文 | SHV (KLONNS)
写真 | KLONNS
香港編
東南アジア・ツアーから10日後。NAGの来日公演を挟みつつ、11月16日に香港で開催されるパンク・フェスティヴァル「BLANK SLATE」出演のため、成田空港から香港へ飛び立ちました。
出演に至った経緯は、2023年台湾ツアーでのCedric氏との邂逅から始まります。誰よりも汗だくでモッシュしており、すごい奴がいるな~と関心していたら、まさかの香港からの旅行者で、台湾シーンとも最近仲良くなったのだそうです。また、彼はノイズ・ミュージックを中心にリリースするレーベル「無害 Mouhoi」の主宰者でもあります。
そんな彼から「香港でパンクやハードコアのフェスを始めるから出演してほしい」との打診を受けたのでした。我々一同、金城 武やレスリー・チャンから影響を受けているので(?)、もちろんふたつ返事でOKしました。記念すべき第1回に呼んでいただき光栄です!
「BLANK SLATE」はCedricと「食反 SICK FAN」を運営するAdriannaの2人がメインの主催。さらに共催として中国のプロモーター「Triple Stone Booking」、同じ中国・広州のショップ「Portal」、台湾のパンク・コレクティヴ「Suck Glue Boys」も名前を連ねています。結果、アジア7ヶ国から全14バンドが集まるフェスティヴァルとなりました。ちなみに最初にもらった出演者候補のバンド・リストには他にも日本のバンドの名前があったのですが、最終的には我々KLONNSと鏡 KAGAMIの2バンドに落ち着いたようです。
さて、話を戻して11月15日。筆者、Zie、Okamotoはフェスの前日入り、Miuraは当日の早朝入りというスケジュールになりました。航空会社はリサーチにリサーチを重ねた結果、「香港航空」をチョイス。そう、飛行機で嫌な思いをしたくないので念入りに調べるタイプなのです……。香港航空が良さそう!というよりは、一番値段が安かった香港エクスプレスの評判があまりにも悪かったという消極的な理由で選んだのですが、機内食も付いていてけっこうおすすめです。約5時間ほどのフライトで無事香港に到着!機内ではテンションを高めるため、U-NEXTでひたすらウォン・カーウァイの映画を観ながら過ごしました。
Cedric曰く香港の入国審査は厳しい可能性があるので、自分の楽器は持ち込まず、エフェクター等だけ預け荷物に入れて臨みました。さすが香港と言うべきか、入国審査では長蛇の列ができており、20〜30分くらい並びましたが、ほぼ会話なしであっさり入国完了!余裕で楽器持ち込めたかもしれません。
到着するとCedric、Lalaと先に着いていたコーヘイ(鏡, UMBRO)がお出迎え。軽く立ち話したあと、他のバンドの出迎えがあるCedricと別れ、バスで市街地へ向かいました。ロンドン以来のダブルデッカーバスにテンション上がりましたが、運賃は片道約5,000円くらいしたのでやや高め。降車場所を間違えたりしつつも約1時間ほどで目的地に到着しました。
やって来たのは、かの有名な九龍!その中の旺角というエリアで、まず最初にこれから2日間宿泊する宿へ向かいました。KLONNSと鏡の計7人が寝泊まりするのですが、かなり広い3LDKで快適!シャンプーやドライヤー、ケトルなども用意されていました。
夜にみんなで集まってのディナーがあるらしく、それまでLalaが付近を案内してくれることに。最初に案内されたのは「序言書室」という本屋。政治や哲学に関する本がずらりと並びながらも、カフェが併設されてるお洒落な雰囲気でとても良かったのですが、いかんせん読める本がない(笑)。猫を放し飼いにしているようで、運が良ければ触れ合えるかもしれません。ちなみに同じビルに入ってるカメラ屋にも猫が住んでいました。香港はかなり猫フレンドリーな街のようです。
続いて「恒達油渣麵」という地元民御用達な雰囲気のレストランへ。骨付き肉や魚介がメイン食材のディープめな中華料理店なのですが、まさかの作り置きしてある料理を入口付近の引き出しの中から取り出すスタイル。気になるお味は薬膳的な風味、かつかなりプリミティヴ……。ちなみに食べ終えた骨はテーブルの上に捨てて、最後にまとめて空いた皿に集めるのが一般的とのこと。つまりテーブルの上は基本的にかなり不衛生なのでスマホ等は置かないようにしましょう。
その後、近くの喫茶店へ(店名は残念ながら失念)。香港式の紅茶があるとのことでオーダーしてみたのですが、あまりにも濃い……!カフェインを原液で飲まされているような気分……。お口直しのつもりがさらにダメージを受けてしまいました(笑)。しかし店内はまさに90年代の香港や台湾の映画に出て来そうな、白い蛍光灯がギラつくレトロ飯店という雰囲気で趣がありました。
日が暮れてきた頃からぽつぽつと雨が降り始めていたのですが、喫茶店を出る頃には雨が強まってきました。折り畳み傘は海外でも大事。近所に筆者が運営する「DISCIPLINE PRODUCTION」(現在はほぼお休み中)からリリースしたIN THE SUNのテープを卸したことがあるノイズ / インダストリアル専門店「虐死唱片 Death by Torturing」があるようなので行ってみたのですが、散々迷った挙句、店主が大阪へ旅行していたようで閉まっているというオチ……。調べてから行くべきでした(笑)。
最後に立ち寄ったのはインフォショップ「果邊 Gwo Beans」。インフォショップと聞くと馴染みのないかたもいらっしゃるかもしれません。ジンやポスター、一般流通しないインディーズ書籍や音源などを取り扱うだけでなく、人々が集まって交流し、情報交換をするオルタナティヴな場所のことで、日本だと新宿の「IRREGULAR RHYTHM ASYLUM」がパンク界隈では有名だと思います。この日はドキュメンタリーの上映会があったようで、特別に入れていただきました。お店の中では大勢の若者がパレスチナについて学び、意見交換するために集まっていて感銘を受けました。香港で2019年から2020年に起きた大規模な民主化デモにおいても若い年齢層が多く参加したという記事を読んだことがありますが、人々の政治や国際情勢に対する意識が日本よりも遥かに高いのかもしれません。投げ銭で持ち帰れるパレスチナについてのパンフレットやジンが置かれていたので、すかさずゲット。ついでに香港のクラフトビールも恵んでくれて大感謝……。
時間が来たのでCedricたちとのディナーへ向かいました。ここでAdriannaと初対面!からの、つい先日お世話になったインドネシアのMASAKRE、HONG!の面々、台湾のTOXIC BALDとL-SCHEMA、さらにはニュージーランド(アオテアロアと言うべきでしょうか)のイラストレーター兼プロモーターでもあるAlexと再会の抱擁!
この時点でかなり満腹だったので、料理はほとんど手をつけずひたすらビールを飲んでいたのですが、ここでもカルチャーショックな出来事が。テーブル上のピッチャーにはお湯が入っており、不思議に思っていたのですが、これは飲むためではなく、なんと取り皿や箸を洗って殺菌するためのお湯らしい……。驚く我々をよそに皿と箸をその場で洗い始める香港チーム……。そういえば先刻行った喫茶店でもピッチャーにお湯入ってたな……普通に飲んでしまった(笑)。
みんなとの再会にテンションが上がりきった筆者は他メンバーと別れ、インドネシア・チーム + Alexと公園飲みを楽しみました。やることは結局日本と変わりませんね……。帰り、宿の入口がわからなくなったり、かなり焦ったりしましたが、なんとか深夜に無事就寝!
それにしても香港の街並みは本当に美しい……。どこを切り取っても映画の中にいるかのようでした。
朝8時頃に起床。いつの間にか深夜便で香港へ向かっていたMiura、鏡のテルと西田くんも宿に到着していました。さて、宿はかなり快適なのですが、難点が2つ。まず、トイレのタンクに水が溜まるのが遅く、自分でタンクに水を補給しないと流せないという点。もう1つはシャワーのお湯が出ない点(これは後で気付いたのですが、給湯器の元電源のスイッチが部屋の電気や換気扇のスイッチと同じように壁に埋め込まれており、それがオフになっていただけでした……アホすぎる……)。まあ部屋は綺麗なので問題なしということで!
さて、我々のサウンドチェックは朝早く、午前10時。迎えに来たAdriannaとCedricに連れられて電車で会場の最寄り駅へと向かいました。ちなみに「BLANK SLATE」はフェスとしては珍しく全バンドにサウンドチェックの時間があり、ほとんどのバンドは前日に済ませていたそうです。香港の地下鉄では改札ゲートでApple Payなどのタッチ決済が使えるらしく、切符を買う必要なく乗車することができました。最近は新宿駅とかでも見かけますが非常に便利ですね。
今回の会場は通常のライヴハウス的な場所ではなく、映画などに使う撮影スタジオに音響システムを持ち込んだ特設ステージ。本当はイベントをやってはいけない場所らしく、かつ政府の検閲を避ける必要もあって会場名はシークレットとのこと。壁にペイント(消せるのかコレ……?)も施されており、かなり気合が入っているというか写真映え力高い感じでした。キャパシティは入れようと思えば500人くらいは入るだろうなという広さ。音響はサウンドチェックの途中でシステムをがっつり変えるなど、正直手探り感が否めませんでしたが、自分たちとしては広めの会場のほうが音が作りやすいので、そこまで苦労はしませんでした。
しかし、ここで驚愕の事実が判明……。今回は入管対策で地元バンド以外は楽器を持ち込まず、フェス主催側が各バンド事に用意する約束だったのですが、まさかの全体でギター2本、ベース1本しか用意できず全バンドでこの楽器を使い回すとのこと……。こと細かく要望を聞かれたのに……(笑)。まあ音はちゃんと出るので贅沢は言えないですね。果たしてこの3本の楽器は10バンド以上の演奏に持ち堪えられるのだろうか……。
兎にも角にもサウンドチェックを終えたのですが、深夜便組を筆頭に一同超絶眠い……。特にZieは前日から原因不明の体調不良に苛まれており、かなりしんどそう……。フロアに大量のクッションが転がっていたので、ひとりまたひとりと眠りの世界へと落ちていきました(笑)。
なぜクッションが転がっているのかというと、フェスのオープニングで香港のパンク・バンド米田共 SCAT(諸事情で出演キャンセルとなりました)のメンバーでビデオグラファーでもあるJoeが撮影した台湾パンクシーンのドキュメンタリーの上映会が行われるからです。せっかくなので腰を据えて観てみると、Suck Glue Boysの面々やDEFEAT THE GIANT、さらにはコーヘイなど、知っている顔ぶれしか出ていなくて笑いました。なぜコーヘイが出ているのかというと、Joeは2023年のKLONNS & 鏡の台湾ツアーにもTOXIC BALD & L-SCHEMAのジャパン・ツアーにも来ていたのでした、ちなみに。
さて、そうこうしているうちに最初のバンドのライヴが始まりました。1バンド目は中国のクラストパンク・地三鮮 DISANXIAN。ヴォーカルの人、すごく見たことある気がするな~と思っていたら、まさかの茨城在住でBOOTLICKER来日のときにEARTHDOMで話しかけてくれたかたでびっくりしました!
地三鮮 DISANXIANのライヴも終わり、会場の外でまったりしていると、何故か泣きそうな顔のAdriannaが近づいて来ました。どうしたのか聞くと、次に出演する予定のフィリピンのバンド・BANANA IS THE BASTARDがいまだ会場に姿を現していないとのこと…。しかもギャラもすでに支払っているらしい(笑)。そしてなぜか鏡かL-SCHEMAが代わりに出て2回演奏してくれないかという話になったりしていると、演奏開始時間数分前に問題のバンドが何食わぬ顔で到着(笑)!あまりに堂々と、そしてゆったりとしている上に見た目もインパクトありすぎて、さすがに爆笑を禁じえませんでした。いや、焦れよ!むしろ「お前らなんで騒いでるの?」くらいの風格があってすごすぎましたが、おもしろすぎたので問題ありません(あります)。フィリピン・パンク・シーンではこのタイム感が普通なのでしょうか……。
あまりに腹が減りすぎたので、Zie、テル、西田くんと共に20分ほど歩いて駅前に行ってみることにしました。ショッピングモールに入ってみると、その光景はまるで日本のそれでしたが、入っている化粧品ブランドなどはまったく知らないものがほとんどでした。ここでは洋風のものが食べたい気分だったので、香港のファストフード・チェーン「Zeppelin Hot Dog」にてハンバーガーをテイクアウト。かなりおいしくてみんな満足だったのですが、テルが選んだバーガーだけはマズかったらしいです(笑)。
会場に戻るとシンガポール・チームが到着しており、再会のハグ!シンガポールからはDOLDREYのDanishとFUSEのMaya(Begam)が所属する疾走ロウ・ハードコア・パンクSTILETTO、同じくDanishがメンバーのストンピンDビート・バンドPSEUDO REALITYが出演したのですが、どちらも素晴らしかったです。いつか日本にも来てほしい……。他のメンバーも最高な人柄だったし、シンガポールで見かけたな〜っていう顔ぶれも遊びに付いて来ていて、シーン丸ごとフットワーク軽い感じが格好いいなと思いました。ちなみにDanishはクラブDJとしての顔もあるのですが、深夜にアフターパーティーでDJするらしい……タフだ……。
今回のラインナップを俯瞰すると、パンクやハードコアだけに留まらず、エモ / スクリーモやオルタナ的な指向のバンドもいてかなり多彩でした。ただ、香港自体にはシーンと呼べるほどバンドが多くないのか、地元のバンドはSNAILS、DAVID BORING、キャンセルになった米田共 SCATのみでした。お客さんは中国本土から来ているかたも多かったようで、「廣州硬核」とプリントされたシャツを着た人たちがたくさんいました。
たくさんの出会いもあったのですが、このフェスで印象に残ったのは、やはり以前からの友人たちのバンドでした。台湾のTOXIC BALDは昨年対バンした時よりもより進化していたし、インドネシアのMASAKREは本当に圧巻のデスメタリックDビート・クラッシャー・サウンドで最高でした。再来日求む。また、HONG!はメンバーのTirとは友達だったものの、ライヴ観るのは初だったのですが、すごすぎて鳥肌立ちました。MILKやTOTAL FURYのファンなら絶対突き刺さると思うのでぜひチェックを!鏡も機材トラブルに見舞われながらも過去トップクラスに盛り上がったライヴだったのではないでしょうか。
そして我々KLONNSの出番。時はすでに23時近く、滞在時間12時間超えで今まで感じたことのないレベルの疲労感……。もともと具合が悪かったZieは限界を3回くらい突破している感じの表情……(笑)。よく2バンドの出演を乗り切った……。なんとか死力を尽くしてぶちかましました。フェスのライブ映像はクラブ界隈では日本でもお馴染みな香港のネットラジオ「HKCR」のYouTubeチャンネルに最近アップされたようなのでぜひチェックしてみてください!
こちらも知人が撮影してくれました。
フェスが終わる頃にはもう日付が変わっていました。撤収作業を少しだけ手伝ったのですが、完全に限界が来て筆者、Zie、テルの3人でUberを呼んで宿に帰りました。
翌朝9時前に起床。数日ほど延泊するコーヘイを除く全員が14時頃の便で帰る予定なので、早めのランチを食べてから空港に向かうことになりました。
じっくり探す時間もないので宿のすぐ近くのカフェレストランに入りました。ジャンクなものが食べたい気分だったので、香港風(?)チキンカツ丼をオーダー。香港感は全くありませんが、今回の旅で1番美味しかった説あります(笑)。サクッと食事を済ませ、Uberで空港へ向かいました。海外遠征ではバンで移動しない場合、Uberは必須かもしれません。
帰りのフライトも行きと同じく香港航空をチョイスしましたが、やはり快適。機内食は普通においしいし、デザートのアイスまでくれて言うことナシです。
成田到着後、Miuraがお土産のドライフルーツを香港空港のトイレに忘れたことが発覚したり、Okamotoさんが購入した謎のお菓子を食べて吐きそうになるなど、悲しい出来事もありましたが、無事全員帰宅の途につきました。
今回のフェス「BLANK SLATE」はかなり大変な面もありましたが、これまでの活動の中で出会ったアジアの仲間たちが一堂に会する貴重な機会となりました。初めて来た場所なのに、フロアには友達がたくさんいるという素晴らしい光景を見ることができました。もっと気軽にアジア内のパンクスたちが交流できるようになるといいですね……!
さて、今回が2024年最後の海外遠征となりましたが、我々のアジア・ツアーのタイトルを思い出してみましょう。「列島激震行脚2024-2025」……。そう、実はまだ終わりません(笑)。正式なアナウンス前ですが2月に台湾に行ってまいります!というわけで、少し時間が空きますが次回へTo Be Continue!!!
台湾編につづく……
■ 2024年4月26日(金)発売
KLONNS
『Heaven』
LUNGS-270 | BHR039
https://ironlungrecords.bandcamp.com/album/heaven-lungs-270
[収録曲]
01. Plug-In prod. by Shine of Ugly Jewel
02. Heathen
03. Creep
04. Beherit feat. Arisa Katsu, Bl00dR4y, Golpe Mortal, Lil-D, O.Tatakau, SAGO & 1797071
05. Realm feat. セーラーかんな子
06. Another
07. Nemesis
08. Drown
09. Hill
10. Replica feat. O.Tatakau & 富烈
11. Heaven feat. Golpe Mortal
12. Un-Plug prod. by Shine of Ugly Jewel