なんとか勝利を勝ち取りましたが、殺虫剤が強力すぎて目が沁みたり咳が止まらなくなったり、しっかり健康被害を被る一同。この時点で深夜1時過ぎ。部屋中の黒いシミなどがすべてゴキ〇リに見えてしまう、飛蚊症ならぬ飛ゴキ症に苛まれつつ、あまりの疲労にあえなくベッドへダウンしました。

Photo ©KLONNS
奴らを倒した勇者Zie。
11/1 クアラルンプール

 午前中に起床。会場入りは夕方からなので、昼間はAizuたちが観光に連れて行ってくれることに。その前に朝食を摂ろうということで、ホテルのはす向かいにあるレストランにイン。朝っぱらからまさかのスパイス料理でヘヴィ過ぎましたが、ビリヤニをおいしくいただきました。お茶などのドリンクも頼んだのですが、昨日から薄々気付いていたものの、どれを頼んでも甘ったるい……。苦みがほしい……。

 食事を終えると、もう1台の車が到着していました。その車を運転していたBopix氏は、以前KLONNSの初期ディスコグラフィ・テープをリリースしてくれた「Sickhead Records」のオーナーで、予期せぬ邂逅!たしかあのテープがバンド初の海外リリースだったはず。

 2台の車両に分かれ、まず最初に向かったのはヒンドゥー教の聖地「バトゥ洞窟 Batu Cave」。その名の通りコウモリが飛び交う洞窟で、そこを抜けると巨大な岩の合間に聖域があるとのこと。神聖な感じの場所をイメージしていましたが、がっつり観光地化されていて、若干ゴミゴミした印象でした。かなり傾斜のきつい石段に歩みを進めると、なんと大量のサルの群れが!あたりまえですがニホンザルとは違ってトロピカルな容姿。観光客から食べ物を奪うなど、活発過ぎました。ビニール袋を持っていると襲われるのでご注意ください。階段を登り切った先にある洞窟にも売店やらなにならが賑わっており、正直聖域感ゼロでした。とにかくサルの印象だけが残りました。

Photo ©KLONNS
バトゥ洞窟にて。
Photo ©KLONNS
お猿さんこんにちは。
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バトゥ洞窟内部。
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Aizu、Bopixと。

 続いて、クアラルンプールの中心エリアに位置する巨大百貨店「Suria KLCC」モールに向かいました。中心街は東京も顔負けなほどドでかい高層ビルが並んでおり、正直言って想像の100倍くらい大都会でした。Aizu曰く「今までたくさんのバンドを招聘してきたが、百貨店に行きたがったのはお前らくらいだ!」とのこと(笑)。まあ綺麗なトイレを求めていただけなんですが。せっかくなのでカフェに入ってコーヒーをオーダー。やや高かったけど、しっかり苦いブラック・コーヒーだったので良しとしましょう。

Photo ©KLONNS
ゴリゴリのシティ・エリア。

 その後はひたすら様々な観光名所へと連れ回され、あらゆる場所で集合写真を撮りまくるAizu(笑)。この日の天気は猛烈に晴れ。容赦なく降り注ぐ日差しにノックアウト気味な我々をよそに、元気すぎるAizuのパッションは見習うべきだと思いました(?)。

Photo ©KLONNS
半端じゃない日差しに耐える一同。
Photo ©KLONNS
“本物”の記念写真撮影を見せてくれたAizu氏。

 イベント前にディナーだ!ということで会場近くの中華街へ。このツアーの2週間後に香港に行く予定だったのですが、完全に香港を先取りしたような享楽的な街並みで、今自分がどこにいるのかわからなくなるような錯覚に陥りました。改めて多民族国家であることを再認識させられました。

Photo ©KLONNS
ここは香港か?
Photo ©KLONNS
非常においしかったフォー。
Photo ©KLONNS
Mr.ビーンいました。

 そして遂にイベント会場へ。この日の会場は警察や入管対策で表向きにはシークレットになっていたので、一応名前は伏せておきますが、KRUELTYも出演したことがある定番のヴェニューみたいです。ビルの5階がフロアなのですがエレベーターはなく、搬入泣かせな構造。1階は飲食店になっており、到着するとすでに黒ずくめのパンクスたちが腹ごしらえをしていました。ちなみに会場ではドリンクの販売はなく、ドリンクを売るためには別のライセンスを取得しなければならないそうです。ほとんどのライヴハウスが飲食店として届け出ている日本とは全然違いますね。キャパシティはパッと見で100から150人くらいの印象。白基調の壁でわりと小綺麗な雰囲気でした。しかし、サウンドは音が潰れるというか微妙に音作りが難しい。あと、なぜかステージ最前にお立ち台が用意されている……。これは「お前ら、今夜はDIR EN GREYになれよ?」というメッセージなのでしょうか?

Photo ©KLONNS
Flyer for Kuala Lumpur Show
Photo ©KLONNS
本日のヴェニュー。

 19時頃に会場がオープン。最初は観客もまばらでしたが、夜が深まるにつれ続々と集まってくるパンクスたち。クアラルンプールの観客は所謂“Chain Punk”な黒ずくめファッションが9割という印象でした。以前東京のライヴに遊びに来てくれた顔見知りの方々も来てくれて、差し入れにテンペ(インドネシアで生まれた大豆を発酵させた食べ物)の煎餅のようなお菓子をいただきました。優しい味で沁みました。

 この時点でかなり疲弊しており、正直対バンをじっくり観ることはできなかったのですが、全体的にノイジーなDビートや、S.H.I.T.などに代表される現代的なロウ・ハードコア・パンクに憧れているバンドが多いのかなと思いました。また、全体的に欧米圏や日本のバンドのシャツを着ている人が多い中で、シンガポールのSIALやDOLDREYのシャツを着ている人も少なくなく、シンガポール・パンクの先進性と影響力を感じました。これは余談ですが、Farhan曰くマレーシアではパンクよりもエモヴァイオレンスやスクラムズといったシーンのほうが活発なのだそうです。

 一番印象に残ったバンドはトリ前のFUNERAL DIRGE。マレーシアのバンドかと思いきやインドネシア・バンドンからのツアーバンドでした。ノイズ・クラッシャーなD-BEATに、ANASAZI時代のChi(Orengo)氏のような風貌のヴォーカルが繰り出すリヴァーブかけまくりの、まるで呪詛のようなシャウトが乗るサウンドで、東南アジアでしか生まれ得ない感覚のスタイルなのではと唸らされました。ぜひチェックしてみてください!

 気づけばついに我々の出番。タイムテーブルはおそらく押していて、すでに23時近く、かなり疲労困憊。しかしやるしかない。いつの間にか観客もかなり増えており、気合いが漲りました。平日ながら大盛り上がりで、アンコールもいただき感無量。みんなお立ち台を上手くダイヴに利用していて、なるほどと思いました。YouTubeにフルセットが上がっているので、ぜひ観てみてください!

 物販の売れ行きも好調で、めでたくイベントは無事終了。ちなみにマレーシアのお客さんはほとんどがQRコード決済で物販を購入していました。肝心のサービス名は失念してしまいましたが……。諸々用意してくれたAizuありがとう。

Photo ©KLONNS
Thank You Kuala Lumpur!!!

 終演後、ひとしきり記念写真やら挨拶やらを済ませて、ホテル近くの露店で食事を摂ることに。様々な種類の露店が集まるエリアらしく、中華やらなにやらいろいろありましたが、それほどお腹が空いていなかったのでビールだけ飲むことに。と思ったらAizuが近くのハンバーガー屋から大量にバーガーをテイクアウト(笑)。地元のチェーン店とのことで、せっかくなのでひとついただいてみると、日本のバーガーとは微妙に違った感じのテイストでなかなか乙な味わいでした。ちなみに、Aizuによるとマレーシア人は夜遅い時間に食事する習慣があるので、飲食店はかなり遅い時間まで営業している店が多いらしいです。

Photo ©KLONNS
クアラルンプールの夜は深い。

 食事を終える頃にはもう深夜2時。しかし翌日は飛行機に間に合わせるため7時出発……。そう、東南アジア・ツアーは基本すべて飛行機移動かつ予算を抑えるため午前中の便に乗るので、夜はほぼ眠れないのがデフォルト……。覚悟を決めて就寝!!!

シンガポール編につづく……

KLONNS 'Heaven'■ 2024年4月26日(金)発売
KLONNS
『Heaven』

LUNGS​-​270 | BHR039
https://ironlungrecords.bandcamp.com/album/heaven-lungs-270

[収録曲]
01. Plug-In prod. by Shine of Ugly Jewel
02. Heathen
03. Creep
04. Beherit feat. Arisa Katsu, Bl00dR4y, Golpe Mortal, Lil-D, O.Tatakau, SAGO & 1797071
05. Realm feat. セーラーかんな子
06. Another
07. Nemesis
08. Drown
09. Hill
10. Replica feat. O.Tatakau & 富烈
11. Heaven feat. Golpe Mortal
12. Un-Plug prod. by Shine of Ugly Jewel