文 | SHV (KLONNS)
写真 | KLONNS
インドネシア編
朝8時頃にFarhanがホテルに迎えに来て、そのままタクシーでチャンギ国際空港へ。シンガポールからジャカルタへのフライトはメンバー全員バティック・エア航空をチョイス。ここにきてやっと団体行動(笑)。バティック・エアはインドネシアのLCCであるライオン・エアのグループ会社なのですが、なぜかこちらはフルキャリア寄りのサービス内容。預け荷物も無料で助かりました。11時頃出発と比較的遅めな時間帯の便だったのも、だいぶ負担が軽減された気がします。
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多少の遅延はあったものの、約2時間のフライトでスカルノ・ハッタ国際空港に到着!首都の国際空港にしては建物が古びているな、という印象を受けました。インドネシアは本ツアー中唯一、すべての入国者が電子ビザを取得する必要がある国で、事前に1人約5,000円ほど支払ってインドネシア外務省のサイトから手続きをしました。ちなみに、事前に取得しなくても空港のビザ・カウンターでその場で支払って申請するのも可能みたいです。さらに余談ですが、インドネシア政府が2024年10月からビザなし渡航が可能になるというアナウンスをしていたのですが、全然実施されていませんでしたね。杜撰すぎる……。
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インドネシア入国に関してのみプロモーターから厳しめに注意喚起されていたので、けっこう警戒していたのですが、今回も自動化ゲートによりあっさり無事入国。やや肩透かしな気もしますが、楽に越したことはないですね。
空港のエントランスでジャカルタ公演のプロモーターであるSaiful(Haq | MASAKRE | Grieve Records)たち、別の便で先にジャカルタ入りしていたFarhan、Miraと無事合流。インドネシア・チームははじめましてでしたが、現地に詳しい友達が付いて来てくれると安心感半端ないですね。Saifulたちの車に乗り込もうとした瞬間、絶妙なタイミングで凄まじい雷鳴が轟いて、インドネシアの天より素晴らしい歓迎を受けたと解釈しました(笑)。
本日の会場「Rossi Musik」は、おそらくかなり古くからある伝統的なヴェニュー。CANDYやBRAVE OUTも出演したことがあるそうです。ぱっと見は完全に廃墟なのですが、1階がライヴ・スペース、2階がガチの廃墟(霊障が起きるという噂も……)、3階が楽屋兼事務所とレコーディング・スタジオ、4階がおそらくもうひとつのライヴ・スペースと、あまりにも濃過ぎる場所です。実を言うと、シンガポールでかなりの人数に「お前ら明日はRossi Musikでやるのか?あそこは地上の地獄だ!(暑すぎて)死ぬぞ(爆笑)」と言われていたので、震えながら会場入りしました。するとMiraから救いの一言が……。
「ライヴ・スペースにエアコン導入されたらしいよ!」
逆に今までエアコンなしでやっていたのが信じられない湿度なわけですが、これで少し安心(笑)。完全にラッキーマン状態になりました。ライヴ・スペースはコンクリート打ちっぱなしで、ドイツ・ライプツィヒで訪れたスクワット(註: ここも霊が出ます)を思い出しました。しかし、こちらはライプツィヒのそれと比べてはるかにロウな環境で、EINSTÜRZENDE NEUBAUTENの『半分人間』……とまで言うと言い過ぎですが、かなりアガりました。機材自体は普通に新しめのシステムでしたが、照明が蛍光灯だけなのも逆にカッコよかったです。
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サウンドチェック前にディナータイムとのことで3階のかなり広い事務所スペースに向かうと、魚や鶏肉などを使ったインドネシア料理がバイキング形式で用意されていました。Rossi Musikのスタッフのかたが作ってくれたそうで、家庭的な味でおいしかったのですが、辛いソースにチャレンジして見事撃沈。何をやっているんだ俺は。
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軽く食事を済ませた後は、サウンドチェックへ。正直、音がコンクリの壁で反響して音作りが難しかったですが、なんとかベストエフォートな落とし所で音を決めてサウンドチェックを終えました。
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オープンまで少し時間があったのでメンバー4人で周辺をふらついてみることに。やはり現地のコンビニ事情とか気になるよねということで、近所にあったコンビニ大手のひとつ「Indomaret」に行ってみることにしました。しかし、Indomaretがあるのは道路の向かい側。殺人的な量の車とバイクが行き交う上に信号も見当たらず、渡る勇気が出ずに諦めました(笑)。もう少し歩けば別のコンビニ大手「Alfamart」があるようだったので、迷わずそちらへGO!
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Alfamart店内の雰囲気は日本のコンビニと大差ない感じで、自分は気付きませんでしたがトイレの貸し出しも場所によってはあるのだそうです。それにしても何もかもが安い……!安すぎる……!物価の高いシンガポールの後だったので余計にテンションが上がり、意味もなく大量のエナジードリンクやお菓子を購入したのですが、日本円で総額500円もいかないくらいでブチ上がりました。
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会場に戻るとSaifulが気を利かせてコーヒーをテイクアウトしてくれていました。苦い味ありがたすぎる。インドネシアはコーヒー豆の名産地なのですが、日本で飲むコーヒーとは少し違ったテイストでめちゃくちゃおいしかったです。お土産にぜひ。
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オープンする頃には雨も降り始めていたのですが、続々と集まるお客さんたち。スクーターや車で来ているかたが多く、みるみる駐車場が埋まっていきました。そこに停めたら前に停めた車出せないでしょっていう場所にも遠慮なく駐車するスタイル(笑)。
インドネシアの人々はそれほど英語が話せないらしく、喋りかけてくる人は少ないのですが次々と売れていく物販。もともとシンガポールでほぼ枯渇してしまっていたので、すぐ売り切れてしまいました。買えなかった人々は記念に(?)物販に座る我々の写真を撮ったりしていました。鳥のような声で笑う男性や、ヒジャブを身に付けながらもSPAZZのトートバッグで武装した女性など、印象的な人々ばかりでした。
また、Tir(Saputra | eleventwelfth, HONG!, MORFEM)やJan(Januar Kristianto | ZIP)など以前からの知人も駆け付けてくれて嬉しかったです。また、共演のHEAVEN INというバンドのベーシストがNO EXCUSEのArief(Nurdiansyah Morada)で、2023年の来日ツアーぶりの再会となりました。そういえば、DIIVのデザインでおなじみの(Bharata)Danu氏も「行くぜ!」とか言ってたけど結局来なかったな(笑)。
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さらに一番驚かされたのが、筆者も敬愛する日本の某ハードコアパンク・バンドの元メンバーのかたがまさかの現在ジャカルタ在住で、わざわざ家族連れで観に来てくれたことです。食らい過ぎて何度も名前を聞き返してしまいました(笑)。
さて、そんなこんなで時計は進み、お客さんの数もかなり増えていったのですが、何故か大半がライヴ・フロアに入ろうとせず、入口や物販フロアにたむろしていたのが不思議でした。地元バンドに興味がないのでしょうか……。
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しかし、4バンド目のBRIGADE OF CROWから少しずつフロアのボルテージが上がっていきました。Andro(Kristian)の友人デザイナーのTekknovoid氏がドラムを叩いてるバンドゥン出身のバンドで、MOTÖRHEADウォーシップな革ジャン・ロッキン・ハードコア・パンクメタルでダイヴの嵐を巻き起こしていました。
トリ前は2023年に「Asakusa Deathfest」で来日ツアーも果たしているMASAKRE。クラストコアとデスメタルが不可分なくミックスされた独自のスタイルで、大別するとDOLDREYにも通ずるサウンドですが、その方法論は全く異なるのが興味深かったです。文句なしにこの日のベスト・バンドでした。
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そしていよいよ我々の出番!外でたむろしていた人たちもちゃんとライヴ・フロアに入って来てくれて一安心(笑)。エアコンがあるとは思えないほど灼熱のフロアでモッシュ & ダイヴの嵐……。人生でトップレベルに汗かいてマジで倒れるかと思いましたが、観客のピュアで凄まじいエナジーに突き動かされました。普段汗を全くかかないZieが珍しく汗だくになっていたことからも凄まじい暑さと湿度が伺えるでしょう。アンコールは機材トラブルもありましたが、筆者とZieのツイン・ヴォーカルで無事(?)乗り切り、東南アジア・ツアー最終公演の幕を下ろしました。動画がYouTubeにいくつか上がっているようなので、ぜひチェックしてみてください!
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ちなみに今回のジャカルタ公演にはGrieve Recordsだけでなく、バンドゥンのブランド「Maternal Disaster」、コレクティヴ「Minortive」も共催として協力してくださいました。素晴らしいショウをありがとうございます。ティーザー等も作ってくれて、とても助かりました。
終演後はホテル近くのレストランへ流れるもはや恒例のパターン。大量に汗をかいたので一番塩っぱそうな料理を爆食いしました。
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そして、東南アジア最後の夜の宿は、まさかのめちゃくちゃ綺麗なホテル……。こんな最高の待遇を受けていいのか……。安心し切ったOkamotoも無事泥酔。しかも、Saifulが気を利かせまくって2日分ホテルを予約してくれたので、チェックアウト時間も気にする必要がないとのこと……。シャワーを浴びてベッドで熟睡しました。
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お昼前に起床。Miuraのみ早朝の便での帰国だったため、起きるとすでに姿はありませんでした。お疲れ様です……。Saiful、Farhan、Miraも同じホテルに泊まっており、合流してランチへと向かいました。
Saifulの車で10分ほど移動すると、何やら高級そうなレストランに到着。お祝いの日などに来るようなお店らしく、テーブルにはラップがかけられた料理が大量に並べられていました。しかし、これは食べ放題というわけではなく、ラップを開けた分だけお会計するというシステムとのこと。危なかった……。カレーらしき料理を食べてみたのですが、ブルータルすぎるスパイスの量で見事に死にかけました。FarhanとMira曰く、東南アジアの中でインドネシアの料理が最も辛いそうで、Miraも普通に大ダメージを受けていました(笑)。
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ランチの後はカフェへ。やはりインドネシアのコーヒーは相当おいしい。お土産にぜひ(2回目)。夕方のフライトで帰国するFarhan、Mira、Okamotoを空港まで送った後、筆者とZieとSaifulは海でも見るかということで海沿いへと車を走らせました。
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辿り着いた海岸は所謂ビーチのような雰囲気ではなく、港区を思わせる感じのショッピング・エリアでした。珍しくビールが買えるレストランがあるとのことで、「Lawless Burger」というハンバーガー屋でビンタンのレモンビールをテイクアウト。ちなみにパンク / ハードコア関係のかたが経営しているお店なのだそうです。
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ビールを無事ゲットしてテラス席に陣取り、Saifulとプライベートな話だけでなく、お互いの国のシーンについて語り合いました。ジャカルタではパンク / ハードコアそれぞれのシーンはもちろん、インディロックなど異なるジャンル間の交流も盛んだそうで、素晴らしいなと思いました。先程も登場した、様々なジャンル / 規模のバンドでプレイするTirが良い例なのかもしれません。また、ジャカルタ以外にもバンドゥン、ジョグジャカルタ、スラバヤなどシーンが活発な都市がいくつもあるとのことで、次はぜひインドネシアで数日間ツアーしてみたいです。社会風習的な話題では、現代においても親同士の宗教が違うと結婚するのが難しいという話が印象に残りました。
一方で日本の話になり、「パンクはEqualityを大切にする音楽なのに、なぜ日本には先輩 / 後輩のような上下関係が存在するんだ?」という質問をされて、日本社会の縮図と言えばそれまでですが、自分自身もかなり考えていた部分だったので深く突き刺さりました。
時間が経つのは早いもので、気がつけば空港へ向かう時間。近くにあったIndomaretでお土産のお菓子とホットスナックを買い、空港へと向かいました。
帰国の便は行きとは違うターミナルだったのですが、こちらのほうが新しいターミナルだそうで、かなり巨大かつ近代的な空港でした。まだ少しだけ時間に余裕があったので、空港のカフェでもう一服しつつ、Saifulと世間話を楽しみました。最後まで彼には本当にお世話になりました。MASAKREとは約2週間後に香港でのフェスで再び共演予定なので、またすぐに再会できるのが最高すぎますね。国内、国外と境界線を引くのではなく、アジアのパンク / ハードコア・シーンとしての繋がりをもっと深めていきたいと思ったし、国境に左右されないインターナショナルな連帯を作っていくことこそパンクの本懐なのだと確信しました。
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Saifulに別れを告げ、筆者とZieはアシアナ航空の韓国経由成田行きの便で帰国の途へ。アシアナ航空は韓国のフラッグキャリアなのですが、深夜便だからか激安でした。預け荷物ももちろん無料、機内食のプルコギ弁当も普通にうまかった……。あと、韓国・仁川国際空港は無料で使える昼寝ゾーンやシャワー室があるので、長めのトランジットでも過ごしやすくておすすめです。そして5日の午後、我々は無事に成田空港に到着しました。
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ツアー・レポートは以上……と見せかけて、次週は香港のパンク・フェスティヴァル「Blank Slate」の様子をレポートします!アジア・ツアーはまだまだ続く。お楽しみに~。
香港編につづく……
■ 2024年4月26日(金)発売
KLONNS
『Heaven』
LUNGS-270 | BHR039
https://ironlungrecords.bandcamp.com/album/heaven-lungs-270
[収録曲]
01. Plug-In prod. by Shine of Ugly Jewel
02. Heathen
03. Creep
04. Beherit feat. Arisa Katsu, Bl00dR4y, Golpe Mortal, Lil-D, O.Tatakau, SAGO & 1797071
05. Realm feat. セーラーかんな子
06. Another
07. Nemesis
08. Drown
09. Hill
10. Replica feat. O.Tatakau & 富烈
11. Heaven feat. Golpe Mortal
12. Un-Plug prod. by Shine of Ugly Jewel